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31.フェアと優しさ・2

(Side:清浄院琴子)



 私たちは出入り口近くの、トレーニング器具もあんまり無い場所に集まって、

 私が中央の横並びでセネットさんらを待ち始めました――左の遥さん、右の玲衣さんも程良く真面目、程良く穏やかにリラックスしてくれてて頼りになります、遥さんがちょっとだけピシ、と硬めなくらいです――、

 すると2分もしない内に出入り口のドア、ヒノキと磨りガラス作りの両扉からノックの音が、

 先ほど聞いたセネットさんのリズムでゆったりこん、こん、通ってきました。


 優しいノックは三度目で止まり、やっぱりセネットさんの生真面目地熱に落ち着くお声が、


「こんにちは、こちらはセネットとウォールだ。

 いま都合良ければ、話し合いに入らせていただけないか」


 そんなご確認と伝わりましたので、私も声を明るく張って、「はい、どうぞお入りください」、と応じます。


 セネットさんのお声はまたすぐに、


「分かった、では失礼する」


 と返ってきてくれて、一拍置いてからドアが両方とも引き開けられました、

 ドアレバーを引いてくれてたのはいま黒スーツのウォールさんで、

 彼は両扉を自然に止まる垂直位置までピタリ引いてから手を離し、

 わずか後ろのセネットさん――今はもうお顔も雰囲気も安定、肌色もあたたかでほっとできるかた――へ、

 どうぞッ、と硬めに促してくれます。


 セネットさんは軽くお礼を告げてからこちらへ入室、ウォールさんも扉を閉めながら続いてくれます。


 そうして近い位置、でも男女を考慮してくれたのか、少しだけ遠めな? 1.5メートル間隔で向かい合い、

 挨拶をセネットさんたち、私たちの順で交わします――セネットさんのスーツはお体にすらすら合ってる深み青紫で、

 上襟のオーバル・ルビー含めて煌めき格好良さ変わらずですが、

 ウォールさんの黒スーツは筋肉でかなりぱつぱつです、

 厚めの体格で張っちゃってるから袖裾も少々短め、手脚の長さにギリ足りてませんし、たぶん吊るしの黒スーツでしょうか?

 ネクタイはネイビー、シャツは白に手堅く纏めてくれててサッパリノーアクセにノーメイク、タイピンすら無いめちゃきちんと具合です、

 ここまで飾らないフォーマルコーデだとスーツ自体が本当に肝心なのですが、でもウォールさん、きちきちのパッツリブラックで……間に合わせめいた仕方無さとか、分かんないけど必要だから安いのにしたとか、そんなよくない雰囲気が出ちゃってます、ウォールさんハンサムですのに悔しいですっ、

