35.仕返す愚痴ほど盛り上がる
(Side:雷切玲衣)
悪口のためには情報も要るし、とりあえずウォールさんにサッパリ訊いてみる。
「ところでウォールさん、ケネス・クレイグのスキャンダルとかない?
私あいつ嫌いだから、ちょっとストレス発散とかしたいんだけど。弱みとか失敗談とかで」
そしたら優しい灰色熊さんはびっくり、肩を揺らして、
「エッ、陛下のあの、悪いトコですか。
そりゃ結構ありますけど、雷切さんすごいご親切なのにそこまで嫌いって言うのはやっぱりお茶会がよほどだったんですね、
セネット閣下からも聞いてますけど陛下の無理強いとか八つ当たりとか、無礼無作法があまりにヒドすぎたみたいで。
いや勿論、答えるのに抵抗なンてないです、でもすみませんその前に雷切さんと、
もし大丈夫なら遥さんにもお聞きしたいんですが、
お二人は陛下のことをどう判断されましたか。陛下のお心やご気性について、外からの印象を知りたいです」
「分かったわ、まず医療局でケネ――」
「嫌いです。私も大嫌いです、平気ですからいくらでも文句が言えます」
私の言いかけに、遥さんの硬く鋭い声が被さった。
その聞くだけでも、な強気っぷりに感心しつつ彼女を見ると、
やっぱりお顔も眉山眉尻上がり、目も大きくぷんすこ怒ってくれてた、けど瞬間でハッと気付いた表情、
次いで申し訳なさそうな恥じらい顔に即変し、オーバー可愛い慌て方で私を見ながら頭を下げた。
「すっ、すみません言葉を遮ったりして。玲衣さん、どうかお先にどうぞ」
「あら、いいの? 威勢バッチリに言い切ってて、せっかくカッコ良かったのに」
「え、あっ、ありがとうございます」
遥さんがほっぺ朱色に、より明るく照れつつ続けてくれる。
「でもやっぱり印象って、文句じゃなくて冷静に言わなきゃいけないって思いますから、
私がもう少し落ち着くまで玲衣さんに話してもらいたいんです。
なので玲衣さん、お願いします」
「了解よ、こっちこそありがとうね。
遥さんもウォールさんもしっかり考えて場を見てくれてるから、すごく喋りやすい気持ちだわ」
ちょっと笑って答えると、私はウォールさんに向き直って表情を緩く引き締める、
微クールな真顔で止まらず言葉を発する。
「じゃ医療局でケネス・クレイグに会って話して、尋問魔法ってのも掛けられて。
そんないきさつで、私が知識や技術を色々ね、伝えられそうなのは大体提供したのにヘンな駄目出しとか不満とか言われた事からだけど、あ、
勿論怒らせないように上手いことかわしてたわよ、
でもあーじゃこーじゃを聞いててすぐ思ったというか分かったのは彼ね、
自己中コミュ欲しがりのDV男と感じが似ててもうメチャ厄介だったのよ。あとセンサイさん。最悪の意味で。
あ、DVって家庭内暴力のことね、ケネス・クレイグは家庭というか、国や世界さえ自分のものって思い込んでる的な。
だって私含めた他人を自分の思い通りに傍へ居させたがるヤツで、
どこまでも彼中心な心情において、私やウォールさんたちが無理矢理でも近くに寄り添わなかったらすぐ拗ねてバカみたいにキレ出すでしょ。
