Little Birds That Have No Wings
日本に来ての初めての魔獣狩り
動きを文章にするってなんであんなに難しいんだろう
ブランシュとマリーナの2人のイメージは某ビッチ天使姉妹です。
セラフィナは小夜からの報告書を読み 眉間を抑えた。
「あの愚妹達は……」
セラフィナの雷から24時間前
ブランシュとマリーナは学校に慣れたが部活等には入らなかった。
ブランシュは縛られることを嫌い
マリーナはそんな時間があるなら堕落したい。
そのような理由で様々な部の勧誘を断り 2人で帰路に着いていた。
あの黒光りした高級車での送迎も断り2人が歩いて帰りたかったのには理由があった。
「ここだね、小夜姉さんが報告したマンションは」
マリーナがスマホを見ながらブランシュに確認をする。
スマホにはマリーナ達が通っている学校近くで魔獣の気配があるという小夜のメールが書かれていた。
「日本にも魔獣っているんだね。てっきりイギリスだけかと」
「“魔”を喰うモノだもの。私たちに釣られて来た可能性は高い」
「そもそも、魔獣の発生原理が曖昧すぎるんだよね」
「小夜姉の論文、難しすぎ。もっと簡単にしてほしい」
夕方だというのに、マンションは静まり返っていた。
洗濯物が、一つもない。ベランダに影も、色もない。
人が住んでいないわけじゃない。
けれど、「生活している気配」だけが、きれいに削ぎ落とされていた。
「なんだか人気のないところだね。」
ブランシュがマンションのエントランスに入ってぽつりと呟いた。それにはマリーナも同感だった。
今回調査するのは古マンション、かなり年季が入っている。オートロックもなしに簡単に2人が入れた。
管理人がいるであろう 窓口もカーテンがピシャリと
閉められ まるで「何も見たくない」「関わりたくない」と言っているようだった。
「…………くさい……」
「えっ!?あたし臭い!?」
「いや、違う。「獣臭い」」
マリーナは、エントランスに入ってからずっと眉をひそめていた。
魔獣狩りの際、彼女は魔力を鼻に集中させる。匂いを通して、数や種類を探る。
警察犬のような役割を担うことも少なくない。
今回も同じように鼻を使った――はずだった。
だが、うまくいかない。
獣臭い――のは確かだ。
けれど、それ以上に強いのは、
酸化した血のような、金属臭を含ん匂い。
濃すぎる。
いや、多すぎるのか?
匂いが情報を塗り潰している。
「……6階」
マリーナが、スマホの画面を指で叩く。
「小夜姉が言ってた。“事故”がこの階数件で最近起きたって」
「事故?」
「転落、怪我、原因不明の失踪。管理会社が“空き部屋”って処理してる部屋も、全部この階」
ブランシュが眉をひそめる。
「……なるほど。巣にするには都合いいね」
2人は6階を見に行くためにエレベーターに乗り込んだ
一言で言うなら古いエレベーター
中に入ると、上部の蛍光灯がじじっと音を立てて点いていた。
「……使えるんだ」
「使える、けど古い……」
マリーナは操作盤を見つめている。
押された階数のボタンは、どれも少し黄ばんでいた。
目的の階を押す。反応は、ワンテンポ遅れてから。
ごうん、と腹の奥に響く音を立てて、
箱が動き出す。扉が閉まる。
――静かだ。
いや、正確には、静かすぎた。
モーター音。ロープの擦れる音。それらがあるはずなのに、音が、薄い。
「……ねえ」
ブランシュが小さく言う。
「これ、止まらないよね?」
「止まったら……登るか、階段めんどくさいけど」
「……止まらないといいね。」
冗談めかしているが、どちらも笑っていなかった。
一階、二階。
表示が点滅しながら上がっていく。
その途中。
――かさ。
天井から、微かな音がした。
マリーナの指が、ぴくりと動く。
――かさ、かさ。
金属を撫でるような、乾いた音。
「……天井」
ブランシュも気づいた。
