28.闘い方には何でもを
(Side:清浄院琴子)
私のおもてをゆるやかさっぱり、きちんと伝えましたけど、
ケネスさんはまだ不服そうです、顔へ出ているキリキリな怒りを冷たい声にも荒っぽく、
黒く尖った石みたいに発してきました。
「妥協点で納得だと? できるわけないだろうが、立場をよく考えろ。スグにだ。
弱い地球じゃお前程度でも強さ自慢がやれたんだろうが、
俺の魔王国ではお前らは塵屑な弱者で、
俺は最強のウィザード、当然で圧倒的な強者なんだよ。
お前らの命をわざわざ生かして、
魔王国で暮らさせてやってるだけでも慈悲の与え過ぎってモンだ。
悪辣で非道なクズのお前も、せめて恩を返す当たり前は、しろ。
それが正しい納得だよ、分かっとけクズザコ」
私が弱い、ですか。すごく腹立たしくて轟々むかつきますけど、でも現状、相対的には正しいことでしょうし、
私たちの安全のためには静かに落ち着いて、ゆるゆるっと話してくしかないですね。
あと魔王国で生活させてもらってるのは素直にありがたいですし、
そこはきちんと感謝しないとですから、まずお礼の言葉からお返ししましょう。
気持ちを、すぅ♪ って和らげて、ふわふわハートでありがと、です♪
「はい、魔王国ではとても良くしていただいてますし、自由に楽しく生活できていますから、
国の頂点であるケネス陛下にも、魔王城スタッフの皆様にも私たち一同、感謝の気持ちでいっぱいです。
魔王国の皆様、本当にありがとうございます」
私は頭を、腰を胸をゆったり下げてお辞儀して、
ちょっとだけ間を置いてからまた頭を上げ、姿勢をすっきり正します、正面のケネスさんが少し目を丸くびっくりしていて、なんだかしてやったり、な気持ちです♪
ただ、お礼だけでは不十分でしょうからやりたいお仕事もお伝えします、
セネットさんに聞いた〝文化の共有〟を踏まえて、
軍人の皆さんが生き残るためのアドバイザーみたいに、午前中やったことを続けてく感じです。
「そして、ご恩返しの方法については、
私からは魔王軍の皆さんに、地球で公開され、活用されている生き残り方、
戦闘の上手い仕方などをお伝えしていきたいと考えています。
本日午前中に説明させていただいたことを、
より詳細かつ広範に継続していくつもりです。
ケネス陛下やマシュー殿下、セネットさんからのお許しが貰えるならば、
是非この方法でお願いさせていただきたく思います」
言い終わってから1秒、2秒、と半でケネスさんがハッと気が付いた風に肩をピン、と張り、
すぐに顔色も怒りへ、カムッ、と引き締め、
つんけん苛々な雰囲気に戻って否定の言葉を述べました。
「駄目だフザケんな、対価としてまったく足りてねェ。誠意も、常識もだ。
ッたくとことんまで話が通じない勇者だなお前ら。
どんだけバカなんだ? 頭まで弱いのか? だろうなきっと、クズがよ」
様々な悪口、失礼を並べ立てると、そこでケネスさんはマシューさんをチラと見て、
話題をパスするようなことをザッと言い放ちました。
「マシュー、アレを言え。律の抜け道だ、そンで従わせろ」
「あッ、はい、ケネス陛下ッ!」
マシューさんが慌て気味に、表情をカチピシ整えつつ応じ、
視線をケネスさんと共にまた私の方へジッと移して、
ちょいソワつきながらも張り切った声で説明を継いでくれました。
「お話を聞いていると、清浄院さんはどうあっても魔王国からの条件を受け入れてくれないようだから、
明日以降、レネアシャに適応する存在となった清浄院さんとケネス陛下で決闘を行い、
その勝敗によってこちらに従ってもらうよ。
つまりね、当然の勝者となるケネス陛下のご意思に、
敗者となるだろう清浄院さんは従わなくてはならない、ということだ。
