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ダンジョン深層でお茶を濁す 〜モンスターの肉を燻製にして酒を飲むだけのソロキャンプ配信、なぜか登録者世界一になってしまう〜

掲載日:2026/10/04

焚き火の爆ぜる音が、冷え切った洞窟に心地よく響いていた。


画面の隅には「同接数:2,480,000人」。個人のソロキャンプ配信としては、どう考えても桁がおかしい。けれど画面中央の青年――アキラは、そんな数字など気にも留めず、折りたたみチェアに腰掛けてナイフを研いでいた。


シャッ、シャッ。


規則正しい砥石の音が、マイクに拾われる。


「こんばんは。今夜も適当にやっていきます。地上のキャンプ場はどこも予約でいっぱいで取れなかったんで、いつもの場所に来ました」


アキラが手持ちのドローンカメラに、気の抜けた声をかける。


背後に広がるのは、紫黒色の結晶樹が林立する光景と、血のように赤く輝く地底湖。画面左上には、システム通知が無機質な文字で表示されていた。


「到達不能領域:第99層『終焉の奈落』」


**[コメント欄]**

:始まったwwww

:いつもの場所(人類未踏峰)

:予約取れないからって最深層に来るな

:同接200万超えのソロキャンプ配信、今日も開幕

:ちょっと待て、音がおかしくないか?

:空気揺れてるぞ

:後ろ!!!! 後ろ見ろアキラァァァ!!


コメントの流れが、一気に速くなった。


結晶樹をへし折りながら、闇の奥から巨大な影が滑り出てくる。漆黒の鱗に覆われた体躯は三十メートルを超え、六枚の翼が洞窟の天井を覆い隠した。双眸には紅蓮の光が宿っている。


災害級指定魔獣――『アビス・ドレイク』。


数々の特級探索者パーティを退けてきた、歩く天変地異そのものだった。


ドレイクが天を仰ぎ、咆哮する。洞窟の空気が震え、ドローンの映像に激しいノイズが走った。胸元の逆鱗が赤く熱を帯び、周囲の結晶が照らし出される。ブレスの予兆だった。


アキラは研ぎ終えたナイフを鞘に収め、小さく息を吐いた。


「あー、やっぱり来ちゃいましたね。風下に陣取ると匂いで寄ってくるんですよ、こいつら。……ちょっと待っててくださいね。すぐ追い払うんで」


腰のホルスターから、使い込まれた出刃包丁を抜く。


ドレイクの口が開き、ブレスが放たれる――その寸前。


アキラの姿が、画面から消えた。


踏み込んだ足元で黒曜石の岩盤が陥没する。次の瞬間、白銀の閃光がドレイクの喉元を走った。


**――パァン!**


硬質な破裂音が、遅れて洞窟を揺らす。


カメラがアキラを捉え直したとき、彼はすでに焚き火の前へ戻っていた。出刃包丁についた脂を布で拭い、刃を確かめている。


背後では、ドレイクが喉元を押さえるようにしてよろめいた。ブレスは吐き出されることなく、巨体が地響きを立てて崩れ落ちる。喉の急所を断たれた傷口から流れる血は、アキラがあらかじめ作った溝を伝って、焚き火から離れた窪地へ流れていった。


アキラのシャツには、血の一滴もついていない。


**[コメント欄]**

:??????????

:コマ送りでも見えねええええ!

:災害級がハエ叩きみたいな音で倒れたんだが?

:ブレスどこ行った???

:出刃包丁(攻撃力測定不能)

:首を一刀で、しかも血抜きまで済ませてるの何?


「よし、血抜きは完了ですね。下手に暴れさせると肉に血が回って臭みが出るんで、仕留めるときに血管も切っておくのがコツです」


アキラは調理用の手袋をはめ、ドレイクの巨体に近づいた。鱗の隙間に包丁を入れると、硬い皮の下から赤身と脂のきれいに入った肉が現れる。


胸元から切り出したブロックを見て、アキラは満足そうにうなずいた。


「いい肉ですね。鶏のササミみたいに繊維が細かいのに、脂は上カルビっぽい。燻製にしたら絶対うまいやつです」


粗塩と黒胡椒をすり込み、第90層付近にしか自生しない乾燥香草『虚空草』をまぶす。下味をなじませている間に、アキラは携帯用の燻製器を組み立てた。


「この階層は湿度が低くて、風通しもいいんですよ。風乾にはもってこいです。今日のスモークウッドは……これにします」


取り出したのは、『霊峰の霊木』のチップだった。


「桜餅みたいな、ほんのり甘い香りがつくんですよね」


**[コメント欄]**

:霊木チップ(一本で小国が買える国宝指定素材)

:燻製の煙にするなああああ!!

