36.ウォールさんとのおしゃ談義【挿絵あり・異世界の周辺地図】
(Side:雷切玲衣)
それからすぐ、私はウォールさんにケネス・クレイグのやらかし各種を尋ねて、
快く了承してくれた彼からセネットさんの来訪記念日のこととか、
〝竜帝国〟からの援助をあの魔王が身勝手に突っぱねたこととか、まァ様々なひどい話を聞くことができた。
曰く、2度目の来訪記念日パーティー ――セネットさんが来てから3年目のこと――ではケネス・クレイグが最初機嫌よかったから、
セネットさんは要望を言っても大丈夫そうだと判断して、
『水牛、蜥蜴、鷲の三族を始めとする、魔王国樹立の妨げになったひとたちへの敵視や締め付けを、
どうか平和なレベルにまで緩めてほしい』、
……という旨の言葉を、ムードに合わせてフランク寄りに上申したのだけれど、
でもあの魔王にとっては態度以前に内容そのものが癇に障ったらしく、
大きな釣り目をもっとギリギリ釣り上げてそれはもう激烈に赫怒、
壁が震えるかもって程の大声でセネットさんへ吠え放題、
長々諤々責めて詰って大変なことになったそう。
しかもあの魔王、セネットさんへ送る記念ホワイトケーキのカット直前、
本当だったら幸せと喜びで溢れる楽しい瞬間にソレやり始めて、怒鳴り続けの悪口まみれがもうずっと終わらなかったらしい。
一方のセネットさんは根気強く謝るのと宥めるのを繰り返して、ことば冷静かつ丁寧に重ねていって、
特に謝るのを〝もうほんとに何ッ度も〟繰り返したそうだけど、
魔王の許しっていう成果が出てくれたのはやっと2時間余りのちで、
同じパーティー会場に居たウォールさんたちはへとへとに疲れてしまったらしい。
しかも〝魔王の許し〟って言っても見るからに不承不承の顔色声色で、
あと当然のごとくセネットさんが全部悪い的な、〝記念日に理不尽な文句をつけるとは何事だ〟みたいな始末にされたから、
そのせいで魔王国統一戦争の、戦前戦中を知らない新世代のひとたちの大半、いわゆる魔王様崇拝組からはセネットさんの評判がめちゃくちゃ下がったそう。
――聞いて正直、ここまで酷いことされたセネットさん、あとさっきのお茶会も思い返すに絶対過去のコレだけじゃなくて他にも被害をグサグサ受けまくって刺されまくってるだろう彼が、
今なお反乱や簒奪行為に走ってないのに驚きと感銘と呆れを盛大×3に感じたけど、
次聞いた援助突っぱね事件はある意味さらにヤバい悪辣さで私も遥さんも愕然としてしまった。
国土国民への、直接、間接、総合的な損害の広さ深刻さが、ざっと予想するだけでもヤバ過ぎた。
当の出来事で鍵となってた――もしくはなる筈だった――他国は〝レインフォース竜帝国〟、
魔王国があるローネイチャー大陸より西の海を、
距離としては程々に越えた――地球で例えると、地中海のギリシャ北西端からリビアまでくらい――ところの、
縦長にでっかい大陸全土、ふっくら楕円を僅かにくの字っぽく傾けた形状のそこ全てを、
基本連邦制で統治する超大国とのこと。
ウォールさんに地図も資料も送ってもらえたから良く分かったんだけど、
同国は連邦制ながら大陸中心ちょい北、にある中央政府が非常に強力な権限を持ってて、
特に〝竜帝〟、国家元首で連邦大統領なお立場の竜族男性、
〝メルキオール・レインウォーター〟さんは知恵もパワーも政治手腕もキレッキレに絶大らしい――ただ種族は〝竜王〟とのことで、役職の〝竜帝〟と混じってちょっとややこしいな、とも思えた。
あと、そんな帝王とか皇帝っぽいプロフだけあって、
メルキオールさん一個人の命令権や決定権も一等広くて大きいものだとか。そもそも連邦制なのに〝帝国〟って称されてる辺りまあそりゃ、そうよね。
で、このメルキオールさんはかつて魔王国が人間中心の国家、オネストシャイン正王国へ無茶振りして土地を譲渡させようとした時に、
魔王国貴族院からの〝密かな〟協力要請――あのボッチ作業にこだわる魔王だったら、他国に頼ってるのがバレれば駄目デカいプライドで邪魔してきそうだものね――を受け入れてくれて、
二国間の交渉へ向けての準備、及び交渉の本番において、
竜帝国及び魔王国と正王国間における貿易の融通に、
産業技術の一部共有――正王国側は非公開でOK――といった利益の提示や、
