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29.マウントドクター雷切さん

(Side:雷切玲衣)



 お茶会は大騒ぎのお開きになった。


 琴子が決闘を受けたの自体はまあ予想通りだったけど、

 でもセネットさんを案じて気遣ってたのがまたケネス・クレイグの(かん)に障ったのか、

 かの魔王が嵐吹く針葉樹みたいな睨みと怒鳴りを琴子に向けてきたからだ。


「余計なコト言ってンじゃねェ! リオは俺のだ、俺だけのモンなんだよ!


 お前が決闘を受けて負けるのは、受けて負けるのはとっくに確定してンだからッ、

 単に感謝と肯定だけをそのバカ頭で思って、そのままに言っときゃいいんだ、ほんッとにクズだな!


 お前は負け役なんだから、せめて負けるまではちゃんとしとけ! 俺に感謝して、はいとだけ言うんだよ!

 リオへ無意味に話し掛けやがって、道具が知り合い面すンじゃねェ! リオは道具だが俺は大切にしてる、道具だが仲間でもあるんだよッ、お前ってクズは負けて使われるだけの、道具で材料でしかないだろうが! 価値がないんだ、価値が全くねェ!


 リオには大いに価値があるけどな、お前には(モノ)の価値しかねェんだよ!


 あとなァ、お前の希望じゃなくて決闘は明日(あした)すぐだったけどな、お前ッ、逃げるなよ、

 負けが決まってるからって逃げるンじゃねェぞ!

 俺が勝つんだから、必ず時間通りに来いッ!」



 ペールグリーンの魔王はそこまでガーガー喚き散らしてから、

 マシュー・クレイグ――ハラハラ怯えた焦り顔、のご養子さん――をチラ見して、

 変わってない苛立ちデカ声で問い掛けた。


「マシュー、最速でいつだ! 最速だぞ、午前は絶対だ!」


「はいッ、10時半には確実です、急げば10時には間に合わせますッ!」


 心酔第一な王子様がちょっと文法ごっちゃに即答すると、

 見目オンリーの魔王は未だ荒ぶり据え置き、


「じゃア10時だ、急げるだけ急げッ!」


 と返して、王子様が「了解ですっ!」って応じてくれてる内から琴子へ視線を戻し、

 ほんの僅かだけ落ち着いた感じに声量を落として、でも釣り上げ双眸はトゲ派手に、今も延々な敵意で告げてきた。


「帰れクズ道具。決まったからお前ら勇者全員で、負ける準備しとけ。

 俺に渡す何もかもを、ちゃァんとまとめて揃えておくんだ、いいな」


 琴子はおしとやかに澄み渡る冷たさ、美しさのままさっぱりと勝ち気を伝えた。


「決闘ですから、勝ちに行きますね。では、場を失礼致します」


 ぺこり、と軽く会釈してから姿勢を整え、

 189センチの高身長、116キロの筋肉もにやか骨太すらりやか、どこだっていつだってつっよい体で、琴子がサラふわっ、と立ち上がる、そして私をちょん、と可愛く、淡い笑顔で見下ろしてくれる。


「玲衣さん、行きましょう」


「ん、そうね」


 だから、琴子が綺麗で頼りになるから。私も安心して立ち上がる、琴子は遥さんの方をすいっと振り向いて声掛けてくれてる、やっぱり上品で可愛い、素敵っ。


「遥さんも、お気をつけてくださいね」


「あっ、はいっ。頑張りますっ」


 遥さんはカチッと緊張しつつも、だからこそな真面目さで体をチャキっと起立に伸ばした。


 ――いまかなり敵対してる感じだし、じゃあ琴子はしんがりに回ってくれるはずだから、

 私は先んじて扉に歩いて向かう、そしたら後ろの琴子が声穏やかに、遥さんを促してくれて、

 間もなくちっちゃな早歩きの、ぱとぱと、って音が近付いてくる、きっとこの音は遥さん。


 最後の琴子は足音微かに、長い脚からの歩幅を広めに、すぅすぅ追いかけてきてくれる、今も絶対に守ってくれている。


 扉を開ける時ちょっとだけ振り向くと二人ともきちんと居てくれて安心できたし、何より琴子のさら雪お澄ましな雰囲気、しんと静かな顔色がすっごく綺麗で強そうで、ちょっと怖いくらいに頼りにできた――けれど琴子と遥さん以外にたった一人、セネットさんが今も深くお辞儀して俯いて、誰より悲しそうに謝ってる風なのが、私でもかなり心配になった。


 琴子はきっと、セネットさんと同じくらいの悲しみで、ただ彼のことだけを思ってそうだから、もっと心配。

 メンタル無敵の琴子だけれど、ドクターとしても友達としても、恋路とハートを気にかけてあげなきゃね。


 あとその、セネットさんは世界の全て、関係の全てを悲しんで謝ってるぽいけど、

 琴子はセネットさんこそを直接見てあげてるんだから、セネットさんあなた、いつか気が付きなさいよね……!