:素材の使い道が贅沢すぎて頭が追いつかない

:後ろでドラゴンが倒れてるのに塩の話してる……

:狂気と癒やしの振れ幅がすごい


燻製器の底にチップを敷き、火をつける。蓋の隙間から白い煙が立ちのぼり、霊木の甘い香りが洞窟に広がっていった。


アキラはクーラーボックスから缶ビールを取り出す。


プシュッ。


小気味よい開栓音が響いた。


「じゃあ、燻製ができるまで乾杯ということで。今日もお疲れ様でした」


缶を傾け、ひと息に飲む。周囲には倒れたばかりの古竜が横たわり、遠くの闇からは別の魔獣の唸り声が聞こえてくる。それでも、ランタンの明かりに包まれたアキラの周りだけは、休日のキャンプ場のように穏やかだった。


小一時間後、アキラは革手袋をはめ、燻製器の蓋を開けた。


「お、いい色ですね」


霊木の煙とともに、香ばしい匂いがふわりと広がる。中の肉はきれいなあめ色に染まり、脂が表面に艶をつくっていた。


アキラは薄く切り分け、一切れを口に運ぶ。燻製の香りのあとに、肉の旨味と胡椒の刺激が広がった。噛むほどに脂がほどけていく。


目を細めたアキラが、満足げに息をつく。


「うん、美味い。外は香ばしくて、中は柔らかいですね。脂もさっぱりしてる。……これは失敗したな。ビールじゃなくて、重めの赤ワインを開けるべきだった」


**[コメント欄]**

:うわあああ絶対美味い!!

:深夜に見ていい飯テロじゃない

:世界最強の男がドラゴンをつまみに飲んでる

:情緒がおかしくなるのに、なんか癒やされる……


画面越しに伝わる肉の艶と、焚き火の音。コメント欄を埋めていた悲鳴はいつの間にか消え、深夜らしいゆったりした空気が流れ始めていた。


そのとき、洞窟の奥から金属の重い足音が聞こえてきた。


結晶樹をかき分けて現れたのは、傷だらけの鎧をまとった四人組だった。世界ランキング一桁台に名を連ねる探索者パーティ『白銀の暁』。数ヶ月をかけ、血反吐を吐きながら第99層へたどり着いた英雄たちだ。


彼らは、山のようなアビス・ドレイクの死骸と、その前で燻製をつまむ青年を見比べたまま、しばらく動けなかった。


「あ、どうも」


アキラが軽く手を挙げる。


リーダーの大男が、背負っていた大きな背嚢を下ろした。厳重に布で包んだ木箱と、ずしりと重そうな鉄の塊を取り出す。


「ア、アキラ殿……! 先日の配信でおっしゃっていた銘酒『竜殺し』のヴィンテージです。地上のオークションで、なんとか手に入れました。それから、王室御用達の鍛冶師に頼んだ特注のスキレットも……! ですから、その燻製を一切れ、いや、端肉だけでも恵んでいただけないでしょうか……!」


人類の英雄たちが、高級酒と調理器具を差し出しながら、期待に満ちた目で肉を見つめている。


「おお、マジですか! そのスキレット欲しかったんですよ。酒も助かります。肉なら山ほどありますし、皆さんも座って飲んでいってください。温め直しますね」


**[コメント欄]**

:差し入れシステム成立してて草

:英雄たちが完全に常連客の顔

:スキレット持参は手慣れすぎだろwww

:最深層が深夜の居酒屋になっちゃった

:登録者数、今アメリカの総人口超えたぞ


アキラは銘酒の栓を抜き、受け取ったスキレットを焚き火にかけた。探索者たちはようやく緊張を解き、焚き火のそばへ腰を下ろす。


ダンジョンの最深層、世界の果て。


今夜もそこには、香ばしい燻煙と酒の匂いが、静かに満ちていくのだった。



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今日も異世界ダンジョン日本勢は、元気です…!(遠い目・自棄クソ叫び)
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