Simple Simon
次女朝霧 の話です クロウリー家の中でいちばん純粋で無邪気な次女です
クロウリー邸 プライベートサロン お昼
今日は美容院の日。
パパが呼んだ、世界でいちばん上手いスタイリストさんが、屋敷に来る日。
私はソファに寝転がって絵本を読みながら、2人の髪が切られていくのを眺めていた。
最初はブランシュ。
白いアルビノの髪。腰まで届くふわふわロング。
「もう長いの飽きた。ショートにして」
ハサミが入るたび、雪みたいな髪がひらひら落ちる。
最後には耳が見えるくらいの、すっごく可愛いショートヘア。
ブランシュは鏡を見てにこにこ。
「軽くなった! 気分転換完璧!」
次はオリーフィア。
茶色のくるくる天然パーマ。肩よりちょっと下。
「料理してると落ちてきて邪魔なの。ボブで」
チョキチョキ。
パーマがふわっと活きて、柔らかいボブに。
「これなら鍋に落ちないね。ありがとう」
私はみんなの髪を思い浮かべる。
セラ姉さんは長い黒髪、前髪で片目を隠して、凛としてカッコいい。
私は黒髪で、ボブより少し長め。動きやすいし、パパにも撫でられやすい。
小夜は私と同じくらいの長さで、病弱なのにすごく綺麗。
ブランシュは真っ白ショートで妖精みたい。
マリーナは黒髪のスーパーロング!起きてるときは大きく長ーいツインテール。
オリーフィアは茶髪ボブで優しいお姉さんって感じ。
アズラエルは茶髪ロングをゆるく一つに結んでる。あんなに大きいのに可愛い後姿。
みんな違う髪で、違う色で、違う長さ。
でも、みんなまとめてクロウリー姉妹。
私は足をパタパタしながら笑った。
「みんな、可愛くなったー!」
その時、パパが入ってきた。
「おお、二人とも見違えたな! ブランシュもオリーフィアも可愛くなったぞ!」
パパはの隣に来て、いつものみたいに頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
「朝霧も次は切るか?」
私はにこにこして言った。
「わたしはこのままでいいー! パパに撫でてもらいやすい長さだから!」
パパは声を出して笑った。
「ははは! じゃあずっと撫でてやる!」
パパの手でぐしゃぐしゃされながら、私は“昼間のクロウリー家”の幸せをいっぱい感じていた。
暇な昼って、最高だ。
美容院のあと私はフラフラと廊下を歩いていた。この間みたいに「知らない人」とか来ないかな? なんて思っていたら
「あ、マリーナ!」
「げっ 朝霧姉さん」
「マリーナ!おままごとしよう!」
「えーめんどくさい……」
長い黒髪をだらんとさせて(今日は結んでないんだ)廊下に置いてあるソファで横になっているマリーナを見つけた 一瞬嫌そうな顔をしてたけど気にしない!
マリーナはうーんと唸りながら、
結局は渋々立ち上がる。
「……はぁ。しょうがない、朝霧姉さんだけだから付き合うけど……私、できれば役が“寝てる猫”とかがいい……」
おままごと道具を私の部屋から持ってくるためにマリーナと一緒に行く
「え、朝霧姉さんの部屋でやるんじゃないの?」
「マリーナの部屋でやる!マリーナの部屋動くぬいぐるみたくさんあるから!」
「わかった……重いものは持たないからね……」
そう言いながらマリーナはちゃんと私の後ろをとことこついてきた。
マリーナの部屋のカーペットは、ふかふかでお昼みたいな匂いがする。
私はその真ん中にちょこんと座って、スライムと粘土をこねこねしてた。
「マリーナほら、これがスープ。こっちがごはんだよ」
「……うん……おいしそう……(棒読み)」
ベッドからずるずる降りてきたマリーナは、床に横になって肘枕して、世界で一番やる気のない“お父さん役”をしていた。
今日のおままごとは、マリーナが父親で、私が母親で、あのうさぎさんが娘。
うさぎさんはマリーナの部屋の子でマリーナ曰く「まだ未完成」らしい
でも片手だけ上がるこの動きが私は気に入った。いつも「はーい」って言ってるみたいに見えるから。
私は黄色い粘土を細かくちぎってお茶碗のうえにふりかける。これはのりたま!
