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16.魔王さん・お茶会へのいざない

(Side:清浄院琴子)



 話し合いが一段落するともうお昼時で訓練中断となったので、

 遥さんはセネットさんの案内で先に宿泊可能らしい客室へと向かい、

 私は練習後のクールダウン、軽めに走ってからストレッチを行っていきました。


 そうしてクールダウンが終わる頃にはセネットさんが帰ってきてくれましたから、

 私も魔王軍の皆さんとお別れして、

 セネットさんに魔王城の客室へと案内していただきました。


 客室は現代地球の高級ホテル、スイートツインのような作りで、

 落ち着いたベージュやグリーン、ブラウンを基調とした上品まろやかなお部屋でした。


 そこで私はバスルームを借りてシャワーを浴び、

 出た更衣室で取り寄せスペースから自室の着替えをぽんぽん呼び出します、

 まず下着類からスポーティーに始まって、

 服は半袖ホワイトでリラクシーなシャツブラウスにスリムシルエットなネイビーのデニム、どちらもストレッチ素材なやつと、

 足元には白のフットカバーソックスに白のペニーローファーです、

 あと小さめサッパリ風味な洗練アクセと、今使いたいコスメ各種も取り寄せといて、

 ちゃちゃっと着替えたらメイクを目元あっさり甘みなミルキーグリーン、チークはほんのちょっぴり色づく淡みのオレンジ、リップはもう少しだけ深いオレンジに決めました。


 着替えが全完了した私は連絡が来てないかスマホを見て――するとセネットさんと玲衣さんからメッセが来てましたから、

 まずはセネットさんの方から確認します。


 ……昼食のご案内ですね、ルームサービスで何なりと注文できるとのことです。

 添付の注文アプリからメニューも見て……わっ♪ どれも美味しそうですがっ、お野菜多めでお肉もしっかり、なポークソテーランチに致しましょう♪

 アプリで早速注文、と……できました、ふふっ♪ レネアシャでのお食事、楽しみです♪


 そして次は玲衣さんのメッセです、えっと……わ、こちらも凄いですね、

 魔王さんが私たち三人にお茶会の場を開いてくれて、そこで面会を希望されているらしいです。


 時間的にはそこそこ余裕がありますが、一応食後のお茶会みたいな感じでしょうか?


 あ、玲衣さんのメッセにはまだ続きがありますね、えっと……ふむ、先ほど玲衣さんが魔王城の医療局で知識や技法、技術の伝授を頑張られていたときに、魔王さんがその場を訪れて、半ば否応なくお茶会が決定した、そうですが。メッセの内容や書き方的に、魔王さんは結構アクティブに腰のお軽いかたで、なおかつイケイケどんどん……強引っぽいところもあるのでしょうか。

 玲衣さんはメッセの最後に、〝ちょっと巻き込んじゃって、ごめんね〟と書いてくれてましたし、

 やっぱりほぼ魔王さん主導で事態が決まっちゃったみたいです。


 また、〝服とかはそのままで大丈夫みたい〟とも玲衣さんはメッセで伝えてくれましたが、

 国家のトップと急に対面するにはやはり少しの不安がありますね、

 特に現状況や立場とかで色々まぁ、どうしても。


 ――けれど心配しすぎても仕方がないですし、今はお食事を楽しみに待ちましょう。

 食べたら取り寄せスペースをまた使って、歯磨きもきちんとしとかなきゃ、ですね。



 ◆◆◆◆◆◆



 果たしてランチは美味しかったですし、歯磨きを丁寧にしてリップだけちょっと直してから、

 私はスマホで玲衣さんに、もう行けそうです、という風なメッセを送りました。


 すると玲衣さんはすぐに、〝今案内のセネットさんと、遥さんとも一緒に居るからそっちに行く〟と返してくれました――どうも私が一番最後だった感じで、待たせちゃって申し訳ない気がします。


 ただ客室がお互い近いからか、ほんの十秒足らずでドアが三度ノックされ、次いで遥さんの呼びかけも聞こえましたから、

 音立てない早足でするする歩いて、返事とほぼ同時に扉を開けて廊下に来てくれてた三人――遥さんはワンピースを新たに、紺色基調へ白を差した半袖ショート丈のに着替えてました、可愛さがきちんと感で整ってて良いですね♪――と合流、

