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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

作者: 湘南乃炎

一分で読めるものです。気軽にどうぞ

俺は胸の高鳴りを感じながら、徒歩で坂を上る。

たどり着いた先は、湘南平。

燃え盛るように照らす夕日の中を、烏が鳴く。


展望台へ登ると、友や恋人、家族と訪れる人々がいた。

その姿がやけに眩しく、遠い世界のように思えた。

あえて目を逸らし、広がる光景を眺める。

山に掛かる夕日に、見下ろす街並。

写真を撮ろうとしたが、あるのは一本だけ入ったマッチ箱と煙草のみ。

仕方なくこの目に光景を焼き付ける。


自由だ――。


空を駆ける烏を見る。

群れを成し、夕日に照らされる黒い翼が赤く染まる。

自由に駆け回り、鳴く姿は鮮烈で、なぜか胸の奥をかき乱した。


俺は母の介護に明け暮れていた日々。烏の姿は羨ましかった。

最初は、烏の鳴かぬ日があれどと思っていた。

だが、既に支離滅裂に暴れまわる母に疲れ果てていた。

精神は擦り減らされ、自らの道を歩むことさえできない。

友に遊びに誘われても、断るしかなかった。

母につけられた腕の傷が、夕日に沁みて痛む。


『また一緒に』


その言葉を聞く日には必ず雨が降った。

日々を楽しむ友に嫉妬して、焦って必死に強がった。

親戚も自らを守るだけで、助けてなどくれなかった。

人にも自分にも期待しない日々は、あの濡羽色ほど綺麗なものではなかった。


やおら取り出した煙草に火を付ける。

視界は灰色に滲んでいく。

烏が鳴きながら夕日に向かって飛んでいく様子を、灰を落としながら眺めていた。


夕日は沈み、辺りは暗くなり月の姿が明瞭になっていく。

人々の声は夜風に溶け、俺だけが取り残された。

しかし未だに赤く燃える街の一角を見つめ、口元が歪む。

煙草を吸い終え、足裏で踏み潰す。

小さな赤が消えると同時に、俺の中でも何かが途絶えた。


グガアアァァ


異様な烏の鳴き声が空へ響く。見上げた先には、黒い影が夕闇を切り裂く。

再び待ち受ける現実に、頬を濡らした。


「もう...いいのか」


母の姿も、俺の涙も、火に呑まれ消えていった。

燃えた家を思い出しながら、マッチ箱を振る。

中身はなく、音はもうしない。最後の一本を使い果たした。


「俺は....自由だ」


俺は自らの道に進む。

未だに飛んでいる烏を追って、俺は欄干を越えた。

淀んだ日々に悔いはなく、迷いもなかった。

繋がれた鎖を断ち切るように、足元が宙を離れる。


次こそはと――。


烏のように、俺は空へ旅立った。



前に訪れた湘南平。

その夕日と烏がやけに美しく見えたので、こういったものを考えてみました。


いかがでしたでしょうか?

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