「ネズミ?」
「……違う」
マリーナは首を横に振る。
「羽音」
エレベーターが、止まった。目的の階。
扉が、ぎい……と、ゆっくり開く。
廊下は、暗かった。非常灯だけが点いている。
壁紙は浮き、床は染みだらけ。空気が、重い。
一歩、外に出た瞬間。
――ばさ。
――ばさ、ばさ。
音が、重なった。
一つじゃない。二つでもない。複数。
天井裏。
扉の向こう。
廊下の奥。
あちこちから羽ばたく音が、反響してくる。
ブランシュとマリーナは、同時に顔を見合わせた。
言葉は要らなかった。
「……多いな」
「……うん」
エレベーターの扉が、背後で、静かに閉まった。
エレベーターを降りた瞬間から空気が重くなった。
「……ここだね」
廊下は長く、薄暗い。蛍光灯は半分以上が切れていて、点いているものも、じじっと低い音を立てている。
そして
「……あ」
ブランシュが、足を止めた。
廊下の途中。一室のドアがわずかに内側から盛り上がっていた。
まるで、柔らかいものを無理やり押し付けているように。
金属製のドアが、呼吸するみたいにわずかに膨らんでは戻る。
「……うっっわ」
2人の声が重なるその瞬間。
ドアの内側から、ざわ、と。羽音が重なって聞こえた。
一匹や二匹じゃない。何十、何百という音が狭い空間で擦れ合っている。
二人は、何も言わずに顔を見合わせた。
「……巣だね」
「間違いない」
魔力を展開する。
空気が歪み、マリーナの手に大鎌が現れる。
――が。
ガキンっ
鈍い金属音とともに大鎌の柄が廊下の壁に当たった。
刃先は反対側の壁にぶつかり完全に廊下を塞ぐ形になる。
「……ありゃ?」
大鎌は、まるでつっかえ棒みたいにびくとも動かない。
「……最悪」
マリーナが舌打ちする。
「このマンション、狭すぎる」
「大振りな武器は不向きだなこりゃ」
ブランシュは、一瞬それを見ただけで理解した。
マリーナは大鎌を一度、消す。
羽音はさっきよりも、近くなっていた。
「どうする……」
マリーナが考え込む、その横を――
コツっコツっ……とブランシュが、進んでいく。両手にはすでに銃を握っている。
「ちょ、ちょっと!」
「狭いなら、これでいい」
銃口が、膨らんだドアに向けられる。
ブランシュの声は静かで、迷いがなかった。
「まとまっているうちに入口を潰す」
マリーナは一瞬、目を見開いてそれから、苦笑した。
「……ほんと、容赦ないよね」
「今さらでしょ」
二人は、ドアの前に立つ。
羽音がもう、すぐそこだった。
ブランシュが扉を開けようと、
ドアノブに手をかけた――その瞬間だった。
ボッッ!!
破裂音のような音と共に、
黒い塊が、マリーナの背後に“出現した”。
「ッな――!」
完全な不意打ち。
マリーナは反射的に大鎌を出そうとし、一瞬だけさっきの廊下を思い出す。
――狭い。
舌打ち。
次の瞬間、魔力が収束し、中型の鎌が二本、手の中に現れた。
「これなら……!!」
「マリーナ!」
声をかける暇すらなかった。
黒い塊が獣のように広がり、マリーナを丸ごと“包み込む”。
ブランシュは即座に銃を構え、引き金を引いた。
乾いた銃声が廊下に反響する。
何発も、何発も。
だが――
効いている様子はない。
「マリーナ!中、どうなってる!?」
返事はない。いや、なにかマリーナは叫んでいるが羽音で聞こえない。
代わりに聞こえてきたのは、肉を裂くブチブチという音と。湿った斬撃音。
そして、いくつもの重なった魔獣の悲鳴。ブランシュは歯を噛みしめ、銃口を下げなかった。
しばらくして、斬撃音が止む。悲鳴も、消える。
黒い塊は、何事もなかったかのように形を保ったまま、マンションの外へ飛び、下の階へと、消えていった。
廊下に残されたのは床に倒れた、マリーナの身体。
全身は、鳥に啄まれたような無数の傷。
そして――
顔が、なかった。
「……うっわ。グロ」