「はい、マリーナパパ、起きて。ごはんできたよ」
「……ん〜……パパは今日は……お仕事休み……だから寝てる……」
「だめだよ〜ごはん食べないと、娘ちゃんが見てるよ」
うさぎの手をむぎゅっと押して「はーい」ってさせると、
マリーナは目だけ動かして私を見上げた。
「……娘ちゃん……かわいいね……。ごはん……お母さんが……食べちゃって……」
「えっ、なんでわたしが食べるの!?」
そんな時だった。
部屋のドアがカチャッと開いて、パパ――じゃなくて、本物のパパが扉から顔を出した。
「……何してるの? 二人とも」
私はすぐに背筋を伸ばして、粘土を持った手を上げた。
「おままごと!」
マリーナも片手をひらひら上げた。肘枕のまま、ちょっとだけ顔を上げる。
「私が父親で……朝霧姉さんが母親。んで、この子が娘」
マリーナが指し示すとうさぎが「はーい」と言わされる。
パパは眉をひそめて、でも笑いそうになってて。
「おままごとは分かるけど…マリーナ、ちゃんと演技しないと」
するとマリーナは、死にそうに面倒くさそうな声で、
「朝霧姉さんの指示で……だらけてる父親役なんだ……」
パパが「あ、ご指名なんだ」と言いかけたけど
私はぶんぶん首を振った。
「違うよ〜! わたしが言ったんじゃないよ!マリーナ、いくら言っても寝ちゃうんだもん!」
するとマリーナは、ごろんと仰向けになりながら、
「……父親って……だいたい疲れてるじゃん……リアル……」
と言い残してまた肘枕に戻った。パパはついに笑って、
「それは……まあ、否定しづらいけど……」
と頭をかきながら部屋に入ってきた。
私はスライム入りのお皿を持ち上げて、パパにも差し出した。
「パパも食べる? スープだよ!」
パパはしゃがんで私の頭をぽんぽん撫でてくれた。
「ありがとう。じゃあパパは、“お客さん役”になろうかな?」
マリーナがぽそりとつぶやく。
「……じゃあ……私は寝てる父親役継続で……」
「やめてよ〜マリーナ〜〜〜!」
部屋に私の声が響いて、パパがとうとう笑い転げた。
マリーナは最後まで体制を変えず「……父親は……寝てる……」と呟くだけで、ぜんぜん起きる気配がない。
「もういいよ〜〜!」
私は立ち上がって、スライムと粘土を片づけて、ぽすんと溜息をついた。
マリーナはそのまま床で丸くなって、「……おやすみ……」って言ってた。まるで猫ちゃん。
呆れちゃった私は、ドアをばたんと閉めて廊下に出た。
おままごと、続けたかったのになぁ。
気を取り直して食堂に行くと、甘い匂いがふわ〜っと鼻をくすぐった。
「……あっ、タルトの匂いだ!」
食堂の奥、広いキッチンで、
オリーフィア がオーブンの前にしゃがんでいた。
ボブになった茶髪がふわっと揺れて、前髪に小麦粉がついて白くなってた。
「オリーフィア、なに作ってるの?」
振り返ったオリーフィアは、いつもの優しい笑顔で私を迎えてくれた。
「ん?りんごのタルト!ちょうど焼き上がるところだよ、朝霧姉さん」
「わぁ〜〜! 食べる!!」
「まだ熱いからね。冷めるまで一緒にもう一個作ってみる?」
私はぱっと顔を明るくした。
「つくる! わたしもつくる!」
オリーフィアは笑いながら、私のエプロンを結んでくれた。
「じゃあ、まずはりんごを切ろうか。甘い匂いが出るように、薄くね。できるかな?」
私は胸を張って包丁を持った。
「できるよ! マリーナより上手にしてみせる!」
「……マリーナには包丁持たせらんないよね」
「いつも眠そうだもんね!!」
二人でくすくす笑いながら、りんごを切った。
シャクッ、シャクッって、やわらかい音がする。
「上手だよ、姉さん。そのまま並べていこう」
「はーい!」
私はタルト生地にりんごを一枚ずつ並べて、お花みたいにしてみた。
「できた!」
「うん、とても綺麗。……朝霧姉さんは手先が器用だよ。いつも思うけど」
私はえへへと笑って、そのままできあがったタルトをオーブンに入れた。
部屋じゅうに甘い匂いが広がっていく。
マリーナはおままごとで全然動いてくれなかったけど
こうしてオリーフィアと一緒にお菓子を作る昼も、
やっぱりすごく好きだった。
「ねぇオリーフィア、焼き上がったらさ」
「うん?」
「パパにも食べさせよ? きっと喜ぶよ」
「もちろん。朝霧が作ったんだもん」
私は嬉しくて、足をパタパタさせた。
タルトが焼けるいい匂いが、食堂いっぱいに広がってきたころ。
