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9.王子様一行が訪ねて来た

(Side:清浄院琴子)



 ファイターのスキル、力を遠くまで飛ばせる〝シャーヴ〟の目覚ましい有用性について、

 私は今見て感じたこと、思ったことも含めて、

 セネットさんたちへより詳細にお伝えしました。


 すると皆さんは大層喜んでくれて――それこそ少し離れて見聞きしていた、大勢の一般軍人さん達? まで――、

 私たち12名は陽気に上がったムードで、より活発な議論を交わすことができました。


 私が少し懸念していた、〝シャーヴ〟の標準的な威力――手本を見せてくれたウォールさんは魔王国ファイター序列2位という、実力の突出した達人さんですから――についても、

 軽い打ち込み、地球で言うジャブなら先のウォールさんに比して射程7割、速度5割、威力4割ほどを発揮でき、

 ストレートパンチや正拳突き、前蹴りやミドルキックなどの強い打ち込みであればさっきのとほぼ同程度の効果となるとのことで、

 話を聞いていく内に改めてスキルの凄さを実感することができました。


 なお、ウォールさんの全力はもっとお強いとのことで、そのことにもワクワクしつつ納得できました。

 彼が実演したのもすぐ打って当てること重視のジャブでしたものね、

 仮に重いストレートやアッパー、構えを変えての蹴り各種、あるいは頭や肩からの全身ぶちかましなんかだと、

 もっともっと威力も速度も、届く距離もパワーアップするのでしょう、素敵ですね。


 私も是非使ってみたくありますが、それは一晩寝て〝レネアシャでの追加成長〟を得たあとになるでしょう、

 やれる時がとっても楽しみです♪ 人生経験にはかなり自信がありますから、きっとファイターのスキルも出来るようになるはずです。


 シャーヴにしても、もう片方のアセイルにしても、ファイターみんながまず絶対使える基本的なスキルとのことですし、

 でもだからこそとことん(きわ)めてみたくもありますね。目標はいま断トツなセネットさんみたいに、です!♪


 ――内心で楽しさ、期待を巡らしながらも、私とセネットさんたちは話し合いを続けて、

 幸いにして私の予想した通り、余程強大なモンスターやその他敵対者以外には、

 ファイター皆のスキルが十分効果を示してくれる、との結論に至りました。


 モンスターの例で具体的に言えば、表面が金属の獅子や虎くらいまでならば、

 平均的な魔王国ファイターさんが扱う、軽い打ち込みのシャーヴでも怯ませたり足を止めさせたりといった牽制の効果を得られるらしく、

 さらに眼球、鼻先、喉元などの各急所に当てられれば少なくない手傷を負わせることも可能とのことです。

 勿論、複数人で取り掛かたり罠に掛けるなどして、タイミング次第で強い一撃も打てるようになればより有利になりますから、

 これらの結論によってセネットさん含めた皆さんは見違えるほど溌剌としたやる気に元気を見せてくれました。


 それでいて皆さんともピリリと気を張ってらして油断は一切感じませんでしたから、

 ほんとに心身秀でた素敵な方々です。


 ……セネットさんもご自身と部下の方々とを比べていちいち落ち込んだりしてないで、

 もっと早く部隊の長所に美点を見つけてあげられたら良かったのですけど……でもまあ、今はもう大丈夫ですものね!♪


 私がアドバイスして好展開を迎えられましたし、ここに来た意味も上々にありました。



 そんなこんなで部隊のムードがすっかり明るくなってからは、

 私は今使いたい、もう持ってるスキルの〝取り寄せスペース〟について、

 どう扱うのかの方法をセネットさんに教えてもらったり――単に『取り寄せスペースを使いたい』、と思うだけで大丈夫らしく、私もすぐ思ってスキルを発動成功、無事ミニバッグを別空間へと仕舞うことができました――、