お茶会で見て確信できたわ、あいつホント心が狭小さい棘なのよ、
しかも自動で刺してくる感じ。最悪。
ごめん話戻すわね、あいつ無礼講とか言うけどさ、
それって彼の場合は自分だけ中心に置いた、自分だけが心底認められるための、
延々気遣わせな一人マイ世界になってるのよ。
他人を必要としてるのに見てないし、ずーッと自分の都合だけ見てる。
まともな拒否も嫌えばお世辞も嫌ってて、
ただ彼の意に沿う方というか彼の希望通りというか、そんなお認めだけ欲しがってたわ。
真心ッぽい寄り添いの強要も含めて、何もかもを自己中にコントロールしたがるの。
国家というかあらゆる大集団小集団において、マジの独裁者だってしか言えないわ。
時間戻すけど、ケネス・クレイグがそんなだから私、
医療局ではほんと細心の注意を払ってご機嫌伺いにご機嫌取りしてたの。
まぁお茶会では琴子が声と言葉で叩き壊しちゃったけど、むしろ爽快だったわ。セネットさんが優しくて真面目なひとなのもすごい良かったし。琴子にとっても、私たちの安全って意味でも。
あ、ごめんなさいセネットさんを利用するようなこと言って、というか現にそうなっててほんと重々申し訳ないわ、
でもセネットさんにもウォールさんにも心の底から、ほっとする感謝でいっぱいよ。
私たちを守ってくれて、どうもありがとうね。
未知の世界で安心して生きられるのは、何にも代え難い喜びだもの」
――最後少し話題がずれちゃったけど、私たちには必要なことだったと思う。
ウォールさんもそれを分かってくれてるのかやっぱり平和な焦りを見せてて、温厚続きにアワアワ応じてくれる。
「いえっ、それはホント大丈夫ですからっ。
雷切さんたちは世界ごと違ってる場所の、分からンだらけのとこに来たばっかりですし、
ましてや初日だと神々の恩寵貰っててもこっちで成長できてませんから、強さが足りなくて不安が多いと思います。
なンで少しでも、落ち着ける雰囲気が作れてたら幸いです、セネット閣下も、俺たち部隊員もです。
あっ、それと気になってたんですが、清浄院さんの恩寵はきっと身体能力の向上ですよね、
でもあれほどの速さに力を得られる強化具合だと恩寵がそこ一本に偏ってそうで、あの差し出口かもですが心配です、
他に遠隔攻撃とか治療とか、役立つ恩寵は貰えていないんでしょうか?」
「あ、そのことね。琴子はちょっと強情なのと、
あと元からの強さ綺麗さに自信満々だから貰わなかったのよ、恩寵。一切。
だから今のところ、地球で鍛え込んだ体と心だけでやっていってる感じね。
技術とか知性とか、その辺り諸々も含めてよ。ちょっと呆れるけど、私は好き。
凄いって思うわ、琴子のこと、全部」
そう正直に伝えると、雰囲気静かに戻ってたウォールさんはさっき以上に、むしろ今日一番の驚愕を表した、
目の開きっぷりも声もおっきくなってた。
「エッ、はいっ!? 清浄院さん恩寵貰わなくて、地球に居た時のマンマであの強さなんですかッ!?
