26.琴子は、強くなりたいです(三)
はい、私は分かっていました。やっつけるための大切に、気付き直すことが出来ました。
勝負の始まる前から終わった後まで、私自身と相手のかたをしっかり自然に、ふわきゅっ、て見据えて、
深く真っ直ぐ理解していって、自分のこと、相手のことをどんどん分かって私はもっと強くなるんです、私自身の分かった強さも、相手のかたの分かった強さも全て取り入れます、礼儀とわがままを両立させちゃいます。
そして勝負自体だって私はずっと元気いっぱいに動いて、強くて綺麗に見せつけて振る舞っちゃいます、
闘う本気をすっごい所作にしてっ、ずっと動いて、もっと動いてっ、勝負自体も相手もやっつけちゃいますっ、私の勝ちと私の強さをっ、きらぴか綺麗に表しますっ!♪
私自身と相手のかたをしっかりほんわり見て分かりながら、私がもっと強くなって自分と相手に勝って、私がめちゃ強いって見せたげてっ、綺麗で格好良い勝負にするんです。
勝負自体も相手のかたも、私自身の至らなさも全部ぜんぶをやっつけて、私自身の強さを見せつけてっ、私はどんどん強くなっていきます、力いっぱいに頑張ってやりたいですしっ、私だったら絶対強くなれます。
私と全ての勝負、全ての相手に誓って、絶対に強くなりますもの、自分磨きの約束です♪
そんな思いを、さぁーっ♪ て流していたら私は気持ちふわふわ浮き上がちゃって、笑顔もにこにこしてきましたから、
声も明るくあったかく、ほわほわぱちっ! と溌溂に答えられました。
「はい、分かります!♪ きちんと相手のかたを見て、私自身も見て分かっていって、
勝負でも全力で的確に動いて格好良くみんなに見せつけます!♪」
ちょっと声がおっきくなって、私自身だけ張り切っちゃってるみたいでなんだか恥ずかしくなりましたけど、
もう一人の私は強気に美しい微笑みのままでしたから、
静かに受け入れてくれてる感じがしてとっても嬉しく、心すっきりと落ち着けました。
なので、私自身のほっぺたには恥じらいの赤みが差していましたが、
声はすぅふわ、柔らかく、お淑やかにはっきりと言えました。
「私の強さで、礼儀正しく全てに勝ちます。わがままを綺麗な強さにしていきます」
もう一人の私はもっと強気に、もっと光に満ちてにっこりと笑ってくれて、大きく花咲いた可愛いお顔で、すごく手っ取り早くて大切を捉えた嬉しい言葉を聞かせてくれました、静かなお声も雪降る朝焼けみたいに、少しだけはしゃいでおりました。
「良いですね。では喧嘩をしましょう。ここでは死んでも特別に生がありますから、一切遠慮なく勝負です。
いつでも来なさい、本物の私」
聞いた瞬間、もうめっちゃ、わーっ!♪ て気持ちが上がってニコニコたまらなくなりました、つまり私もそれこそをやりたかったので、爽やかに急いで即答しました。
「はい、喧嘩ですね!♪ 終わりを気にしなくていいの、すごく嬉しいです!♪
最後まで闘いましょうね、もう一人の私さん!♪」
そうしてやりたい意志を伝えると、もう一人の私は強い可愛い笑みをまた上品静かな真顔に、そぅル、と柔く引き締めて、夕闇に粉雪がちろり照るみたいな真剣勝負の気配に言葉を、
「ええ、勿論です」
怖くて綺麗に真っ直ぐ放って、同時に右手の平を内側上にして拳に握り即重心も右脚支えへ、きゅとむっ、と流して僅かの踏み込みで力を右腰、右半身右肩右腕に流して、右ボディーブローのかたちに打ち込んできましたみぞおち狙いですっ、胃のあるとこ私の腹筋上、胸筋下の真ん中を速く正確に狙って裏突き右拳が飛んで来てますからっ、ソコへ私自身の両腕を交差してガードですっ左前腕を上にっ、一等丈夫な交差部でみぞおちを庇ってガード、間に合いますっ裏突きボディーブロー来ましたガードできてます当たったっ防げたッ、
けど瞬間の今、相手の拳がもっとグイキュッ、て押し込まれます衝撃めちゃ鋭く重く来ますッ、コォドンッて腕にも奥の体にも衝撃来て痛ったいッ、でも押されたからそれ利用して距離を取るため両足で後ろにちょい跳び、
ステップしますけど相手が右足をさらに前へなめらかに、スィイッ、て動かし大きめの一歩を成して、高速のまま私の左つま先を、ギュきゅ! と踏みました止められて、後ろ跳んでた体のバランスが、くらぐらっ、て崩れましたやばいですっ、あと今受けたボディーブローの衝撃が胃にまでちょっとドシュって来てて、相手の力=私とおんなじ強い力で刺されて押し潰されてて痛ったいですっ!