 一緒に魔王さんが待つという〝第四応接室〟へと向かいます。



 ――セネットさんは歩幅やペースを玲衣さん、遥さんに合わせてくれて、そんなゆっくりめに歩くこと二分弱、

 黒茶の扉一つの前で彼が足を止めながら、


「到着だ、ここに魔王ケネス・クレイグ陛下とマシュー殿下が()られる」


 カチさらっと述べて後方の私たちに振り向き、もう少し言葉を継いでくれました。


「私も同席させてもらうが、慎み深くとは言わないまでも、どうか礼儀は忘れないでほしい。

 では、ノックと確認の(のち)に扉を開けよう」


 大柄、あったかなルビーの彼がまた体ごと扉に返り、

 ノックをゆるりと、きちんと四度行います――と、半秒で扉の向こうから、

 色気と迫力のある男性の中低音、夜霧に濡れた暗黒の森のような深々(しんしん)たる美声が聞こえてきました。


「リオだな。勇者たちと共に、入って来い」


「はい。失礼します、ケネス陛下」


 セネットさんが私たちを首だけでちらりと見、浅く頷いてタイミングを教えてくれます。

 私も大丈夫なので軽く会釈すると、玲衣さんと遥さんも順次続いてくれました――遥さんの動きや表情が割にカチカチなかたちと感じ取れましたから、場合によってはフォローもしてあげなきゃですっ。


 そしてセネットさんは私たち全員の会釈を目で確認してくれてから、

 扉に視線を戻して音もなく気負いもなく、すいっとドアレバーを下げて押して、部屋を開放しながら入室、

 ノータイムで紳士的に扉を支えて開きっぱにしてくれます。


 私は〝勇者〟の先頭として、一応代表っぽく真っ先に歩みをすぅすぅ、

 心急がずゆったりと、体は静か速やかに部屋の中へと向かって行きました。



 ◆◆◆◆◆◆



 応接室はおしゃれでカジュアル寄りな雰囲気で、

 白壁に照明は優しい薄黄色、窓は広くて日差し涼やか、

 大きめの長方形テーブルはパステル風なライトブラウン、

 椅子六個もパステル布張りのグリーングレーで統一された、

 なんだか楽し気(たのしげ)なとこでした――クーラーが程良くサワと効いてるのも、ちょっとおもてなしを感じて嬉しいです♪


 テーブルの上には白磁のティーセットが用意されていて、

 カップやソーサー、薄切りレモンの小皿やミニミルクポットは主催者側、出入り口の真向かいに座っているお二人と空いた手前席の前、

 さらに私たちが座るのでしょう来賓側三席の前、出入り口から遠いとこへとそれぞれ並べられ、

 サイズたっぷりなティーポット――容量1200ミリリットルくらいでしょう――も主催者側、来賓側に一つずつの計二つが置かれています。


 主催者側の最奥にはマシュー殿下が姿勢正しく、表情も硬めながらきちんと座っており、

 そして真ん中には先ほどの美声の主であろう、

 鮮やかなペールグリーンの髪を短めマッシュスパイラル&シースルーバングに決めたクールで鋭いイケメン白人さん、

 見た目のお歳はセネットさん同様25、6歳くらいのかたがいらっしゃいます。


 彼の肌は陶器のように白くて厚くてなめらか、血管が見えない透けない盤石な整いっぷりで、

 元から怖いくらいの美貌へさらに迫力と冷たさを添えています。


 〝さらに〟というのはもうお肌だけじゃなく、

 彼の見えるとこ感じるとこ全部がまさにそれっぽいということで、なぜならこのかた、

 目鼻の彫りはアジア系アイドルくらいの浅め端麗、サパッと水切るような凛々しさですが、

 直線眉の細いツリから続く奥二重のキパリと大きな輝き、

 瞳は深緑に静粛でありながら、得物を弄ぶ猫よりもずっと意地悪そうな(おお)ツリ目や――真面目顔でも冷たさをピリッと感じます、凄い綺麗な目元ですけどひょっとしたら警戒心などを呼び起こすことで苦労なされているのかもしれません――、

 鼻梁のここもアジア風に程良い高さで、僅かに小ぶりでも刃物みたくシュッと流れる鋭利さ、

 頬が健康感あるスマート&スマート、ごくほんのりだけふっくらな逆三角形顔の断固痩せ過ぎ拒否する隙の無さ、

 幅も厚みも色素も薄いお口の、キュツリと冷涼に整ったホワイトピンクといった、

 怖い鋭い冷たい魅力の数々が〝威圧感あるドキッと辛口の美貌〟へ華やかに纏まってくれていますから。


 綺麗なかたですねほんと、あとファッションの決まり具合を見るに彼ご自身もバッチリ美貌のタイプを自覚自認していらっしゃるみたいです、そこも含めてやっぱり隙の無い、ちょっと怖いかたですね。


