第2話「フォロワーの使用」
杜岡高校は大御の通う高校だ。
その2階の化学教室というのは化学をとっていない大御にはあまり関係なかったが、場所ぐらいは知っている。
そこへ走って5分。星見の家が高校から近くてよかったと思ったのはつかの間。
メールのせいで全然落ち着けない。
あのメールが本当ならもう手遅れ。
「はぁ・・・はぁ・・・ここ・・・か・・・」
まだこんなに焦っておいて大御はあの夢を信じきれてなかった。
しかしそれはこのドアを開けることですべてが崩されてしまう。
ガラッ
「・・・・・・・星・・・見・・・・・?」
そこにいたのは星見。
血で汚れている星見だった。
「星見・・・・・・!」
そう、自分の血で汚れている星見の死体がそこにはあった。
「な、なんで・・・・・?お前が殺すってつぶやいたから・・・え?どういう・・・」
「どういうもこういうもこういうことだよ」
そしてもう1人。
星見の携帯を持っている臼井がそこにいた。
「ようやくおびきよせられた・・・番号持ちの10位」
「臼井さん・・・・・?」
「星見くんは上位100名の中には入っていない。入ってるのは私。そして星見くんのアカウント、星見くんの携帯を使えば君が来ると思っていた」
「なぜ、僕が番号持ちだと・・・?」
「君のつぶやきの量は半端なかったからね、憶測さ。でもその反応本当に番号持ちのようだね」
そこでまずい状況だと思った大御はこの教室に入る直前、『つぶやいたー』にこっそりつぶやいていた。
植木鉢:『殺人鬼に襲われる。助けて欲しい』
たぶんこれは冗談ととられるかもしれない。
だがあの幼女の言った馬鹿がいるとしたら。1人でもいたら。
「なぜ星見を殺した」
「興味があったから」
「星見の携帯で犯罪をつぶやいてもお前がやったとは思われない、意味はないぞ」
「商品だっけ?あんなものはいらない」
「じゃあ、理由がないというのか」
「理由は興味があったから」
そこで区切る臼井。
「人間の死に興味があったの。だからあのメールが来た時には嬉しかったわ」
あのメールとは幼女からのメール。
(もう時間は稼いだ。馬鹿よ・・・きてくれ!)
大御は思いっきり携帯を開く。
植木鉢:『殺人鬼に襲われる。助けて欲しい』
多田:『Re:植木鉢さん 僕はそういう側にも精通しているからアドバイス。逃げても無駄』
多田:『Re:植木鉢さん 立ち向かえ。案外相手がビビるかもしれない』
(やっぱ、この距離じゃ逃げても無駄か・・・さっき走ってきたしな・・・)
そして何も装備はないが、立ち向かうしかない。
「うわぁあああああああああああああああああ!」
そう叫びながら襲いかかる。
しかし臼井は笑った。
その手には包丁。
そして臼井は大御の突進に対してまったく動じずに切っ先を向けた。
(!?・・・あっぶねぇ!)
大御はギリギリ上半身を回転して刃物をよける。
(不意打ちにもならないか・・・・・・)
すぐ距離をとり、そしてもう1度携帯を見る。
多田:『Re:植木鉢さん 立ち向かえ。案外相手がビビるかもしれない』
多田:『Re:植木鉢さん 相手は素人。モノを投げたりすればいい』
多田:『Re:植木鉢さん 狙うのは足だ。近くにあるものを投げろ。当てなくていい』
多田:『Re:植木鉢さん 足元ギリギリでも相手はビビるはず』
(ものを投げるのか・・・)
大御は近くにある試験管を手に取る。
(ここが化学教室でよかった・・・投げるモノはたくさんある)
大御はもう1つ試験管を手に取り、右手で1つ試験管を当てるつもりで投げる。
しかしそれに対して臼井はまた動じず包丁で試験管を破壊する。
そしてそのすぐあと、隙ができた臼井の足元を狙い、大御は思いっきり投げる。
「ふふふ・・・」
臼井はそれをその場から動かず対処する。
(!?・・・・・・なんで・・・足元を狙った攻撃。当てなくてもビビるぐらいはするはずなのに)
大御はもう1度試験管をいくつか手に取る。
「くそっ!」
大御は試験管はどこも狙わずに投げてみる。
しかし狙いはそれて、まったく違う方向にいき、壁に当たる。
「ダメだ・・・・・」
大御は携帯を見る。
多田:『Re:植木鉢さん それでもだめならもう1度つっこめ』
多田:『Re:植木鉢さん モノを投げるのをフェイントで使え』
(モノを投げるふり・・・か・・・)
試験管を投げるふりというよりどこに当たってもいい、そんな勢いで大御は試験管を投げる。
「・・・・・」
臼井はまたも動じない。
(また・・・動じない!?)
