4.大和撫子、異世界へ
(Side:清浄院琴子)
青の綺麗なハンサム神様、ブランドン・ウェルシュさんとの話し合いは順調に進んで納得の終わりを迎え、
いよいよ私たち三人で彼の世界へ〝転移〟するときがやって来ました。
そう、もっと強くて綺麗になりたい私と、生きるために必要な遥さんだけじゃなくって、
玲衣さんも優しい気遣いとご興味から、転移に付いてきてくれるのです。
〝面白そうだし、ドクターとして役立てるかもだから〟と玲衣さんはサラリと言ってくれましたが、
転移した世界では全く未知の事象が沢山、きっと危険なことだってあるでしょうに、
そこも理解していただいた上で――玲衣さんは常に賢い方ですから――同行してくれるのは本当に感謝です。
実際ほら、今だって、ウェルシュさんが注意事項などの確認を取ってくれています。
「じゃ繰り返しになるけど、葵さんたちは世界と神々への登録だと〝勇者〟ってことになるしさ、
その立場を使えば転移した後の人間関係とか、暮らし向きとかも有利になるハズだから。
ホント上手く使ってよ、上手くってのは直接の戦いを避けてくって意味でね。
特に葵さんと雷切さんは転移の恩寵にある魔法でさ、もう全然遠くからサポートできちゃうから、
近くで切ったり撃ったりとかは現地の軍人さんに任せて。
治したり能力を高めてあげたり、それだけでも十二分にありがたいもんだよマジで。
勿論さっき言った世界の災厄ね、悪いこと企んでる元神についても、
絶対に関わったり触れたりなんてしないで。
優秀な軍人さんや王様が何人も居るんだから、サポート以外の99%は彼ら彼女らに任せとけば良いよ。
サポートも立派な勇者の役目なんだからさ、胸張って遠くから魔法使ってね。遠くからね。マジでね。
であと、清浄院さんのことなんだけど――」
と言ったところで、彼は私へ視線を合わせてくれます、
アイスブルーの瞳がなんだか心配そうです……まぁ理由はすごく分かってますし、
私だけ意地を張って矜持を押し出しちゃって、ほんと申し訳ないとは思います。
ただ、気持ちは変わりませんけれど。ごめんなさい。あ、きちんとお話を聞かなきゃですね。
「――ホントのホントに、一切の恩寵無しが希望なんだよね?」
また問われましたけどその通りなので、真面目に肯定を返します。
「はい、自分で強くなってみたいです。
私の人生経験がどんな力になってくれるか、今からとっても楽しみです♪」
楽しみでつい笑みが零れました、ずっと気は張ってるのにどうしてもわくわくします。
強さの力も、綺麗や可愛さの力も、いっぱいいっぱい身につけたいです!
ただ、ウェルシュさんはやっぱりずっと私を案じてくれています。
硬いまなざしが思慮深そう、悲しそうでもあって、しっとりした優しさが伝わります。
……今だって楽しみでも、楽しくても油断はしていませんし、強くあるつもりなのですが。
それでも私は神様から見れば、まだまだ未熟な弱者なのでしょうか。悔しいです。強くなりたいです。もっと綺麗に成長したいです。
早く転移して新しい自分磨きをして、もっともっと力を身につけたいですっ!
でも今はウェルシュさんの声を聞きましょう、彼の真心を大切に受け取りたいです。
「うん、まあね、俺失言……じゃなくてさっき言った通り、
こっちの世界では一人ひとりの人生経験、〝クエスト〟がどんな感じかに合わせて、
さらなる能力の成長が得られるんだけどさ、
どうせなら恩寵をね、沢山ね、貰えるもの貰った方が安心安全なんじゃ、って言うか。
あとクエストによる成長には、転移してから向こうで一晩は寝る必要もあるし、
だから少なくとも一日はメチャ気をつけなきゃだし……マジ心配。
清浄院さん、もう今から不老不死とか興味ない? 玲衣さんとお揃いで。
もしくは葵さんみたいに、保留のストックでもいいからさ。
不老不死って気楽でいいよ? 特に転移責任者の俺が。どう?」
これも本日二回目のやり取りですね、今回は責任者としての立場まで持ち出してきてくれました。
でも見せてるエゴは嘘ですね、目元も瞳も声色もひそやかで、優しい気遣いに満ちてます。
……私はわがままを通させていただきますから重々申し訳ないです、ごめんなさい、あなたから聞いておいた答えを返します。
私も不老不死が欲しいのは本当ですが、それも転移した世界だと、きっと努力次第で何とかなりそうですので。
「ウェルシュさんのお心遣いはありがたいのですが、
人生経験による成長とともに、不老不死を含む様々な特殊能力も得られる可能性があるとのお答えを先にいただきましたから、
私はそちらでの体得を目指します。
でもどうかご安心なさってください、私はまだ二十四ですが、人生経験の密度には自信があります。
これまでずっと張り切ってきましたし、体も心も頑張りましたから」
当の神様は……ハイ知ってました、ご安心し切れない憂いの面持ちです。
なのでそうですね、〝特別な恩寵はともかくちゃんと貰えたものはあるんですよ〟という方向性で行きましょう。
「もっと言いますと私の場合、転移にあたって絶対に貰えるという基本的特殊能力の、
〝取り寄せスペース〟が非常に役立ってくれると思います。
ことこれに関しては断るつもりなどございませんし、最大限活用していくつもりです。
自宅や自室の物品を取り寄せ放題というのは、
お洋服やトレーニング用品の多い私にはもうっ、すっごく嬉しいことなんです。
ウェルシュさんからの素敵な贈り物は、十二分にいただけておりますよ」
「あうん、確かにソレ有用だけど共通のベーシックスキル……恩寵スキルやハイスキルとは全然違うんだけど、
清浄院さんプライドほんとたか……いやまあ、本人納得済みならいいの、かな……?」
「はい、全て大丈夫です♪」
笑顔をにっこり、同意を被せていきます。
プライドについてはバレてましたね、本当のことだし自慢でもありますから、分かっていただけたのはむしろ嬉しいです♪
ウェルシュさんはゆるく苦笑して、
「だいじょぶ……そっか。分かった!」
もっと眩しくニパッ、とスマイル広げ、勢い込んでエールをくれました。
「じゃ俺もりょーかい、なんか説教みたくなっちゃってゴメン!