ああでもそんな場合じゃなくってせめて自由な右脚で、床を強めに踏みます軸にします、ダン! って踏めましたから体が両脚がいま前後にちょっと開いて前寄りにつっかえつつもなんとか止まりました、けど相手の追い足左脚が来てます後ろにあった脚がもう、踏み込みシュパッ! て追い付いて来てますから絶対攻撃も来ますっ実際左半身から左腕、左手の拳がフックの形になってます傾きと方向が私のレバー狙いです、
あっフックが速く強く来ます、シャスルッ! て私の右脇腹、肝臓あるとこ目掛けて綺麗な弧で飛んできます、やっぱりとても正確です、じゃあチャンスかもです私の右脚ッ、頑張って踏み込みます!
まず急いで左足を前に行く軸にします、相手につま先踏まれたままでも私の力を前寄りに集めて、きゅくっ♪ て床を踏み締めます重心は向かいに、真顔崩れないもう一人の私にですっ綺麗すぎて格好良すぎてむかつきますっ絶対倒しますっ! いえとにかく軸足はしっかり力に重みを、すむとゥ♪ って地押し前押しに出来ましたから次、右脚ですっ、
軸ありの今はもう重心もバランスも回復しましたし一気に前へ、低くて広ぉい一歩を踏み込みますフック躱しのカウンターに行きますッ右足、もっともっと前低空ッ、しゅす!ルルふ♪ って出来ましたいっぱいの一歩を踏み込んで体を前に相手に寄せてフックの狙い外せましたやったっ♪
相手の左フックは私の背中わずか後ろへ、しゃわん、と逸れてます相手の表情もちょっとびっくりの色になりました、もう一人の私が初めて、〝あれおかしいな、少しまずいかもコレ〟っぽい仄かな見開き丸みで驚きました嬉しいですっ、僅かながらも勝ちが近づいた、『勝てるから、勝ちますっ!』って気分です♪
私は右踏み込みの力を逆半身、左に流していっぱいの押す力にします、もう一人の私の首元横一線狙いで私自身が今までガードしてた上の腕、左腕を前腕ごとぶち当てる裏拳を、もうほとんどタックル気味に思い切り振り抜きます、私の首は太くて柔らかくってめちゃ頑丈ですから、全身ごと全力いっぱいに私の左腕をぶっつけますっ、もう一人の私に、強い首に、そこ倒すために私自身の、強い前腕で殴り切り込みですっ!
あッもう一人の私が右腕横にして首ガード、しながらしかも後ろに跳びましたバックステップで威力を減らす気です悔しいッ、逃がしたくないけど私はもう踏み込みも攻撃もほとんど出来ちゃったあとで、まだ前に動かせそうだった左足も相手に踏まれてたせいで位置的タイミング的に追っかけるのが間に合いません、私の前腕裏拳が今、ギリ相手に、とぅわぉ! ってぶち当たりましたけどガードもされちゃったし後ろにも跳ばれたしで散々です、
もう一人の私は更に50センチくらい離れた後ろの床へ、元気に軽ぅく、すたふ♪ って着地してますしあんまり効いた気配もありません、悔しいです、絶対倒して勝ちたいですっ。
――当のお相手、もう一人の私は表情もお澄まし凛然真面目顔、すっごく綺麗で格好良い雰囲気に戻っちゃってますし余裕綽々な強さと美しさがむかつきます、負けてるみたいで悔しいです、いえ絶対勝ちます、倒しますから攻めます、押しますっ!