もう少し言っておくとだね、
全国際的な規則である円和の律において、こんな一説が示されているんだ、言うよ。
〝――勇者はレネアシャに来て初日の夜に睡眠を取り、
人生経験からのクエストを即時達成することで、
私たちと全く同様に、レネアシャにおいての基本的な成長を実現できる。
これは即ち、地球からの異邦人だった勇者が、
レネアシャで共に暮らし協力し合える、真の仲間となった事実を示す。
睡眠時のクエスト達成による成長は、地球ではなくレネアシャにこそ在るものだからだ。
勇者は確かに客人ではあるが、しかし私たちと同じ時、同じ世界を生きるともがらでもあるのだ。
勇者の故郷たる世界は二つあり、しかしその片方は間違いなくレネアシャなのだ。
どうかレネアシャに生きる皆は、勇者もまた仲間として受け入れてほしい。
これは律でもあり願いでもある〟
以上、要約すると明日からの清浄院さんたちは、
レネアシャで共に生きるともがらとして扱われるから、
レネアシャ各地の慣習や規則、今だと魔王国の法律に従う必要が出てくるというわけさ。
そして現状のトラブルにおいて、焦点が当たる魔王国の法律は〝決闘による上下関係、或いは要求可否の明確化〟だ。
文字通りの意味を持つ法律だけど、
特に平常時において立場に差がない相手同士のトラブル解決に活用されることが多い。
今回も勇者は特例の立場で、馬鹿らしいけどケネス陛下とさえ一応は対等とされているから、
この法律が持ち出される事態と相成ったのさ。
でもまぁ、勇者は色んな律で重々に保護されても居るから、
ケネス陛下も多分殺すまではしないと思うよ、そこは安心していいんじゃないかな。
とにかくさ、清浄院さんが明日すぐか近い内に、
ケネス陛下と決闘を行うのは法的な決定事項ということだ。
勿論治療は行うから、ケネス陛下のお力を存分に体験すると良い。
あとね、こうなったからには後悔も撤回も、もう遅いからね。
清浄院さん、君はもう苦しんで傷つくしかないんだ」
ふむふむ、つまり私が今夜ここで寝てレネアシャ独自の急成長を果たし、
もっと強く成れた未来にて決闘できるわけですね、すごい好条件じゃないですか!♪
今だとケネスさんには恐らく敵いませんけど、
就寝時にこれまでの人生経験などから、
クエストっていうのでめちゃ成長できればきっと勝ちの目も見えてきます、
希望がおっきく出てきましたよーっ!♪
マシューさんは私が負けるって決めつけて、
なんか結構失礼な皮肉も、ケネスさんへの尊敬と逆らった私への軽蔑からでしょうか、しばしば言ってきてましたが、
でも私は頑張って勝っちゃいますからね、
もっと強くなって元気になって、さらなるパワーで動きまくりの闘いまくりですっ、
容赦も加減もしませんよっ、あっいえ、
ケネスさんが生きられるくらいにはしますけど、勝ちに行くだけの強さは全開です!
決闘という条件そのもの、闘いの勝負で全てを決めちゃうっていうのもめっちゃ分かりやすくて良いですし、
これでお互い納得できるならすぐ了承です、さっくりイエスをお答えしましょう♪ ってあれ、
セネットさんが凄く真剣な、キリィッと勇ましいご表情でケネスさんを見て、
ハッキリお口を開いて声としました、内容は非難、というより忠実に諌めてくれてるみたいです、
えっあの、セネットさん、ちょっと今は困るかも、なのですけどバチバチ言ってくれてますね、
いえ優しさはとっても♪ 真に嬉しいですよ、でもあの、セネットさん……止まる気配が、無いですね。
「――ケネス、マシュー、一体何を考えているんだ!
世界同士の平和と協調へ通ずる、数多の純な願いが込められた律に対して、
一方的な収奪を果たすべく身勝手に拡大解釈を行い、
あろうことか闘争による弾圧を望むとは!
