表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/32

19.王子様はファンボーイ

(Side:マシュー・クレイグ)



 ――え、お尋ねしたいって、ああ質問。

 質問か、清浄院さんたちはレネアシャに来てすぐだものね。いいよ。


 いや、丁寧にありがとう……うん、大丈夫だ。

 清浄院さんたちはケネス陛下の問いかけにも冷静に応じてくれたし、

 こちらも出来るかぎりのことをしたいから。

 あ、ただセネット師団長とのことは、特段情熱的で驚いたけどね――ううん、今は落ち着いてる。納得もしつつあるよ。


 今見えた恋愛のかたちはユニークかもしれないけれど、

 清浄院さんがセネット師団長を純に想ってくれているのは確かだと分かるし、

 そこを証明し続けていけば、ケネス陛下もきっと理解を示してくれるはずさ。


 ――うん、まさにその通り。

 ケネス陛下とセネット師団長は、本当に仲がよろしいお二人だからね。

 魔王城やその周辺で勤める者なら、誰だって確信していることだ。

 そこも知りたい? 勿論いいよ――あ、もう質問を順序立ててくれてるのか。

 では後からだね、お二人の関係は。手始めは何だろう?


 ……魔王国の歴史か、勤勉な興味を持ってくれて嬉しいよ。

 うん、なるほど、災厄や元神(もとかみ)についても合わせて、だね。いいよ、問題ないし好都合だ。

 その辺りを述べていく内に、話の後半になるかもだけど、

 ケネス陛下とセネット師団長の関係も併せて伝えられるからね。


 そっか、良かった。清浄院さんたちが真面目で助かるよ、勇者にも色々あるからね。

 え? ああいや、平気だよ。

 話を聞いてくれるのは、それそのものが掛け替えない長所なんだってことで――まあ別の思い出だし、

 今は違うから。脱線してすまない。


 では順序立てて始めるよ、先ずはこの土地、ローネイチャー(RawNature)大陸上半分が辿った経緯と、

 ケネス陛下のご活躍からだ。

 ――あ、ケネス陛下! お気付きになられたのですね。はい、何でしょうか。


 〝カッコ良く話す〟ですね、勿論理解しております。

 私から勇者のかたがたに、厳しくも美しい真実を毅然と述べさせていただきます。

 ……はい! 陛下のご信頼へ、必ずお答え致します。


 清浄院さんも他のお二人も、静粛に待ってくれてありがとう。すぐ説明に移ろう。


 ことの始まりは、今から233年前のことだ。


 当時まだ魔王国はこの土地に存在せず、

 ほとんど岩山ばかりの荒涼たる景色の中で、

 あまたの知的種族がときに手を取り合って協力し、ときには僅かな利を奪い合いながら、

 かろうじて生存活動を続けていた。


 足りない尽くしの環境と生存競争、そして凶暴なモンスターどもに力及ばず、滅んだ種族もまた多い。

 その分、生き抜いてきた種族はレネアシャでも上位の力を持つに至ったのだけどね。


 ただこの土地の面々は、種族全体における文明や協調性というよりも、

 種族内の各個体がそれぞれ身体能力や、スキル的な精神力などに秀でているという感じだ。


 良くも悪くも個人主義で自我が激しい面々が多いし、

 その特徴は今に至るまで魔王国全土に表れている。


 閑話休題、ケネス陛下はそんな時代に、

 大陸中央部を真横一直線に通る、グリーン・スティープ中央山脈の最西端にて自然に生まれた。


 この山脈は名称が示すように、特別豊かな森林の緑であふれてて、

 大陸下方の別国家、人間たちが主に暮らすオネストシャイン正王国との境界も兼ねている。


 そんな山脈で、〝世界から自然に生まれた〟ケネス陛下は種族も森に縁深いドライアド、

 すなわち樹木と草花の精霊だった。

 それもずば抜けて強力無比な、ね。


 ご容姿も知性も誕生当時から今現在とほぼ変わらず、

 元より多能力に秀でた精霊たちの中で個人として世界最高峰、

 クラスの観点でも十五歳の誕生日を待たずして、

 もう天の稲妻より卓越したウィザードだった。

 あらゆる強みと能力が、ケネス陛下には即刻備わっておられたんだ。


 勿論、今現在のケネス陛下は過去よりさらに熟達なされているけどね。

 かと言って若き頃に弱かったわけでは決してないけども、あ、いや、ご容姿はずっと美麗なままだよ。

 もう話したか、話したよね。失礼したよ。


 ケネス陛下は生誕初日に、探知魔法で周辺の情報を調べ、それと並行して衣服や靴も作成なされた。

 おしゃれや生活習慣といったことも、魔法による調査で沢山知ることができたとのことだ。


