8.師団長閣下は強すぎ注意?
(Side:清浄院琴子)
立ち上がったアーガイルさんと終わりの挨拶、一礼を交わして、
私は置いたミニバッグのところに戻ります、と、セネットさんがちょっと屈んで左手で拾い、
お礼と共にこちらへ差し出してくれました。
「ご協力ありがとう、見事な手並みだった。
お陰で清浄院さんの素晴らしい実力を、ここに居る全員が理解してくれた。
今よりの小会議もきっと、ごく順調に進行するだろう」
私はミニバッグを左手で受け取り、彼にお返しの言葉を送ります。
「バッグをありがとうございます、私も皆様のご信頼をいただけて良かったです。
ところで、ここには大勢の方々がいらっしゃいますが、
小会議はある程度人数を限定して行うのですか?」
「ああ、そのつもりだ。
内容を聞かせて共有するのは全員にだが、
議論を交わすのは私と清浄院さんに各大隊長を加えた、総勢12名のみとなる。
屋外かつ起立したままで申し訳ないが、もし清浄院さんに不都合なくば、早速準備してもよろしいだろうか。
具体的には、ゆるい円陣に立って話し合うつもりだ」
「はい、大丈夫ですよ。
どうぞ始めてくださいな」
「そうか、ありがたい」
セネットさんは薄く笑んで応じると、
すぐまた笑みをキリリと消して、大隊長さんたちへ大きめのお声で集合を掛けました。
すると即時に該当するらしき方々、
アーガイルさんや背高灰色熊さんも含めた男性9名と、
お体半透明の女性1名が軽い駆け足でサクサク来てくれます。
さして時間も取らずに12名全員が揃ったところでセネットさんは小会議の開始を告げると、
まずは演習への見解を尋ねてくれました――無事に勝ったのでくすぐったい感じに嬉しいですけど、少し気恥ずかしくもありますね♪
そんなセネットさんの問いかけに対し、真っ先に挙手して応じたのは灰色熊さんでした。
セネットさんに〝いいぞ、ジェイコブ〟と呼ばれた彼、
ベリショヘアも熊のお耳も尻尾も茶がかりホワイトグレージュなマッシブ・ハンサムさんは、
太くしっかりした声を放ちます。
「外から見ても明白だったンですが……サミュエルには悪いかもですが、
セイジョウインさんは武器持ちにも常に勝てるし、
あれは勝ち方や動き方の一つでしかなかったンだろうなって思えました。
ほとんど実力を見せてないのに、強さが完全に伝わってくるっていうのか、
力や技術が大木の根っこより深く張ってて、体に光って通りまくってる、とにかく凄ぇのが分かります。
しかも、それなのに硬くなくッて……なんか強さが柔らかくッて、綺麗なンですよ。
あんなの見たことないし……でもすぐに、とてつもない強さだと理解できました。
あとあの、すぐってのは毎時、毎瞬間で、ウォームアップも、演習も全部やばかったです。
そんなのがすぐに、ずっと分かり続けました。
だから俺は、是非セイジョウインさんの意見を聞きたいです。
彼女の強さはどこまでも確かで、俺達みんなに信じられるからです」
わっ♪ むずむず嬉しいですねっ、私の良いところをとってもよく見てくれてて、
くすぐったいふわふわがもっと増しちゃいます、楽しくって浮き浮きしちゃいます♪
そんな風に私が顔色をまじめ風なまま、心でニコニコしていると、
話に出たサミュエル・アーガイルさんも一切落ち込みや敵意を見せず、
ただ篤実に言葉を継いでくれました。
「同感だ。彼女は今、相手たるこの身を先んじて打倒し、そののちに武装も制圧したが、
状況次第では逆の順序による勝利や、
さらには想像を遥かに超える無数の勝ち筋を、適切かつ敏速に実現させることだろう。
恥ずべき渇望をあらわにすると、それら手法を少しでも見てみたい、
しかし、武芸者としてねだることはできない。
今しがたの演習は彼女よりの特別なご厚意であり、
武術においては……自分は武芸者として、勇者殿に甘えたくはない。
軍と国家、ひいてはレネアシャの規範を乱すだろうエゴだが、自分の曲げられない決断だ」
……彼の表情は冷静ながら、声の奥には熱と忍耐が見えます、聞こえます。
あるいは彼の篤実は、たゆまぬ忍耐が熱のぎらつきを純におさめている、
克己できているからこそ在るのかもしれません。凄いです。わがままな私とは大違いで、立派で優しいかたです、彼も。