私はそんなことを思ってましたから、攻めに行く、先を取ると決めたのもすごい一瞬のことで、
もう一人の私が着地して重心や姿勢を整えた時、と一緒に私自身も前腕裏拳の攻撃を動き終えた、次を成せるように成った時、
早速私自身の力に重さ、腰に姿勢を下に落として前にスィと流して、両脚狙いのタックルに行きました、綺麗でつっよいもう一人の私を両脚ごと倒して叩きのめして、完膚なきまでに勝ちたかったからです。片脚、半分だけ倒すのではなく、もっと強い両脚の全部を倒して、綺麗で可愛いもう一人の私に、全て勝ちたかったんです。
ただ、まあ、今にして思うとあまりにやる気や勝ち気が先走ってました、実力を越えたわがままをしてました。
姿勢低めの私は左脚を前へ、しゃスワッ、て腰と膝ごと蹴り出し踏み出し、後ろの右足右膝はもっと後ろへしなやか伸ばし、くーぅしゅいーっ♪ て低く長ぁく地を蹴り込みます、次は右脚を一番前へ、ダメ押しに踏み込んじゃいますからねっ、だから今突撃してるタックルでは私自身の頭を寄せるのも右側、相手の左胸横です、
さらに私の両腕、両手の平だってもう前に前にっ、やわぁくつっよく伸ばして抱え崩しに行ってます、手で狙うのは相手の両腿裏ずっと下寄り、膝裏掠めるくらいのとこです、さあ今タックル突撃ですっ、私の柔くて力たっぷりな右肩右半身で触れますぶつかります今っ、たむとっしゅぅ!♪ て体右を打ち当てましたッ私の首に下から相手の前腕が、ぐかつん! と速く重く振り上がってきて激突しました痛ッ首がくって咳が出そうですっ、けど違います痛いとかよりもっとこれヤバいですッ、
もう一人の私が左腕で、いえ左腕〝から〟タックル迎撃に反応してきてますヤバ過ぎますッ、すぐ相手の両脚抱えて崩さなきゃダメですもう一人の私を先に崩さないと窮地です怖いです私自身の両腕、両手の平を、ぐいぃっ! て迅速必死に伸ばしますっもう一人の私の腿裏へ膝裏ギリの下側へ、
あッもう相手の両脚がずっと後ろへ長く斜めに、すぃーっ! て伸びて離れてってます速いですッでもなんとか私の両手で相手の脚裏、腿裏を掴みたいです触れそう、触れますッ、パシたむっ、て私の親指からを相手の膝裏ちょい上へ潜り込ませてタッチ成功っ軽く掴むのも成功ッ、しましたけどッ、やっぱり位置が遠いです私の腕が悪い感じに伸びすぎてて強めに掴めません、せめて相手の両脚をこちら側へ、ぐいくむぅっ、て引っ張ってはいますけど相手はもう一人の私ですから体幹強いです動きませんこっちに来てくれませんッ、もう一人の私も私ですから力もバランスもやわい重みもめちゃたっぷりにつっよいです、なめらか綺麗なスプロールディフェンスのまま直ぐ相手の胸までもが攻め押しに来ました最悪がどんどん重なります、
もう一人の私の、もにむっ♪ てつっよい胸の力が、私の左肩から頭へ急降下、ドムッスゥン! て落ちてきましたおッもいッ、苦しいです痛ッたいですッ、相手の腕と胸で私の首挟まれてて力いっぱいプレスサンドされまくってます痛いですッ苦しいですッ、もう一人の私に首、からだ、まとめて潰されますやばいです、しかも今相手の右腕で私の左脇と左肩をするりギュ、と巻かれて抑えられてますし私の右肩奥、肩甲骨の上あたりも相手の左手の平でガシッと制されてます悔しいですむかつきます、もう一人の私はほんと隙が無くて、格好良くて、むかつきますっ!!
私の首いま、ぎゅむぎゅむ押されまくってて痛いし苦しいですけどっ、でも力を全開にして跳ねのけてやりますっ、両脚に背中と腰の奥から力を込めて湧き上がらせてっ、いっぱいの力を太もも、両膝ふくらはぎっ、足首、足裏足指にも、きゅうわっ♪ と満たして、やわらかどっしり踏ん張ります、パワー頑丈マックスの軸と芯にして一瞬たりとも間を置かず、踏みしめたこの力を脚腰の上にも、背中の上にもシュとわっ!♪ て向かわせます、そこに居る相手に、ずしん! てぶっつけます押しますッ、
でも首痛いです苦しいです負担が来てます、いえこれ、もう一人の私がさらに力を掛けてきてます、パワー綺麗に分厚く、しゃむぐわ、しゃむぐわ、って私の首をもう背中ごと、左肩ごと広ぉくぶち壊そうとしてきてます怖いです、でもっ、勝ちますッ、やっつけますっ私の力をもっともっと踏みしめてっ、もっともっと上に押し込みます、もう一人の私を跳ねのけてふっ飛ばしますっ!