 そんな彼の身長187センチに脚長シュパリ、体重は筋肉しっかりめな86キロ美体に纏うのは、

 まずトップスのデニムジャケットが黒寄りダークグリーン、ボタンを全開けして内に見えるシャツは純黒、

 ボトムスは白っぽライトグリーンのちょい細カーゴパンツに靴は――ここからだと目ではあまり見えませんが、

 かたちを感じる限りレースアップの厚底カジュアルローファーみたいです()いですね、

 さらにピアスやネックレス、指輪などのアクセだってすっきりデザインがしゃらしゃらっと豊か、ピンクゴールドにいっぱいで、

 ファッション全体も一つ一つのパーツも彼の綺麗、彼の個性に()く似合ってます。


 キレあるハンサム、クールグリーンな彼は、整いリップを薄く開いてつい先ほど聞いたのと同じ声、

 透けてしっとり沈み込む美しい、深い中低音を聞かせてくれます。


「はじめまして、今回の勇者たち。

 俺は魔王ケネス・クレイグだ。国のトップとしても一応個人としても、これからどうもよろしくな。

 テーブルの紅茶はセルフサービスだが、

 そっちのが減るまではリオが()いでくれる。遠慮なく、安心して頼ってやるといい。

 じゃあ情報は通ってるが、そっちも挨拶と軽めの自己紹介をしてくれ。本人から聞きたいってのもあるんだ」



 私はいま先頭ですし、率先して柔くすわすわっと声を返します、

 表情もゆるやか真面目にわきまえて、リラックスをぱっちり続けて、です♪


「はい、こちらこそはじめまして、ケネス陛下。

 今は勇者で、ずっと格闘家の清浄院琴子です。


 魔王城の皆様にはとても良くしていただいておりますし、

 ケネス陛下は勿論のこと、マシュー殿下やセネット閣下にもまこと感謝の限りです。本当にありがとうございます。


 なのでこれからのお茶会も、自然に落ち着くかたちで楽しませていただきますね。

 僭越かもですが、きっとそうなると思います」



 すると魔王様ことケネスさんは、冷たい美に微かな笑みをフ、と浮かべ、


「お、嬉しいね。お互い遠慮なしで行こう。

 清浄院さんたちも席に着いてくれ、向かいのどこでも好きに選んでくれて構わない。

 他の二人に(はな)してもらうのは、着席後でも別に大丈夫だからな」


 月光で乾いた木々みたく、カラカラッと朗らかに伝えてくれましたので、

 私も仄かスマイルをふわりっと広げて照らして、気遣いへさっくり明るく答えます。


「分かりました、気楽にお茶とお話を出来るのは私たちもとっても嬉しいです。

 重ねてありがとうございます」


 セネットさんへ振り返り――もうみんな入室してますし、彼も閉じてくれたドアのお隣、壁から離れた方にピシッと立ってくれてます――、

 私はもうちょっとだけ笑顔にっこり、アピール混じりに輝きを見せます、聞かせます。


「じゃあセネットさん、ご先導をお願いします。

 お紅茶も楽しみにしてますね♪」


 ルビーレッドの真面目な彼は、でもなんだか案じるように眉を少し下げ、

 地熱の美声をひっそりと、重め静かめに返してくれました。


「ああ、そうしよう。

 ただ、ケネス陛下はきっと本心から仰ってくれているのだが、どうか節度を心に置いてくれ。

 節度とはある種の強さでもあるし、気を付けておくに越したことはないからだ。

 それがきっと、清浄院さんたちのためにもなるからな」


 あら、〝油断するな、お茶会では注意を払うべきだ〟ぽいことをいま伝えて、忠告して? くれましたけど、

 これセネットさんご自身は大丈夫なのでしょうか?


 もし不敬だとか邪魔するなよとか、ケネスさんに怒られたりしたらセネットさんこそ大変です。


 それに私はそも、本当に油断は大敵だといつも考えてるのですけど、あ、〝清浄院さんたち〟って、

 玲衣さんと遥さんにも助言してくれたんですよね。うっかりしてました……でもちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、腹が立ちますね。


 私はセネットさんだけにアピールしたのに、セネットさんは私以外も見ていたのですから。こじつけですが、どうしてもムッとしちゃいます、どうにも抑えがききません。


 なのでもっとはっきり言うべきですね彼には、強く明るく絶対そうすべきですし、私が一番そうしたいです。私が一番じゃないと、イヤなんです。私自身のことでも、彼との関係についても、どっちも――いけませんね、かなりごっちゃになってます。とにかく私はずっと勝ち抜くのが好きですし、本気の恋愛についてもそう、みたいです。なのでやはりそうしましょう、お礼を言って、好きを伝えて、彼の手を引いて行きましょう♪


 ええ、いっそ私こそが先導すべきです♪ 彼はきっと、そうなっちゃいますからね!