私の右隣に立つ責任者様、セネットさんは浅く首肯し、アーガイルさんへ硬めながらも幾分穏やかな低音を送ります。
「責めはしない。上申や共有もしない。
公人として言えば褒められた意見ではないが、私人としては理解するところも多い。
我々一同、思うところは胸の内に秘めておこう」
えっ嬉しいです、嬉しいしキュンとしましたけど貰いすぎかもです、
セネットさんたちご自身も大切にしてほしいです……
だって今のそれはセネットさんたちへ危険や悲しみを招くだろう優しさで、
さすがにちょっと、国や世界からのペナルティが来ないか心配です。
でもせっかくのご厚意を無下にするなんて論外ですし、
ここはさっき思ってみた通り、アドバイスの観点をレネアシャ独自の戦闘技巧や武器テクノロジーに定めます。
私の技術、地球の文明からではなく、
セネットさんたちの〝スキル〟とか、徒手格闘と連携できる武器についてなどを考えてみなければいけません。
じゃあまずは地球と共通してるとこも多そうな武器です、
そっちからセネットさんたちに聞いてみて、一緒に議論していきましょう。
特に銃器類があるのかどうか、どこまで発展しているのか気になりますけど、
ただある程度高性能な銃、グレネードランチャーとか機関銃とかがあればファイターソルジャーウィザードとかの〝クラス〟が戦いで重要視されることもなくなっちゃいそうですから銃のテクノロジーはそこまででしょうか、
あ、でもスキルには不老不死や世界間の転移といった人知を越えた凄まじいものがあるみたいですし、
レネアシャの特にお強い方々、それこそセネットさんや神様のウェルシュさんなどはまた違うかもです、強さ的に良い意味で。
特にセネットさんの隠してらしたお強さは本当に赤が素敵で、色も光も綺麗でもう大好きですっ♪
深くて透明なきらっきらのレッドっ、きらすぅ、ぱぁッ!て強く優しく輝くあったかさ、ファイアレッドが好きです、また見たいしもっと見たいです、全身で感じてみたいですっ!♪
っとダメですね、考えが好きなひとにそれました、
会議でまでお気遣いをいただいているのですからもっと集中してきちんとやらなきゃ、ですっ!
だからお礼を皆様に伝えてから質問です、銃のこと、お隣のセネットさんへさくさくっと尋ねましょう。
「魔王軍第2師団の皆様、私と地球の武術に対する真摯なお気遣いを、誠にありがとうございます。
今の嬉しいご意見を受けさせていただいた上で、
ひとまずは私側の考慮や発案もここレネアシャでのスキルや武器へと専心したく思います。
つきましては最初の質問として、魔王軍において前衛のファイターと連携できる武器、
特に銃器類が存在しているのか、
もしあるならば運用法はいかなるものなのかを可能な範囲でご教示、ご共有願います。
セネット閣下、その辺りはいかがなものでしょう?」
すると、セネットさんは表情をもう少しピリリと引き締め、
実直ながらも難しそうに……声の奥から申し訳なさそうに、カツカツと答えてくれました。
「なるほど、着眼点が鋭いな。
だが科学銃も魔法銃も、レネアシャでは製造と使用の両面を基本的に禁止されている。
先ほど執務室で伝えた円和の律も含めて、
多数の法律や条約で何重にも規定されてのことだ。
また、銃だけでなく、大規模破壊兵器および、大規模殺傷兵器も同様だ。
ほぼ唯一使用が認められる例外は、
先に相手側が無思慮に実用してからの、純粋な防衛時においてのことだ。
ここで言う防衛とは決して報復攻撃を意味するものではなく、
襲い来る破壊力やエネルギー、魔法力を相殺して消滅、あるいは軽減させる用法が該当する。
ただ一応、さらなる突拍子もない例外があるにはあるが、
そちらはどこまで行っても夢物語だ、と断言できる。
少なくとも私個人は、例外にすら数えるべきではないと感じている。
過ぎたる力は、趣味嗜好で振るうべきではない。
話を戻すと、少なくとも魔王国においては銃などは存在していないし、
運用も全く考えられていない。
代わりに……と言うのも不正確かもしれないが、
弓矢と遠隔攻撃魔法の運用は今も盛んに行われている。
以上、回答として十全であったならば幸いだ」
「はい、大変良く理解できました。
セネット閣下、丁寧なご説明をどうもありがとうございました」
