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24.琴子は、強くなりたいです(一)

(Side:清浄院琴子)



 生まれた時から、私は大きくて強くて、しなやかにやわらかい全身でした。


 身長は70センチと少し、骨が太くて筋肉たっぷりな体重は10キロを越えていましたから、

 お母様には大変な苦労をお掛けしたそうです。


 でも、お母様にもお父様にも、お兄様たちにも私の体のことで怒られたことはございませんし、

 いつも温かな応援をくださりましたから、本当にありがたくて嬉しい限りです。


 受け入れてくれて、前に進む援助までしてくれるのですから、

 私は一生懸命頑張ることと、きちんと活躍することでせめてお返ししてきたつもりです。


 いえ、家族のみんなは、お返しは幸せに生きること、と言ってくださるのですが、

 それだって私は素直のままに、出来る果てまで楽しんできました。


 話を戻しますと、私は0歳のころから体を動かすこと、もっと元気に成長していくことが大好きで、

 生まれて2か月目に言葉がある程度分かって、喋れるようになると直ぐ、

「たくさん動いて、琴子はいっぱいおっきく、すごく元気になりたいです」と両親にお願いしました。

 その時はもう、立って歩けるようにもなってましたしね。


 お話を聞いてくれたお父様とお母様は、

 私の中にやりたい希望、楽しめる希望があることをとても喜んでくださって、

 当時における私の体から見て無理のないトレーニングを、

 ストレッチやランニング、軽めの筋トレを始めとして、多種多様に準備してくださりました。


 両親に手伝っていただきながら、私はトレーニングを即座に始めて、

 心も体もどんどんすくすく、元気に満ち溢れて成長していきました。


 ただ、トレーニングを始めて3日後くらいに、私はある特殊な爽快感に気付きました。


 トレーニングの(いち)メニューをこなすと、私はその達成を、

『元気になるためにやっつけたっ、良かったっ! 頑張れたから、トレーニングより私のほうがめっちゃすごいっ!』

 という風に嬉しく楽しく感じて、気持ちがワクワクあったかく高まるのが、もう止まらなくなるのです。


 そして、もうとっても楽しいままに心身ぜんぶがやわらかく気持ちよーく、ふわふわっ♪ て癒やされるし、

 活力全開に回復した上でさらに成長も、強く綺麗に、すぅわ♪きゅわっ♪ ておっきく出来るしで、

 私は毎日もっともっと心身の強さに美しさ、あらゆる力を増していきました。


 でも少しばかり不安もありました、私のお母様は元マラソンランナーで、

 昔から今に至るまでトレーニングを欠かしていないのですが、

 そのことに対しては〝普通な日常の一環、当たり前のなんでもないこと〟と認められていて、

 別段トレーニングへの対抗心とか、やり遂げて勝った気持ちとかは、ほとんど感じられていないようだったのです。


 さらにそのことは、軽めのトレーニングを行われているお父様やお兄様たちも同じみたいに見えました。

 私以外の家族はみんな、トレーニングについてはやっぱり、

 〝ごく普通のこと、ただ鍛えるためにするだけのこと〟だって思われているようでした。


 なので余計に不安になって、私のやり方はいけないことだって、そんな風に思えてきました。

 そもそもやっつけるのは、傷つけて倒す、ということですし、いけないのは当たり前だと信じられました。

 そして勿論、当時からの懸念こそが真実ですし、今もその確信、つまり、むやみやたらにやっつけること、打ちのめしてしまうことが良くないし悪い、という認識は変わっておりません。


