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2.現れた不思議と青のお誘い

(Side:雷切玲衣)



 琴子のクールダウンもシャワーも済ませて、

 ラフに着替えてから清浄院一家の朝ご飯を――上品で厳格、でも優しいご父母さんと、冷静沈着な長男さん、ゆるやか穏やか次男さん、そして長女で末っ子の琴子に、特例な私、雷切玲衣って面子――ご一緒に、今日も美味しくいただくと、

 琴子と私はスマホとPCで軽くお仕事しながら小休憩、しばらくゆったりポチポチ過ごした。


 そうする内にお出かけの時が近づいてきたから、琴子と二人でメイクに着替え、

 準備をてきぱき実行、完了させて、二人揃ってミニバッグ片手に清浄院の家から出発、

 琴子の言う〝新宿の一角〟へと向かった。


 ……ただちょっと出発が余裕の時間すぎたらしく、

 琴子が言うには、このまますぐ歩いていっても不審者みたく現場で待たなくちゃいけない、とのことで、

 私たちは当の現場近くにあったカフェ――コーヒーで有名なチェーン店――に入り、

 お互い無糖レモンティーをアイスで注文、何かが起こるらしいときの10分前……10時5分まで、そこで座っとくことにした。


 今日も私はメイクこそ涼しい系に決めてきたけど、服はちょいテキトーに派手めプリント白Tとネイビーのデニムジーンズ、

 靴は白と薄ピンクのスニーカー。ようするにまぁ、最低限恥ずかしくない格好。


 一方の琴子はメイクもラベンダーピンクベースの淡みに可愛いカッコ良い、服装もまたやっぱり完璧キレイ。


 まず上下がひとつなぎのすらっとブラック、薄手ウールな黒のジャンプスーツ。

 ノースリーブでパンツルック、琴子のやわつよ豊かな太もも、長くておっきな脚に合う、

 なめらかスリムなテーパード・シルエット、

 前の首元は両肩ちょっと下から、一直線にサッと通ってクールに開いた、きちんと感あるデザインだけれど、

 でも背中はいっぱい空けてるオープンバック、

 広い∨字の透明エアーが琴子自身の美しい背中に背筋(はいきん)、朝雪お肌へ豊かに流れる柔らかもっちり筋肉隆起を、

 すらもに♪きゅむきゅむ♪元気可愛く魅せてくれてる、

 下ろした後ろ髪からそっと見えてる、セクシーで強くて、凄く綺麗。


 そう髪型、今は前髪をきっちり・すっきりなポンパドールに上げて、

 後ろ髪は背中の半ば、ちょっと上の方までのロングに下ろしてるけど、

 それでも濡羽の黒髪さらつや、さらりから、ハラリハラリと見えてしまう、まるで優雅に魅せつけるお背中、

 豊か柔らかなもにきゅむ筋肉に陽当たり白雪アジアの美肌が、エロティックで怜悧に美しい。

 見えてしまう、見惚れてしまうのに、対価が無いのが怖いくらい。綺麗で優しい、怖いひと。琴子。


 それに足元、スニーカーも黒一色、

 スエード生地でさらっとバレエ風に仕立てたぺったり可愛いきれいめの、で、素敵。

 ジャンプスーツのクールとセクシーを、すべ黒のキュートでピリッと締めてくれてる。


 ……だからまあ、琴子の美貌とセンスを見ていたら、怖くて悔しいくらいにワクワク来て、テンション、上がるっ!


 格好良い、可愛い彼女と最近のこと、

 気になるおしゃれとか音楽とか、映画とかを話しているとすぐ時間は経って、

 なんだか実感ないけど楽しい流れの早さで、カフェを出て現場に行くときが来た。



 ◆◆◆◆◆◆



 私は167センチあって背が高い、脚も長い方だけど、琴子はもっと伸びやかで大きくて、もにやかすらりっと美しい。

 だから彼女の歩幅もとっても広くて、それでいていつもペースはゆっくり、一緒の速度で歩いてくれる。


 自分の長所を全部熟知していて、けれど〝過ぎているかな〟、と判断したらごく自然に合わせてくれるから、

 私はその度に嬉しくなれる。それと申し訳なくもなる。

 すごく悲しいってほどではないものの、私も他の誰も皆、琴子には足りてない、弱すぎる、ってことだから。


 ……琴子は3歳から柔道を始めて、4歳からはレスリングの練習も積んできた。

 その頃からふにもちすらりやか、幼さ以上におっきくて強かった彼女の、基盤は組み、投げ、寝技に極め技。

 