やわく微笑み、声はしゃきっと応じると共に、ちょっとだけ思いを巡らせます。
まず一番気になるのはセネットさんの言う〝夢物語〟、
〝過ぎたる力は、趣味嗜好で振るうべきではない〟と生真面目全開に断じた事柄のもっと詳細な内容です、
私としては自分自身はいつでも自由でいたいですし、強さに力に綺麗さも好きに磨いて高めて行きたいのですが、
ひょっとしたらセネットさんはまた違うのかもしれません、だとしたら少し残念です……ちょっとだけ悲しいです。
でも、これはあくまで私の考えすぎかもしれません、セネットさんはお話全体の趣旨としては、
国とか集団とか世界とか、かなり大勢の規則的なことを仰ってましたし、
〝趣味嗜好〟というのも集団の決定や、いわゆる世の流れなどを示してるのかもです、
だったらあんまり気にならないのですけど。
いえ、今の趣旨と言えばそっちでもなくてとにかく銃です、あと大規模な兵器類、
これらはレネアシャでは禁止とのことで平和を大切にされてるのですね、
まあ暴力としてお気軽でお手軽過ぎますものね、銃の引き金とかミサイルオンのスイッチとかって。
あんなのを誰にでも使わせるのは、私としても確かに反対です。それに私は、直接投げたり極めたり、殴ったり蹴ったりするほうがずっと好きです、覚悟が重く鋭く心身をときめかせてくれて♪ もにすわ、しぃん♪ と綺麗に弾んで、とっても楽しいですからね!♪
あ、今は会議ですしはしゃぐのは違います、もっとまじめにならなきゃです。
なので次です、スキルのことですね、銃がなくても遠くから攻撃できたり、
距離を瞬時に詰められたら凄く役に立つでしょうし、
弓矢や魔法以外にそういう距離どうこうが、
特にファイターのスキルにないのか聞いてみましょう、勿論セネットさんに、です♪
「――ではセネット閣下、次の質問となりますが、
レネアシャにおけるファイターのスキルを是非知りたいです。
希望としては相手を中遠距離から攻撃できるようなスキルや、
また、目標までの距離そのものを自在としたり、接近や退避の補助をするスキルの有無と、
魔王軍現状においての、スキルを活用した徒手格闘戦術のご教示を願います。
できれば個人単位と、小隊、中隊などの各部隊規模で、
それぞれ戦術を分けて説明していただければ幸いです」
するとセネットさんは僅かに眉を寄せ、誠実な面持ちに淡い苦悩と悲哀を浮かべ、
「ああ、それか……難しい距離を補助するスキルなら一応、清浄院さんの挙げたどれもが実在している。
だがそれだけだ。私個人ならば万全に実用できるが、部下に関しては威力や出力が足りていない。
直接戦闘となればここに居る最上位のファイター7名、
各大隊長がようやく乗り越えられているのみなんだ。
当然だが、練度不足のスキルはなるべく使わず、かつ複数名単位での行動を徹底させて、
安全マージンを最大限確保した上でのことだ。
つまるところ、最上位のファイターでも直接戦闘には不安が残るのだから、
大多数のファイター達には基本、補助的な任務をあてている。命を守るためのことだ。
しかし何と言うか、補助的な任務への偏りや、直接戦闘に出してやれないことへの不満はやはり大きい。
私から見ても正直、ファイターたちはあまりに不憫だ。
すまない、前置きが長くなったな。
では、私個人が実用できるスキルを伝えよう」
……未だ聞きやすくハッキリした声で、でも具合はひっそり粛々と、おごそかに伝えてくれました。
責任感に苛まれる彼の言葉は、冷たい秋雨のようにトポトポ続きます。
「私が使うスキルは大別して二つ、
運動エネルギーをある程度増幅させた上で、リーチを越えて遠くまで押し出す〝シャーヴ〟と、
同増幅エネルギーを限定箇所に留める〝アセイル〟だ。
この二つは全ファイター共通のベーシックスキルでもあるのだが、
先に述べたように実用までには大きな壁がある。
……ただ、私自身が証明しているように、
練度や力量を高められれば十二分に戦力として活用できることもまた事実だ。
話を戻すと、シャーヴは私が扱った場合、
攻撃用の最小出力では鉄獅子型モンスターや鉄虎型モンスターに対し、
60メートル離れた位置から全身に衝撃を貫通させて全身麻痺と昏睡の効果を与える。
