表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/29

7.ちょっと手合わせ、武器合わせ

(Side:清浄院琴子)



 到着した屋外の訓練場は広々とした白土のグラウンドで、

 大勢の方々が揃いのスポーツウェア、上下長袖長裾の、細めにさらっとしたダークグリーンを身に着け、

 自立式サンドバッグに打ち込みを行ったり、素手同士のスパーリングをしていたり、

 徒手空拳のかた〝以外〟では、刃まで木製の剣や槍を構え、何列にも並んで素振りをしている集団もいらっしゃる他、

 あとは極少数のかたが手足にきつめの鍛錬、

 太い木板を立てて藁縄を幾重にも巻いた〝巻藁〟に対しての打ち込みを行っておりました。


 さて、見渡すどのかたも熱意と気合がたっぷりなここで、

 今から私はセネットさんからのお願いである、

 〝部隊の練度を、特に徒手格闘において高めてほしい〟という目標に邁進するわけですが……正直、私自身のみでやれることは非常に少なく思えます。


 決して弱音というわけではないのですが、

 きっと私が能動的に獲得しにいけるのは〝お話を聞いてもらえる信頼〟それのみで、

 以降はその信頼によってセネットさんと、そして軍人の皆さんときっちり話し合い、

 私自身の実力や技術のみによらない、この世界ならではの解決法を見つけて、詰めて行きたいのです。


 そも、地球とレネアシャは相当に違う世界のつくり――物理法則、スキル、魔法、種族、神様の存在など沢山です――をしてますし、

 私の強さが地球側の格闘技術と、同じく〝あくまで地球では〟卓越している身体能力によることも考慮すると、

 レネアシャにおける他の皆さんにはあまりに適用しづらいでしょうから。


 だって種族そのものが見て分かるくらいに多種多様です、目前の訓練場でビシバシ頑張ってる軍人さんたち、

 男性8割に女性2割くらいの皆様がたは、


 例えば見えてるお顔や手首のところが透けて半透明の精霊さん? 幽霊さん? たちだったり、


 頭の上に動物の耳、お腰の後ろにも同じく動物の尻尾が生えてるひとたち――ぱっと見ただけでも犬、猫、馬、リス、狸に狐にコアラにフェネックなどお耳に尻尾が多種多様、一番大柄なかたは灰色熊っぽいマッシブ男性、薄く茶がかったホワイトグレージュベリショの、身長196センチに体重112キロなごつめハンサムさんでした――だったり、


 耳が細長い三角形状の麗しいエルフさんたち――かなり女性の割合が多いです――だったり、


 両頬にグレーホワイトの鱗――蜥蜴か蛇みたいな形状です――を浅く細長く纏ったイケメンさんが、

 木剣一本――デザインは西洋風、ブレイド(剣身)1メートルほどのかなり長い両刃――での攻防一体な上段切り下げ、

 当てる瞬間には剣が水平ぽくなるようにして相手の高い上段攻撃を打ち捌きながら、

 刃の先端側で頭部から胸元を狙うリーチ活かしの技法――地球で言うツォルンハウ――を、

 チャキシャキッと敏速に繰り返していたりと、

 

 まさにファンタジックパレード勢揃い、という雰囲気に満ち満ちています。



 ――でも個人的にはですけれど、そんなファンタジームードに負けないくらいに熱々のやる気が彼ら彼女らに超いっぱいなのがとっても嬉しくて素敵でむずむずします、私も早く元気いっぱいに、ここで動きたくなりますね♪


 っと、セネットさんが数歩前に踏み出して、声を大きく厳粛に張りました、

 今からは相談した予定通りに、私も〝セネット閣下〟と呼ばなきゃ、ですね!