 打撃練習を自宅でのみ始めたのは7歳の誕生日から、

 ご家族及び、コングロマリット・清浄院グループの協力のもとでのことだった。

 中学校までは女子レスリング、高校からは女子柔道、ともに無敗。

 オリンピックでは女子柔道78キロ超級の優勝、金メダル。


 お外でも打撃を公開したのは、もうずっと後の21歳、総合格闘技に転向してから。

 強い体に強い技、無限に無傷の持久力、さらに清浄院グループの影響力も駆使して、

 1年足らずで女子主要3団体の最重量級を全勝制覇。その間、組み技と寝技は使ってない。理由は打撃の方がはやく届くから。

 次の年には男子の部に自身を登録、1年と3ヶ月で主要4団体の最重量級を全勝制覇。


 今もずっと、組み技と寝技は使ってない。理由は打撃の方がはやく届くから。


 琴子は力も速度も、技も持ってるし、いわゆる当て感も超級に・最強にあるけれど……それ以上に、相手の動きや状態が常時に即時、

 全部見てすぐ分かるらしい。


 かつて聞いたこの事の理由を、私は今日さっきまで、

 〝フロー状態とかゾーンとかを自由自在に操れるからだ〟って誤解してたけど、

 どうも真実は琴子の身体能力の凄さ、感覚そのものがとてつもないから、らしかった。


 空間越し……合間(あいま)越し? に、感覚をどこまでも広げられるって、何? 空の上まで、分かるって。やばい。

 どう考えても世界一隔絶している。他の人とは、あまりにも違う。

 影を追えないどころじゃない、琴子が居る場所が誰にも分からない、差がありすぎる最強だ。


 ……あと多分、てか絶対、集中力も最強なんだろうなって思う。

 ちょっとやそっと気を引き締めちゃうだけで、フロー状態なんてもう要らないんでしょうね、琴子……。


 だから、その。

 強くて綺麗で可愛いけれど、こと強さの全力全部は発揮することがない、一部のみでも断トツ過ぎて発揮しきれない。

 清浄院琴子は、そんな一人ぼっちの世界王者だった。


 歩くのをゆっくり、スマートに、合わせてくれるくらい優しいけれど、

 琴子自身には誰も合わせてくれない。


 琴子はずっと昔、私と中学で知り合った頃、楽しい時には自分を〝琴子〟と名前呼びしてた。

 今はもうない、琴子のハイテンション。抑えきれないわくわく、楽しさ、喜び。


 琴子の強さ、琴子の感覚、琴子の優しい歩き方から、どうしても思い出してしまうのが少しだけ悲しい。

 琴子には、今以上の気遣いはしてほしくないから、私も決して、心だけ。


 私は平然上気分の顔色で歩いて、少し先導してくれる琴子に並んでく。


 そうして数分で到着した……琴子が足を止めたところは、騒音激しいビル建設現場の手前だった。

 中途な出来具合のビル高くにはクレーンが鉄骨一本のでっかいやつを、キシキシガァ、と運んでて、

 少しだけ寒気っぽい……怖い感覚がする。

 というか、建設現場が得意な人って、それだけで専門家っぽい気もする。


 ……と、しばらくぼんやり立ち止まって、工事の景色を見ていたら、

 琴子が不意に視線を歩道の前、通行人の一人へするり、と流した。


 その通行人は見た感じハタチぴったりくらいの女の子、大学生かそこらくらい。


 髪の長さはミドルボブ、服装は薄手の水色ワンピース、

 目元は割合しゅんと垂れてて、大人しそう、気弱そうな雰囲気のかわいい()だった。


 私も琴子と共にその女の子を見つめていると、急に琴子が駆け出した、速い! 

 銀白色のミニバッグも手放して地面に落としてる、しゃかさ、と地面にミニバッグが当たる、

 琴子は本気ダッシュでもう女の子のすぐ近くに行ってる、あ着いた、女の子の目前、

 そこで駆け込む高速を僅かに緩めると、大きな手を女の子の両脇に伸ばして持つ、持ち上げる、

 高い高いみたいに抱え上げてまたダッシュ、未だめちゃ速く遠くに駆けてく、駆けてく、

 女の子はぽかんと驚いててなんか可愛いかも、

 そんな景色に上から鉄骨、でかいのがストォッと見えて来て怖い、え鉄骨? 落ちてる。

 でかいのが怖い鉄骨が、クレーン無しワイヤー無しで落ちてきてる危ないっ!!


 鉄骨が私の数メートル前で、地面に上からぶち当たる、轟音。ドガァンって聞こえて歩道が、割れて、

 琴子は、女の子と遠くに居て……無事。二人とも。一切怪我なしに、琴子が女の子を下ろしてあげてる、良かった。


 まだどきどきするけど、ほぅっと気が抜ける、体からも力がへんにゃり抜ける、

 でももうほんとに、二人が無事で良かったっ……!