また、接触した状態では同モンスターを爆散させる。
……だが爆散だけに、鉄片や肉片が散らかるから後始末が相当に難儀だ。
なので任務時においては常時、速やかな感知へと気を払っている。
また、最大出力では世界の敵対者たる元神を平均30体程度まで同時破壊することが可能だ。
連中の精神と命と身体を、余すことなく消散させられる。
……こちらの用法では無用な被害が出ないように、できる限り接近して放つと決めている。
さらに、シャーヴは他の活用法も多彩であり、
例えば攻撃用よりも安全に出力を落とせば、
防音や遮光機能を有した球体として構成することができる。
つい先ほどの廊下で、清浄院さんと会話した時に用いたのもこちらだ。
あとはそうだな、空間へ待機させる球体の出力を上げれば、有用な防壁としても機能する。
……シャーヴはごく基本的なスキルだが、
使用者の力量さえ伴っているならば様々な可能性を見せてくれるんだ……今はまあ、私のみでもあるが。
次にアセイルだが、こちらは攻撃用としてはシンプルだ。
ごく単純に、接触箇所へ継続的な損傷と苦痛を与え続ける。
だが自身の力量や練度が十分に高ければ、
無為に戦いを引き伸ばすよりもシャーヴでの迅速な無力化を狙ったほうが良い。
……アセイルはあくまで奇手、奇策のたぐいと言えるな。
しかし反面、アセイルには移動用として役に立つ用法がある。
世界そのものに対して、移動したい起点と終点を明確に意識しながらドア一つ分程度の小範囲へと放つことで、
少々時間は掛かるものの、距離を無視したワープゲートを空けることができるんだ。
これは恐らく、世界そのものの耐久力がアセイルの継続的なエネルギーで一時的に破壊されてしまうことで、
起点と終点までのイメージ伝達も相まってワープゲートが完成するのだと考えられている。
研究したのは私ではなく魔王陛下だが、信頼度はかなり高い仮説だと思う。
ただ、ワープゲートは平均して20分ほどで元の世界へと修復されてしまうから、通るなら早めの方がいい。
世界に挟まれてしまうと、助けるのが少々困難だからな。
……清浄院さん、ここまでで疑問点や提案はあるだろうか。
続いては私と部下達の差異を、スキルの出力や練度において説明していこうと思うが、
お互いの考えを整理するためにも思うことがあれば、どうか発言しておいてほしい」
そうですねセネットさん、ちょっと確信があるので突っ込ませていただきますね。
……私だってこれは流石に、笑顔も消えて真顔になりますよ、申し訳ないですがきっぱり早口に行きます。
「あります。セネットさんがあまりにも強すぎるだけで、他の皆さんも全然活躍できるんじゃないかって思います。
特にシャーヴです、まだ他の皆さんに動作速度や射出速度、あと威力を聞いてませんが、
素手のまま遠くから牽制できるだけでも、もうめっちゃ強いと思います。
それと、アセイルも力量が近い相手に対してはとても有用だと思います。
苦労しないと勝てないような相手には、特に自分の全部を選択肢に入れておくべきです。
〝特に〟というのは、別に危険じゃなさそうな相手や時や場合や場所でも、
自分の心と自分の体、それに自分ができることは全部ぜんぶ、常に把握しておいた方が良いからです」
セネットさんはすっかりびっくり顔、困惑に固まっちゃってます。真面目で、謙虚すぎるのですね。でも自分を基準にしすぎるのは少々、ちょっとは客観性も持たないと損ですよ――私だったらもっと、お得にわがままをしたいですっ♪ あ、これも主観ですね。反省です。
そんなこんなを感じて思いつつ私は少し声のテンポを緩めて、
微笑みも浅くしっとりとだけ、粉雪みたいに咲かせます。
「ごめんなさい、言葉が過ぎました。
でもセネットさん、どうか安全だけじゃなく、矜持と覚悟も見てあげてくださいね。
その上でまたきちんと皆さんで、命を大切にしてください」
――セネットさんのこと、彼のでっかい慎みが気に掛かりますが、
でも今はこのかたから部下の皆さん……とりあえず知り合いの? アーガイルさんへと向き直り、
〝シャーヴ〟を見せてもらうためにお願いしてみます。
「アーガイルさん、どなたか同僚のどなたかで、
シャーヴを見せていただけそうなかたはいらっしゃいませんか?