 恋のお返しは、結構大切よ!



 ◆◆◆◆◆◆



 廊下に出ると私はとりあえずこれからを話し合うために〝琴子の部屋に集まりたい〟的なことを提案してみて、

 それに琴子がさらっと了承してくれたから先頭も琴子に譲って、みんなで当のお部屋に向かった。


 ――ちょっと早めに歩いたからか、すぐ到着した琴子の部屋は私の借りてるとこと同じ作りで、

 ベージュ系多めに(いろ)ゆったりしたツインルームの客室だった。


 だから二人掛けソファーの位置も分かるし実際あったし、

 私は奥側に早速座らせてもらう、と、琴子が一人用の椅子、丸テーブルの傍につけてたやつを持ってきてソファー対面、中央向かいに来てくれて、遥さんにも座るように促してくれた。


 遥さんはちょっぴりせかせかした動きで私のお隣に座ってくれて、

 みんなが話し合う姿勢に揃うと琴子がやわい真面目さで遥さんの緊張をそろ、と見て、

 声もお顔も体の色気も、緩くあたたかなほの明かりに伝えた――いや、色気ってのは私の感想ね、琴子綺麗だし、めちゃ強いし、素敵だし。


「遥さん、来てくれてありがとうございます。

 ただ、遥さんは私と共に居て、心のお加減は大丈夫でしょうか」


 遥さんは背すじをぴん、と少し張りつつ緊張の中に目をきょとり、疑問も浮かべてカタく応じた。


「え、はいっ。全然っ、です」


 琴子は雰囲気変わらずふわふわさらり、体幹ぴしっ、と真っ直ぐ可愛く続ける。


「やっぱり、遥さんは優しいですね。重ねてありがとうございます。


 でもすみません、度々(たびたび)の確認となるのですが、

 私が怖くてわるい磨き方、恐ろしい鍛錬を繰り返していることは遥さんもご存知でしょうし、

 もしも不安を感じたり、私と近い空間に無理がありましたら、どうかご遠慮なく仰ってくださいね。


 怖かったら、遥さんが私を十分に避けることができて、

 それでいて安全で居られる方法を探しますから。


 この世界でしたらきっと、セネットさんがお力になってくれると思います。

 どうか私にお気遣いなく、遥さんは決して無理なさらずに、穏やかで自由にいてください」



 そう琴子が言い終わった時、遥さんはキョト目に加えて口元、

 うっすらピンクリップも細くハス、と開いたびっくり顔に呆けていたけど、

 2、3秒後に意を決した風に顔をキリしゅん、と真面目な悲しみへ引き締め、

 しっかり大きめな声で頑張ってくれた。


「清浄院さん、本当に大丈夫です。

 本当に全然大丈夫で、むしろすっごく安心できるんです。


 清浄院さんと一緒なのは嬉しいですし、どきどきわくわくしますし、

 私こそ優しさをいっぱいに、悲しいくらいにいただけているんです。

 あッ、いえッ、悲しいっていうのは私が力不足すぎて、清浄院さんにずっと気遣いしてもらったり、

 返すことができないのがその、私がダメなんです。


 とにかく問題なのは私で、清浄院さんは凄くて強くてっ、あの、いつも綺麗です。


 いちファンとして心から憧れますっ、ほんッとうに素晴らしいひとです、

 アスリートもモデルさんもテレビとかでも、全部の活動で、全部ですっ。


 それにあの、えっとッ、怖いのも確かにありますけどッ、

 清浄院さんがいつも頑張られてきたのは絶対に確かなことですから、怖いのも強さだって、分かります。

 私にも清浄院さんの強さがたくさんあって、

 怖さや危ないのもきっと大切だって、それくらいのことは、分かるんですッ。


 だからほんと大丈夫です、清浄院さんと一緒なのが嬉しくて、一緒なのが、ずっと()いですっ!

