第11話:吸血人化の無効化の話が敵に伝わる
二匹のコウモリたちは川の近くにある洞穴へと飛んで行った。きっとそこが彼等の住処だろう。
バサバサバサ……………!
彼等の羽ばたく音でドライトは彼らが戻ってきたことに気付いた。体格のいいドライトにしては似つかわしくないのだが、彼は自分の住処で暇を持て余しては体力作りと瞑想をしているのだ。この時も瞑想中だった。
「フラッパとドラドラだな?偵察はどうだった?」
ドライトの住処は彼自身が拘りもない質素な男なので元の洞穴を活かしたほぼそのままの室内造りだ。だから中はジットリとしている。彼自身は心身を鍛えるのにはいいと思っているようだ。
ドライトの声かけにより、二匹は人化してドライトに挨拶をした。
「ドライト様、フラッパとドラドラ、戻りました。」
「うむ。それでどうだった?対象となる男は現れたのか?」
「はい。現れましたがあの男自身には力はありません。それよりもあの男と共にいた女の方には驚きました!」
フラッパが思い出しながらドライトに説明を始めたが、どうやらドライトは認識が違うようだ。
〝陛下が餌だと言っていたあの女のことか?その女がおもちゃよりも強いだと!?ならどうして陛下にいとも簡単に吸血されるのだ?!〟
あまりにもイメージが違いすぎたのでフラッパに思わず尋ねていた。
「陛下が喉を潤しているあの女か?」
「違うと思われます。陛下が言っておられたと思われるその女はグッタリとしていてかなり血が不足している様子でした。」
ドライトはフラッパの話を聞いて
「どうやら柳川かおりという女とは別に力のある女がいる、という事のようだな。」
と理解した。そしてフラッパは続けて重大な事実を述べ始めた。
「そうです。その上その女、吸血人化した女に自分を噛みつかせて無効化させたんです。」
「は?無効化だと?そこまで血が不足した状態で元に戻れるとは到底思えないが?!しかももう吸血人化していたんだろ?!」
ドライトは大きく強い口調でそう言った。あまりにもの大きな声にフラッパとドラドラは一瞬〝ビクッツ〟としたが、落ち着いて答える。ドライトはその体格から想像がつかないが、とても温厚な性格で普段あまり怒らないが怒るととてつもなく怖いからだ。
「しかしドライト様、我々が見た事は事実でございます。きっとあの女は人間ではないのでしょう……………。」
ドライトは自身の顎を触ってしばし考えた。目の前にいる自分の部下である眷属のフラッパとドラドラが嘘を言うとは思えなかった。だが、吸血鬼化しそうになった人間が元に戻るだなんて話を聞いた事もなくて戸惑っていたのだ。
彼が無言で考えている間、フラッパとドラドラは終始お互いの顔を交互に見ながら、ただ時間を持て余していた。彼等の額には冷や汗がダラダラと流れていた。それだけドライトの沈黙が彼等にとっては恐ろしいものなのだろう。
ドライトは小さく息を吐き、最終的にはフラッパの話を信じる事にした。
「まさか人間界に人間と共に共存している非人間がいるとはな…。これは陛下に報告せねばならぬな。お前たちは引き続き奴らを監視していろ。捉えてくるのも良しだ。」
「はい、ドライト様!」
フラッパとドラドラは沈黙が過ぎ去って安堵したようで再びコウモリの姿に変身して夜の闇へと旅立った。行先は先ほどの公園だ。
そしてドライトはというと、表情にはあまり出していないが、ワクワクしながらそのまま陛下の元へと向かった。
その頃、何も知らない陛下は部下たちが自分が見つけたおもちゃで楽しんでいるだろうと思って上機嫌だった。
「そろそろあの女の血にも飽きて来た。ちょうど吸血人化してくるだろうし、新しい獲物でも探しに行くかな…。」
そう呟いてニッと笑った。そして外へと出ようとした所にドライトがやって来た。
「────陛下!」
「わ!ドライトか…。いきなりで驚くではないか!」
今の陛下は8歳くらいの男の子の姿。対するドライトは大柄の成人男性そのものだ。圧死しかねない。
「申し訳ございません、陛下。しかし陛下に至急お耳に入れたい事がございまして…。」
「ん?お前がそういう事を言うということは、例のおもちゃの関連だな。何か面白い話が聞けそうだな。」
怒りモードだったが、どうやら陛下にとってのおもちゃ、つまり満流に関する話は彼にとっては楽しみのようだ。弱気人間、何も出来やしないのに口だけは達者だからな。あ奴が泣きわめくのも面白いだろう。と、考えているようだ。
陛下の先導で奥の間へ移動したドライト。玉座に座った陛下に再び膝をついて挨拶をしようとするが、
「よい、それよりも早くその話を!」
陛下の方がドライトに催促をした。それだけおもちゃ(満流)への陛下の関心が高いということだ。
「はっ。私の部下である眷属のフラッパ共が例のおもちゃの調査に向かった時の話でございます。」
「うむ、無事接触完了したのだな。して、相手をしてやったのか?」
ドライトの話に陛下は身を乗り出して興味津々に聞く。
「いえ、どうやらその折に陛下の餌である女を背負っていたのですが、その者が吸血人化を始めたのです。」
「ほほぉ、そろそろだと思ってはいたが…。それで?そいつはおもちゃに噛り付いたのか?!」
陛下の言葉にドライトは首を横に振って
「おもちゃに付き添っていた女がおりまして、その女が自ら身代わりを買って出たというのです。」
「な!なんと!そのような勇気ある女がいるのか!?」
陛下は驚いた!大柄な男であってもそんな状況下では身動きが取れないというのに、か弱い女が身代わりになろうとするとは…。
「それでそのあとはどうなったのだ?」
「はい、その女の血を飲んでしばらくすると餌の行動が止まり、そのまま吸血人化が解けてしまったのです。」
「は?!」
陛下は言葉を失っていた。それもそうだろう。ドライト自身も信じられなかったのだ。吸血族になった人間はもう元に戻らないのが定番だ。それがただの人間がやってのけたというのだから信じろと言うのが無理な話だ。
「いや…、あり得んだろ?ただの人間が…そんなこと…。」
陛下は動揺してそう言ったがドライトは
「もしその女が人間ではなかったとしたら?」
ドライトの言葉にハッとした。
────確かに人間でない可能性もあるな。我らのような者がいるのだから…。だが、おもちゃは人間だったはずだ。非人間が人間と共にいられるとは思えないが…。そう考えて陛下は低い声でドライトの名を呼んだ。
「ドライト…。」
「はい、陛下。」
「その女に興味を持った。生かして連れてこい!この前ケルドアが言っていた女と同一人物なのか、はたまた別人なのか…。ハハッ!この国の女は面白そうだな!我をどこまで楽しませてくれるのか!」
そう言って陛下は洞窟の中に響き渡るほど高らかに声をあげて笑った。ドライトは陛下のご機嫌な様子を見て心が躍った。
ご覧下さりありがとうございます。どうやら輝夜の存在が吸血人たちに知れ渡りつつあるようだ。