――そんな私の上下押し合い、全力同士のぶつかり合いは十六秒ほど、とむがきゅわ、とむがきゅわ、って痛くて熱くて苦しいままに、でも勝ちたい楽しさとやり甲斐が、ふぅわーっ!♪ て溢れる感じに続いたでしょうか、その十六秒目に相手の右胸にある肋骨と、胸中央の胸骨が、ばぱきじゃぐ、と割れ砕ける感触と音がしました、だから私は、
『やった、勝ちました!♪ かなり怪我させちゃってほんとごめんなさいっ、めっちゃ押しまくってよくない怪我させちゃってすみませんでした、もう一人の私さんごめんなさい、どうしても嬉しいですっ、だって私が一番、強いんですっ!♪』って、わるすぎる怪我させちゃった申し訳なさと、上に押しまくる攻撃が成功して凄い怪我を与えた大喜びとでハラハラワクワク、
二重のドキドキに、ふゥキュムわぁーっ! て気持ち震えて弾みましたけど、
でもそんなのは刹那の内で、私の意識はすぐぼんやりトロリと黒く暗く落ちていって、
『あ、死ぬみたいです、嫌です』って思わされてしまいました、
死ぬ直前に気が付いたのは、私自身の首の骨が、ざじゅぐ、と大きく粉砕されるかたちで二つに折れていて、あと左肩から左背中の骨、鎖骨に肩甲骨に左上の肋骨が、ばぎらズグゥ、と体の内に押されて割れて、刃や槍と化したバラバラ鋭い骨が、私の肉、血管、神経、肺に心臓をグシャグシャのザク切りに壊しているという事実でした、
それとまあ、最後の瞬間とは言え致死の大怪我に気が付いてしまったので、痛いのと苦しいのがメチャひどかったです、死ぬ時にはほんとよくあることですが、でもあの時もっ、メッチャメチャ痛くて、怖くて、血の流れも止まるかというほど苦しかったですっ、しかも私自身のほうがずっと大怪我だから、もう一人の私に押し合いでも喧嘩全部でも負けたのがすごく悔しくって、
殺されて死んじゃうのも悔しくて悲しくて、けど殺されたのは殺させたっていうことですから相手に凄くよくないことをさせてしまってごめんなさいの気持ちがジュンジュン熱い透明に湧いてきてもうとにかく私自身の力不足のせいで何もかも悲しいのと悔しいのがごめんなさいのいっぱいに、さらじゃぶわ、さらじゃぶわァーっ、て熱くあふれて止まらなくなって泣きそうで、ただもう死ぬ前でしたから涙が零れる間もありませんでしたが、
でも強くなりたいって、死ぬより生きて強くなりたかったって凄くおっきく感じました。
最後までやっつけ合う喧嘩はめっちゃめちゃ楽しいですけどっ、
だけど死ぬ死なせる、殺される殺す、とかのわるいことをしなくても良いようにもしたかったです、
私はもっともっと強くなって、綺麗になって可愛くなってっ、ずーっと強く強く成長しまくって、
楽しいけどよくないこと、喧嘩です、を闘って、相手をやっつけて勝ちに行くときを、そうして大丈夫っぽいときを、きちんと選びたかったんです。
けれど今私は、もう死にますから、それが悲しくて悔しかったです、私自身にももう一人の私にもごめんなさいの限りです、
ほんとにもっと強くなって、ずっと強くなって、やっつける闘いを私の力で選んで勝ち取りたかったです、殺す生かすのどっちでもどうあってもっ、絶対勝ち続けたかったですっ!!