 デザイン的には迷彩も兼ねて、トップスは白みライトグリーンの長袖シャツと黒みダークグリーンのジレベスト、

 ボトムスはカーキグリーンのスラックス、

 靴はダークブルーのスリッポンローファーだよ。


 ケネス陛下の生誕は魔王国で有名なエピソードだから、僕もよく知ってるんだ。


 話を戻すと、周辺広くを詳細に調べたケネス陛下は、

 当時の大陸が抱えていた問題にもたちまち気付くことができた。


 山脈から南北へ距離が離れれば、知的種族の暮らし向きがそれぞれ全く違っていたんだ。


 端的に言うと、南の土地に住む人間たちは水や草木の優しい自然の中で、

 基本的には余裕あって落ち着いた暮らしを伸び伸び送っているのに対し、

 北の土地に住む獣人や精霊、妖精などは物寂しく乾いた岩と砂の中で、

 モンスターに怯えつつ細々と、ぎりぎりの所で生きていた。


 少し話が前後するけど、

 当時は元神との第一次決戦が終わって未だ8年だったから、

 まだ安定した国家や、それに代わるような大集団が存在しなかったこの土地は、

 世界中を見ても特に悲惨な荒れ方をしていたという事情もある。


 害を振り撒くモンスターどもだって、元神が残した悪しき痕跡、今も継続する災害の一つだ。

 今も迷惑な存在だけれど、過去にはさらにひどくはびこっていたらしい。


 戦時中、元神自体はその言で、

 〝あれらはモンスターなどではなく、生命と世界を高め導くための厳しくも実直な教師、試練獣(しれんじゅう)だ〟

 とか言い訳を……それか開き直りをしてたらしいけど、

 力なき民にはそんなの知ったことじゃないし、

 余りにも危険かつ迷惑極まりない。


 しかも世界そのもののシステムとして、

 過去にレネアシャの管理者だった元神たちがモンスターの自然発生現象を作成し、

 世界の一部へ登録してしまったから本当にどうしようもない。

 治す手段が見えないんだ、厄介事にも程がある。



 あぁ、話が逸れてごめん。

 ただこの機会に、元神についてもう少し伝えるね。


 元神と言うのは過去におけるレネアシャの神々で、

 身勝手な強権を幾度となく振りかざして世界中に苦難や嘆きを広げたことから、

 他のまともな神々と各知的種族によって、座を追い出されるに至った者たちだ。


 この決定に元神たちが抵抗したことから、

 242年前に第一次決戦が勃発。


 まともな神々と知的種族たちは連合軍を組み、

 4か月後の年明けに元神の二割を消滅、四割を行方不明、残る六割を封印して戦争を収束させた。


 でも、封印した六割の元神はそれから225年後、現在から数えて16年前に魔法の牢獄を破って再起してしまい、

 レネアシャはその連中との第二次決戦へ推移してしまった。


 この時にはセネット師団長の大活躍があって、またも勝利を収めることができたのだけど、

 敵の内で確実な消滅が認められたのは半数ほどで、

 残る三割中の二割は行方不明、あ、初期の総数から数えてだよ、とにかく相当数が未知の不安となってしまったし、

 また封印するしかなかったのも一割居たんだ。


 そしてその〝二度目に封印した一割〟が、ちょうど今年に魔法の牢獄を破って復活するだろうと、

 先の国際会議における魔法計算で予測されている。


 この復活予測こそが、清浄院さんたちも享楽の神やセネット師団長から聞いただろう〝災厄〟だ。


 なので勇者である清浄院さんたちにも、元神の次なる復活、

 恐らくは第三次決戦においてのサポートを期待しているよ。

 決して無理はしなくていいから、できるだけの最善を尽くしてほしい。自分自身にも、他のひとにもね。


 また当然ながら、現在行方不明の元神たち、初期数の六割方が再度出現することも重々懸念されている。


 最悪の想定だと初期数の七割分との攻防に移ってしまうことになるから、

 清浄院さんたちも自身の安全を第一に確保して、その上でサポートを行ってくれ。

 あ、だからさっき言った〝できるだけの最善を〟というのは、結構消極的な意味でだよ。

 繰り返すけど、無理だけはしないでね。



 じゃ、今はとりあえず、元神や災厄、勇者の任務についての話題はここまでにして、

 ケネス陛下の生まれた233年前、

 豊かな南の土地と荒れた北の土地に視点を戻すよ。


 整理ついでに纏めると、

 昔のここ、北が荒れてたのは元の自然環境由来のことと、

 そこから来る共同体の力不足に発展不足、

 そして元神に対する戦争の影響、

 この三つの要因が主にあったって考えていてくれれば良い。


 勿論例外はあって、基本落ち着いた南の土地でも山脈すぐ傍、

