訪れた現在(未来)。決意する鬼(英雄)。
「……ふふ」
少女は微笑む。
「忌々しい……化け物め……!」
男は毒づく。
「……その化け物にしたのは、貴方でしょう?」
「そうだ。が、何だあの力は!勇者を退ける力を持つなぞ!」
「あれこそが、英雄たる力」
「有り得ん!あの力は余が持つべき力!あの化け物が持っていて良いものではない!」
男の目に写るは、自らが美しいと感じた唯一の少女。
少女の目に写るは、ただの、豚。
口角に泡を飛ばし、喚き散らす、豚。
ここに連れられてきて、何もされないのは……。
「グルルゥ……(リリン様には、触れさせんよ)」
「ありがとう、ヴァファ」
「チッ……忌々しきは、その竜もだ!」
豚は恐れた、怖れた、畏れた。
とある伝説に語られる、ヴァルファ・カムルトという災厄。
それこそが、この竜。
そして……。
「…………」
「ユウナ、サカキ、エニィ、ガルト……お願いしますよ」
「……御心のままに」
「糞どもめ。余が作ってやったというに、恩を忘れたのか!」
「……黙れ豚。私が生きていられるのも、トールディン様のお陰だ。サカキが生きていられるのも、エニィが生きていられるのも、ガルトが生きていられるのも………な」
「き、貴様ああああぁぁぁ!」
「激昂しても無駄だ。俺と、俺の仲間がいる限り……俺達は、リリン様に指一本触れさせないことを、誓おう」
逆立つ髪、白く染まりて忠誠を誓う。
その色は、英雄が愛した少女の色。
その色は、少女が愛した英雄の色。
その色は、何人にも染まらず。
その色は、二人に忠誠を誓った証。
「クッククク……ハーッハッハハ!いきがるのも今のうちだ」
豚は目に写る塵を見据えて言い放つ。
自らの勝利を疑わずに。
自らが上に立つことを、約束されているかのように。
「"俺"にはチートがある!お前らのような紛い物じゃない!本物のチートがなぁ!」
「……」
ここにきて、少女の微笑みが崩れる。
万の策を用いても、目の前の豚は尽く潰していく。
時に武で、時に策で、手段問わずに潰していく。
「英雄では、王には勝てないんだよ!」
「果たして、どうでしょうか」
少女は、無表情に愉悦を交えて豚に問う。
「何が言いたい」
「英雄の称号は。トールディン様があの姿に変わる前のもの」
「だから、どうしたというんだ?」
「……私は、祈りましょう。それしか、できないのですから」
少女は静かに祈る。英雄の帰りを。
「チッ……負け犬が。吼えられるのも、今だけだ」
豚は笑う。化け物の無様な姿を。
「……グルゥ(主よ。早く目覚めてくれ。如何に我と言えど、この豚を止めるには……力不足よ)」
竜は願う。己の主の覚醒を。
「(今が踏ん張るところだ。トールディンが……俺を認めてくれた親友が……今もなお、踏ん張っているんだから!)」
白に誓いし勇者は思う。自らの友の気合いを。
それぞれの想い。見届けし。
故に、果たそう。私は、元より彼自身なのだから。