 避けるとか絶対にイヤですから、あのッ、せッ、僭越ですがッ、

 清浄院さん、これからも私と仲良くして、くださいッ、お願いしますっ……!」



 遥さんはもうほっぺた真っ赤っ赤だけど、優しい覚悟と決意をはっきり、とても格好良く示してくれる――って、傍で見て聞いてる私にさえ彼女の凄さ、誠実さが伝わってきたんだから琴子は絶対もっとだと思う、

 現に琴子ったら顔色と纏う空気を静かに凛然、夜露にしとりの笹の葉みたいにぱちさら張り詰めた真心で応じてる、するりオレンジリップから、純白の月な声がする。


「はい、勿論です。

 遥さんと仲良くできるのは、私もすっごく嬉しいし、今までもこれからもめっちゃ楽しいですから、

 こちらこそよろしくお願いしますね。


 それと遥さん、私のことも、琴子、と名前で呼んでいただけませんか。

 素敵な遥さんと、素敵な私で、是非ともお揃いにしたいんです」



 遥さんは真っ赤っ赤をおでこや首筋まで広げて、

 もういっぱいいっぱいって分かるけどでも嬉しそうなお急ぎに(あふ)れて、一生懸命に答えてくれてた――可愛いっ!


「えっ、はっ、はいぃっ! あの清浄院さんはもっと素敵ですっ、

 あッ琴子さん、琴子さんは、もっとずっと、素敵ですっ!」


「あら遥さん、比べるものではないですよ。

 遥さんの素敵さも、とっても落ち着いて安らげますから♪」


 琴子が雰囲気をやわらかに戻して、微笑みふわりっと咲かせてあげてる、

 遥さんはちょっと目がうるうるしてきてる、きらきらの熱さが涙に零れそうになってる。


 ()いムードだけど遥さんのキャパ越えちゃいそうだし、

 私はそろそろ落ち着かせてあげるために、まず触れる確認を遥さんに取る。


「遥さん、もしよかったらなんだけど、背中をゆっくりさすってもいいかしら。

 もし抵抗感とかあるなら、いくらでも断ってくれていいから」


「あ、はい! ぜんぜん大丈夫ですっ、お願いしますっ」


 ――生真面目たっぷりに勢い込んで、きちんとこっち見て了承をくれたから、

 私は彼女の方へちょっと座り直り向き直り、お背中を右手でそっとライトにタッチ、さらりさらーりとさすってあげる、

 彼女は少しだけくすぐったそうに、顔色ほわ、ほわっ、と穏やかに照れてくれる、今は休めるときだって分かってくれる。


 だから私はちょいっとお礼を言った、あと仲間入りっぽいお願いも伝えた。


「ありがとう、素直ね。遥さん好きだから、私も玲衣って呼んでね、お願い」


「えっ、あの私そんなにですか、お願いですか、はいっ?」


 ぽやぽやあったかそうな反応が返ってきて、けど直後に彼女の背すじがぴん! と伸び、

 表情も真剣にハキッ! と続けてくれた――ほんと真面目ね、もっと楽でアバウトにしてくれてもいいのに。


「いえすみませんっ! はい雷切さん、あ、いえッ、玲衣さん、改めましてもよろしくですっ!」


「ええ、よろしく。ほんと大丈夫だから、もう寝てもいいやって感じでラクに落ち着いてね」


「はいっ、ありがとうございます、寝るのはあの、勿体なくてしませんけど頑張ります、落ち着きますっ」


「分かったわ、できるくらいで力抜いてってね。

 とろとろでもふにゃふにゃでもいいから、遥さん自身に優しくしてあげてね」


「はいっ、えっと……」


 言葉を切り、緩く考えるように体を、ソファの座面と私の手まで、すむり、と(もた)れさせてくれる、

 すぅすぅ寝息みたいな声も聞こえる――素直な信頼が可愛いわ、やっぱり遥さん、好きよ。


「はい、頑張ります、気持ちいい、です……」


「そ、よかった」


 ちょっと雰囲気ゆったりしてきたし、琴子の様子を見直すと今はスマホをすいすい操作していた、姿勢に表情はきっぱりさらり、と涼しい真面目、頑丈しなやか柳の美。


 誰かからメッセでも来たのかもしれないし、それか明日の決闘に向けて情報を集めてるのかもしれないわ、

 でもできればセネットさんから連絡とか来てくれてたら良いんだけど。そしたら琴子、メッセが何だって喜ぶと思うし。


 にしても琴子はオフィスムードでも綺麗ね、

 ホワイトのシャツブラウスや落ち着き濃い青のデニムも相まって真面目っぷりがスキッと立ってるし、

 ブラウスの半袖も琴子の柔らかくてつっよい両腕、筋肉豊かに骨太なめらかに、もにきゅむ! 凄弾(すごはず)みの元気が見えててドキドキしちゃう、見るだけで美しい活力を感じるの、大好き。