精緻で巧みな弁舌の数々、押し引き擦り合わせ説得に、
与える利益の高見え駆使した妥協のフリまでフル活用して〝土地の譲渡〟を見事成功に導いてくれた、のだけど。
彼は協力の対価として貴族院メンバーの私財を中心に、
魔王国側から相当な鉱物資源や、さらには一部鉱脈の権利まで竜帝国へ持っていってしまったから、
ケネス・クレイグは一連の交渉に携わった魔王国のひとたちに対して怒鳴りに罵倒に半殺しどころじゃない体罰にと、
それはもう激怒して酷く痛めつけ続けた。
最終的には貴族院メンバーの内、事態に関与してなかったひとたちによる根気強い説得、
彼ら彼女ら大勢が必死の低姿勢――体も言葉も、精神も――で長々と、本当に毎日ずっと宥めてくれたことでどうにかあの魔王の怒りは収まったのだけど、
でもそんなオチツキ? だって薄皮の表面上に過ぎなくて、
結果から見ればケネス・クレイグの性根には〝竜帝国に借りを作って、富や名声まで奪われた〟この出来事から、
貴族院なり竜帝国なりメルキオールさんなりに向けた、
極めて重たい怨恨がドロドロでグツグツに煮え滾ってしまっていたそう。
熱帯夜に山火事が続いてるみたいな赤黒い憎悪が爆発したのは土地併合から3年後、
竜帝国で安らかに暮らしている四柱の強大なる神々が一角、
正義神で女神様をやってる超働き者な超良いひと、あと超美人な〝ペイトン・シャイアー・ホワイト〟さんによる、
魔王国のさらなる自然環境改善と開拓への協力――この場合は純粋な土木作業って意味で。女神ホワイトさんはめっちゃ能力がたっかい神様だから、お一人でも作業迅速にして範囲は絶大、出来栄えも鮮やかにして堅実な素晴らしいお仕事を成し遂げられるし、いつもそうして、そう出来てきた正義と善意の象徴、とのこと――に向けた、魔王城来訪の際だった。
女神ホワイトさんが魔王城会議室で改めて丁寧に、にこにこ笑顔で述べてくれた全面的無償ボランティアの提案を、
ケネス・クレイグはあろうことか即座に突っぱねて、
ホワイトさんを大声早口でバザーッと嘲りまくり、
下に見て馬鹿にして挙句の果てには両国間での戦争の可能性まで引き合いに出したものだから、
可哀想なホワイトさんはしゅんとした涙目で丁寧にごめんなさいと謝ってくれると、
うつむき加減なとぼとぼ歩きで会議室を退室、直ぐに空間転移で竜帝国に帰還してしまったのだ。
そんな道徳においても酷すぎて、魔王国の利益においても大損害すぎる話には後日談もある。まあろくでもないけど。
竜帝国で暮らす四柱の神々の中でも、女神ホワイトさんと仲良しさんな一柱&一柱の計二柱、どちらもスーパー麗しき女神様がケネス・クレイグの所業にブチ切れちゃったものだから、
その怒りを静めるために当の女神ホワイトさんが平身低頭で謝って謝って、
空元気の笑顔までにっこり披露して穏やかに説得してくれたらしい。
そしてホワイトさんがムード甘やかながらも頑固一徹、
平和目掛けて一直線なものだから二柱の女神様も渋々、悲しく、
拳を振り上げないままで居てくれた、とのこと。
つまりホワイトさんがあんまり優しくて、その上で平和に向けて引かないでくれたおかげで、
神々まで巻き込んだ二大国間の大戦争はどうにか回避されたと言える。
……ちなみにその時も、まだセネットさんは魔王国に来てなかったらしい。ホワイトさん止めなきゃよかったのに割とマジで、だってケネス・クレイグだけ狙ってぶっ飛ばすとか出来たんじゃないのめちゃ強女神様が三柱も居たら。残念よ。ほんっと、あの魔王が跋扈しててマジで残念。
いや考えが逸れたわね、聞くことも聞けた感じだし今ちょっと雰囲気暗いし――特に当事者のウォールさん――、
話題を一旦気晴らしに移しましょうおしゃれとか、
そうウォールさんのスーツ気になってたのよねぴっちりの店頭既製品ぽくて、あと色が黒なのも少し不思議だし、
失礼にならないよう尋ねてみましょう、じゃ色からね、
普段使いに黒スーツオッケーとかきっと文化の違いとかありそうよ、面白そう。
「ウォールさん、重大な出来事を詳しく聞かせてくれて本当にありがとう。
お陰で話し合いも一段落させてもらったし、ここで少し休憩っぽいお話がしたいんだけど、レネアシャのおしゃれや服のことでね、
こっちの世界だと黒のスーツって普通に着ていい感じなの?