だってその、失礼かもですが地球のひとたちってスキルも魔法も無いですし、身体能力も低めなンですよね、
でも清浄院さんあんなに、とてつもなッく、強くって、えっ、凄、
あの凄いです、めっちゃめちゃ、凄いですッ……!!」
「分かってくれるのね、嬉しいわ。じゃ、時間もあるし次、遥さんに聞いてもいい?」
「アはい、もちです、葵さんもマジ嬉しそうにしてくれてますし信頼が通じてるんですね、流石です」
「そうなの? いや信頼は確かに、そうだけど」
ウォールさんの、びっくりと興奮がまだ輝いてるお顔から視線を外して遥さんを見ると、
確かにいつもの気弱さはどこへやら、溌溂溢れてうずうずした笑顔で、瞳がすごいキラッキラしてた。
――琴子のことをこんなに認めてくれて、喜んでくれてる彼女の気分を損ねちゃうのはマジメに申し訳ないけど、
でもココは司会進行と割り切って、先ずはお礼からさっくり伝えた。
「遥さん、いつも琴子を見てくれてありがとうね。
でもちょっと、今は話を戻してもらってもいいかしら、ほらあの、不愉快な魔王のこと。
もし気持ちが嫌とか、言いたくなかったら私がそれウォールさんに伝えるから、遥さんは今の感じとか、どう?」
「あっ、はいっ、大丈夫ですっ」
誠実な彼女は表情をぴしっと引き締め、几帳面なムードで続けてくれる。
「えっと、私も琴子さんが好きで、凄いって思いますから、魔王さんのことは嫌いです、ッ違いますっ、琴子さんと話を繋げたり、思うのを繋げたりとかしたくないです、琴子さんこそが凄いんです。
だからあの、琴子さんとは話を全く別にします、琴子さんのことは一段落させてください。
それでやっと、魔王さんの嫌なのが喋れます」
遥さんがかなり焦って困って、少し泣きそうにもなっちゃってるから私はちょい笑って頷きかけて、
目を合わせながら楽に言う。
「ええ、分かってるわ。大丈夫よ遥さん、琴子が凄いのも遥さんの優しさも全部分かってるし、
それこそがめっちゃ良いことで好き!♪ よね、琴子は琴子よ、
遥さんがきちんと知ってくれてて、気遣ってくれるからとっても安心できるわ。
だから大丈夫、カンペキ切り替えちゃってさっさとヤなこと終わらせちゃいましょ。
もし遥さんが平気だったらだけど、お願いできる? 無理ならほんと、無理ってすぐ言ってね」
すると遥さんはハッとした表情で瞳をますます潤ませちゃったけど、
小さめリップをキュッと閉じて泣くのを堪えて、決めの態度もカッコ良く、意気込み再起してくれた。
「――はい、玲衣さんありがとうございますっ、もう全部大丈夫です!
お待たせしてすみませんでした、なので印象の、魔王さんのことですが、
あのヒトはウォールさんたちとは逆で、全然我慢せずに甘えまっくてる子ども、みたいに思えます。
自分にも直接甘いですし、他のひとにも延々と甘やかしを強要してくる感じです。
だから魔王さんが強いのはそうかもしれませんけど、私は気持ち悪くて嫌です。
整ってないのにそれを良しとして、むしろそれこそが最上だとカン違いして自分だけなのをどんどん押し付けてくるから、
私は嫌で嫌でたまりませんでした。
あのヒトが強いからそれやれているんだと思いますから、無茶苦茶にやっつけられてほしいです。
でもやっつけるのは琴子さんじゃなくて、お友達のセネットさんが先にやっといてほしかったです。
琴子さんは押し付けられて、私に巻き込まれて、優しいから受けてくれたんじゃないですか。
私は弱くて、琴子さんよりずっと弱いから本当にすみません、ごめんなさい。
あのウォールさん、セネットさんはなんでやっつけてくれなかったんですか?」
遥さんの燃えてる純情が懸命一直線にズンズン続いて、
でもあんまり率直過ぎるから口を挟むべきかちょっと悩んだけどウォールさんは少し寂しそうで静かな真顔、
まるで怒ってない様子だし大丈夫そう、なので私は黙して彼を見て、答えが来るのを待つことにした――2秒もしない内に太い声が粛々と、しっかりな意見を伝えてくれた。
「遥さんが仰ったように、友達だから遠慮なさっているんです。
お怒りはつくづくもっともですし、
セネット閣下が恩義に忠誠に、差のある友情、