ブランシュは淡々と近づく。
「大丈夫?」
「……」
「いつまで狸寝入りしてんだよ魔獣、下に行ったぞ」
数秒後。
むくり、とマリーナが起き上がる。
傷口がゆっくりと蠢き始める。
神経。
筋肉。
眼球。
本来なら“死”に直結するはずの部位が、
順番を違えず正しく、元の形を取り戻していく。
それは奇跡ではない。
クロウリー姉妹に刻まれた、
共通のギフト――「再生」。
致命傷であろうと、欠損であろうと、肉体の損壊である限り、時間を置かず修復される。
ただし――
病や、内側から蝕むものだけは、治らない。
最後に皮膚が張り付き、
マリーナは深く息を吐いた。
「…………はぁーーあ、ちょっと休ませてよ。あれでも、頑張ったんだから」
「なんで魔法で倒さなかった?」
ブランシュが訊く。
「その方が楽でしょ?あんたなら、一撃で済む」
マリーナは少しだけ黙ってから、床に座り込んだ。
「……ここ、マンションでしょ?私、土属性が得意なの。でもコンクリートだと、威力がガタ落ちするの」
続けるマリーナその顔は眉間に皺を寄せ私は今不機嫌です と言っているような表情をしていた。
「それに、開けた場所……理由は分かんないけど……相性、最悪」
ブランシュは、ふう、と息を吐く。
「今回の討伐……あんた、不向きだね」
「言わないで」
マリーナの眉間にさらに皺がよる。
ブランシュは、柵の向こうを見下ろす。
さっき、黒い塊が消えていった先。
「……逃がしたわけじゃない」
低く、呟く。
「次は、こっちから行く」
廊下の奥で、再び――
微かな羽音が、重なり始めていた。
下の階へ向かうため、二人はエレベーターに乗り込んだ。
古い箱は軋む音を立てゆっくりと扉を閉じる。
「で」
ブランシュが操作盤に指を伸ばし、下の階のボタンを押しながら言った。
「敵の正体は、なんだったの?」
「……10cmくらいの小鳥の群れ」
マリーナは壁にもたれ、淡々と答える。
「小鳥ぃ?魔獣にしては、小さすぎない?」
「小夜姉が言ってたでしょ」
マリーナは少し考えるように視線を上げる。
「魔獣には地域差が出る。日本は、家も通路も狭い。だから、こういう“サイズ”に最適化されたのかも」
「……合理的すぎない?」
「魔獣だよ?」
軽く肩をすくめる。ブランシュは一瞬だけ黙り込んだ。
あの猛攻の中で、マリーナはきちんと敵を見ていた。
数。
大きさ。
動き。
自分の身体が食い千切られている最中に、だ。
――感心と同時に、
言いようのない寒気が背中を走る。
ついさっきまで、あれは“肉塊”だった。
顔もなく、声もなく、ただ床に転がっていた。
いくら再生のギフトがあるとはいえ、痛みも、恐怖も、ないはずがない。
それなのにマリーナは、魔獣に攻撃されても、一度たりとも“痛そうな顔”をしたことがない。
鈍いのか。慣れているのか。
それとも――。
ゴウン……ゴウン……
エレベーターが、低い唸り声を上げて下降していく。
数字が、一つずつ減っていく。
密閉された箱の中で、さっきよりも空気が重くなった気がした。
チン、と乾いた音がしてエレベーターが止まった。
扉が開く。下の階の廊下は、ひとつ上よりも暗かった。
蛍光灯は煌々と点いている。まだこの階には人間が住んでいるようだ。
「……いるね」
マリーナが、小さく言う。
鼻に魔力を集中させ、ゆっくりと息を吸う。
空気の奥にさっきよりも濃い“獣”の気配。
羽。
血。
湿った埃。
「数は?」
ブランシュが低く尋ねる。
「……分からない。多すぎる」
マリーナは首を横に振った。
「一体じゃない。群れが部屋ごと詰まってる感じ」
二人は視線を交わし足音を殺して廊下を進む。
途中ドアが半開きの部屋があった。
その一室の前でマリーナがぴたりと足を止めた。
「ここ」
中を覗くも誰もいない。もぬけの殻。生活の痕跡だけが残っている。どうやら敵はこの部屋にいるようだ。
