魔物と少女
「トールディン様……」
焚き火に照らされた、洞穴にて。
か弱き少女の声が、小さくない洞穴に吸い込まれる。
「……」
「……(済まん……済まん……)」
少女は弱々しくもがく。自分よりも倍、それ以上の体躯を持つ魔物。
逃れられる訳ではないのに。
程なく、服を脱がされる。
「……」
「ンヌ……グズッ(私は……自分の欲のために、少女を汚すのか)」
魔物はゆっくりと、少女を抱き寄せる。
少女は人形のように、虚ろな目を魔物に向ける。
そして。目を、見開く。
「どうして……泣いているの……?」
「ゴ、ゴンナゴド……ジタグナイ。ンデモ……ワダシハ、マモノ。ジュンズイニ、ギミノゴドズキデモ……(一目で惚れた、優しき少女よ……。私を恨め。君の輝きを、汚す私を……)」
魔物が喋ったことよりも、泣いている方に意識が奪われた。
どこまでも、どこまでも、透明な涙。
「モッドホガニ、シュダンガアッデモ……ワダシニ、ジガンナイ……ゾレニ、(時間をかけて、知り合いたかった。だが、私には時間も……ましてや魔物であることが、)」
少女はそっと、魔物の口元に人差し指を添える。
「正直、私は貴方が怖い。何故だか、嫌悪感はありませんが、恐怖は感じます……」
証拠に。少女の唇は青く、添えた人差し指は震えている。
「でも……。私はこれでも、大神官の娘です。例え、賊でも、魔物でも、懺悔くらいは聞きましょう」
「ウッ……グ……ァァァアアアアアアアア!(ああ、君は何故、そこまで……!)」
魔物は少女を抱き締める。壊れないように、壊さないように。
少女は魔物を撫でる。慈愛に満ち溢れた、女神のように。
魔物は、ポツポツと話をする。
「ワダシハ、オーガダッタ。ンデモ、ナガマガキバヲムイダ(私が、元は人間であるなど信じられんだろうからな……)」
「裏切られた……のですか?」
「……ワダシ、オーガノ、イジョウシュ。ナガマ、オデヲオソレダ。ダガラ、ヅイホウザレタ(本当は、人間からオーガになってしまったんだが……。王国によるもの、とは言わない方がいいな)」
「そんな……では、魔物さんは……」
「ヒカンハジテナイ。ジカタナイゴトダガラ(逆の立場であれば、私も討伐令を出していた。仕方のないことだ……)」
魔物の腕の中で、少女は悲しい表情をしている。
少女にも、似たようなことがあったのだ。
「同じですね……人間も、魔物も……」
「……」
魔物は優しく、少女の頭を撫でる。
少女は暖かさに、目を細める。
魔物から伝わる、優しさを感じたから。
「私は、先程も言いましたが、大神官の娘です。そして、神殿……はわかりますか?」
「ンヌ。ワダシ、ベンギョウジタガラ(忌々しき神殿か。王国と神殿の関係は、疑いようもない事実だな)」
「はい。……神殿の中で、ですが。私は魔力総量が高かったのです。えっと、大きな湖とでも思えば大丈夫です」
「ンヌ(感じれる魔力も、私よりも莫大だ。確かに、奴等ならば……目をつける)」
「そして……私は【聖女】として、掲げられてしまいました」
「……(あの手この手で、純粋な少女を担ぎ上げたのだろうな)」
「それからは……あまり覚えていません。気づけば一年経っていました……」
「……ヅラガッタナ。ゾウ、カンジルヒマモ、ナガッタダロウガ……」
「……うっ……ぐす……」
一滴。彼女の頬を、濡らす。
魔物は優しく、拭き取る。
「ナギダガッタラ、ナゲ。ワダシモナガセデモラッダガラナ」
「いえ……すんっ。泣きません……ぐすっ」
「ゾウカ……(糞どもがっ……!私が健在であれば、討ち滅ぼしすのだがな!)」
「魔物さん」
「ンヌ」
「私をここに、匿っていてくれませんか?貴方は何故だか、普通の魔物じゃないような気がするのです」
「ンヌッ!?……ヨイノガ?(何故、少女は……)」
「はい。神殿に戻るくらいなら、ちょっと怖い魔物さんといた方が……楽しいでしょう?」
花も恥じらい、蕾を開かぬ程の可憐な微笑み。
魔物は決意する。少女を大切にしよう。
早計な判断は許されない。彼女は最後の希望。
魔物にとって、命の灯火である。