したかったことがそんな風に分かって私は結構、ほっと満足して落ち着けましたけど、わがままパワーの大興奮までちょい静まっちゃったのが良くなかったのでしょうね、
意識と心にトロリぼやけた暗黒、ギリ耐えられてた死が急加速の超広がりに、さぅわーっ!! て夜凪の海みたくシィンと満ちて、私はそこで体も心も真っ暗闇直行、なにもないとこまで死にました。
ただ、もう一人の私からの説明、死んでも生がある、というのはマジでした。
私は直ぐに、いえほんと直ぐにって分かるほど即座に無傷の元気な体、
パジャマにさえ血も破れも引き連れも無い万全な状態で目覚められました、
喧嘩前のようにもう一人の私と近く向かい合って立っていて、
私はちょっとびっくりした顔、きょとんな呆気に取られてたかもですが、
もう一人の私はやっぱり綺麗抜群のお澄まし穏やか真顔で、それがまた格好良いから少し、いえかなりむかつきました。
そんな美しく可愛く落ち着きまくってるもう一人の私は、
分かり切った楽しみを私に申し出てきました、内容はこうです。
「そうですね、強くなったら選べます。
きちんと良い闘いもできますし、最後までのわるい喧嘩も真摯な心で楽しめます。
だからもっと、私と喧嘩をしましょう、
夢の私とはいつでも、いつまでも、最後までの喧嘩をやりまくって経験が積めます。
楽しくぶつかり合って喧嘩しまくれば、
それは容赦ない鍛錬にもなりますからどんどん強くなって行けますよ。
まあ最初から私がバッチリ勝ちましたし、
これからもずっと勝ち越させてもらいます。
挑戦状代わりにも今言いましたから、いつでも掛かってきていいですよ。
しかし本物の私より、練習相手、喧嘩相手の私のが強いのは、いささか情けがないですね。
本物の私は、こちらの私よりちょっとかっこがわるいです。
さあ挽回できますか、さあ強くなれますか、本物の私さん」
――もう腹立たしいくらいにやる気が出て、やっつけたくて嬉しかったです、めっちゃ悔しいのですけれどっ!♪
私は怒りと喜びのままに、勝ち気な笑いをキギィッ、と一杯に咲かせて引き締めて、軸の左脚をちょい上げに進むは僅か、力はたっぷりに、きゅぅっ、て踏み込み、右脚、右脛のローキックを相手にびゅおん!♪ と蹴り出しました、狙いは膝上の左太ももです、
って相手のそっち膝がシュイと上がりましたカットの姿勢で左脛を外に向けて上げて来ました反応速ッ、ヤバいですもうぶち当たります間に合いません今、ガツッ! て当たって痛ッたッ、別に骨折も打撲も無いですが痛いのはやっぱり痛ッたいですッ、じゃ直ぐに蹴り足引いてっ、ア左腕で抱え込まれましたもっとまずいですまた窮地ですっ、
このままだとバランス崩されます、というかもう相手が崩しに入ってます、ぎゅむぐいぃっ! て引かれてます倒されそうですッ、もう一人の私の脚腰におなかせなかに腕肩の、綺麗に流れるたっぷりパワーでどんどん引かれて沈められて崩されてってますヤバいです、
ええ、まあ、とてもヤバいのですが、これ以上はちょっと今の私がその、すごく恥ずかしいので話をストップさせますね、一応結果だけ言うとまた私自身が負けて、もう一人の私が勝ちました、最後まで喧嘩してまた私は殺されて、もう一人の私に殺させてしまったんです、ほんとに、もう、力不足の限りで、恥ずかしいごめんなさいの感じですっ……!! あっ、今その、すみません、ちょっと赤面しちゃってて、声もおっきくなっちゃって、いえもうお話を再開しますっ、要点をメインに行きますねっ。
――二度目の死と敗北を喫した私自身は、悔しくて恥ずかしいのをギュッと我慢しながら、もう一人の私に強さの秘訣を尋ねてみました。
するともう一人の私はお顔にお声を淡麗さらりっと、
「実はあなたの思考や感性を読み取っています、私同士ですから特別に出来ちゃうのです」
とか、とんでもないことを言ってきました。
勿論当時の私は、『それは強すぎますし、あんまりにも特別すぎます!』って憤慨しましたけれど、
でももう一人の私がそうしているのにはきちんとした理由があって、
つまり、〝本物の私が、そんな読み取りとか気にもならないくらいに強く成ってくれるように〟との願いを込めた行動、読み取りとのことでした。
まあ、えっと、今にして思うと上手くごまかされていたような気がなきにしもあらずですが、
でも現実にもう一人の私がめっちゃ強くて、めっちゃ綺麗で、めっちゃめちゃにむかつくからこそ私自身の闘志にやる気に勝ち気がぐんぐん湧き上がってきて、今に至るまでずっと頑張れてきたことも確かです。
だからもう一人の私には、今でもすっごくありがとう、って思ってます、