 私の名前がどんな字なのかをセネットさんのマフレ(携帯端末)から、

 アーガイルさんやウォールさんを始めとした大隊長の方々に共有してもらったりと、

 愉快でワイワイとした実りある時間を過ごして行けました。


 ちなみにスキルの発動方法は他についてもほぼ同様に〝思って即発動〟らしく、

 セネットさんからそのことが聞けたのも非常にありがたかったです、

 お陰で戦闘用スキルの練習を明日朝からすぐやれそうですからね。



 私とセネットさんたちで色々わちゃわちゃ、フリータイムなお話が終わるとまた訓練再開とのことで、

 セネットさんは客室に案内してくれる旨を伝えてくれましたが、

 でもせっかくですし……皆さん良い人達でしたし、私もちょっとだけ訓練に参加させてもらうことにしました。


 セネットさんは少しだけ驚かれたものの、でも淡い笑みで声も顔色もあたたかに了承してくださって、

 そうしていま私は自立式のサンドバッグを一つお借りして、

 グラウンドの端っこ近く、かつセネットさんの十数メートル後ろのとこで、

 ノースリーブジャンプスーツの黒を着たまま打ち込み練習を行っています。


 私がいつも通りに打ち込むと中身が壊れちゃうかもですが、

 先にそれを伝えてもセネットさんは「さしずめ消耗品だし、全く気にしなくて構わない」とより軽やかに笑ってくれました。


 とっても心が上がって嬉しかったですし、

 私はフワッと熱いテンションで「ありがとうございます、では遠慮なしにやりますね!」って、

 ちょっと大きなお返事になっちゃいました、胸もほっぺたも体もほかほかしますね、今でもジャブにストレートに踏み込みステップ、連続フックにショートアッパー、ふるり微揺れのサンドバッグを抱えて膝蹴りたくさんっ、音も衝撃も綺麗に通して・すとととワゥムふぅスぱァぱちぃしゅとわしゅと、私自身が高まり続けてます♪