地球だと結構、黒のスーツって時や場所を選ぶから、そこが気になったの。
ウォールさんが真面目に意気込んで、スーツを着てきてくれたのは見ても落ち着くし、
とてもありがたいって思ってるんだけど、ただ興味本位的なので、
魔王国やレネアシャのおしゃれ事情を教えてくれたら嬉しいわ」
ウォールさんはしょぼんと沈んでたお顔と頭の熊耳をまた、ぴっ! と真摯に立たせてくれると、
少し意外そうな、でもなんだかほっとしたような落ち着きで応じてくれた。
「あ、はいっ。黒はかなり流行ってます、どの場面で着ても多分だいじょぶです。
さっき言った竜帝国に、〝|セルピターナル《Serpiternal》〟って立派な服や宝石の会社、えっとら、らじゃりー……」
「ラグジュアリーブランド?」
声を挟むと合ってたみたいで、ウォールさんが〝あっ、それだ!〟的な、
ハッとなるほどフェイスにボイスをちょっぴり興奮に返してくれた。
「そう、それです! これもさっき言いました女神様のほか一柱、ホワイト様のご親友さんが始めた歴史ある会社で、
特に黒の色使いが有名なとこなんです。
めちゃめちゃ綺麗で伝統もあって、
昔っからセルピターナルの黒がほんと世界中で流行りまくってきたから、
スーツとか公式の場でも黒纏いが全然大丈夫になった、みたいな感じです」
と、そこでウォールさんは微妙に眉尻下げて、しょんもり風味に言葉を継いだ。
「――ただその、俺のスーツはセルピターナルじゃないです、期待してもらってたらマジすみません、
サミュエルの奴と一緒に買いに行った普通の、安めのです。
服であんまり高いのって、いつも気が引けちまいまして……だからセルピターナルとか立派な会社のは、
もっとずっと格好良いって、そこだけ誤解ナシに分かってもらえると嬉しいです」
「うん、それは分かるわよ。私も琴子も、そんなブランドの服を着たりもするから。
特に琴子はかなりしょっちゅうね、黒もすごい好きな娘だからきっと喜ぶわこれ聞いたら、
セルピターナルさんのお店にもいつか連れて行ってあげたいわね、一緒にも行きたいわ。
あ、お答えどうもありがとうね。興味深いブランドを知れて嬉しいわ、
あとウォールさんのお洋服のことはどうか気にしないで。そんなの人それぞれだもの。
お礼、言うの前後してごめんなさいね」
ウォールさんは誠実な慌てっぷりでちょいコミカルに、だけど優しく答えてくれる。
「ああいえッ、全然平気ですッ。俺こそ勝手に落ち込んで、どうもすみませんでしたッ。
清浄院さんも雷切さんも葵さんも真面目に美人なかたなンで、
そんなひとにこそ良い会社のは似合うって思います。
セルピターナルも機会あったら是非どうぞ、信頼できる会社ですからね」
「ええ、ありがとう。
でもウォールさんだって、とってもハンサムで格好良いと思うわよ。
ただおしゃれってほんと好き好きだから、どうか無理とかはしないでね」
「え、あハイ、かっこいいです……? お気遣いありがとです、どうも……」
ぽかんとびっくり顔されちゃったから、私はちょっと吹き出してしまった、
あとおしゃれが不得手な彼に対しての、よくない悪戯興味も湧いた。
「ふふっ、いやマジに本心よ?
それとウォールさん、これ失礼に当たるからイヤとかだったら直ぐ言ってほしいんだけど、
さっきまでここに居た琴子ね、彼女ノーメイクのすっぴんだったって、気付いた?」
「……」
さらに呆けて固まっちゃうと、2、3秒して灰色熊さんは再起動、純でプラス感情な驚愕を見せつけてくれた。
「エッ!? そうッなんですかッ、いやあのそうだッたンですかッ!?
だってあんなに、めッちゃお美しいのに!? すッごいお美しいままなのにッ、あッいえ〝まま〟とか無礼です違いますッ、てかもう言っちまっててほんまじすンませんッ、でもそのッ、素のままでめッちゃめちゃ綺麗なかたなんですね、清浄院さんって!」
そんな反応、褒めて認めてくれたウォールさんの心が、私はもう愉快たっぷりに嬉しくて、笑った。
「あはははっ!♪ そうよ、琴子はほんっとうに、綺麗で強くて、可愛いの!♪
だからレネアシャに来てきっと良かったと思うわ、組み技だってもう使うことができたしね、琴子は、絶対きっと、楽しくよ!♪
アーガイルさんもステリーさんも強いひとだったから、琴子はもうとっくに楽しめてるわ、
ウォールさん、レネアシャにありがとね。
いやちょっと変な言いまわししたかもだけど、でも嬉しいわ、ここから琴子の明日も完璧にするために入場シーンの打ち合わせ行くから、ウォールさん、もう少しお付き合いをよろしくね!♪」
ウォールさんもセネットさんも優しくて頼りになるから、私も……いえ私こそ、
琴子の友達としてドクターとして、最高の最善を尽くしたい。
琴子ならどっちみち全てに勝つでしょうけど、
でも出来る限り嬉しさや喜びを、増して増していっぱいにしてあげたいもの!♪
――だから。明日も頑張ってね、琴子!♪




