全ては、見届ける者が
駆ける。
「ォォオオオオ!」
駆ける。
「邪魔、だぁぁぁあああ!」
駆ける。
「ユウシャヨ!」
駆ける。
「ああ!」
駆ける。
「「《ライトニング・バースト》!」」
ひたすらに、駆ける。
幾重の戦い。
幾重の屍。
まだ、我らの望みに程遠い。
ならば!
武器を構えろ!
呪文を紡げ!
愛しき者の、名を叫べ!
我らが誓いし、勝利を捧げよ!
全ては、愛しき者の為に!
「リリイイイィィィィン!」
剣が薙いだ。
ならば、腕を突き出し破砕しろ!
槍が突き出た。
なれば、脚を薙いでは破砕しろ!
盾を構えた。
なれば、紡ぎし言葉で破砕しろ!
我らは武器!我らは嵐!
何人も止められはしない!
--同じ、嵐以外には--
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王国の玉座にて。
「なぜだなぜだなぜだなぜだ!」
醜き豚は、泡を飛ばして叫んでいた。
魔法によって映し出された映像に、怒りを露に豚は吠える。
大きな影は、鬼。白き体躯に白き雷電纏わせて。
小さな影は、人。その剣は輝き、その体躯に蒼き焔を纏わせて。
全ては映し出された映像に。
豚の手駒が挑んでは、斬られ潰され焼かれて消える。
二つの影、止めること叶わず。
「……出るぞ」
豚が変わる。その醜悪な見た目が、美しき青年に。
「陛下!しかし!」
「黙れ!俺の命を聞けないものはいらん!」
「っ!?……か、畏まりました」
兵士は頭を垂れる。己の不甲斐なさを悔やみ。
豚……王は焦燥に刈られる。
「何故、俺が好きなった女は!……糞!」
王は己の不幸を呪う。
「……」
少女は何も語らない。何も、感じない。
この男を好きになる女などいない。
何故ならば、この男は己すらも騙しているのだから。
「トールディン様……」
少女の呟きは、誰も拾わない。
--否。
「少女よ。トールディンが恋しいか」
その囁きは、場にいる全ての生物を凍らせる。
「強く、優しく、美しい……"人"のトールディンが」
囁きは心を抉る。
「それとも……強く、優しく、醜い……"魔"のトールディンか?」
少女の強く脆い心を。
「……私は」
「答えは、聞かぬ。私はあくまで、見届けるもの」