ほんっといっつも強くてむかつきますけど、でも格好良くてやっぱり強くて、鍛錬と成長の頼りになりますから。
あと、もう一人の私からは、最初の日の夢のおしまいに、大切なお願いをいただきました。内容として、
「ところで、もう一人の私、とかしょっちゅう思われたりするのは少々ややこしいですね。名前を付けていただけませんか」
こういった風なのです。
お澄ましクールに格好良いもう一人の私にお願いされて、悔しくもちょっとドキドキしてしまいましたが、
当時の私は一生懸命に考えて、結果、『琴美さん』、というお名前をプレゼントさせていただきました。
そしたらもう一人の私、琴美さんはやわくも明るい微笑みを、ふぅわり、ぱぁ、と浮かべてくれて、
「字面も響きもいいですね。ありがとうございます」
ほのかあたたかく緩やかに、お礼を伝えてくれました。
私は気持ちほぼライトに軽やかに、ぽやぽやもじもじ浮きながら、
「どういたしまして、です」
って、なだらかに答えましたけど、嬉しい中にもでっかい悔しさと、勝ちたい闘志がありました。
私はもっともっと強くて綺麗になって、もう一人の私、琴美さんを越えたかったんです、
喧嘩した時からずっとそう思ってましたが、今さらにはっきりと、〝勝つ気〟が溢れて止まらなくなった感じです。
ですが、まあその結局ですけどっ、恥ずかしながら私自身が総計でどうにか勝ち越せたのは、
もうずっと後でごく最近の、二十一歳と三か月目のときでした。
さて、私自身の楽しい喧嘩、めっちゃやる気が出る見せつけ合い、そして強くなる鍛錬のお話でしたが、
でもこれらの良い感情、素敵な経験はあくまでも私一己のことです。
喧嘩を最後まで思いっきりやり切って、殺す殺される、死なせる死ぬまで行ってしまうことは、
他のかたがたには絶対に勧められることではありませんし、
丸切りよくない、わるいやり取りです。
私がいつも見る、心ごと体験している夢みたいに、死んでもまた生きられるとしても、
それでも普通は絶対に、やっちゃダメな勝負だと思います。
私自身は楽しくて勝ちたくて、強くなりたいからめちゃ喧嘩しまくっていますが、
わるいことなのはまあ、分かってます。
極めて危険で恐ろしい磨き方、成長の仕方だと思います。
私の格闘技術や武術を、他のかたに教えられない理由の一つ目がこれです、
怖くてよくないことだからです。
そしてもう一つの、私にとってもっと、ずっと大きな理由があります。
私が鍛錬して、成長して身に付けた強さの全ては、絶対に私だけのものなんです。
私が得た力も技術も心も、綺麗も可愛さも全部ぜんぶっ、
私だけのすっごい嬉しい、どうだーっ!♪ て自慢出来る大切です。
他のかたには断じて、絶対、渡すわけには参りません。
私の強さは、私がめちゃ楽しく闘いまくったり、めッちゃ嬉しく勝つために、私の身と心こそにあるのです。
改めて言います、私の強さは絶対に、私自身にこそある大切です、からっ! ――声を失礼しました、ですが、
だからこそ決して教えたりなどしません。
ただ、私から自然に教えたくなるような、よっぽどの事情があれば別ですが、
ケネスさんのご提案はそれに該当しません。嫌です。
ですから一つ目の理由とも合わせて、私の強さや技術については、
私だけの唯一とさせていただきます。
厳しいことも言ってしまいましたが、私のよくないことも、やっつける楽しさも、強くなる楽しさもわがままもすべて、
正直な気持ちのもとで伝えておくべきかと思い、一切迷わず説明させていただきました。
それと、最後になりましたが、相手をやっつけることが楽しいのを凄くはっきり思い出せて、
もっと素晴らしく自覚できましたのは、セネットさんの強さのおかげです。
ハラスメントに関わることで誠に申し訳ございませんが、
しかしセネットさんの内に秘められた、赤く美しくあたたかな強さ、透けて蕩けるめちゃキラな明るさのおかげで、
私は、私こそもっともっと強くなりたいって、さらに気持ちぎゅぎゅっとフワリっと楽しく決意できました。
決めた心まで強くなっていけてるって、今そういう溌溂な感じです。
ほんと嬉しいです、セネットさん、勝手ながらありがとうございますっ!♪
――恋愛の私情を失礼致しました。
私からのお話は以上となりますので、皆様のご静聴に深く感謝の意を示させていただきます。
私の闘い方や強さのこと、よかれわるかれな楽しみのこと、
いつも鍛えてきた根本のことをお聞きいただき、
本当にありがとうございました。
総じて、私の強さは私だけの大切だと、そこをご理解いただけていれば何よりです。