「総員、傾聴」


 すぐに軍人さん皆の視線や気配がセネットさんへと集中し、遠くのひとたちはより近くへいそいそと駆けてきます。


 当のセネットさんは休めの姿勢で少しだけ――6、7秒くらい――待ってから、

 先に私と決めた予定をハッキリ、簡潔に説明してくれました。


「本日午前は、新たな勇者の一人であるこちら、

 清浄院さんをアドバイザーとして徒手格闘戦術の小会議を行い、

 会議の過程で良案が出た場合は実践での検証へと移行する。


 清浄院さんは地球世界における最高の格闘家であり、

 彼女の持つ新たな知見や別の視点へ、私も大いに期待しているところだ。


 また小会議に先立ち、

 清浄院さんは徒手空拳による武装解除演習にも協力してくれる。


 徒手空拳側を清浄院さんが担い、

 訓練用武器を振るう側には当師団の第1大隊長、

 魔王国ソルジャー序列2位たるサミュエル・アーガイルを指名する」



 セネットさんの硬く綺麗な視線、黄昏琥珀の透明が軍人さんのお一人までスイと収束、

 グレーホワイトの鱗を細面(ほそおもて)の左右に流したイケメンさんを捉えます――なるほどです、彼がアーガイルさんでしたか。


 先にセネットさんから、彼が演習に付き合ってくれるだろうことと、

 経歴の要点、華々しいご活躍を聞かせていただきました。


 なんでもこの世界レネアシャにおいての危険な害獣である〝モンスター〟、


 金属の皮膚を持つ虎やライオンだとか、

 体温や血液、骨格などが極端に冷たい狼だとか、

 翼が赤炎と化した(わし)だとか、

 さらにはダイヤモンドより硬い甲羅と牙を持つ巨大ワニガメ――全長10メートルを越えるらしいです――だとかを、


 アーガイルさんは量産品の長剣を振るって、数限りなく討伐してきたそうです。


 彼自身の技量に加えて、〝ソルジャーのスキル〟を組み合わせることで、

 敵の特異な硬度も無形のエナジー(冷気や炎)も長剣で切り裂き、あるいは打ち砕く達人とのこと。



 ――そんなお話を聞いていただけでもめちゃワクワクさせてくれた当人に、

 セネットさんは演習の合意を求めてくれています。


 受け入れてくだされば今からですから、もっと気分がほかほか沸いてきます♪



「サミュエル、お互い怪我することなく、持てる実力を発揮しろ。やれるな」


「了解しました。得物(えもの)が何であれ、自分が適切に調整いたします」


 キンと鋭利なテノールで答えた長剣の達人、

 アーガイルさんは鱗キラすらのほっぺたも、高い鼻梁も、小さめお口もシャープにスッキリ、

 眉もピッと細くて目元も切れ長な、冷ためセクシーのやっぱりイケメンさんです。


 ヘアカラーは暗めなアッシュグレー、もったりな銀もちろりちろりと浅く見えてます、

 スタイルは襟足長め、バング重めのメンズロングウルフ、

 厚みはぺっとりと落ち着いた感じで彼のお顔、シャープの美に合ってます。


 小さめの瞳は金色で、真ん中の瞳孔は黒の縦長、

 鱗と相まってますます蜥蜴や蛇……ドラゴンかも? な雰囲気がバチバチですが、

 でも灰色熊さんみたいな方々、獣人さんたち? とは違って、

 頭頂部に別の耳はありませんでしたし、腰の後ろに尻尾も見えませんでした。


 あとイケメンだけあって脚長腰高もバッチリ、

 身長も高めな179センチ、体重は76キロと見えますし感じられます、ちょっと細いですね、

 〝ソルジャー序列2位〟という強いらしい軍人さんですが、

 体の厚みはミドル級そこそこです。


 でもシャープイケメンな彼には似合ってますからきっと()いですね、

 実力も十全というかたですし、演習に付き合ってもらうのがほんと楽しみです♪


 っと、セネットさんがこちらに振り返ってくれて、キッチリなお声で確認を取ってくれました。


「清浄院さん、先ほど服装はそのままで大丈夫と聞いたが、

 もしウォームアップが必要なら時間を取ろう。

 他にも都合などがあれば、私たちに遠慮なく知らせてほしい」


「お気遣いありがとうございます。

 ではウォームアップを始めますから、準備が出来た時にはお伝えしますね」


 私はまず左手に下げてるミニバッグ、

 シルバーホワイトな角形(かくがた)を足元、白土グラウンドへちょんと置いてまたすっくり直立、

 姿勢そのまま立つままに全身の筋肉を動かしちゃう、私専用の準備運動、秘密の高速ストレッチを始めます。


 私のずっしり頑丈な骨とやわみしなやかな筋肉、きゅんきゅんの神経といった体全部に集中をぱっちり、すぃーって通して、

 どこもぱつもち元気のお肌と筋肉を先ず硬くっ、首から手先つま先までかちきゅむ! 緊張! 即時やわらかっ、

 ()置かず全身ぽややん♪ なめらかリラックスっ、ふやっふわーっ♪ ってやわく楽しく(とろ)かしますっ、

 ここまで0.03秒、今日もいい感じですね続けますっ♪ 再び硬ぁく緊張、体きゅぅんきゅむ、ぎゅっ!♪ やわらかとろかし体ふわっふわ、もにやかすらぁり♪ リラックスっ♪ ホットな体へ、かちきゅぅ! 緊張っ♪ 即時の柔みでふわもに、すぅるり♪ これやっぱり今日も楽しいですっ、ほかほかもちきゅんボディの〝しっかり5秒目〟が来るまでどんどん繰り返していきますよー!♪