 今背中を撫でたげてる遥さんはとろぽや眠そにしてるけどそういえば彼女もモデルのこと言ってたわね、

 そりゃ琴子なら出来るし実際できたし、

 モデルやアンバサダーもいつだって完璧ビューティーにやってた。それこそ10代の頃から。


 幾つかのハイブランドが琴子の活躍に影響されて、より大きめサイズの服や靴を積極的に取り扱うようになったからそれ関係の特別アンバサダー、大きめサイズ専門なのを複数ブランド纏めて受け持ったり、

 有名誌のVOGA(ヴォガ)でもおめかしモデル的に、今のとこ3回特集してもらってたり、

 あとスポーツブランドと好条件でコラボしたりもしてたわね――全部好きだし、VOGAも2冊ずつ即買いした、ほんと綺麗で、紙面でも強いって分かった、何よりいちばん可愛いしほんと好き、大好き。


 だから遥さんより私の方が大ファンだし、いや、じゃなくてっ、

 ファンとか比べるものじゃないし遥さんはめっちゃめちゃ良い娘(いいこ)じゃない、私っ! まぁ……私は、琴子の、専属ドクターだけどねっ!


 (ちが)ッ、そうじゃなくて良くないわよ、私。

 遥さんはもう眠りかけの素直さで、すやすや間近に私を信じてくれてるのに。


 ――っと、琴子がスマホをデニムのポケットに仕舞って、

 すぐ姿勢正して微笑みふわすぅ、ちょっとだけ真剣味にこっち見て声掛けてくれた。


「玲衣さん、セネットさんからご親切なメッセージが届きました。


 趣旨としては、私が決闘へ向けて準備するために、

 あのかた個人用の屋内練習場を貸してくださるとの事です。


 お返事ももう済ませて、今から移動することになったのですが、

 遥さんをおんぶしてあげても大丈夫でしょうか?」



 は? なに、ファンだから? 遥さんがスキだからってそこまでする? いや落ち着け私、

 ドクターは私だからすべてだいじょぶ、落ち着け、

 ちょっと私ファンモードになってるから切り替えッ、私のためにも琴子のためにも、遥さんのためにも……切り替え、てッ、

 わたし表情もスンと保ててるしちょっと間が空いただけだし平気よ、答えなきゃっ。


「ああ、いいんじゃない? きっと喜ぶと思うわよ。私も」


「え? あ、玲衣さんも遥さんが好きですものね。遥さん、本当に素敵なかたですよね♪」


 ――いやそうじゃないのよ琴子、私も、は〝私でも絶対嬉しいから〟って意味で誤解があるの、

 喜ぶのは、喜ばしいのは……まぁ、合ってるけど。


 だって遥さん、素敵だし好きなのは、ほんとだし。


 それに琴子が今にこにこふわふわ、とっても楽しそうだから、

 結果オーライと思い、切って、私も微スマイルで精一杯自然に応じた。


「そうね。琴子のおんぶは嬉しいわ。遥さんにも、絶対ね」


 ……バレたかもしれないけど、でももうどうでもいい。してくれたらそれはそれでめちゃ嬉しいし。


 屋内練習場ではセネットさん本人が待ってくれているとのことで、

 私たちは揃ってそちらへ歩いていった。


 琴子はひょいっとすんなりと、軽く優しく遥さんをおんぶしてあげてた。


 なので心なしか、遥さんの寝顔も気持ちよさそう、超幸せそうだった。


 琴子はおんぶも柔らかつかみに、ふにさわり、ぱっしゅり、優しくしっかり支えて受け止めてるし、

 歩く足元の振動反動すら心地よさに変えて、すふすふすぃすぃ綺麗に進んでくれる、

 遥さんと一緒に進んであげてる。


 いや別に、全然悔しくないけどね。別に。全然。


 琴子おんぶしてくれないかな、私も。



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