 つまり北の土地との境界線では防柵や駐屯兵による厳戒態勢が敷かれていたし、

 北の土地ではごく僅かな強者が、その武力による守護の対価として食料や財貨を集めに集め、

 民草とはかけ離れた豪勢な生活をしていた。


 こういった緊迫する状況や格差問題、特に北側の苦境を知ってケネス陛下が感じたことは、


『南の土地が豊かに完成されているのに対して、

 北の土地には入り込んで干渉する余地がある。


 俺なら今そこに居る強者どもより、もっと上手く、もっと広く活躍しまくれる。

 きっと尊敬だってされるだろう。()いな。


 俺の持って生まれた力を、使いたい欲求のままに試しながら、

 他のやつらへ君臨できるんだ。


 刺激的だし、面白そうだ』



 ――そんな美しくも激しい、自我の果てなき高まりだった。


 生誕初日の当決断から、ケネス陛下の大躍進が始まり、

 大陸北部の各地においてほぼ一人きりで、知的種族の開放と保護を繰り返されることとなる。


 単身で何事も成し遂げられるほどに、強く秀でたかたなんだ。

 ケネス陛下が現在でも国家のトップである理由も、そこだ。


 積み重ねた成果が素晴らしいこともあるけれど、

 ケネス陛下が持つ能力と美貌への、国民からの尽きぬ信頼が、

 同じ程の尊敬をも生んでいるんだ。


 先にも述べたけど、魔王国の(みな)は自我が激しめな個人主義者揃いだしね。

 あ、でも一番の要因は、ケネス陛下のお力そのものだよ。

 次に美貌、その次にようやく国民性、だろうね。


 あとはケネス陛下がドライアドで、種族としても植物を操る術に長けてらっしゃるのも幸いだったろうね。

 ウィザードの魔法技術とも合わせて、土地の開拓や緑化にはうってつけだったとのことだ。


 ケネス陛下と配下の大集団、クレイグ魔王軍はそんな感じに、

 約160年かけて大陸北部を占領、開拓、安定させながら遂に統一し、

 ウェルハート魔王国を建国されたのだけど、でも、ただ、なんというのか。当時はまだ豊かさを全土には行き渡らせることができなくて、国民の心理状態が不安定だったんだ。


 ケネス陛下は真実頑張られていたけれど、

 広大無辺なこの土地を満遍なく平和へ押し上げるには、たったお一人では無理があり過ぎた。


 なので国民感情も不安に振れた。

 悪い憂慮と興奮が、魔王国に汚れて滲んだ。


 当時のケネス陛下はね、元々居た横暴な支配者たちへの粛清や、

 まとも寄りだった支配者たちを力で服従させ部下に、すなわち陛下ご自身よりも下位の身分としたこと、

 そして環境改善の進行状況に地域別で差があることなどを、

 かなり散々に批判されていたんだ。


 だからケネス陛下のお心さえ荒れた。

 気持ちが何もかも苦しくて、いっぱいいっぱいの境遇で、それでも最大限公平な政治活動を続けた。


 時には見える成果を出すために、かなり無理矢理に大陸西部の土地を魔王国に併合させもした。


 大陸の南を支配する人間の国家、オネストシャイン(せい)王国へケネス陛下ご自身の業績と武力を提示し、

 ケネス陛下が生誕した西山脈付近の土地を譲渡させたんだ。


 このことには未だ批判もあるけれど、でも当時の魔王国の状況……国民感情と、何よりもケネス陛下のお心を想えば、

 絶対に必要な偉業だったと僕は硬く信じている。

 オネストシャイン正王国の面々も、ケネス陛下へ全面的に従うという英断を下してくれたしね。


 建国して40年ほどが過ぎ去った頃、ようやく国民感情や国土環境も落ち着いてきたけれど、

 ケネス陛下の荒れてしまったお心は、ついぞ癒やされることがなかった。

 その時にはもう国民の優しさすら手の平返しに見えてしまうほど、

 ケネス陛下は痛くてつらくて、永遠に悲しいままだったんだ。


 ――えっ、魔王国の財政状況? それはうん、魔王国には鉱物資源が豊富だから、

 財政的にはずっと問題なかったよ。

 あ、うん、参考になって何より。

 ただあの、清浄院さん、今の話を聞いて真っ先に思ったのがそのことだと、よもや僕のせいでケネス陛下の栄誉と悲劇が、伝わりきってなかったかい? もう一度、ケネス陛下へより焦点を絞って、もっと分かりやすいように言い直そうか? 

 ――そっか、大丈夫なんだ。良かった。ケネス陛下の素晴らしさが伝わって、理解してくれてて何よりだ。


 じゃあ話に戻るね、といってもこれからは良い方に進んでいくのみだよ。


 さらに17年にも及ぶケネス陛下のご忍耐はあったけれど、

 セネット師団長が遺跡から発見されて、魔王国に来てくれたからね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