 ◆◆◆◆◆◆



「――セネット閣下、アーガイルさん、お待たせしました。

 私も準備万端ですから、いつでも始められますよ」


 5秒はちょっと長くて入念すぎたかもですけど、

 皆様に待っていただけたおかげで琴子は()い熱さと柔らかさ、元気な弾力がいっぱいです♪


 そして、もうほっかほかに気分上々、体も十全な私を見てくれるセネットさんは感心したような軽いびっくり顔で、

 私を褒めて認めてくれました、優しい微熱マグマのお声が今はもっと伸びやかで、聞き心地がいいです、嬉しいです♪


「ああ、見事なウォームアップだった。

 迅速かつ的確で、しかも体の強さに合っている。

 いや、体が強いからこそ自然に成し遂げられる、と言うべきだろうな。

 実際、貴女ほどの身体操作を可能とする者はレネアシャ全土でもごく僅かだと断言できる。

 少なくとも魔王国においては、私一個人が該当するのみだ」


「わっ、ありがとうございます♪

 セネット閣下にお褒めのお言葉をいただけて、嬉しさが胸いっぱいにワクワクします。

 演習もきちんとやり遂げてみせますね」


「承知した、不意の怪我だけにはどうか気を付けてくれ」


 セネットさんがまた逆の方、軍人さんたちへ振り返り、

 アーガイルさんに視線を合わせます――と、私も彼を見ましたが、なんだか切れ長のシャープアイをパッと見開き、顔色ガチッと驚きに固めてます、小さめお口は半開きになっちゃってますし、彼も私の高速ストレッチに驚嘆してくれたのでしょうか、

 もしくは私のもっと基本的なところ、体の強さに動ける強さ、をきちんと見抜いていただけたのでしょうか。


 どちらにせよ、私の強さや力を分かっていただけて、凄いって思ってもらえたなら嬉しいし楽しいですねっ、

 綺麗と可愛さも感じていただければもっと、です♪


 ……そんな放心のサミュエル・アーガイルさんに、

 セネットさんが大きめの声を掛けました。


「サミュエル、では今からだ。

 武器は手にしている木剣で構わないか?