 

 そんな風に安心と、緊迫の残滓を感じていると、琴子がスイと私へ振り返って、大きな声をクリアに掛けてきた。


「玲衣さん、ちょっとこっち来てください。バッグもお願いします」


「あ、うん。分かった」


 答えると、私は琴子のミニバッグを拾って、

 速歩きで鉄骨を大きめに迂回し――だってまだ、かなりに怖いから――琴子と女の子の元へとちょい、急ぐ。


 程なくお二人の傍に着いて、琴子に、はいこれ、とミニバッグを差し出すと、

 こんな時でも自然体に柔らかな彼女は、左手でそっと受け取って、ぽんやり優雅な春風みたいに応じた。


「ありがとうございます。確認をしてましたが、やっぱりいま止まってます」


「え? ああ、それはまあね、落ちたから止まるでしょ。鉄骨。確かに怖かったけど、もう終わったわ」


「いえ、鉄骨じゃないです。周り全部です」


「はい?」


「人も車も工事の音も、天気に風まで止まってますよ、いま」


 ――言われて気付いた、さっきまでガァギィチュイーンと相当激しかったビル工事の騒音が消えている。怖い。


 琴子はしかも人とか、車とかも言っていたから慌てて周囲を見渡すと、

 あろうことか通行人大勢は歩く姿勢や事故にびっくりした様子のまま静止、揃って動きが無くて、

 車道の自動車沢山も、全部がピタリと止まってた。


 映画ディスクを一時停止した世界に、なぜか私まで居るような分からなさ。

 取り込まれた感じ。迷い込んで、もう出れないかもしれない、怖い。


 こんなの全然分からないし、寂しいし、分からなくって全部怖い!!


 あでも、琴子の声、柔らかでつよ可愛い清純が、聞こえる。

 ……琴子はとっても強いから、それを知ってるから、落ち着ける。


「大丈夫ですよ。玲衣さん、大丈夫です。

 これをしたひとも来てくれるようですし、質問タイムにしちゃいましょう。

 ぴかぴかな気配のひとですが、わるいとか敵意とかは感じませんから、優しいお話ができると思います」


 琴子がそこまで言った時、別の声、涼感クールな若い男性の声が、


「うん、俺もそのつもりー。

 運命で決まってた事故さ、防いだのびっくりしたけど、

 なんか俺バレてるの? バレてたの? もっと今びっくりって言うか。

 とりあえず俺もそっちに行くねー、分かりやすく光らせるから、よろしくっ」


 いとも軽々(けいけい)、明朗に、車道側の横合い近くから響いた。


 その出来事に私がまた怖くてドキドキ、混乱した直後、声が来た場所が青く鮮やかに光って、

 ハイティーンの美男子がパッと現れる。


 肌色、顔立ちは透明感のある白人さん風で、輪郭はなめらかな卵型、

 シャープな眉は緩く上がったかたちの、宵の海みたいな濃いブルー。

 瞳は大きめアイシーに透き通った碧眼、パッチリ涼しくて格好良い。


 ヘアスタイルは少し無造作なミディアムツーブロック、襟足の長さは首半ば。

 髪色はライトブルーがかった銀髪へ、さらに流麗な青メッシュの差し色。


 形良い両耳にはピアスがたくさん、シルバー基調の色んなかたちでバチバチバチッと決めている。


 身長もハンサムに高くて脚長、腰高、活発感あるのにスタイル抜群、

 180センチを軽く越えてるし、体重も筋肉かしっと多めでおそらく70キロ以上。


 けど服装はちょっと特殊? で、めちゃファンタジーっぽい装飾ジャケットに、同じく装飾ドレスパンツ、

 上下とも青基調でシルエットはすっきりだけど、

 装飾が派手め大きめに、ゴールドカラーとかホワイトカラーとかバンと流れて、目立ってた。


 そんな不思議の美男子は、さっき聞こえたのと同じ陽気な涼感ボイスで、また奇妙な自己紹介をしてくれた。


「はじめまして、俺、神様のブランドン・ウェルシュね。

 地球じゃなくって、別な世界の神様。担当は享楽、つまり超エンジョイすること。

 でさ、今かなり面白いからさ、君ら全員こっちの世界に転移させたいけど、オッケー?


 まあ断られても最低限予定通り、

 事故で転生するはずだった葵遥(あおいはるか)さんはね、まあ死なずともね、マジ転移させるけど。


 けどさ、ほかの美人なお二人さんもさ、こっちの世界、楽しいよ? 来なよ。

 今なら転移フリーだからさ♪」



 ……どうやらファンタジーなのは、彼の服装のみならず本気っぽかった。

 琴子はいま……緩やかな微笑み、気負いなく柔らかで可愛くて、やっぱり自然に強いと分かった。


 だから私も、またすっきり落ち着けた。

 私は専属のスポーツドクターだから、琴子のサポートくらいは、今からのことでもしたかった。


 不思議でも、奇妙でもファンタジーでも、出来ること全部をやろうと思えた。


 あとまあ、可哀想な女の子、あおいはるかさんも助けたい、かな!



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