 ……サンドバッグはもう内側粉々ですが、それはまあいつものことですね、きっと仕方のない、ことですっ♪



 さらにトレーニングを調子良く、

 すっかり革越しの感触しゃりしゃりなサンドバッグをすぱしゅ・すぱしゅと叩いて蹴ってしていた今、

 時間的にはたぶん正午近い、11時30分~40分くらいにセネットさんの少し前が突然ぴかーっと広く真っ白に光って、

 彼が部隊の様子を見てくれていた場所から2メートルほど前方ですね、

 2秒弱で白の光が収まると、瞬間的に人の姿が三名、パチッと現れました。


 私は打ち込む手と足を止め、ゆったり起立して三名の方々を見ます、

 顔ぶれとしてはまず中央に、柔和イケメンプラチナブロンドのお若い男性――プラチナブロンドは若干黄色み強め、顔立ちやお肌が甘く薄い白人系のかた――、

 男性の右手側には第1訓練場に居たはずの遥さん――表情がしょんぼり暗めなのが気になります、何かあったのか心配です――、

 左手側にはマロンブラウンヘアを重めロングボブに伸ばした白人系女性――お歳頃はちょうど20くらい、大きめツリ目の結構な美人さんです――、

 という女男女、となっています。


 セネットさんは僅かに眉を上げて驚いていましたが、でも即座に表情をきちりっと引き締め、

 中央の美形男性へとハキハキ問いかけてくれました。


「これはマシュー殿下、本日はいかがなされましたか。

 勇者たる葵さんもご一緒のようですが、同輩の清浄院さんにご用でしょうか?」


 美形男性は穏やかな真顔にしとやかなお声で、すぐに返事をしてくれます……が、紡ぐ音色は優しいながら、

 微かに悲しそう、申し訳なさそうな小雨降(こさめふ)りの気配が聞こえます、

 言葉自体もそんな感じです。


「うん、端的に言えばその通りだよ。

 葵さんが訓練のさなかに、清浄院さんの素晴らしい実力をこまやかに説明してくれてね。


 その過程で清浄院さんへ興味を抱いた左の彼女、

 こちらの第6大隊長ゾーイ・ステリーの要望もあって、

 急なことで申し訳なくもあるけど、セネットのもとを訪ねさせてもらったんだ。


 ああ、先に勇者の方々へ興味を持ったのはステリー始め、僕たち第1師団の方からだから、

 葵さんはあくまで親切な気遣いで応じてくれたということだよ。

 なのでこれからのことに、葵さんの非は無いと考えてくれ」



 ……雰囲気は継続して温厚なのに、

 なんだか微妙に不穏っぽいことを仰る〝マシュー殿下〟はでもやっぱり凄まじいイケメンさんです。


 目鼻の彫りはぱちっとはっきり分かるのにどこまでも甘やか、さっぱりまろやかで、

 細い平行眉にまぶたも並行二重、目元ホワッと丸みに優しい大きさ、

 瞳も大きめ透明きらきら、緑寄りなマリンブルーがお綺麗です。


 鼻は高くてやや細め、お口はすぃっと丁度よい広さ、唇もあっさり薄いのにぷにっと健康そう。


 身長は181センチに体重は細めで筋肉ありな75キロ、

 そんな均整取れたボディへ纏う服装はフォーマルなホワイトジャケットとホワイトスラックス、

 ファッションの差し色にグリーンベージュとダークブラウンを入れていて、

 彼の白みなお肌にも、黄色み残したプラチナブロンド、襟足長めな上品マッシュウルフにも合ってます。



 一方、遥さんは水色ワンピースのままで、燦々とした五月晴れの下に居たからか少々汗をかいてしまってます、

 ここはちょっとマシュー殿下にマイナス点ですね。



 また、ゾーイ・ステリーと呼ばれたマロンブラウンヘアの女性――かなーりスリムな身長162センチに体重49キロ筋肉うっすら、服装は上下白の薄手トレーニングウェアにレースアップの白革靴です、マシュー殿下にも言えることですけど白ファッションってそも、訓練にあまり向いてないと思うのですが、魔法やスキルで汚れなかったりするのでしょうか?――はどうしたことか、