――ガチャ。
いきなり食堂の扉が開いた。
「いい匂いがすると思ったら……やっぱりここだったか」
パパだった。
まただ。
また急に現れる。
まるで家の中をうろうろしてる幽霊みたい。
オリーフィアがくすっと笑った。
「お仕事は? パパ」
「ん? 今は休憩時間だ」
「(絶対違う。絶対なんかから逃げてる。)」
パパはひょいっとカウンターに座って、
身長2メートル越えなのに子供みたいに足ぶらぶらしてた。
「朝霧が作ったタルトだって?」
「(パパ扉の前で聞き耳立ててたな……)」
「どうした?オリーフィア?変な顔して」
「いや、なんでもないよ。」
そんな2人の会話を遮って私は胸を張って言った
「そうだよ! オリーフィアと一緒につくったの!」
「おぉ、それは食べねばならん。父親の義務だ」
「パパって暇なの?」
私が本気で聞いたら、
パパは一瞬だけ固まって、それから咳払いした。
「……父親業は忙しいんだぞ。子供の様子を見に行く任務があるからな」
「毎日?」
「毎秒だ」
「ほんとに?」
「……ほんとだとも」
オリーフィアが噴き出した。
「パパ、タルト冷めるまでそこで待ってて!」
パパは素直に(というか当然のように)
カウンターに肘をついて、じーっとオーブンを眺めていた。
なんか、犬みたい。
「焼けたら一番に食べていい?」
「もちろんだよ。朝霧の作ったタルトだからな」
私はにこにこ。パパもにこにこ。
オリーフィアも笑ってて、
タルトの甘い香りが部屋をいっぱいにして――
タルトが焼き上がると、部屋の中に本当に幸せみたいな匂いが広がった。
「できたーっ!」
私がオーブンを覗きこむと、オリーフィアが厚手のミトンでタルトを取り出した。表面のリンゴがきらきらしてて、ちょっとだけ照れてるみたいに見える。
「姉さん、仕上げの粉砂糖お願い」
「はーい!」
パッパッと振ったら白い雪みたいになって、
パパがもう限界みたいな顔で身を乗り出してきた。
「まだか……? パパは待ちすぎて死ぬかもしれん……」
「大げさ」
オリーフィアが笑って、カットしたタルトを三つ、皿に並べた。
「いただきます!」
私とパパが同時にフォークを入れた。
しゃくっ。
「……おいしい!!」
甘くて、あったかくて、リンゴの優しい味がした。
パパも目を丸くしたあと、ものすごく嬉しそうに頷いた。
「うまい。天才だな!天才姉妹だな!クロウリー最高だな!!」
「パパ、大げさすぎ……でも嬉しい」
オリーフィアは頬を赤くして、
「朝霧姉さんの混ぜ方が上手だったんだよ」
と私の頭を撫でてくれた。
おいしいタルトを食べて、昼の光が食堂でゆらゆらしていて、なんだか胸の中がぽかぽかした。
タルトを食べ終わって、
「次はクッキーも作りたいなぁ」と話しながら食堂を出たとき
廊下の角から、ショートヘアになったばかりのブランシュが出てきた。
白い髪が揺れて、いつもより軽く見える。
「ブランシュー! かわいい髪!」
私が走っていくと、ブランシュは片手をひらひらさせて笑った。
「ありがとー朝霧姉ちゃん。ちょっと出かけてくるね」
「どこ行くの?」
「んー……ちょっとね。気分転換」
軽い。軽すぎる。
でもブランシュはいつもそうだ。
風みたいで、掴めなくて、
でもすごく遠くへ行ってしまいそうな笑い方をする。
私はなんとなく胸がざわざわした。
「気をつけてね」
「もちろんー!」
ブランシュはスニーカーのかかとを鳴らして、
春の猫みたいに楽しそうに外へ出ていった。
私はしばらく扉の方を見つめてた。
ブランシュを見送ったあと、
私はもう一度食堂の方へ戻ろうとした。
そのとき。
「朝霧! ブランシュはどこだ?」
パパが廊下の奥からばたばた走ってきた。
スーツなのに走り方が子供みたいでちょっと笑える。
「えっと、さっき外に出ていったよ。気分転換って」
「むぅ……そうか……」
パパは眉を寄せて、少しだけ難しい顔をした。
ほんの少しだけ、寂しそうにも見えた。
「伝えたい事があったのにな……」
小さく呟いた声は、いつもの大げさな調子じゃなくて、
胸の奥に沈む石みたいに静かだった。私は首を傾げた。
「パパ、呼べばいいじゃん。ブランシュすぐ戻ってくるよ?」
「いや、あいつは自由だからな……呼んでも返事が来るとは限らん」
それは確かにそうかも。ブランシュは風みたいに軽いから。
でも、私はひとつ思いついた。
「じゃあ、魔法で送ってみたら?
