表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/40

34.穏やか熊さんとおこ鷲さん

(Side:雷切玲衣)



 そうして話を聞いたり、質問したりしている内に色んな事情が分かった。


 まず琴子が訓練場で動いたり論じたり沢山頑張ってた詳細や関連する情報、


 一試合目の状況とお相手たるサミュエル・アーガイルさんのこと――ファーストネーム的に、先の歴史談話でもちょろっと登場してた感じのひとだったから軽く詳細を尋ねれば果たして、灰白(かいはく)の蜥蜴族の(おさ)直系、惜しくも後任から外れた傑物だって答えが返ってきた――とか、


 ウォールさんによるスキル〝シャーヴ〟の実演を交えた、

 ファイターが実はめちゃ強いことの根拠挙げ説明会by琴子とか、


 琴子のしなやかで綺麗つっよい練習風景を挟んでからのマシュー・クレイグ一行来訪、

 トラブルに遭った遥さんが聞くだけでも可哀想だったこととか、


 第1師団のプライドを納得させるため云々で琴子がステリーさんとの二試合目に望み、無事に再び勝てたこと――セネットさんは琴子と遥さんを巻き込むのや、試合の実行を避けるために割と強気に交渉してくれたらしくて、そこにはほっこりと感心できた――とか、


 二試合目のあとに琴子が優しさたっぷりの冷徹で、

 魔王軍のひとたちがより高確率に生き延びられる手解きをしてあげたことなど、


 そんなこんなは聞いてるだけでもまあほんと琴子の人の良さや、どこまでも奮って進んでいける(やわ)いパワーと生真面目が出ていて、

 またスマホのメッセや対面の声で褒めてあげたい気持ちがウズウズ湧いてきてしまった。


 琴子はめっちゃめちゃ凄いから、心底いくらでも、凄いって伝えてあげたいっ!


 ――でも、ただ今は別の大切があるから、ウォールさんとの話し合いや、種々の考慮を続けなきゃ。


 マシュー・クレイグの第1師団はウォールさん曰く、

 魔王ケネス・クレイグ大好きな若者たち、統一戦争後に生まれた新世代メンバーで固められており、

 特別親衛隊の多くも同第1師団から抜擢され、以後は師団員との兼任となるらしい。


 なお、特別親衛隊長をセネットさんが務めているのはひとえに強いから、とのこと。

 彼は事務処理能力も高いそうだけど、何より圧倒的な強さ、

 億兆の兵をも凌駕する武勇をケネス・クレイグ及び、魔王国政府から評価されているとか――琴子が聞いたらますます喜びそうね、これ。

 今夜眠って、琴子がこの世界でどこまで成長できるのかにもよるけど、

 出来ればセネットさんと試合なり決闘なり喧嘩なり、そんな本気同士をやらせてあげたいわ。

 専属ドクターとしても友達としても危険なら止めなきゃなんだけど、でも、どうか琴子とセネットさんが本気で本気の、凄い闘いにまで至れたらそれが一番よ。ええ、それこそが一番、()いわ。

 だから琴子、もっともっと強くなって、綺麗になって驚かせちゃいなさいっ!


 ――あ、また考えが逸れたわねちょい修正しなきゃ、ウォールさんのお話と、

 そこからの情報整理に精査に拡大、今なすべきことに集中よ、集中!


 で第2師団、セネットさん直轄の大規模部隊には統一戦争前から生きていて、生き延びられた北大陸古株なひとたちが集められており、

 当初はセネットさんの武力、暴力による強制で魔王国・魔王軍の忠実な兵隊へと変えてしまうことが期待されてたそう。魔王自身からも、政府の魔王イエスマン勢からも――まあイエスマン勢と言っても過半数は恐怖心や生存本能から、

 必要に駆られてそうなってる、そう振る舞ってるらしくて、

 おこぼれの利益を期待する欲深いひととか、

 魔王を本心から崇拝する新世代のひとはまだ少数に落ち着いているとのこと。


 っと、今はセネットさんと第2師団の情報整理ね、

 集められたこの土地古株のひとたちは最初当然、セネットさんと魔王軍への反発が大きくて、

 ウォールさん自身も周囲の皆さんも、もう全員が気落ちガタガタな渋々ムードだったそう、

 でもみんな怖いし生きたいし、自分の大切なひとたちにも生きてほしいから無理に従ってただけで。


 そんな風に揃って鬱ダウナー、顔も体もズッシリ鈍くて重たかった第2師団のかたがただったけど、

 セネットさんは謝罪こそ絶対しなかったものの――まあ彼の立場的にも、お互いの心情的にも言わないべきよね、あとで謝るくらいなら真っ先にケネス・クレイグを止めてろって話になるわよ――生真面目と優しさと気遣い豊かに、誠意を尽くして対応し続けてくれたからウォールさんたちもだんだん心を穏やかに溶かしていってもらえて、

 集められてから三か月後にはセネットさんへの平安な尊敬と、静かな諦念を得るに至ったらしい。


 でもたった三か月で雰囲気落ち着けるってそれめっちゃ早過ぎでしょ、と思って実際に尋ねたら、

 どうもセネットさんはウォールさんたちが心無い連中、多くは新世代のひとたちから、

 嘲りや非難や差別や暴行を受けた時にも逐一、即座に問題解決へと奔走し、

 加害者及び魔王国からの賠償と、

 善良な医師やウィザードによる心身のケアが行われるように取り計らってくれたそうで、

 これら無数の努力が信頼へと結実してくれた、とのこと。


 ――ただ、もう少し突っ込んで訊いてみると、

 加害者からの謝罪の発言や文書はやっぱり一つも無かったらしく、

 あと当然魔王国と、そこの軍高官たるセネットさんからも同様だったみたいだからさすがに気になって、


「あのウォールさん、ほんとに納得してるの?