 虹彩イエローのツリ目をさらに斜め上へと、きぃぃっ!て持ち上げて私の方をジッと見てます、

 というかたぶん睨んできてます。


 ……どうも盛大に嫌われてるようですし予感した不穏は当たってそうです、

 マシュー殿下にはさらにマイナス点ですね。


 一体全体どうしたものか、これから起きるのがいかなることやら、外部の勇者ながら少し心配です。


 せめてセネットさんや、部下の皆さんにご迷惑が掛からないと良いのですけども、

 場の責任者たるセネットさんは立場上どうしても、どうしようもなさそうです。

 かなりお可哀想ですし、結構悲しいです、ちょっと……。


 当のセネットさんは落ち着き崩さず、ただ少しだけ雰囲気をピリとこわばらせました。


「承知いたしました、もうご予定は決まっておられるのですね。

 ではひとまず、私側にもその内容を共有していただけるでしょうか?」


 対するマシュー殿下は優しさをしっとり薄く濡らした声のまま、


「分かった。セネットたちには、苦労を掛けてしまうのだけど……」


 言って1秒くらいの沈黙を挟むと、顔と声の色を毅然と張り直しながら、

 彼のムードには到底似合わない争い事を命じてきました。


「地球に置ける最高峰の武術家である、清浄院さんの実力を拝見したい。

 よって、清浄院さんとステリー大隊長との試合を行うことを所望する。

 また、試合は当然非殺傷形式のものだが、双方ともに全力を出すことが義務となる。

 第1師団の決議と、魔王子マシュー・クレイグの名において、

 リオ・セネット師団長にはこれらの実行に向け、しかと協力していただきたい」


「――お待ちを、清浄院さんの演習は既にこちらで済ませています」


 セネットさんは緊迫した早口で反駁し、なおも言葉を連ねます。


「演習内容は武装解除、演習相手は魔王国ファイター序列2位、サミュエル・アーガイル大隊長でした。

 負傷を極力避ける約束とは言え、れっきとした試合形式の当演習において、

 清浄院さんは見事な徒手格闘技術でサミュエル大隊長の制圧と、

 それに伴う武装解除を成し遂げています。


 また当演習においては、

 少なくともサミュエル大隊長側は自身の全力を発揮しておりました。

 その上で清浄院さんは勝利という成果を収めたのですから、

 実力の証明はもはや十分だと言えましょう。


 お互いの再確認となりますが、単に非殺傷形式と言えば、

 けして相手に当てない、負傷させないという規則ではなく、

 木製武器や徒手空拳を加減抜きで体に命中させるという行いも許されてしまいます。


 仮にこの形式による試合を遂行して、

 予測される不幸が現実のものとなってしまえば、

 魔王国と勇者たちとの関係が危うくなるような最悪の事態さえもありえるのです。


 僭越ながらマシュー殿下、どうかお考え直しを。

 友好と相互利益の道は、最大限慎重に探っていくべきであると思慮します」



「アーガイル大隊長を制圧だって? それは……凄いな」


 マシュー殿下はいとも純真な驚きを甘やかなお顔に浮かべましたが、

 程なく王子様らしい凛々しさを取り戻して、セネットさんへの――ひいては私への指図を続けます。


「だが、それほどの実力者ならより一層信じられる。

 そしてセネット、関係の危うさは既に現実化してしまっている。


 原因は僕たち第1師団の矜持にもあるのだけれど……

 今回の勇者たちについてより詳細に知るべく、

 こちらの訓練場で葵さんに軽く質疑応答を行っていた際、

 彼女は清浄院琴子さんが凄まじく強い、ということを楽しそうに、なおかつ誇らしげに説明してくれてね。


 その説明自体は僕や魔王国にとってむしろありがたいものだったのだけれど、

 第1師団の皆にとっては別の意味合いをも有してしまったんだ。


 つまるところ、葵さんの語った清浄院さんの強さが、

 彼ら彼女らの矜持を刺激してしまった。

 魔王国を訪れたばかりの新米勇者が、それほどの実力者な筈もない、とのことだ。


 弁護すると、第1師団は魔王国の最精鋭であるという自覚と自信が非常に強く、

 それがゆえの頑なさも大いに持っている。

 師団内での議論が白熱した結果、

 もはや代表者が清浄院さんの実力をその身で確かめなければ落ち着かない、

 という事態にまで発展してしまったんだ。


 正直な所、止めきれなかったことは僕自身の不手際であるから、

 期待を寄せていただいている魔王陛下には申し訳が立たないの一言だ。


 けれど事態を収めるには、やはり清浄院さんに今一度、

 僕たちの前でも力を見せてもらうほかにない。

 だからセネット、清浄院さんをここにお連れしてくれ」



「それは……いえ、経緯は理解しました」


 セネットさんは一瞬だけ雰囲気と声を厳しくしましたが、秒もなく冷静へと整え直して応じ、


「では清浄院さんをお呼び致します。

 もしもの際の治癒魔法は、マシュー殿下にお任せしてもよろしいでしょうか」


 と、承諾と安全確認? っぽいお言葉で締めました。

 怪我するつもりはないですが、治癒魔法というのは気になりますね、とってもファンタジックです。


 マシュー殿下は、『勿論そのつもりだ』、的なことを答えつつ、改めて丁寧めの謝罪を伝えてます。

 つまりセネットさんはまだ動けませんから、私から早足をさくさくスイスイ、四人のもとに歩いて向かいます。


 ――ところでマシュー殿下が謝罪を口にするたび、

 左手側にお連れのステリーさんが気配をもっと荒く激しく、

 生き物を切るための鋸刃みたいにギザギザキシキシ研いで歪ませてるんでけど、

 彼女の忠誠心なりプライドなりはともかく私も敵意をお返ししてよろしいのでしょうか? いえ、まあダメでしょうね、一応招かれた立場がありますし。


 あ、でも遥さんがしょんぼりなのは今のお話からしても絶対ステリーさんたちが原因でしょうし、

 敵意はともかく叩きのめしはしましょう、別に投げても締めても蹴ってもいいですけど、

 イヤな代表者の責任は果たしてもらいましょう……遥さん、すぐやっつけますから安心してくださいね!


 さっと思う内にセネットさんの右隣、目つき悪いステリーさんの向かいに着きましたので、

 少しお話に割り込ませてもらって挨拶と、オッケーを皆さんに伝えます、

 すっきりな真顔はごく穏やかに、声もさらさら、明るい流れのままに。


「はじめまして、清浄院琴子と申します。

 早急(さっきゅう)な了承となりますが、

 ご提案の試合を私からも謹んでお受けいたします。

 マシュー殿下とステリーさんさえよろしければ、いつでも、今からでもいいですよ♪」


 するとステリーさんが真っ先に、掠れ気味なソプラノでズイズイと返してきました。


「は? なんで割り込んだの。お前もいい気になってるから? そうなの? 今回の勇者は不作ね」


 んー、近いですしもう合図無しでローキック入れても良いでしょうか今の距離ならそれです、

 でも試合ですから色々待たなきゃですよね、

 上手く挑発してあっちから手を出させた上でカウンター入れちゃってもいいですけどそれやるとセネットさん嫌がりそうですし、

 ほら魔王国との関係云々とか、拗れて……では普通にお返事しましょう、声も顔色もふわふわ、のんびりなままに送ります♪


「自信ならすごくありますが、いま肝心な試合開始の権限はステリーさんがお持ちなのでしょうか?