マリーナに頼めばできるよ。言葉そのまま相手にポンって飛ばすやつ」
パパは一瞬きょとんとして、それから笑った。
「……そうか。朝霧は賢いな。マリーナに頼むという手があったか」
「でしょ!」
「うむ! パパは娘を誇りに思うぞ!」
パパはその勢いのまま私の頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
ちょっとさっきより乱暴な気もするけど、まぁいいか。
「よし! マリーナを探すぞ!」
「探すぞー!!」
「……おー!!」
また走っていったパパの後ろについて行く、私は小さく笑った。
パパと館内をうろうろした挙句、やっとマリーナを見つけた。
マリーナは別の廊下のソファーで、クッションを抱えて昼寝していた。やっぱり寝てた。
「マリーナ! 起きてくれ!」
「んぁ……? パパ……? あと5分……」
「五分待ったら夜になるだろうが!!」
「夜には……まだ……ならない……」
「お前の5分は5時間だ!」
私は笑ってしまった。
「マリーナ、ブランシュに伝言してあげて。“少し話がしたいから戻ってきてほしい”って」
「……うん……はい……」
マリーナは目を半分閉じたまま指をひらりと振る。
魔力が空気を揺らし、淡い光の粒が生まれた。
ぼんっ。
蝶の形をした光のメッセンジャーが飛び出す。
「……これでいい……おやすみ……」
「マリーナ!? 寝るな!!」
パパの叫び声を聞きながら、私はクスクス笑ってその場を離れた。
夕暮れが落ちると、クロウリー邸の廊下は長い影を作る。
私はその影の中で立ち止まった。
胸の奥が重い。
呼吸が浅くなる。
──まただ。
ギフト《愚者》と《強欲》。
《愚者》は“幼く純粋でいられる”という名目だけど、
本当は違う。
私は本来ならもっと大人の考え方ができる。
もっと複雑な思考だって、理解だって、本当はできる。
でも――
“子供らしくない方向へ進むと、ギフトが私を強制的に幼く戻す。”
精神を折り曲げて、思考をちぎって、痛みで頭の中を真っ白にさせる。
それは、焼けつくような苦痛。
《強欲》もまた厄介で、
“ほしい”という気持ちが普通よりも大きく膨らむ。
家族の笑顔も、パパの手も、みんなの側にいる時間も。
欲しいものだらけで、満たされないと胸が焼ける。
私は幼く見えても、本当はずっと必死だ。
“無邪気でいなきゃいけない”
“欲しがりすぎてもいけない”
その綱渡りが、苦しかった。
そして今、ギフトがまた軋んでいる。
視界が揺れた。
「……い、っ……」
私は壁にもたれたまま歯を噛みしめる。これ以上は危ない。
針のような鋭い痛みが脳に届く前に、私はふらふらと歩き出した。
行く先は――あの子の部屋
小夜の部屋の前に着く頃には、視界が歪んで床が遠く見えた。
「……小夜……」
扉をノックする力も出なくて、指で軽く叩いただけなのに
「……朝霧?」
すぐに扉が開いた。
小夜は酸素チューブ越しでも分かるほど顔を青くした。
「あなた……またギフトの反動……?」
私はふらりと小夜にもたれかかった。
「……ごめん……でも……ここしか……来れないから……」
小夜はすぐに私を抱き支え、ベッドに運ぶように座らせてくれた。
「はぁ……本当に……双子ってだけで、どうして負担が倍になるのかしらね……」
弱々しい声だったけど、その愚痴はどこか優しかった。
私は息を整えながら、ゆっくりと笑った。
「……でも、小夜がいて……よかった……1人でいたら……壊れてた……」
小夜は一瞬だけ目を伏せる。
「……私もよ。あなたが“愚者”を背負ってるおかげで……救われてる部分がある」
私はそっと小夜の手を握った。
双子。
魔力は倍。
負担も倍。
痛みも倍。
恐怖も倍。
でも
支え合えるのも、倍。
2人でいると、少しだけ楽になる。夕陽の名残が部屋をやわらかく染める中、私たちは静かに息を合わせた。
ふと目を覚ますとすっかり夜になっていた。
さっきまであんなに苦しかったはずなのに、今は胸の中がふわふわと軽い。
──あ。
