【聖女】と少女
「【聖女】様ー!」
「万歳!【聖女】様、ばんっざああああああい!」
「キャー!こっち見て、微笑んでくれたわ!」
「好きだー!俺と結婚しヘンブラッ!!」
「平民が!不敬だぞ!」
「ならば私トンゼニンッ!!」
「貴族様!礼儀がなっておりませんぞ!」
城下町は人でごった返している。
人の波の中心にできた、一本の道。
豪奢な馬車が、一台。ゆったりと進んでいく。
馬車の中には女性と、少女の二人。
「リリン。凄いわねぇ、暇なのかしら?」
「【聖女】様……。呆れるのは分かりますが、それは皆様に酷いですよ?」
「でも~。そうとしか思えないわ」
「確かに、そうですが……」
「ほら、ね?私はこんな出迎えされるなら、ハストール伯爵家での歓迎が良いわ。静かなのに、とても楽しかったわ」
「ハストール伯爵……ですか。あまり、良い思いではありません」
「ふふ。そうねぇ。貴女はあの太い子息から、言い寄られていたわね……ふふ」
「ブルディス子爵を、太いなどと……」
「あら、事実じゃない。それよりも、私は貴女のことをじっと見つめてた子が良いわぁ」
「……」
「あら?あらあら?リリン、貴女……顔が赤いわよ?ぷっ……」
「トールディン様……」
「あらら……。自分の世界に旅立っちゃった」
女性は動かない少女の頬をつつく。
「はっ」
「戻ってきた?」
「はい……申し訳ありません……」
「良いのよぉ。恋を知らない貴女が、そこまでお熱になれるのだから。やっぱりハストール伯爵のところへ行って、正解だったわね」
「でも……あの……」
「ああ、魔物さんのこと?あれは驚きねぇ。いきなり出てくるもんだから、騎士団の方々も魔術師団の方々も、思いっきり攻撃してたわね」
「泣いて、ました……」
「そうね……。今まで、お世話をしてくれた人達から、攻撃されたら……ね」
「えっ?」
「……ブツブツブツ(そうよ……何故、魔力量が高い豚が選ばれないで、格好いい青年が選ばれるのよ。終わってるわ、あの老害共……)」
「【聖女】様、あの……」
「ブツブツブツ………(ぁああ……!私があのまま魔術師だったら、木っ端微塵)……にしてやるのに……!」
「そろそろ、神殿に着きますよ……?」
「決めた。娘にしっかり教育しなきゃ。絶対に神殿には関わらないようにって」
「はぁ……無理ですよ……」
馬車は、ゆったりと進んでいく。
人々に絶望を施す光を乗せて。