上下関係や友達関係にこだわり過ぎているのは実際確かだと思います。
ただ、セネット閣下は陛下にまだ期待しているし、ずっと感謝もしてるんです。
陛下は機嫌イイ時しかそれ返さないのに、セネット閣下は、ずっとです。
プラスの気持ち全部を向けてあげてて、特に友情をでっかくです。
国に受け入れて貰った恩と、たまにしか合致しない友情で、いつまでも尽くし続けているんです。
でも、遥さんたちがセネット閣下を許す必要は無いって、それは分かります。
陛下の無理難題や身勝手を未だに止められてない、俺たちみんなの責任です。
遥さん、雷切さん、清浄院さん、皆さんには本当に申し訳ないです」
ウォールさんが深々と頭を下げて、そのままさらに言葉を継いでいく、つらいでしょうに誠実な褒め言葉をくれる。
「遥さんと雷切さんが陛下に持たれた印象は的確で、根っこからきちんとしてて、俺は感心しきりでした。
あんなにはっきり分かりやすい言葉にしてくれて、ありがとうって気持ちでパンパンになれました。
だから怒るのって大切なんですね、ミミとかのこともかなり見直せました、ほんとにありがとうございます。
陛下はあの、セネット閣下の来訪記念日でも昔、ひどいことしてるんです、
でもその時でさえセネット閣下は我慢して、許して、ずっと仕えてるだけだから、
すみません、ほんッとすみませんッ、俺たちもなんとかしてほしいんです、
心の中ではすごい身勝手なのに清浄院さんに期待してるんです、ケネス陛下を倒してほしいって、ほんとすみません、
殴られて、刺されて潰されても仕方ない押し付けだと思います、
俺の正直がこんなにひどいからどうしようもない押し付けをやってて、俺どうなってもいいですッ、すみませんッ……!」
――太くてしっかりした声が、僅かにシットリと潤んでた。
だから私は遥さんの説得に向けて、しんと真剣に声を伝えた。ウォールさんを許すも許さないもないし、また頭を上げてほしかった。
「遥さん、もう琴子に任せましょう。明日の決闘で、琴子に頑張ってもらうのが一番良いわ。
琴子はセネットさんと恋人同士だし、決闘に勝ったら琴子が上手いことやってくれるわよ、
特にセネットさんの悩みとか、悪いこだわりとかコンプレックスとかを、
ずっと軽くするか無くしてくれるんじゃないかしら。
実際ね、既に決闘はおこなうしかないしぶつかり合うしかないんだし、
琴子だって勝つためのやる気でいっぱいなんだから、
当事者以外のセネットさんが闘うのは完全にお門違いってものよ。
少なくとも明日の決闘においては、主役は琴子なんだから。勝ってくれるって、信じてる。
ずるい言い方かもだけど、遥さんだって同じ気持ちでしょ?」
遥さんは少し顔が赤くて、まだ熱や興奮で上気している様子だったけど、
目元や瞳はきりり悲しそうに澄んでて気持ち冷静になってるって分かった――現にいま、硬く控えめな承知をくれた。
「……はい、頑張るのが琴子さんなのは、本当にその通りだと思います。
悔しくて、言い過ぎました。私はなにもできなくて、悔しくて、怒ったのは私のこと、でした。
玲衣さん、気付かせてくれてありがとうございました」
そして遥さんはウォールさんに向き直り、同じくらい丁寧に腰から頭を下げて、硬いまま真摯な声を送った。
「ウォールさん、こちらこそすみませんでした。
琴子さんが受け入れてくれた事柄に対して、勝手な八つ当たりをぶつけてしまって本当にごめんなさい。
今でも私たちみんなで、琴子さんを助けるためのお手伝いをしていきたいと思っていますから、
どうかこれからもウォールさんのお力を貸していただけますか?」
ウォールさんはお辞儀の姿勢を崩さず、濡れかけの我慢をハキハキと、聞こえやすく発してくれる。
「はいっ! 勿論です、お二人の優しいご寛恕に恥じないよう、全力でお手伝いに取り組ませていただきます!」
――遥さん、ウォールさんの雰囲気はもう大丈夫そうで、
私はほっと安堵して声掛け、双方とも頭を上げて話し合いの再開を望ませてもらった。
すると二人ともちょっとアセアセ、急ぎのぴしっとで姿勢を立ち直らせたから、私は少しだけ笑ってしまった。




