第12話:こんなご時世だからこそ、今の一瞬、一瞬が大切なんだ。
あまりにも陛下が大きな声で笑うものだから近くで警護をしていたザンテが部下であり眷属であるケドリスとパドリスの双子を連れてやってきた。
「陛下、何事ですか?」
その声に振り向いたドライト。そこにはザンテと眷属の双子が駆け寄って来る姿が見えた。
「ザンテ…。相変わらずその気持ちの悪い眷属を連れているのか…。はぁ。」
ドライトはケドリスとパドリスを見て眉をひそめ、小さく息を吐いた。彼が彼等を嫌うのには理由があった。
「は?ドライトには関係ないだろ?彼等の愛は誰にも邪魔は出来ないはずだ!」
────そう。ケドリスとパドリスは双子だが、お互いを愛しあっているのだ。
彼らは青年男性で女性と見紛うような華奢な身体だ。筋肉質なドライトとはタイプが違う。見た目も色白で短いながらも揺れる青い髪に青く潤んだ瞳が女性のようにすら見えるのだ。おまけに彼等が着ているのはフリルのついた絹のシャツに麻のズボン、中世の貴族風なので余計に華やかに見えるのだ。
「何だっていい。俺の目の前に連れてこないでくれ。陛下、私はもう下がらせて頂きます。」
「ああ、わかった。」
ドライトは陛下に深くお辞儀をしたあとザンテをキッと睨んでその場をあとにした。よほどあの双子が気に食わないのだろう。陛下の方もその事を理解しているのでザンテをそのまま開放した。
「して、お前たちも参加するか?」
陛下は突然ザンテと双子にそう話かけた。
「陛下。我々は面白いことが好きなので陛下のお誘いであれば喜んで参加致しましょう。」
どうやら陛下のおもちゃ遊びは今に始まったことではなさそうだ。
「ハハハッ!そうか、そうか!ではな…」
そう言って陛下はこれまでの事を興奮しながら話した。
「なんと!そのような人間の女が?!」
やはり誰でも驚くのであろう。自分たちを前にした人間には何も出来ないのが彼等の中での常識だからだ。特に女性は恐怖におののくか彼等の美貌にうっとりするかのどちらかだからだ。
「ああ、誰でも構わない生け捕りしてきてくれ。」
陛下はそう言って一人ゲームをしかけた。
そう。3人の直属の部下たちに同じおもちゃを共有させて誰が生け捕りをしてくるのか、3人が争う姿すらも陛下にとってはただのゲームなのだ。
「それぞれの手法で楽しませておくれ。」
「はい、陛下。」
そう言って3人は忠誠を尽くしてその場をあとにした。陛下は一人ニヤリと笑いながら今夜の餌を探しに夜の闇へと飛び立つことにした。
一方、柳川かおりを無事家に送り届けたあと、輝夜と満流は塾へと戻っているところだった。
「ねえ、またアイツらに遭遇するってことはないよね…。」
「さあな、ここで2回既に遭遇してるんだ。ひょっとしたら奴らが俺らに用があるなら、きっと待ち構えるとしたらここだろうな。」
満流が冷静にそう言った。
「やっぱり…。」
輝夜もそう思っていたのだ。相手が吸血鬼だとわかっていても今の時点では対策がないのだ。正直、まだ戦いたくない。
前回は偶然上手くいったが、今回もそう上手くいくとは限らない。そもそも日本刀をキスで銀の剣に変えるだなんて、出来る方が不思議なのだから。
「あの方法がいつでも出来るようにならない限りはこっちが不利だよね。」
「そうだな、いくら輝夜の霊力が高いからと言って毎回都合よく銀の剣に変えられるとは限らないからな。」
「うーん。だったら、何か戦う方法を考えないと…。」
二人して黙り込んだ。
「それにこの薔薇のような痣の問題もあるものね…。」
「ああ。確実にさっきの血を吸われたせいだと思う。」
「これ、いつか消えるんだろうか…。」
不安になる輝夜。
「さあな。あいつらが言ってた陛下って奴なら知ってるのかな?」
「例え知っていたとしても今、会うわけにはいかないわ。陛下ってくらいだからもっと手強いでしょうし…。」
「だな。早く悠一と合流したいな。」
輝夜も静かに頷いた。
〝確かに悠一くんの力は凄かった。満流には霊札しか使えないから今回の戦いにはかなり不利だもの…。だけどおかしいわね。普通、キングの方がナイトよりも力があってもおかしくないのに、どうして満流にはないの?まさかクイーンに渡すためだけに存在してるとか?〟
満流自身が悩んでいる事に輝夜も疑問を抱いていた。
〝そうね、私がこの事に気付いているのだから、満流はもっと早くに気付いているはず!きっと不安だったでしょうね…。〟
そう思って満流を見つめる輝夜。その視線に気付く満流。
「な…なんだよ…。そんなに見つめられると照れるじゃないか…。」
「えっ、やだ。私、そんなに見つめてた?」
輝夜は慌ててそう言うと
「なんだ、自覚なしか!」
満流は笑った。彼のその顔を見て輝夜もふっと気が緩んで笑った。並んだ二人の指先が〝チョン〟と触れた。それまで笑っていた二人は触れた指先に意識がいってふと輝夜は手を引っ込めようとしたが、満流が半ば強引に輝夜の手を繋いだ。
輝夜自身も恥ずかしいと思いながらも繋いだ手が力強くもあり優しくて〝きゅっ〟と握った。
二人の胸の音が高鳴る…。
〝思わず手ぇ繋いじゃったが…。輝夜も嫌じゃなかってよかった…。〟
本当に満流は輝夜に対して慎重だ。好き過ぎて輝夜に嫌われるのが一番堪えるようだ。
〝輝夜は知らないだろうけど、俺は初めて会った時からずっとお前だけを見てきたんだからな、どんなお前だってずっと好きでいられる自信があるさ。〟
満流は二人で手を繋いで歩いている今を堪能していた。またいつ敵が現れて攻撃してくるかわからないからだ。
〝俺たちにはどうやら使命があるようで中々ゆっくりと普通の人生を歩ませてくれなさそうだからな。今の一瞬、一瞬を大切にしていきたいんだ。〟
満流は心の中で強くそう思った。そして輝夜を助けるためにも自分自身に何かちからがないのか常に考えていた。
ご覧下さりありがとうございます。輝夜たちはまだ知らないが、また新たな敵も判明しました。全て陛下の手の平で転がされている奴らに二人は勝てるのだろうか…。そして輝夜の首筋に出来た薔薇の痣は?!