ドアの隙間から微かな羽音が重なって聞こえる。
……ザザザザ。
呼吸のような不快な音。
「ここが「巣」だよね?」
ブランシュが銃を構えながら言う。
「ふつーに開けちゃうよ?」
「多分、開けた瞬間に来るよ。さっきの階より密度が高い」
「え、じゃあどうすんの?」
ブランシュがドアノブに手をかけたまま困惑した表情をする。敵はすぐそこなのに扉を開ければ総攻撃の餌食。それは嫌だった。
マリーナはふむ、と顎を手に乗せながら
「私は、近接向きじゃないからブランシュが行った方がいい この距離だと銃は有効でしょ?」
一瞬の沈黙。
「あんた開けるなって言ったじゃん」
「言ったけど開けないと狩りができない。」
ブランシュはドアを見つめ小さく舌打ちした。
「……じゃあこうしよう」
銃口を下げ短く指示を出す。
「私が囮になる。開けて引きつける」
「ブランシュ」
「その隙にあんたは数を減らす、いくら魔法の威力が落ちてても塊を削るぐらいならできるでしょ」
マリーナは少しだけ目を細めた。
「……怪我するよ」
「する前提でしょ。んでそのままマンションの外にでてあんたの魔法 最大威力で潰せば はい、おしまい。」
ブランシュは軽く笑う。
マリーナは何も言わなかった。
ただ小さく頷いた。
「……1分。それ以上は、マンション内での戦闘は無理」
「十分」
ブランシュはドアノブに手をかける。
羽音が一斉に高くなった。
「行くよ」
二人の呼吸が、揃う。
――次の瞬間。
――ガチャ。
ドアが、思ったよりも簡単に開いた。
「……?」
ブランシュは一瞬、眉をひそめる。羽音がない。あの黒い塊もいない。
あれほど重なっていたはずの音が、
この部屋からはほとんど感じられなかった。
「……いない?」
マリーナが小さく呟く。
二人は慎重に部屋の中へ足を踏み入れる。
室内はごく普通の一人暮らし用の間取りだった。
散らかったテーブル。
飲みかけのペットボトル。
脱ぎ捨てられた靴下。
生活の途中で時間だけが止まったような空間。
「……住民は?」
ブランシュが低く言う。
その瞬間。
「ここ」
マリーナの声が聞こえたと同時に白い何かがブランシュに向かって投げられた。
思ったよりも重く、内側で何かがかたりと動いた。
「おっと! って、これ!」
「ナイスキャッチ~」
ブランシュが思わず受け止めてしまったものは人間の頭蓋骨だった。
綺麗な白骨化だったら良かったのに受け止めた頭蓋骨には所々皮膚や筋肉が付いており、まだらに髪の毛が残っていた。
「うぇ~ なんてものなげんだよー」
「ここにあったから。」
その声が、あまりに平坦だったのでブランシュは一瞬返事を忘れた。
マリーナの視線の先。指の先。
リビングの中央。
床に、“それ”があった。
骨。
正確には骨だけになった人間の残骸。
衣服は、まだ形を保っているが中身だけが、綺麗に無くなっていた。
啄まれた跡。
無数の小さな欠損。
「……全部食べられてる。」
マリーナは興味無さそうに言う。
「肉も、内臓も骨だけ残して」
ブランシュは周囲をゆっくり見回した。
壁。
天井。
カーテンレール。
……どこにも、巣はない。
「……なるほどね」
銃を下ろし小さく息を吐く。
「ここは“巣”じゃない」
「うん」
マリーナが頷く。
「一時的に、食事しただけ休憩所。餌場。」
「長居はしない」
ブランシュは天井を見上げた。微かに羽が擦れる音がする。
上か。
下か。
それとも――壁の向こうか。
「マンション全体が、巣」
その言葉が二人の間に落ちた。
「……気持ち悪」
ブランシュが呟く。
「どの部屋も どの階も安全じゃないってことか」
「そういうこと」
「小夜の報告書での6階はたまたまそこに魔獣が集中していたから、ってことかな?」
「そうだろうね」
マリーナは静かに言った。
「多分、ヤツらはここに定着してる。餌が尽きるまで」