自然に放てる速度や威力の、実際のところを知りたいです。」
アーガイルさんが、彼もまたシャープアイを見開いて戸惑っていましたが、
それでも真剣に頑張って、一つ一つの発語を返してくれました。
「同僚……ああ、ファイターか。ファイターの、だな。それなら問題ない、自分と同様に序列2位がいる。
灰色熊の獣人で、名はジェイコブ……ジェイコブ・ウォールと言うんだが、きっとふさわしい」
と、そこで彼はまさにそのハンサム灰色熊さん、
セネットさんにもさっき名前を呼ばれてた背高196センチ112キロ、
茶がかりホワイトグレージュ・ヘア――熊のお耳も、かわいいご尻尾も――のかたに声かけます。
「ジェイコブ、技を是非見せて差し上げろ。
的はそうだな、近くの巻藁でも、なんでも」
背高熊さんのあたま上、丸いふわふわお耳がどっちもピン!と立ち、
このかたもちょっと焦った風に、驚いてる風に太い声を紡ぎます。
「ン、おう、分かった、足りてたらいンだが。いやとにかく、だよな、すぐやってみる」
そうしてウォールさんはすぐにグラウンドの巻藁、私から向かって右のとこへ向かって大股歩きでざくざく進み、
真っ直ぐ20メートルほど離れて止まると、クラウチングの構えに腰を落として前傾、右足を前にして重心をクグと置き、両拳をこめかみの高さで握り込みました――力がユルリッと無理なく流れてかなり様になってます、巻藁が彼の背丈より低いからではなく、これがウォールさんの戦う常なのでしょう。
いい感じなクラウチングからの静止と沈黙は半秒ほどで、灰色熊さんは割とすぐ動きを見せてくれました、体ちょいくにゃりっと右半身寄りにリラックス、して瞬間に腿キシ、肩キシ、緊張パワーの反転使って右足踏み込み右のジャブ、頭も入れてなかなかの早さとリーチです、っとジャブの力がインパクトを前に越えて飛びましたしかももっと激しく硬くなってますパワーアップしてますサイズは彼の大きめ拳そのまま、透明で猛烈な力の気配がびゅわぅ! と射出に即飛翔っ、速いですもう巻藁に行きます着きます0.08秒で今到着、わっ破裂っ、巻藁ぐるぐるが軸の木板半ばごとバァン! とばらばら、砕け散りました凄いですっ!
軸の木板こそボロっとなりながらも厚み七割残ってますけど、何重にも巻かれてた巻藁の前側は切れて砕けて破壊がいっぱいです、あと早さも凄かったです計算すると秒速250メートル、時速だと900キロメートル! 音速に迫るとかすっごいです!!
これモンスターとか魔法とかの強さ如何にもよりますが、
少なくとも私の目から見たらウォールさんのスキル、シャーヴはめっちゃ強いですし、あと地球基準の客観でも絶対強いです。
というかいっそ別の意味でファイターの立場が危ないかも……あっ、そうです、褒め言葉のジョークはこれにいたしましょう♪
丁度いまウォールさんが振り返って起立し直し、
再度の大股で速めに歩いてきてくれてます、でもう円陣に帰還してくれました……が、
なぜか彼は熊さん丸耳をぺたんと倒して、
ちょっとしょんぼり不安を目に表しながら、セネットさんの方をじっと見ています。
あとアーガイルさんも同様のまなざしでセネットさんをシットリしっかり見てますし、
他の大隊長8名も似たりよったりな憂い九割、期待一割みたいな〝ひょっとしたら、いやでも怖いな〟風のドキドキを浮かべてます。
そして私のお隣、セネットさんのお顔は……憂い十割のぼーっと乾いた遠い目、諦観と納得です。は?? なんですかそれ、あまりに失礼じゃないですか?? 部下に対しても人同士の礼儀はあるべきでしょう、セネットさん??
かなり腹が立ったので、私は微笑みながらもセネットさんにちょっと寄ってって、
彼の左脇腹へ、右肘をすいっと軽く打ち込みます、命中っ、小さな力がやわらかく、しゅとぅぱっ♪ て通って炸裂しました、ちょっと痛いかもですけど、セネットさんのおなかにお仕置きです♪
――あら♪ 低い呻きや狼狽もじんわり熱くて、おきれいですね、セネットさん。
「ぐ、ぅ、なにが。清浄院さん? なぜ?」
「恥ずかしながら、ちょっと怒っちゃったからです。
セネットさんはもっと期待して認めてあげながら、掛け替えない命も大切にしましょうね。
セネットさんご自身にも、部下の皆さんにもです。
あとそうですね、今見たスキルの感想を述べますと」
さあ、会話もお洒落の時間です♪
晴れた笑顔をにっこり咲かせて、明るく楽しく褒めちゃいます♪
「これからはファイターが禁止にならないように、ずっとわがままに強さを求めましょう。
だって銃より魔法より強いんですから、力尽くで言い聞かせちゃえばいいんです。
大丈夫です、タッチで昏倒させちゃえばすぐに沈黙のイエスが来ますから♪」
「……は? なにを言っているんだ……? いや、ファイターは強い、のか?
可能性が見えたのなら、それはきっと、よかった」
んー、会心のお洒落だったのですが……でもきっとテーマは分かりあえてますし、全部じゃなくてもオッケーです♪ ……今は!