 私としてはお互いの口論よりも、円滑な事態の進行と解決こそを優先したいですし、

 もしよろしければその辺りのご対応を、ステリーさんとマシュー殿下にお願いしたく思います」


 私は王子様こと、いまいち頼りないイケメンさんに顔と視線をついと向けます、

 視界と感覚はあくまで広く、敵なステリーさんを捉えたままで。


「マシュー殿下、そちらのご趣意はいかがでしょう」


「っ、うん、受け入れてくれるなら本当にありがたい」


 少し焦った風な彼は、声と表情をかちこちお若く、でも誠実に答えてくれました。


「こちらの都合に合わせてくれたことを、第1師団長として心より感謝するよ。

 遅れたけどこちらこそはじめまして、魔王国王子兼、魔王軍第1師団長のマシュー・クレイグだ。

 種族は妖精で、属性は光だよ。


 左の彼女はゾーイ・ステリー、繰り返しになるけど(くらい)は大隊長で、

 魔王国ソルジャー序列3位の実力者だ。


 彼女の種族も妖精で、属性は風。

 また、僕や彼女に限らないことだが、妖精は皆が精神力に長け、その力を身体能力の向上にさえも活用できる。

 だから決して、見た目の体躯のみで軽く判断したり、油断を抱いたりしない方が良い、と忠告しておくよ。


 得意武器はアーガイル大隊長と同じく両手持ちの長剣、ブレイドの長さは少しだけ短いけどね。

 彼女は今回の試合でも、その武器に準じたサイズの木剣を使用するとのことだ。


 また、開始の合図は僕が審判として、責任を持って伝える。

 お互い試合開始の位置についたら、合図までは動かず待機していてほしい。

 ……説明は以上だけど、もし清浄院さんに差し支えなければすぐにでも準備していこうと思う」



「はい、こちらも問題ございません。

 丁寧なご説明のお陰で、私もよく理解できました」


 やわい平常心のまま答えると、マシュー殿下もようやく微かに笑みを零してくれます。


「そうか、良かったよ。

 では第2訓練場の一部を空けて、僕が指定する位置についてくれ。

 ステリーも向かいに行かせるからね」


「承知いたしました」


 と私がまた応じた時、遥さんが大きめに焦った声色に震えも混ざった、とても必死そうな意見をあげました。


「すっ、すみませんっ!

 あの、今回の責任は私にありますし、清浄院さんが危ないことするんじゃなくてっ、

 私がお叱りとか、あの、罰とかの、怖いそんなのを受ければいいと思います!

 セネットさんも仰ってましたが、怪我とか危険だったらやっぱり、

 私の罰の方が迷惑じゃなくて、きっと向いているのでっ、どうか私を罰してくださいっ!」



 ――誰かが何か言う前に、私はすぐに答えます。遥さんの優しい頑張りには、お互いの安心で返したいですからね。


「遥さん、私はぜんぶ大丈夫ですよ。

 怪我もしませんし、きっと勝ちますし、

 それに今回の原因は、私にとってはすごく嬉しかったことなんです。


 遥さんが私を応援してくれて、これまでの活躍をアピールしてくれたことは、

 魔王国の人たちには失礼だったかもしれませんが、

 私には気持ち高まるあったかいことなんです。私こそが頑張れることなんです。


 だからどうか落ち着いて、私に任せておいてくださいね。

 遥さんの身の安全は、私の勝ちによって保証しますから♪」



 すると遥さんは、目元に瞳を明るい高ぶりで泣きそうな風に、可愛い感激をあらわにしながら、


「……あ、ッ、はいッ!

 どうか無事で、よろしくお願いします!」


 今もまた、今は直接に、真心からの応援をしてくださいました。


 私は嬉しさで声さらりフワ、笑みをにっこりと答えつつ思います、


「はい、確かに任されましたよ♪」


 ――今からの試合、勝ちはもう絶対掴み取りますね。私のためにも、遥さんのためにもです。



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