ブランシュは、ゆっくりと頭蓋骨を足元におろし銃を構え直す。
「じゃあさ」
少しだけ声の調子が変わる。
「一室ずつ潰すとかそういう甘い話じゃないね」
「……うん」
マリーナも魔力を巡らせる。
「“掃除”しないとこの建物ごと」
その瞬間。
――ザザザザザ。
今度は天井裏だけじゃない。
壁の中。
換気口。
非常階段の向こう。
マンション全体から羽音が重なり始めた。
「……気づかれた」
ブランシュが、笑った。
「やっと本番か。」
マリーナは小さく息を吸う。
「どちらにせよ下手すると逃げ道塞がれる」
「なら」
ブランシュは扉の方へ一歩踏み出す。
「先に、数を減らそっか」
「あと、ここの管理人にも話聞かないと。」
ーーーザザザザザっ
壁の中を這い回る音が絶えず聴こえる。どうやら魔獣の方は警戒態勢を取っているようだ。
「まずはこの部屋のヤツら倒さないとダメそうだね」
「任せて」
魔力が展開され大鎌が出現する。その柄でトン、と床を叩いた。
「は?この狭い部屋でその大鎌振り回すの?」
「降らない。召喚する。」
銃を音の方向に向け続けるブランシュに呑気に答えるマリーナ。
足元には魔法陣が展開されている。空気が、沈む。
「ここは部屋の中。閉鎖空間なら私のステージ。」
マリーナは再び魔法陣の上で床を叩く。
グルルルっ……
ガルルっ……
部屋の角。部屋の隅、影の溜まる場所から四足の“それ”が這い出てくる。
やせ細り
背中から緑や青の棘が突き出し
脚が逆向きに曲がっている異形の生き物が次々と現れる。
「な、なにあれ……」
「召喚獣。通称「猟犬」」
「ちょっと待って、パパの部屋入ったの?」
「んや。パパが貸してくれた。」
短く言い切る。多分嘘だ。勝手にパパの書斎を漁ったんだろう。
マリーナは「こんなもんか」とリビングを見渡す。リビングにはざっと6~7体はいるだろうか
「ここにいる「魔獣」を狩れ。それが今日の食事だ。」
【ウァッ ウォン グォウ】
マリーナの命令が下った瞬間鳴き声を発した次の瞬間。猟犬たちは一斉に散った。
排水口 、壁の中、天井の上に消えていった。
ーーー瞬間
ギャーーー!! ギーーーー!!!
魔獣だ。魔獣の悲鳴が聴こえる。
猟犬は楽しく「食事」をしているようだ。
「便利すぎるね猟犬。毎回出してよ」
「今回がイレギュラー 毎回は無理。召喚する場所が決まってる」
銃を光の粒子にして消す。
「数分くらいかな?」
マリーナの「数分」というのは見込み違いでもっと短い時間でこの部屋の魔獣は片付いた。数十秒も経たず、悲鳴は途切れた。
「数分って言ったよね」
「体感」
マリーナは淡々と手を上げる。
「消えろ」
魔法陣が再展開され、食事を終えた猟犬たちは、音もなく消えた。
「んじゃ 魔獣の「核」を叩きますか」
「「管理人」に話を聞こう」
ブランシュは伸びをし、マリーナは大きな欠伸をひとつ。
すっかり伽藍堂になった部屋を後にした。
廊下は静かだった。
さっきまで壁の中を這い回っていた気配が、嘘みたいに消えている。
「……静かすぎない?」
「うん。たぶん、待ってる」
「何が」
「“呼ばれてる”感じがする」
意味が分からず、ブランシュは肩をすくめた。
エレベーターの前。
「管理人室」と書かれたプレートの前で二人は止まる。
ノックをする前に、
――内側から、扉が開いた。
「……ああ」
現れたのは、白髪の老人だった。背は低く、痩せている。管理人服は古いが、清潔ではある。年齢は六十代後半か、七十代。
「お嬢さん方……学生さんかな?このマンションに、何か御用で?」
声は穏やかで、よく通る。ブランシュは一瞬、マリーナを見る。
マリーナは――
何も言わない。ただ、老人の足元を見ていた。
「少し、お話を」
ブランシュが答える。
「最近、この建物で失踪者が出てる。ご存じで?」
老人は、困ったように眉を下げた。
