10/12
暗礁に
じいさんが振った網には水色の羽根。
美しいりんぷん。
またあるときは、
湖畔をめぐるエメラルドの瞳。
フィルムケースにはセミの抜け殻。
いつしか、
振った網のなかで羽ばたく蝶が。
見えているこちらから。
じいさんには見えなくなった。
わたしはおそれた。
じわりじわりと凍った水たまりの表面に触れたときに、
体温が少しずつ、そして確実に奪われていくことを。
いなごに突き刺した針で手を、
痛めることがないようにそうっと放る。
細い糸が放物線を描く。
腹を上向きにしたくるった魚が、
近くにいるのに遠いところにいるなかまに。
エサを横取りされるようにして。
いちどつつかれる。
唇でそっと。
そして喰らいつく、牙でかぶっと。
粘液でよごれたてのひらを、
砂でこすりつけるとよいと、
あのときじいさんは教えてくれた。
それでもくさかった。
皮膚のしわのひとつひとつに、
においの分子がこびりついて離れない。
補虫網をたずさえるじいさんの背中も明日わたしの頭から離れない。
じいさんのにおいよどうして、離れていくのどうして。
(了)
いつか来る