色々シンケンみで言っちゃったけど、でも基本は安全に楽しめるからさ!」
彼の目線が遥さんに戻り、軽やかに声を続けます。
「葵さんもね、気持ちラクにしといてね。
もしもな面倒事は国の責任者とか公僕とか、
その辺にどんどん押し付けちゃったらいいよ。
だからさ、ちょっとした泊まりの旅行だと思って。
異文化多めで、目新しさバツグン! 的な、ね」
遥さんは生真面目ムードに小さな声で、
「あ、はい。旅行も、がんばりますっ」
かちこち、やる気な緊張で応じます。
それにウェルシュさんは声とスマイルをふにゃり、と気抜けに和らげて、
遥さんを肯定してくれました。
「そっか、楽しいコト頑張ってね、葵さん。享楽の神として、いつも応援してるよ」
「は、はい……! ありがとうございます!」
声は控えめでも気持ちは十分に、遥さんがお礼を伝えます。きちんとしていて、良いですね♪
ウェルシュさんは微笑を少しきりりと引き締め、浅めのクリアブルーを俯瞰的に、私たち全員を同時にジッと見渡します。
「勿論、雷切さんと清浄院さんもね。
みんなで一緒に、新しい世界を面白がってみてほしい。
こっちの世界も結構発展してるし、魔法とか文化とか軽い冒険とか、
たっくさんエンジョイしてくれると嬉しいな」
まず玲衣さんが、続いて私が、それぞれに同意とお礼とを伝えます。
ウェルシュさんはお首をこく、こく、ちょっとかわいらしい頷きを返してくれました。
やはりハンサムな神様だけあって、ご自身の魅力を様々に熟知してそうです。とことんおしゃれで生真面目な方ですね。
そんな素敵で優しいウェルシュさんと、穏やかな合意に至れて本当に良かったです。
今もなお親切に、転移への声掛けをしてくれてますしね。
「じゃ転移するよ、行った先の場所とひとには、ちゃーんとアポ取ってるから心配しないで?
……少し光って、眩しいよ」
彼が言い終えるとすぐ目の前へ、青い光がピカリ、と広がりました、お言葉通りに青く眩しく、私たち三人を包みます。
――いま青しか見えませんね、少しだけドキっとするかもです。
きっといよいよ新体験な世界が来ます、ひとまずの目標は自分の力で、再度転移して帰れるようになることです。
不老不死になるのはそのあと、失踪や行方不明って大変なことですし、早く家族や友達を安心させたいですね!
綺麗で不思議な青い光は一秒足らずでスゥと消え去り、
あけた視界に見えたのは黒大理石の大きめ執務机、の奥に座ってる硬めハンサムなスーツ姿の男性、
背高くて結構がっしりしてらして、赤髪の綺麗な方でした。
いかにも責任者、権力者らしきこの方の、お顔の雰囲気は25、6歳くらい、真面目そうなアジアの美と光。
大きな目元に小高い鼻梁、幾分横広な口元はどこを見てもパッチリ分かりやすくて、
かたちきりり、と決まった彫り、明瞭。
瞳は澄んだ黄昏、燃え立つ琥珀色、
お肌はほんのり赤みのイエベ春、健康ホワイトなあたたかみ。
髪の色は火とルビーのブライトレッド、
ヘアスタイルはおでこさらりのセンターパートで、
パーマ控えめでもソフトなフェザーショート、するりと流れたきちんと系。
がっしりめの大きなお体は年頃ハイティーンの溌剌さ、
私が内まで見て感じる限りだと骨格はしっかり太くて頑丈、
筋肉は少し硬めにパッツリですけど、伸び、粘りは結構ありそうでこちらもおそらく良好、
総じて身長194センチに、体重106キログラム。
だからかなりに動けるひと、戦えるひとみたいで良いですね、素敵です♪
あ、でもこのかたの内側、ひっそりなのにめちゃ明るい強さ、あったかい赤色の強さに光ってて、
それを見えない見づらいように隠してるみたい、
強いのをコッソリ隠してるって分かります、じゃあ今は本気じゃないですね、ずるいです! でも、奥にある強いのは隠してても、きらきら綺麗で凄いですっ!