 まさにその長さの剣こそが、訓練と戦場、両面において最も扱い慣れていたと思うが」


「ッ、ハイッ! 差し支えありませんッ、木剣での演習を行わせていただきます!」


 アーガイルさんは焦りがちに表情をピシと整え、テノールを勢いよく張り上げました。

 そして私まで体ごと目線を合わせてくれて、軽いお辞儀と共に挨拶をくれました。


「未熟を露呈してしまい、誠に失礼いたしました。

 はじめまして、セネット閣下よりご紹介をいただいたサミュエル・アーガイルです。

 演習ではどうかよろしくお願い致します」


 私も同じく会釈して、セネットさんの部下らしく丁寧な彼にきちんと挨拶を返します。


「こちらこそはじめまして、アーガイルさん。

 私は清浄院琴子と申します、生国の関係で、清浄院、がファミリーネームとなります。

 今よりの演習を、私も実直にこなさせていただきますね」


 アーガイルさんとお互いに頭を上げて向き合えば、

 周囲に立つ軍人の皆さんが揃って円形に退いていき、

 かなり広い〝場〟を作ってくれます。


 アーガイルさんが無言で円の内側へと歩み出し、しかし中心から3メートルほど外側で止まります。

 つまりお互いの間は約6メートル、私も彼の真反対へと歩んで、予定通りだろう開始位置に立ちます。


 構えはガードを上げて左手と左足を前に――まあ私は手足ともほぼ両利きですけど、一応オーソドックスなこちらのが慣れています――、アップライトの重心前寄りです。


 そしてほんの僅かに遅れて、対面のアーガイルさんは長い木剣を両手持ちで中段の構え、

 左足を前にしてグリップは右腕寄り、剣は正眼ぽくして(さき)を私の喉元へ向けた、

 地球で言うプフルーク……突きに適したスタイルへ、サツリと整えておりました――ただここは別の世界ですし、

 ひょっとしたら知らない攻撃が来るかもしれません。即時の反応、対応が、いつも以上に大切そうですね。


 ……さて、誰も何も仰らず、かと言って困惑や驚きも皆無でしたから、

 位置も開始のタイミングも、今のこれで合っているということでしょう。


 セネットさんは軍人さんたちの並んだ外周ギリギリの位置、

 相対する私とアーガイルさんのラインから直角に離れた、ちょうど場の中心から90度のところに立つと、


「双方、よし。演習は一度のみ、決着は私が判断して止める」


 くっきりした声を通して右腕と、指揃えた右掌を高く上げ、1秒後に今日一番大きくてクリアな美低音を、


「始め!」


 張って演習開始の合図とし、右のチョップも振り下ろしました。


 私は先ず早歩きですいすい近付きます、体はもうほかほかやわぁく弾んでますからいつでも全力運動が出来ますし、

 とりあえずは4メートルまで右足一歩、左足二歩と詰めますあと一歩、

 お相手のアーガイルさんは立ち姿そのまま、手首だけ微かに動かして剣先をツと上に、依然私の喉元狙いを続けてます、

 空気ぴりぴりしてます良いですね、私はまた右足を前に、すいっ♪ 三歩目終わりで4メートルに来ましたから姿勢を軽ぅく下に落とします前に傾けますっ、

 全身の力を下に、前に、すぅるりとぅん♪ って柔らか元気に流して進ませながら左脚、右脚も進めますタックルダッシュの全力っ、狙いは相手の後ろ脚、右脚っ!

 私はもう両腕両手の平だってもっと前に、ふわりぱっちり♪ こちらも、どこもしなやかパワーで構えてます、

 びゅぅわぁっ、て低空を走り続けます軽やか強ぉく跳んで掛けてあと少しっ、

 相手はこっち見てますが遅れてます今やっと動きかけの切り下ろし、予兆な力の流れを見せました、感じ取れましたっ、もう近すぎなのに剣にこだわってて膝蹴りとかは来ないっぽいのでこのまま足取ってっ、内向きから外向きへ押し引きますね、

 向かって左にフルスピードしゅわスゥッ! 走り込んで相手奥、右ふくらはぎへと私の両手をつるり、スイ♪ 伸ばして触れさせますタッチ成功っ、取るの今っ、ツきゅっと掴んでリフトします上げますっ、あロボットより軽いですねフワリ急速に上がりましたスパーより楽です、じゃあ相手が剣を動かす前、バランス崩れてる今のうちに取った足の内側、逆側に、ツイわッ! と押しますっ、出来ました♪ 相手はたたらを踏んで両脚がヘンに開いてます更に崩れてます、じゃ次っ、直ぐ外へ引きます、なめらかやわらか全身パワーでクゥかしゅっ! て引きます倒します成功っ、相手背中落ちにドワッて倒れてます、でも木剣はまだ持ってますね仰向けの両手で上向きに、長い峰が左胸の前に来てますからそこ踏みましょう、

 片脚取ったまま私の体をちょっと奥へステップ、短い距離を跳んでサシュッと詰めてこれで私の左足が届きます、踏めます、

 相手の左胸と木剣を速度いっぱいに踏みつけ蹴りつけに行って左足ちょい上げからすぐ! 急降下っ、強ーく重たく♪ かかとをギリ打ち込みます寸止めです今っ、踏む直前でストップ! できましたっ、オッケーです。

 そのまま蹴ったらひどい大怪我ですし、あまりに可哀想ですからね。


 でももう安心できそうです、相手のアーガイルさんは決着を分かってくれたのか抵抗とか動くのとかしませんでしたし、

 セネットさんだって即座に声掛け、終了の合図をきちんと出してくれました。


「それまで!」


 私は左足、黒のバレエスニーカー片方を引き、

 手の平もアーガイルさんのロングパンツとその中、ふくらはぎから離します。


 ――この世界でも自然に動けて勝てたのは、なにはともあれ気持ちが良いですね♪



第1話に挿絵(清浄院琴子)を追加しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