「……ええ。ですが、都会ではよくあることです」
「よく、ある?」
「ええ。人は……減るものですから」
言葉の選び方なのだろうか 妙な違和感を感じる。
「管理人さん」
マリーナが口を開く。
「このマンション、何年ここに?」
「長いですよ」
即答。
「ここは、居心地がいい」
そう言って、老人は笑った。その瞬間。
ブランシュは、違和感に気づく。
――瞬きが、ない。老人は会話の間、一度も瞬きをしていなかった。
「……管理人さん」
ブランシュが銃に手をかける。
「この建物、何を“飼って”ます?」
老人の笑顔が、僅かに歪んだ。
「……飼っている?」
首を傾げる。その動きが一拍、遅れた。
「違いますよ」
そう言いながら、老人の胸元が、微かにざわめいた。
服の内側で、何かが動く。
「彼らは――住んでいるだけです」
ざわ。ざざざ。
音が、体の中からする。
マリーナは、はっきりと息を吐いた。
「……やっぱりね」
老人の影が、床に落ちる。その影は、一人分ではなかった。無数の、小さな影が重なっている。
「管理人さん」
マリーナは、冷静に言った。
「あなた、もう“人間”じゃない」
老人は、少しだけ悲しそうに笑った。
「……なぜでしょうね」
その口が、ゆっくり開く。
歯の奥。
喉の奥。
黒い羽が、覗いた。
「私は、ただ――」
次の瞬間。
老人の体が、内側から膨らんだ。
老人だった“それ”の身体が、裂ける。
皮膚が破れ、骨格が歪み、
中から現れたのは――
巨大な影。
人の胴体ほどの大きさ。
羽根は黒く煤け、粉を落とす。
胸部には不自然な膨らみ――
脈打つ核が、はっきりと透けて見える。
「既視感あるやつ!!」
ブランシュが、思わず叫んだ。
それはどこかで見たことのある姿だった。
「アメリカ ウェストバージニア州で目撃されたUMA。巨大な蛾のような姿で赤い目が特徴。腕はなく羽根が生えており自動車よりも早く飛ぶ。通称 モスマン」
「流暢な解説ありがとうマリーナでも今じゃない!!」
「管理人です」
それは、まだ人の声で言った。
「ここは、私の巣だ」
次の瞬間。
――ドンッ!!
羽ばたきく老人否 モスマンは管理人室の壁が内側から吹き飛び二人は廊下へ弾き出される。
「退くよ!」
ブランシュが叫ぶ。廊下に出た瞬間、
天井、壁、非常階段――
あらゆる隙間から小鳥型魔獣が溢れ出した。
ザザザザザザ。
「……っ、集まってきた!」
「まずは削る!」
ブランシュは即座に魔法陣を展開。
銃が、形を変え火炎放射器になる。引き金を躊躇いなく引く
――ゴォォォォッ!!
炎が、廊下を焼き払う。モスマンの身体の半分が焼失する。羽が燃え、肉が炭化し、核が露出する。
「よし――」
だが。
――ザワッ。
焼け落ちた部分に小鳥型魔獣が群がった。
肉の代わりに、羽。
骨の代わりに、魔獣。
数秒もしないうちに、モスマンの身体は元に戻る。
「……は?」
ブランシュが顔を引き攣らせる。
「マンション内だと、無限再生だね。あれはモスマンじゃないね。」
マリーナが冷静に言う。
「建物そのものが、栄養源。」
再び、炎。再び、再生。三度目で、ブランシュは舌打ちした。
「キリない!」
「うん。だから――」
マリーナが、廊下の向こうを見る。
「外に出る」
二人は同時に走ったエントランスを抜け割れたガラスを飛び越え外へ。
モスマンが、追ってくる。
今度は、マリーナが大鎌を振る。
――ズン。
一閃。
モスマンは、縦に真っ二つになるが地面に落ちた断面から小鳥型魔獣が這い出し、再び繋がる。
「……外でもダメ?」
「まだ近すぎる」
マリーナは、即座に判断した。足元に魔法陣。地面が隆起する。
ゴゴゴゴ――。
二つの巨大な土壁。内側には、無数の棘。
それはまるで中世ヨーロッパで開発された拷問器具アイアンメイデン。
「挟む」
モスマンが、気づいた時には遅かった。
――ドンッ!!