 お顔は今コチッと緊張しててもなお精悍、ガッシリボディも均整に逞しいのですからもっとおしゃれしたらいいのに、って思います、

 大隊長ともあれば稼ぎもあるでしょうし、幾らかは使って磨きを掛けないとウォールさんの美丈夫っぷりが勿体ないです、あ、いえ私見が過ぎますね、

 とてもお節介です、やめましょう。


 第一、私も今はほぼオフな格好、シャツブラウスにデニムにすっぴんですしウォールさんにどうこう思っちゃ駄目です絶対、

 口に出さなくとも恥ずかしいことです。

 ウォールさんもセネットさんもフォーマルに、すごい真面目にしてきてくれたのですから、私も話し合いに集中、ですっ。



 ――私が内心に不躾をやらかして反省、気持ち新たにしてからも挨拶は進んで、私の方から言い終わりに、


「こちらこそよろしくお願いします、お互いに実りあるお話が出来ましたら嬉しいです」


 という旨を伝えたら、セネットさんは顔色声色硬めなままに、でも優しく気遣ってくれました。


「ああ、私たちも勿論そのつもりだ。

 清浄院さんはトレーニングの終了直後であるし、最大の要点から伝えさせてもらう。


 それと、事後報告になって申し訳ないが、既に私のスキルで当練習場全体へ防音処理と防転移処理を施しているから、

 外部に会話の音が漏れることは一切無い。


 また、練習場内に私たち以外の侵入者や遠隔感知スキルの気配が存在しないことも確認済みだ。


 なのでどうか、清浄院さんたちは心身を安らげたままで居てほしい」



「はい、分かりました。

 真摯で手厚いご配慮を、どうもありがとうございます」


 私の承諾にセネットさんが目元をほんのり和らげて、


「そうか、私たちにせよ手段にせよ、即座に受け入れてくれて幸いだ」


 と応じた直後、優しさをまたキリリと引き締めて、音は低くなめらかに、聞きよい説明を続けてくれます。


「では本題だが、ケネス陛下の(げん)戦闘能力について、

 端末のネットワークや図書館などで検索不可能な部分を教えたい。


 該当する能力たちは諸事情あって、

 ケネス陛下が一切の努力や修練無しに外付(そとづ)けてしまったものだから、

 あれらをケネス陛下がいま得ていること、決闘で用いること自体が、

 清浄院さんにとってあまりに不当なハンディキャップだと言える。


 たとえるならば、出場者が大怪我しないように戦闘手段を限定した試合において、

 一方だけが致死性の武器や毒物を使ったり、

 さらには同じ物々(ものもの)を有する多人数の増援を呼び出したりするようなものだ。


 過激なたとえに思えるかもしれないが、陛下の奪った能力の有用性と危険性を考慮すればまだ足りない。


 清浄院さんが対面するだろう苦境は悪しき理不尽に他ならないし、

 そんな理不尽を及ぼす手段はレネアシャにおける道義や良識において、絶対に決闘で用いるべきではない。


 国政においても当然悪しき手段なのだが、しかし多分に効果的ではある。

 だからこそ私は陛下に協力し、これらの能力を奪い取ってきた。


 話が逸れて済まない、前述した通り清浄院さんは明日(あす)の決闘で大変な不利となってしまうから、

 せめて決闘中の困惑や、それにより生じるかもしれない危機を少しでも軽減できるように、

 秘匿された情報の共有に訪れたわけだ。


 よく聞いてくれ、陛下が外付けている能力は全部で三つ、

 大力(たいりき)、治癒、高速だ。


 まず大力、これは身体的、スキル的、魔法的な、あらゆる出力を常時上昇させ、

 さらに〝大力の開放〟を心に念じることで、出力の上昇値を超莫大に増加させる。

 開放を念じての効果時間は三十秒前後、回数も一日五回と限定的ではあるが、

 しかし極めて危険だからいっそ使わせない方が()い。

 そして今言ったこの、〝最初から能力を使わせない〟という対処法は他の外付け能力二つにもきっと有効だ。


 清浄院さんも今夜寝ることで、人生経験如何(いかん)によるレネアシャでの成長が得られるだろうから、

 その際にスキル封じや能力封じ、あるいは難しいかもしれないが、陛下を即刻打倒できる手段を得ておくべきだ。

 私見ではあるが、不利益にはならないと信じる。


 さて、二つ目の治癒だが、これは常時の効果は存在せず、

 〝治癒の開放〟を念じることで、身体と精神の治癒を素晴らしい効力で果たしてしまえる。

 治癒の速度や精度、効果範囲や対象人数のどれもが凄まじいから、

 これも陛下ご自身に使われる前に封じるか防ぐか、もしくは倒すか、を成すべきだ。


 また効果範囲の広さから、治癒の開放を空間設置式で行われ、任意のタイミングで後から効果を起動される、

 という事態も案じられる。

 いずれにせよ能力を止める手段は必須だろう、どうか心に()めておいてくれ。


 最後に高速だが、これは大力を速度上昇に特化させたバージョンと考えてもらいたい。

 開放を念じられれば、スキルや魔法の発動速度や弾速を含め、

 陛下のあらゆるスピードがより爆発的に上がってしまうのも同様だ。


 以上、最重要事項の共有はここまでだ。

 もし質問などがあれば答えるから、ひとまずは考える時間を置きたく思う」