 三か月って早さで魔王軍の、すごい大規模な部隊として整ったこともだけど、

 ウォールさんたちがちょっと優しすぎて心配よ。


 本来は我が強いお土地柄らしいのに無理して(こら)えすぎてはないかしら、

 失礼でごめんなさい、ウォールさんたちの心は今、本当に大丈夫なの?

 心もだし、体もだけど、沢山のストレス、悪い負荷を抱え込んでるとかは、ない?」



 こんな具合にまた口を挟んだところ、

 ウォールさんは目を少し丸く、きょとん風味にびっくりしながらも嫌気(いやけ)一切無しに、

 割とフラットなムードで応じてくれた。


「え、いや大丈夫ってか、最近は特にグッと平気な感じで、あんまり思ったことなかったです、ね。

 セネット閣下がすこぶる頑張ってくれてるのはみんな分かってますし、

 それで文句があるかって言うと、えっと、微妙というか、多分皆無です。


 あっ、でもさっき言ったみたいに、俺たちはいつも荒れがちなとこ、

 気候やモンスター退治とかで暮らしてたンで、

 それで我慢とか納得とか、今あるので満足していく方向に気構えしやすいンだと思います、てか実際そうです、

 俺やサミュエルやその周り、第2師団はみんな同意見じゃないでしょうか。


 ただ離れたとこや、貴族院の中には怒りを秘めっぱなしのひとも結構いますよ。

 これもさっき言いました、夜明けの鷲族でいま(おさ)やってるミミもそうです。

 たまに話すと静かな言葉で、めらめらキレっぱなしです。


 勿論、ミミだって我慢はできるやつなんですが、元々短気な方なのに加えて更に沸々と怒りを溜め込んで、

 悲しかった出来事や犠牲になったひとたちを、絶対に忘れないようにしてる感じです。

 いつもは上品ぶってますけど、本質はおっそろしく熱くて、燃えてるやつですからね。そこは尊敬できます。


 だからえっと、話を戻しますと、俺たちに関してはだいじょぶです。

 ご心配ありがとうございます、みんなにもまた一応、無理とかしてないか確認しておきます」



 ――いや()いひと過ぎない!? ウォールさんも、周りの人たちも、あと怒ってるらしいミミさんたちも!


 きっと過去の自然環境やモンスター、そして今のケネス・クレイグから受けてる苦難を生き抜くためにここまでの辛抱がかたち作られたのでしょう、けど、

 でも優しすぎるし甘すぎよ、ミミさんたち怒りっぱなひとがちょっと可哀想。

 や、勝手な同情はダメだしミミさんプライド超高そうだし、だから可哀想は撤回ッ、凄いのよミミさんたちは、

 怒るの頑張っててガマンとのバランスも取れてて、

 深い情をコントロールできてるっぽいのがほんとに、めっちゃ凄いって思うわ。


 ただウォールさんたちも過去現在ずっとガマンせざるを得なかったんだし、

 自他を守るために穏やかになっちゃうのは仕方ないんでしょうね実際のとこ、

 だけど私はミミさんの優しさが激しい怒りで、ずっと燃やされてるのを称賛しまくりたいわ。ミミさんと、近いひとたちみんな、ね。

 自分のためにも周りのためにも広く怒れるひとって、とってもあたたかいひとだから。

 パッと見だとギラギラ熱いくらいで、触れてみたらきっとあたたかいひとたち。

 責任感あって怒りっぱなミミさん、優しくて素敵そうね、会いたいわ!♪


 あ、今はウォールさんに返事しないとね、聞きながら考えちゃったし、ちょっと()も空いちゃったし。


「そう、分かったわ。丁寧なお答えを、どうもありがとうね」


「はい、こちらこそです。お役に立てて、俺も嬉しいです」


 黒スーツぴっちりな灰色熊さんはやっぱり朗らかスィートに、微笑んで応じてくれたけど、

 でも――だから? 私は〝穏やかみ〟にちょっと思う、

 彼らがケネス・クレイグを止められなかったのは、

 みんな辛抱が優しすぎて、気質の逆にある狡猾やクレバーといった冷酷な強さが丸っと欠けてたから、

 というのもあるんじゃないかな、って。


 ただ当然、そんな失礼は絶対に言えないし、

 今は心に秘めといて(あと)で琴子と遥さんとで共有するくらいなんだけど。


 ――ちょっと(はなし)と、思うのを変えましょう、ケネス・クレイグの愚痴大会とか。

 ほらあれよ、ウォールさんのご意見も加えて、同魔王への認識をより正確にするためにも!


 あと私情。あの見目だけ男は、許さない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