いかに魔王国の発展を目標としても度し難い悪だ、見過ごせん!
君たちが清浄院さんたちへの侮辱を酷く積み重ねたことといい、
円和の律を自己利益のためだけに捻じ曲げて利用したことといい、
先ほどから無礼の行き過ぎだ!
清浄院さんたち個々人にも、レネアシャと地球、両世界の歴史にも、そして君たち自身にも、
途方もない侮辱をしているぞ!
何もかもを貶める最悪の行為だ、当然だが君たちのプライドも美質もバラバラだ!
どうしてそう自分を下げる真似をする、いつも話や助言を聞かないじゃないか!
私だけじゃなく、私じゃなくッて、頼むから他の人々を、他の仲間を受け入れてくれッ、あ、いや清浄院さんたちは客人なのだが、ケネスはいつも――いやッ、とにかくケネスもマシューも、もっと素晴らしく在れるはずだろう!
ケネス、君はどうか本当に、信じること、頼ること、頼むことも活用してくれ。
君がより高みに行くためには、それこそが大事なことなんだ。
一人で努力し、果敢に動いて結果を成す孤高は尊いが、
協調も時には――もとい、頻繁に必要だ。
話題が逸れたが、君たちが言い放った無礼はどの視点から見ても酷すぎる。直感的にすら酷いと分かる。
こうなった今を悔やむよ、ケネス、すぐに止めるべきだった、今しがたではなく、話し合いのすぐ、からだ。
改めて忠告するが、他者への突っかかりや文句というのは正直だとか気が置けないとか、
そんな言い訳で許されるものではないんだ、相手に対しても無礼であるし、
〝正直〟と〝気が置けない〟の本質をも毀損している。
君は清浄院さんの実力を知ろうともしない内から、幾度となく栄誉に疑いを掛けたけど、
はっきりとした根拠も無いのにそんなことは絶対にしちゃいけない。
たとえ根拠があってでも、誠意をもって慎重に尋ねるべきだ。
最初から、君の態度は見聞きしていて実に恥ずかしかった。
地球という世界に認められたアスリートを相手に、
七光りだの審判の買収だのと不躾に、無遠慮にまくし立てるなんて、隣で心を保つのに苦労したよ。
たとえ話をするとだね、さっきマシューが君の歴史と、それに伴う栄光を語ってくれたけど、
そこへ証拠もない疑念を表されると一体どんな気持ちがする? 最低に嫌だし、腹が立つだろう。
疑念を内面に抱くまではいい。
その疑念を解消する、もしくはより確かな形にするために、慎重かつ誠実に調査するのもいい。
勿論だが、調査の中でご本人や関係者に直接尋ねる場合は、さらに丁寧な礼儀を尽くすべきだ。
しかし明白なる根拠も持っていないのに、
他者の経歴、特に栄誉を、〝無いもの、違うもの〟と言い放つのは論外だ。
仮に疑念が正しかろうが、取り返しのつかない非常識な行為だよ。
君が荒ぶった時に言い始める悪口だって同様だ、
繰り返しになるけれど、それらの非常識、それらの無礼は君自身の美点をことごとく低下させてしまう。
だからケネス、本当の意味で自分を大切にしてくれ。
そしてそのために、他者と協調して認め合える正道へ、少しでも歩み寄ってくれ。
心から、頼む」
お願いの言葉と一緒にセネットさんは、お隣のケネスさんに腰と頭を下へ、グッと深いお辞儀を致します。
彼の熱意に生真面目が凄かったからか、
ケネスさんもマシューさんもぽかんと目を開けて呆けていましたが、
お辞儀を見て取ると目を平常へ細めて我に返り、焦り気味に表情をササピ、って整え、
ケネスさんはギラ睨みのシャープな怒り顔、マシューさんは不安そうな沈み顔となりました。
そして間を置かずケネスさんがホワイトピンクの唇を声に動かし、
叱責返しの言葉を放ち出しました。
「バカにしてくれたじゃねェか、誰が美点を下げてて、正しくないって?