動きが読まれてたのかもしれないと思い、今度はダッシュを先にする。
そして試験管を今度は狙って投げる。
さすがに臼井はそれをかわす。
(よし!)
そしてあとは思いっきりつっこむだけだと加速する。
しかしまた包丁を静かに向ける。
(な・・・ぐっ!)
またギリギリでダッシュの方向を変える。
しかし加速した走りは急には止まれず、包丁が少しかすってしまう。
「ぐっあぁああ・・・・・・・・!」
しかし今まで1度も刺されたことのない大御にとってはそれすらも激痛だった。
「で、もう諦めるの?」
臼井が笑う。
ここで諦める=死ぬということ。
大御はここで死にたくはなかった。
理由なんてない。
だからこそ死にたいとも思えないのだ。
そしてもう1つ謎なことがある。
(番号持ちを狙う理由・・・それはなんだ・・・?)
そう、あの『これ』とかいう幼女はまだ大御、だけじゃなく他の番号持ちにも秘密にしていることがある。それが番号持ちが狙われる理由。
しかしそれは今、どうでもいい。
大御はもう1度携帯を見る。
多田:『Re:植木鉢さん まだ無理なら逃げるための通路をつくれ』
多田:『Re:植木鉢さん なげるならでかい物だ』
(ん・・・?)
そして大御は違和感に気付く。
(なんだこれ・・・・・?)
それはハンドルネーム<多田>のつぶやきだった。
カチカチカチと携帯を相手を気にしつついじる。
多田:『Re:植木鉢さん 足元ギリギリでも相手はビビるはず』
多田:『Re:植木鉢さん それでもだめならもう1度つっこめ』
多田:『Re:植木鉢さん モノを投げるのをフェイントで使え』
(違う・・・!これじゃない!もっと上だ!)
大御はまた携帯をいじる前のつぶやきを見ようとする。
多田:『Re:植木鉢さん 立ち向かえ。案外相手がビビるかもしれない』
多田:『Re:植木鉢さん 相手は素人。モノを投げたりすればいい』
(これだ!)
そう、なぜこの<多田>という人物は相手が素人だとわかったのだろうか。
普通ならここまで断言はできないだろう。
大御がつぶやいたのは殺人鬼ということだけ。
(考えられることは・・・・・)
大御は携帯から視線をそらし、臼井を見る。
「ふふふ・・・ようやく気付いたのね」
「臼井さん・・・まさか・・・・・・・」
臼井は笑いながら高らかに叫ぶ。
「<多田>は私のフォロワーでもある!だから<多田>のつぶやきは私に筒抜けだ!!」
「・・・・・く・・・!」
『つぶやいてみた』にはフォローした相手のつぶやきが自分のページにでる。
そしてフォローされたらフォローし返す人が多い。その結果、お互いのつぶやきを共有できるのだ。
(でも・・・なんで<多田>が僕をフォローしていることを・・・それに殺人の方向に精通してるやつを的確に狙えるわけがない・・・)
そしてまた1つ気付きたくないことに大御は気付いてしまう。
「<多田>は臼井さんと僕のフォロワーだけど・・・」
「そうよ。<多田>は私と大御くんのフォロワーだけど・・・<多田>は私の味方なのよ」
たぶん明日から更新が少し遅くなるかもしれません。
毎回あとがきで何を書けばいいのか分からないのですが・・・
また次回。