 ですが、それでも私は、相手をやっつけて私の強さを示すのが大好きなのです。

 私が誰よりも凄いって、どんなひとやものよりもずっとずっと凄いって分かるのが、ほんとにめっちゃめちゃ好き、なんです。


 強いかたがどこにでもいたら、どこにでも行ってやっつけたくなるんです、

 私のほうがもっと強くて、もっと凄くて綺麗で可愛いって、ぴかぴかに自慢したくなるんです。


 私の全部を、どうだーっ! て、明るすぎて強すぎて綺麗すぎるくらいに、いつも見せつけたくなります、私にも、他の全員、全部にも、ですっ。


 だから私は格闘技を柔道、レスリングと始めて、成果もきちんと出したのですが、それはまたあとの話です。

 私はちっちゃかったころから、相手や敵を倒してやっつけちゃう自慢がずっと、めっちゃ好きで、それは今も全然変わってないのですが、

 けれど幼い当時はそれなりの折り合いを付けられるほどには、私もまだ賢くはなかったですから、

 毎日トレーニングのあとや、寝る前などにかなり悩みました。


 悩むと同時に、もっと遠慮なくお強い誰か、何かをやっつけたくもなりました。

 全然幼い私でしたが、当時のパワーを全開に、どかん! と振るって打ち倒してみたかったんです、闘える敵を、闘える相手をです。


 あ、闘う、ということを思いついたのもこのころです、トレーニングを始めてから5日目だったと思います。


 その5日目からさらに9日後には、幼い私はとうとう我慢が出来なくなって、

 闘うことをやってみたい、とお父様やお母様にお願いしたのですが、

 それはお二人の穏やかなお声による、静かで厳格な反対を受けて、

 大分あとになる3歳の誕生日まで叶うことはありませんでした。


 ただまあ、私の体が客観的に見ればまだ全然力不足で、いえだからこそ闘っての成長もしたかったのですが、

 ともかくちっちゃくて弱めだったからこそ、実際に闘うのは危ないというのも良く分かりました。


 勿論お父様とお母様はもっと深く、私の体から心の安寧、あらゆる健全さに至るまで心配なさってくれていたのですが、

 恥ずかしながら私がその事実に気付いたのはずっとあと、2歳半を越えてからのことでした。

 これに関しては本当に、未熟の極みだったと思います。

 優しさや心遣いをきちんと受け取れるように、日々の精進と反省を忘れずに行きたいです。


 時を戻すと、生後2か月半に達した私は、やっつけたい衝動をある程度開放していくための妥協案として、

 毎日のトレーニングをもっと集中して、もっと頑張ってやっつけまくる、という方針に切り替えました。


 トレーニングを仮想の相手、仮想の敵と認めた上で、

 完璧よりすっごく成し遂げることで『やっつけた! やったぁっ!』と考えていくわけです。


 これはかなりスカッと満足できました、が、どうしても少しばかりの不満が、

『でもほんとじゃないし、トレーニングは相手のかたちになってくれてないし、ちょっとだめなとこあるかも』、

 という風に悶々と湧き上がってもおりました。


 それでも、当時における私自身の限界や、家族のみんなを心配させないことなどを考えると、

 やはりトレーニングをやっつける相手とした妥協案を続けざるを得ませんでした。


 いえ、それはそれでいっぱい動けて、元気や体力、やわらかさに頑強さもぐんぐん大きくなりましたから、

 かなり浮き浮きハイテンションに楽しかったのですけどね♪


 ただ私はどうしても、ちゃんとした相手、ちゃんとした敵をやっつけて、

 私がもっと一番、めちゃ強いって!♪ あ、声を張って失礼しました、でもとにかく自分に、あと他のみんなにも示したかったんです、強いのを自慢したかったんです。そして強さの中の綺麗も可愛いも元気も、私の凄さを全部です。


 そうして妥協案を基本楽しく、時にうずうず我慢しながら、

 私は幼い日々を運動と鍛錬、あと勉強で過ごしていたのですけれど、

 もうすぐ1歳の生後11か月目、トレーニング開始から9か月目の年明け冬に、すっごい転機が訪れてくれました。


 あ、私は4月10日生まれですからそんな時期になったわけです、

 それと11か月目当時ですと身長は108センチ、体重は筋肉ふわもにっ♪ ていっぱいの、26.5キロにまで鍛えて成長できていました、

 腱や靭帯もしなやかにきゅむ、ぎゅっ♪ と頑丈な(はず)みで、

 神経伝達もキュンキュン超高速度、

 勿論(ささ)えの骨だって、するりぱっつん! ってきれいに硬ぁく、なめらか抜群に全身(とお)ってましたよ♪


 そんな強くて綺麗で可愛くって、もっと自慢したくて仕方がない私は、

 家族のみんなが褒めてくれるのと、

 トレーニングをやっつけちゃうのをたっぷりの嬉しさにしてたのですけど、

 けれどもやっぱりもっともっと、決定的な自慢が欲しかったのです、

 トレーニングよりきちんとした相手や敵と、力いっぱいに闘って勝ちたかったのです。


 11か月目の私も今みたいにそんな願い、自慢への我欲を常々思いまくってましたから、

 強くて純粋な執念がきっと私自身に澄み渡ったのでしょうね、

 1月7日の夜、その日はお母様の七草粥を初めて食べたから良く覚えてます、しっとり深ぁいあたたかみがあってとっても美味しかったです今もですけどっ、いえ、まあ、とにかくその夜に我欲の夢を見ました。


 あらゆる強さが私に透き通って満ち満ちてくれるような、

 力に強さの比べ合いで試し合い、そして殺し合いの夢でした。


 勝ったら絶対にめちゃ自慢できる、

 一番凄い私自身にこそ自慢できて、『どうだっ! やっぱり私は一番強いんだっ!』て確信できる、

 そんな素晴らしい夢でした。


 勿論、あくまで私一己(いっこ)にとっては、ですけどね。



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