リオよ、お前いま正道とか言ったが、俺が居る場所がいつでもソコなんだ。
俺が進む道がな、いついかなる時でも正しくなるし、大義に満ちているんだよ。
円和の律さえ足元に転ばす、絶対不変の律が俺なんだ。俺の魔王国なんだ。
ヘンに真面目なお前は貴族院どうこうとか言い出すかもだがな、
あんなモンは全部俺のおまけだ、俺の慈悲と優しさでかろうじて認められてるだけだ。
いや違うか、魔王国の貴族院だけじゃねェ、レネアシャ全土も、地球全土も当然一緒だ。
そいつらが存在してもいいって、俺が特別に許してやってるから、あるんだ。
で、だがなリオ、再確認だ。
俺がお前を魔王国に招いてやって、富と立場をいくらでも、望む以上に与えてやってるのは、
俺に逆らうクズ連中全員に、破壊の罰を下すためだろうが。
だからこそお前は軍人なんだし、その中でも師団長って高位に居るんだよ。
あァもっとな、シンプルに言ってやろうか、お前は、俺に、逆らわない。そうだろ?
俺の軍人ってのはそうだ、俺直属の最強ってのは、そうなんだ。
魔王国のナントカって問題じゃないぜ、俺のすぐ傍で仕えてるんだからな。
第一よ、覚えてンだろお前も、初めにお前の存在をだ、壊すしか能がないお前の存在をだよ、
特別に優しく受け入れてやった時に、お前は俺に従うって言っただろうが。誓っただろうが。
だから今くっちゃべったお前のナンかは、全部まとめて、スジ違いの出鱈目だ。
俺は当然のことをする。力と発展の材料を手に入れる。
レネアシャとの全面戦争はお前が居てもまだ不足だ、まだできないけどな、
それ以外なら俺はなんでも、やりたいことをやるんだよ。
最上で最高の俺が優しく、寛大にッ、円和の律を守ってやってるんだから、
最強のお前も感謝して、心底喜んで従えよ。いつも通りにだ、そうだろう?
当たり前ばッかりを説教させやがって、もう話に戻るからお前そのままで居ろよ?
俺に謝る姿勢のままだ、終わるまでずっとな、そのままだ」
――〝話に戻る〟、そう仰りましたから私から再開させていただきます。
声も表情もしとやか大粒雪に、琴美さんみたいなお澄まし氷の色で、闘いを受けさせていただきます。
「セネットさん、大丈夫です。
私はケネス陛下との決闘を受けます。なにも心配はありません、大丈夫ですよ、セネットさん。
なのでケネス陛下、マシュー殿下、決闘では本気で行きますね。
また、日時は明日以降のご予定とのことですが、私としては明日中を希望します。
ご準備などは誠に大変かと思いますが、何卒よろしくお願いいたします。
セネットさん、明日中に、ケネス陛下との決着をつけましょうね」
ええ、決闘は明日で決まりです。
レネアシャでの急成長は今夜ですからそれが終われば直ぐケネスさんをやっつけます、
もう待てませんけど私たちの命を最大限守りつつ、そして勝つために明日まではがまんです、
セネットさんにひどいことをしている相手をほっておくなんてできません、
なんとしてでもケネスさんをやっつけて、セネットさんにはもっともっと楽しく暮らせるようになってほしいです――そしてもし、セネットさんに許していただけるのなら、私も毎日をセネットさんと一緒にルンルン楽しくいきたいですっ!♪
――ただまあ、今ケネスさんと話している時に、
視線をセネットさんに何度かそっと……ちらりそぉっと移しちゃいましたから、
私も相当な失礼をしちゃったと思います。
わるいことですし優雅じゃないですし、
琴美さんっぽく綺麗になりきれてなくって申し訳ないです、とても怒られちゃうかもしれません、琴美さんにも、セネットさんにも……好きだったり心配だったりの気持ちを抑えられなくて、お二人とも、ほんとごめんなさいっ!