また幼く戻されてる。
思考の深いところが薄紙になって、世界の輪郭が丸くなる。
でも、痛くはない。
強制的に戻された時の、あの鋭い凶器のような痛みは跡形もなく消えていた。
「朝霧、起きたのね」
小夜が椅子から立ち上がり、そっと私の額を撫でた。
「もう晩御飯よ。行きましょう?」
「……うん」
手をつないで小夜の部屋を出ると、
曲がり角の向こうからパパが歩いてきた。
「あ、小夜、朝霧!探したよ」
そこで私は聞いた。
「ブランシュ、帰ってきた?」
パパは少しだけ顔を曇らせ、腕を組む。
「……帰ってこなかった。だから用件はマリーナにもう一度伝言魔法で送ったよ」
やや不満そうに言うけれどすぐに表情を柔らげて続けた。
「さて、晩御飯だ。小夜も今日は調子がいいんだね。久しぶりにみんなで食卓を囲めるね!」
「ブランシュがいないですよ」
「……あ、そっか……」
小夜の鋭いツッコミに、パパは肩を落とした。
食堂に入ると、テーブルがきらきらして見えた。料理のいい匂いで胸がふわっとする。
今日のメニューはオリーフィア主導のごはん。
・ローストチキンのハーブ焼き
・かぼちゃのポタージュ
・キノコとバターソテー
・菜園サラダ(アズラエル収穫)
・マリーナが“混ぜただけ”のフルーツヨーグルト
私が席につくと、パパがもうすでに“こっち見てる”。
「朝霧、ちゃんと座れたか?椅子の高さは?寒くないか?ほら、このクッション使うといいぞ」
「パパ……大げさだよ〜」
と言いながらクッション渡される。
セラ姉さんがスープを静かに飲むと、
パパがすぐ反応した。
「セラフィナの飲み方は美しいな……。見てると心が洗われる」
「父様、普通にしてください」
でも、セラ姉さんの耳が少し赤くなるのを私は見逃さなかった。
小夜はゆっくり食べながら、「……今日は味がよくわかります」とパパに言う。
パパの顔が一気に明るくなる。
「そうか!よかった!もっと温かいの持ってこようか?いや、別のメニューも少しずつ出すか?何でも言ってくれ!」
「いりません。今のがちょうどいいです」
小夜はさらりと返す。
それでもパパは上機嫌になって“娘がご飯をちゃんと食べられる”という奇跡を10回くらい噛み締めていた。
マリーナはサラダの皿を見ただけで顔をしかめる。
「……草は食べない……」
「草じゃないよ、野菜!」
私が笑うと、
「でも草の味する……無理……」
と言って、フルーツヨーグルトだけ食べ始めた。
するとパパが即反応。
「無理に食べなくていいぞ、マリーナ。お前が嫌なものはパパが全部食べてやる!」
「え、全部はやめ……あ、もう取った」
オリーフィアが止める前にパパは皿を移動させていた。
セラ姉さんが「マリーナ、クロウリー家たるもの……」とお説教が始まるよりも先にね
オリーフィアは緊張しながらチキンを見ていたけど、パパがひと口食べた瞬間
「オリーフィア、天才だ!レストラン開けるぞ!!いや、開こう!パパ資金出す!場所はどうする!?」
「落ち着いて、パパ……」
とオリーフィアが真っ赤になる。
アズラエルはきのこのソテーをもぐもぐしながら
「おいしい……」
と小さく言った。
その瞬間パパの目が輝く。
「ああっ、アズラエルが“おいしい”って言ったぞ!ほら聞いたか?みんな聞いただろ!?録音しておけばよかった!」
「パパ落ち着いて……」
「パパ、ちょっとうるさい」
オリーフィアが苦笑してマリーナがパパを注意する。
ブランシュ不在のため、ブランシュの席だけぽっかり空いていた。
アズラエルが席をちらちら見て、
「……ブランシュ姉さんの ごはん……あとであたためる……?」
とつぶやく。
「そうだな、帰ってきたら一緒に食べさせような」
とパパは優しく言った。
食卓のあたたかさ、
ワイワイした声、
パパの騒がしすぎる親バカ。
全部まぜこぜで、胸の中がぽかぽかになる。
──家族って、難しいことじゃなくて、こんな単純な幸せの積み重ねなんだ。
Simple Simon みたいに、私はただ“ここにいる”だけでいいんだ。




