過ぎ行く現在。訪れる未来。
一つ。魔物とは、何だ。
「ユウト!見つけたわ!」
「先制する!勇者、行くぞ!」
「ああ!喰らえ!《スラッシュ・ウェイブ》!」
「グッアアオオアオオオ!(くっ!何だ!?あれは……)」
虐げられ、ただ、討伐されるだけの……動物か。
「グッガアアアアアアア!(舞えよ、焔よ!《劫焔烈波》!)」
「何だっ!くっ、範囲魔法!?ガイ!ミネア!ユリシア!」
「きゃあっ!」
「ユウト!きゃっ!」
「ぐっ……当たれば、これは……」
答えは--否だ。
「ニンゲン!?オウコクノカ!ダガ!(ここで、殺られるわけにはいかない。約束、したんだ。私は、彼女を……助けると!)」
一つ。魔物とは、人と、相容れないものなのか。
「泣いて……る?」
「ユリシア!」
「魔法使いよ!くっ……間に合え!」
「ンヌッ!ナゼヨゲナイ!(《マジック・キャンセル》!)」
答えは--曖昧だ。
「なっ!?消した?いや、好機!」
「任せて。『罪人よ、罪の数を数えよ』《クライム・ペイン》!」
「……ンヌッ?ナニカジタノガ?(《クライム・ペイン》……だが、あの子は違う)」
「うそっ?あのオーガは、罪を犯してない!」
「何だとっ!?だが、奴が今行っているのは……」
「罪では、無いと言うことですね……」
一つ。魔物でも人でも、覚悟を決めれば。
「ヨグワガラナイ。ダケド、トオラゼテモラウ!(もう一人の魔法使いの娘が気になるが、今は……!)」
「ユウト!俺が防ぐ、その間に!」
「ああっ!……ぉぉおおお!」
限界は--無くなる。
「(範囲魔法?いや……あれはっ!)マ、マニアエ!」
「えっ?」
「ユウト、止めて!魔法使いに当たっちゃう!」
「喰らえ!《イクシオン・ブレード》オオォォ!」
一つ。勇者とは、何だ。
「ヒドノゴト、ゴロジチャイゲナイ!アノゴノ、ネガイ……ダガラ!(無事のようだな。しかし、《イクシオン・ブレード》とは……。王国よ……どこまで……)」
「ユウト、止めて!」
「俺は……勇者だ!」
盲信し、力に溺れ、目が眩む。
「勇者は、勝たなければならないんだ!魔物は、殺さなければ」
「グッ……オオオオォォォオオ!(くっ!『呑み込め混沌、食らいつくして、消し去らせ』《グラトニ・バニッシュメント》!)」
「た、助けてくれた?」
「ユ、ユウジャ……オマエアブナイ!(洗脳……王国は、本当にどこまで!)」
答えは--良くも悪くも、ただの人。変わらない。
「くそっ!このままじゃ……国のみんなが……」
「ゾノダメニ、ナガマヲギケンニ……サラズノガ(彼もまた……王国の犠牲者だろう)」
「ユウト!お前が望んでいることは、こうじゃないだろう!」
「あっ……」
一つ。魔物と人の違いは。
姿形、思想。信じるモノ。
「ヤルゴト、カワラナイ。オマエラモ、ワダシラモ。アノゴハ……ゾレヲ、ジッテタ(虚しすぎる。何故、嫌なところだけは……よく見える)」
「……魔物さん。あの子とは?」
「ユリシア。魔物に俺たちの言葉は……」
「ゾウ、オボッテルノ……ニンゲンダケ」
「……酷く聞き取りづらいが、解らないほどじゃない」
「じゃあ、さっきから大声あげてたのは……」
答えは--違いは無い。生きるもの全ては、平等である。
「だがっ!魔物は!」
「勇者。言葉が通じるのだ、一度剣を納めよう」
「……くっ」
「ンヌ。ワダシモ、ムダナアラゾイハ、ジタクナイ。スワル(聞きたいことが、山程あるからな……)」
「そう……。私たちも座ろう?」
「ええ。どうやら、私達も何か誤解しているのかも、しれません」
「よっと。どういうことだ?魔法使い」
「…………」
「いえ。さっきから、彼……で良いのかしら?」
「ンヌ」
「彼は、あの子の為に、と言っていました」
「アノゴハ、ワダシノタイセツナ、ヒドダッタ(リリン……愛した少女よ……)」
「だった?」
「オマエラノ、オウザマニ、ゴロザレタ。オデハ、デモ、ジカタナイッテ……"リリン"ニイワレダ(リリンは殺されてはいない。それは、魔道具で分かる。それに……)」
一つ。それでも、その中に異端はある。
「リリン……もしかして……【聖女】様?」
「嘘だっ!リリンを殺したのは、魔王だ!」
「マオウザマハ、イナイ。ゼンダイノユウジャガ、フウインジタ。マオウザマハ、オデノタメニ……フウインザレタ……(我が王……魔王様は、勇者であった男と添い遂げた。しかし、魔王様は……王国に全てを奪われた……。あの時の、涙は……)」
「だが、目の前で殺されたんだ!信じられるか!」
「ダガラ、オデハ、ケンジャザマニ、キイダ」
「【賢者】様、とは?」
「オルデンノザマだ」
「嘘……オルデンノ様が……?」
「おいおい。こいつは……」
「深い、闇ですね」
「嘘だ、こいつは嘘を言っているんだ!」
「ウゾナラ、モッドマシナウゾヅク。オデハ、リリンノカタキ、トリニギタ、ワケジャナイ。シンジツヲ、ジリニギタ(勇者よ。君も本当は、疑問に思っているはずだろうに……)」
この魔物のように、人の言葉を解し。
「それなら……【王】に謁見を?」
「オウザマハ、ヒドヲヒトドオモッデナイ。ダガラ、リリンヲケンギュウニヅガッタ(リリンを犯さない代わりに、ありとあらゆる魔導改造を施すところを見せられた。だがあれは……リリンではない)」
【王】と呼ばれる者のように、同族を躊躇い無く殺し。
「そんな……それなら、俺は……」
「ユウジャ、オマエハ、オドラザレテイダンダ(勇者……同情はしないし、慰める気もない。しかし……)」
そうして、人を狂わせる。
「なら、魔物さんは……」
「オデハ……モジカジナグトモ、イミナガッタンダァナァ……(リリン……。君は今、どこにいるんだ)」
一つ。魔物であり、人を愛した彼は……何だ。