左右から土壁が閉じモスマンを完全に拘束。羽が裂け、核がむき出しになる。
「今!」
ブランシュが、火炎放射器を構える。
――ゴォォォォォッ!!!
炎が核を直撃する。マンションからは完全に離れた場所。小鳥型魔獣はもう集まれない。集まれない。核がひび割れる。
「……あ」
最後に、かすれた人の声。
「……管理……」
――パキン。
核が、地面に落ちる。
次の瞬間モスマンは灰のように崩れ、
風に散った。完全な消滅。静寂。何かがが焦げた匂いだけが残る。
「……終わった?」
ブランシュが、息を吐く。マリーナは、核の残骸を確認し――
「うん。完全討伐。ってか私ごと燃やそうとしなかった?髪焦げたんだけど」
「しょうがないじゃん、火炎放射器は範囲広いの」
二人は、同時に空を見上げた。
夜。
団地の影。
半壊した建物。
「……これ、どう言い訳する?正直に言う?」
マリーナは欠伸をした。
「“巣ごと化け物でした”って」
その頃。遠く離れた新居で、ヴィクターが眉間を押さえていた。
「……嫌な予感がする」
その日の夜テレビの画面に、半壊した
マンションの映像が映し出されていた。
『――本日未明、市内の集合住宅でガス爆発とみられる事故が発生しました』
ヘリの空撮。割れた外壁。焼け焦げたエントランス。
『幸い、死者は確認されていませんが――』
音声は淡々としている。小夜は、そのニュースをぼんやりと見つめながら、
手元の端末で報告書をまとめていた。
【案件番号:K-217】
【発生地点:集合住宅(団地型)】
【対象:小鳥型魔獣群/中枢核:管理人】
【結果:完全討伐】
【付随被害:建物半壊】
キーボードを叩く指が、少しだけ止まる。
「(……半壊、で済むかしら)」
画面に映る惨状を見て、小夜は一瞬だけ苦笑した。
「……“ガス爆発”ね」
誰に聞かせるでもなく、小さく呟く。
画面を切り替え、次は始末書フォーマットを開いた。
同時刻。
クロウリー家のリビング。テーブルの上には、紙袋、箱、カップ、包み紙。
ハンバーガー。
フライドポテト。
炭酸飲料。
ジャンクフードの匂いが充満していた。
「……生き返る~」
ブランシュがソファにだらけたまま、
紙袋からポテトを摘まむ。
「これが今日のMVPだね」
「同意」
マリーナはストローを咥え、ぼんやりとテレビを眺めている。
ニュースでは、まだ“ガス爆発”が続いていた。
「ねぇ、あれさ」
「うん」
「絶対ガスじゃないよね」
「うん」
二人は顔を見合わせ、特に深刻そうでもなくポテトを食べ続けた。
「セラフィナに怒られるかな」
「怒られない可能性、ゼロ」
「だよね」
同時刻。
別室。
ヴィクターは、深くソファに腰を下ろしていた。
ジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩め、こめかみを押さえる。
「……間に合った……」
通信端末の画面には、各方面への根回し完了のログ。
警察。
消防。
報道。
自治体。
すべて、“ガス爆発”で統一。
魔獣の痕跡は、異常なものは、すべて回収・削除・改変済み。
「……本当に、ギリギリだ」
息を吐いた、そのタイミングで――廊下から、ブランシュの声。
「ねー、パパ〜」
「……なんだ」
「これ経費で落ちる?」
ヴィクターは、天井を仰いだ。数秒、沈黙。
「……レシートは?」
「あるよー」
「……限度額内なら、通す」
「やった!」
歓声と、紙袋の音。ヴィクターは、もう一度深く息を吐いた。
「(報告書は、小夜がやってくれている。隠蔽は、間に合った。……建物は、まあ…… )」
「……次からは、もう少し加減を覚えてほしい」
そう呟いた声は、誰にも届かなかった。
テレビの向こうでは、