 ――考えると言うか、すっごいありがたい情報がいっぱいですからまずはお礼を伝えます、

 嬉しくって気持ちがほこほこ熱くて、ちょっと早口になっちゃいますっ。


「セネットさんありがとうございますっ、絶対に大きな助けになります、琴子は勝ちます、勝てそうですっ。

 きっと勝ちますから、頑張りますっ」


 そしたらセネットさんのお返し、ちょいゆるに安堵してくれたとろ火の声と、

 玲衣さんのびっくりことば? が重なりました。


「ああ、何よりの気迫と、快活だ。清浄院さん、本当にどうか、持てる力を引き出して――」


「ちょッ琴子、いま貴女自分の、あ、いえセネットさんね、そうよね」



 みんなの視線が玲衣さんに集まりましたし、私もにっこり浮き浮き玲衣さんを見ます、

 玲衣さんは私のことをほんとによく分かってくれます♪


 だから改めてセネットさん好きLOVE、玲衣さん好きLIKE、私の楽しさ一人称を纏めて玲衣さんにも送ります♪


「はい、琴子はセネットさんが大好きですから、それで沢山頑張れるのもあるんです♪

 玲衣さん、いつも分かってくれて、信じてくれてありがとうございます、

 琴子も信じていますからっ♪ これからも勝ちを信じてくださいねっ♪」


 ふふっ♪ わくわくの笑みが止まりません、はしゃいじゃいます、キラキラ燃えちゃいます♪


 玲衣さんは目をパッチリ開いてほっぺた朱に染めて、さらに高ーく驚いちゃいましたが、

 でも喜んでくれてる雰囲気そのまま直ぐにクールな微笑を浮かべて、さらさらと応じてくれました――でもほっぺたはやっぱりスモモみたいで、そこがすごい可愛いですっ!♪


「ええ、勿論よ。私はいつでも、琴子が勝つって知ってるわ。

 ちょっとセネットさんと(はな)していい? これからの予定とか、きちんとしときたいから」


「お願いします。ネットや本で調べるのも、ある程度お任せしていいですか?」


「大丈夫、それも言うつもりだったしね。琴子にはリラックスをメインにしてほしいの」


「わ、嬉しいです♪ 心遣いをありがとうございます、玲衣さん♪」


「うん、じゃ、ちょっとね」


「はい、はいっ♪」


 玲衣さんがセネットさんに向き直り、てきぱき言葉を交わし始めてくれましたから私も笑顔のふわふわを、すぅよ、と緩めておしとやかに成ります、

 ほんのり柔みのすっきり真顔で、頼れるひと同士の話し合いを聞きます、シュピと引き締まった空気を見届けます。



 ……数分も待たずに今日これからが決まり、

 私はもうお食事に行ってお風呂に入って早寝することと、今から決闘の時までずっとセネットさんが遠くから護衛を担ってくれるという、またも大変にありがたいこと――スキルなどで常時それとなく探知、警戒してくださるそうで、セネットさんはプライバシーに配慮した丁寧な約束、〝危険で不埒な侵害は絶対にしないしさせない〟という明言までもなさってくれました――、

 そして玲衣さん、遥さんはウォールさんとさらなる話し合いを続けてくれることになりました。


 ウォールさんは玲衣さんたちの護衛も兼任されるとのことで、緊張がちながらもやる気十分な声の張りで、

 上官のセネットさんへ了解してくれていました。


 また、セネットさんは話し合いが一段落する際に、

 私たち三人のスマホへケネスさんの情報検索に必要な資料類――アドレス目録、文献目録や大量の抜粋文、抜粋写真など――を送信してくれて、

 調べ物に役立ててほしい、という旨を仰ってくれました。


 私たちはセネットさんに深くお礼を伝え、あと私はウォールさんに玲衣さんと遥さんを守ってもらうお願いに頭を下げてから――ウォールさんはなんかすごいわたわた、と慌てちゃいましたが、でも確かな誠実さをもって、しっかりと奮励をお約束してくれました、私も安心をいただけました♪―ー、

 セネットさんと一緒に、一足先に、練習場から()させていただきました。


 ……部屋まで歩いている(あいだ)、セネットさんとちょっとお喋りしてさっき言いかけてたことの答えも聞けました、

『持てる力を引き出して頑張ってくれ』、とのことです♪

 セネットさんやっぱり真面目に優しいですっ、私の決意をきちんと聞いてて、確認に繰り返してくれたのですね、実際そうお尋ねしても、

「あ、うん、そうだ。その通りだ」、って赤々ほっぺでイエスをくれました、

 純粋なお心が素敵です、私までかなーり、めっちゃ、きゅんとしますっ♪


 今は私だけお部屋に帰って、お夕飯が来てくれるのを待っててもずっとほかほかです、

 気持ち全部であったかくなれちゃいます♪


 ……それと、お夕飯が安全かどうかのご確認もセネットさんご本人と、彼直属のスタッフさん、大隊長さんなどが(おこな)ってくれるらしいです、何から何までほんと嬉しいです、超ありがたいです!


 ほぼ完全アウェイの敵地でも、優しさに落ち着けるのは凄くて、()いですね♪

 大切なひとを好きになれて、セネットさん、楽しいです、どこまでも上がれる心地です。


 優しさへのお答え、お返しは、琴子の勝ちで示します。



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