強くて美しいルビーの赤色が、きらすぅ、ぱぁッ!てこの方の中から、透けて蕩けるみたいに光ってます、
優しくてあったかくて、ぎゅうっと深いのにキラキラ明るい赤色です、とっても強いのが分かります!
この方、素敵です、お強いです!
特に本気になってくれたら、きっともう大好きになっちゃいます!
あ、でも考えてたらもうこの方、つよつよルビーさんがしっかり鋭いお口元を開いて、先に声かけてくれようとしてますね。
ここに来てから二秒くらいでしょうか、ご挨拶が遅れて申し訳ないです。
けれど口を挟むのは失礼ですし、お強いルビーさんのお声を聞かせてもらいましょう、楽しみです、もっとこの方を知りたいですっ。
「はじめまして、勇者の皆様方。
私はリオ・セネット、職務として魔王軍第2師団長兼、特別親衛隊長を担わせていただいている者だ」
わっ、お声もきちっと低くてなめらか、
優しい地熱がじんわり湧いているみたいで、静かなのにとっても色っぽいですね、素敵です、好きです♪
「既に当代享楽の神より諸連絡を貰っているゆえ、早速に話し合いを始めたく思う。
ただ、そちらが落ち着くまでは待っている。もし都合が良くなれば、言ってくれ」
え、待っちゃうんですか。そんなのイヤです、もっと聞きたいし、お話ししたいですっ。これは言わなきゃ、ダメですね!
琴子の笑顔をにっこり晴れ晴れ、ふわっと咲かせて灯します。
「はい、私は大丈夫ですよ。セネットさんとのお話し合いに、とっても興味がございます♪」
するとつよつよルビーさん、セネットさんは鋭さ緩めてちょっときょとん、目をぱちくりくいっ、と幾分開け直して、
びっくり三割まじめ七割のリズムで私に答えてくれました。
「そうか、貴女は確かに、いっとう強く見えるな。
ただ、他のお二人にはまだ時間が必要かもしれない、しかし待つ椅子、来客用の物もここには無いからな、
立ちっぱなしは短いほうが良いだろう、貴女もだし、他のお二人のこともだ。
なので貴女と先んじて話し合いを行い、のちに改めて整理していく、ということでよろしいだろうか。
貴女には繰り返しになってしまうから、まこと申し訳ないのだが、果たしていかがだろうか」
わー優しいっ! セネットさんは真心が豊かで、自意識が控えめな方ですね!
琴子とはまるで大違いです、強さも色々ありますものね、私はセネットさんの在り方も好きですよ♪
ともかくはいってお答えしなきゃです、繰り返しでも全然いいですよっ。
「はい、セネットさんのご提案を謹んでお受けいたします。
私たちの事情を気遣っていただき、本当にありがとうございます、
恥ずかしながら私自身は、お二人に目を向けられていませんでしたから、
セネットさんの優しいご提案は、心より嬉しい限りです」
セネットさんはほっとしたように薄く笑み、硬さと鋭さへするりと微曲線を添えます、隙のない温かみがお綺麗です。
「分かった。提案の承諾を、こちらこそありがとう。
ところでだが、遅ればせながら貴女のお名前をお聞きしてもいいだろうか。
今も穏当な時を過ごせているが、世界を移るのはそもそもが一大事だ。
これからの平安を約束するためにも、貴女がたとはよりスムースな話し合いを送りたい」
……あれ、私の名前にまで興味を持っていただいて、すっごく嬉しいのになんかちょっとイラッとしました……ああ、そっか、そうですねっ、玲衣さんと遥さんに申し訳ないですっ、〝あなたがた〟ってごく自然なお言葉でしょうに!
でも幸いにして琴子の笑顔は今だってふわふわにこにこ、
動揺皆無にできています、きっと大丈夫です失望とかされないはず、ですっ。
心もすぅすいっ、て柔ぁく静めて、嬉しさ楽しさにホワッと集中してっ、
私自身の、琴子自慢の、元気と綺麗で答えますっ!♪
「承知しました、遅れましたけどはじめましてですっ、清浄院琴子、と申します。
今スマホ、携帯端末の画面から綴りも共有させていただきますね」
「ああ、よろしく頼む。実りある話し合いにしよう、セイジョウインさん」
「はいっ♪ セネットさん、こちらこそ!♪」
あっそう言えば、セネットさんってめちゃめちゃ偉い軍人さんなのに、
私普通にさん付けで呼んじゃってますね……でもそう呼びたいですしセネットさんご自身も今のとこ受け入れてくれていますし、
きっと問題が起きるまでは良いですね♪
強くて素敵な方ですし、近い感じにお呼びしたいです。
それに……隠している本当の強さも、いつか見せてくれたら、その時きっと、幸せです。
琴子も恥ずかしくないように、もっと強く美しくなりますね。
どうせなら、もしものお楽しみがあれば、勝ちも取りたいですからね♪