キャスターが締めの言葉を口にする。
『――原因については、現在も調査中です』
画面が切り替わる。その裏で、今夜もまたひとつ、“なかったこと”が積み上がった。
その次の日
「――だから!被害が大きすぎる!!」
セラフィナの怒声が廊下に響いた。
リビングのソファの上。マリーナは、お気に入りのブランケットに身を包みクッションを抱いて完全に横になっている。
半目。というか、ほぼ寝ている。
「……んー……聞いてる……」
聞いていない声。その隣。
ブランシュは風呂に入ったばかりなのだろうバスローブ姿。顔にはしっかりと保湿パック。スキンケアは欠かせない。
「んー……でもさぁ」
パック越しのやけにくぐもった声。
「ちゃんと討伐はしたし……」
「そこじゃない!」
セラフィナが机を叩く。
「建物!周囲!インフラ!“ガス爆発”で済ませるには限度があるだろう!」
「でも実際、燃えたし」
「燃やしたのはお前らだろうが!!」
マリーナが、もぞもぞと寝返りを打つ。
「……あのね……」
眠そうな声。
「ちゃんと核も壊したし……」
「被害報告書を読んでから言え!!」
ブランシュはパックをずらし、片目だけ出す。
「あとで読む~」
「今読め!!」
セラフィナの怒りが頂点に達する中、マリーナはついに、完全に目を閉じた。
「……すぅ……」
「……」
セラフィナは、言葉を失った。数秒後。
「……もういい」
深く、深く息を吸う。
「この件は、後日改めて処分を考える」
「えー」
「異議なし~……」
だらけ切った返事。セラフィナは、額を押さえながらその場を去った。
――同時刻。
別室。小夜の部屋は、静かだった。
デスクライトだけが灯り、
小夜は端末の画面を見つめている。
報告書。
ログ。
削除済みデータ。
……その中に、
ひとつ、消しきれていないものがあった。
匿名掲示板のスレッド。
【行方不明者続出の怪マンション】
「事故物件芸人も3日持たずに引っ越した」
「夜中、壁の中で羽音がする」
「凸した人、戻ってこない」
小夜は、スクロールする。
隠蔽は、完璧なはずだった。
だが――
その中に、ひとつ。昨日付けの書き込み。
「昨日のガス事故で管理人がインタビュー受けてたぞ」
小夜の指が止まる。続く文。
「怪奇現象のことは何も言ってなかった」
小夜は、ゆっくりと画面を見つめた。
「 (……管理人は、討伐された。核も、確認済み。完全消滅)」
――なのに。
「(テレビに映っていた“管理人”?)」
小夜は、静かに端末を閉じた。
胸の奥に、小さく、しかし確かな違和感が残る。
「……これは……」
こうして。マンションに巣食っていた魔獣は討伐された。
核は砕け、灰となり、確かに消滅した。
公式記録上、あの事件は――
**「老朽化した集合住宅で発生したガス爆発事故」**
として処理された。行方不明者の件も、怪奇現象の噂も、すべては「風評」として片付けられた。
ブランシュとマリーナは、いつも通りの顔でジャンクフードを食べ、いつも通りにだらけて眠った。
セラフィナは頭を抱え、ヴィクターは胸をなで下ろし、小夜だけが、ひとつの違和感を抱えたまま、
何も言わずにその夜を終えた。
――管理人は、確かに討伐された。
では、テレビに映っていた“管理人”は、誰だったのか。
ブランシュたちが倒した存在が本物だったのか。
それとも、インタビューを受けていた人物こそが本物だったのか。
あるいは――
そのどちらでもなかったのか。
答えは、どこにも残っていない。
モスマンのくだりは最初はスレンダーマンだった。
でも鳥型と関連しないと思ってモスマンに変えた。
マリーナが流暢に解説するのは彼女がオカルト好きという裏設定です。