 私は今もにこにこ咲くままに、声をもっときらきらと、ちょうど今頃の光に満たします。だからセネットさん、私も、私こそ元気がいっぱい、空より綺麗な五月晴れですよ♪


「はい、ご助言をありがとうございます。玲衣さんとも遥さんとも、きちんと真摯に行きますね。

 でもセネットさん、私はセネットさんを好きですよ。

 ご助言をくれた優しさというか、普段からの強さや穏やかさに、あと勿論かっこ良さが好きです。

 私ひとりに向けていただけるなら、ずっと幸せなくらいです!♪」


 そう伝えるとセネットさんはまた頬をポゥわっ、と赤くして、

 少しばかりの困り眉で戸惑いと恥じらい、それに微かな感謝、光栄? いえ、きっと嬉しさです!♪ を揺れる黄昏の瞳に映しつつ、声もおんなじ初心(うぶ)訥々に、(おと)控えめに返してくれました。ほんと素敵です、純ですねっ♪


「あ、いや、あ違うっ、けして否定ではなく……その、ありがたいのは本当に、確かだ。

 清浄院さんに褒めてもらえたことは、私としても誇らしいし、嬉しい。

 しかしながら、今はケネス陛下が主催者で、この場の代表だ。

 だから申し訳ないのだが、私に対する心遣いだけでなく、より全面的な節度を保ってほしい。

 今の褒め言葉はありがたい限りなのだが、この茶会においては余りにも突出しすぎていたからだ。ともすれば危険とさえ言える。どうか清浄院さん、より一層の自愛を心掛けてくれ」



 むー、またも真面目で優しくて感じるまま素敵ですけれど、でもちょっと謙虚がすぎますよ?

 こんなにかっこ()いひとなのになぜでしょう、何かしら彼自身で負い目を抱えているとか? いえ邪推ですねダメです、私が綺麗で強いからだと思いましょう、きっとそれだって掛け替えない真実でしょうし――私は勿論、彼にもです♪


 考えても表情は万全スマイル、ふわふわ輝く笑顔です、やっぱり私は可愛いですから、好きなセネットさんに送る声だってとっても柔らか、すらりやか、控えめ勝ち気の優美です♪ どんどん詰めていきますよー!♪


「分かりました、心にしっかり()めておきますね。

 ただ今のは褒め言葉と言うよりも、私が見て思った純然たる事実です。私にとっての、まっすぐな真実です。

 なんどでも、いつでも言いますが、私はセネットさんのこと、好きですよ」


 ――あ、セネットさんがセンターパートのおでこまでポンワリ、真っ赤になりました、もうさっぱりめなフェザーショートのブライトレッドより分かりやすく色めいちゃってます、明るいを越えた(くれない)、秋色です。

 可愛いですし、素敵ですけどドキドキしすぎてないかちょっぴり心配ですね、でもそこがもっと可愛くってどきどきします私もっ、やっぱりぐいぐい押して詰めて寄せてっ、私からリードしてあげなきゃですっ。


 っと、セネットさんぽつぽつってお(はな)ししてくれてますね、声までかためにトロンとしちゃって、なんだか砕いたドロップキャンディーを苺ジャムに含めたみたいです、パラシャラって、とろじゅわ、って……かわいいです、もうっ、すごく可愛いからこの声、しかと聞きましょう♪


「え、あ……聞こえた。そうか。

 まさか、この場で……好きとは、でも確かに……聞こえた。なんどでも……そうだ確かに、

 言ってくれたし、言ってくれていた、な。

 ありがとう……うん、ありがとう……分からないが、しかし正常に……嬉しい」



 ふふっ♪ 嬉しいのが正常ですか、何よりです♪

 私だって今とっても嬉しいですから、自然に笑い声もふわぴか浮きます、リップからすっと零れます。

 心の底も(おもて)も楽しいままに、私はセネットさんに声を掛けます。


「では参りましょうか、セネットさん♪ これからもっと、好き合わせてくださいね♪」


「あ、うん、分かった。理解した……私も? 私もするのか?

 いや、ただ今は、ではとにかく、私も気持ちを込めて、紅茶を清浄院さんに配ろう」


「私にですか、ありがとうございます♪ 期待だけでもう、ぐっと嬉しくなれました。

 じゃあ玲衣さんと遥さんのお茶は、私が代わりに()ぎますね。

 セネットさんは言葉に責任をもって、私だけにお茶を注いでください。

 それがいいですよね、セネットさん♪」


「え、しかし客人に諸作業を任せてしまうのは悪いし、申し訳ないのだが、いやでも清浄院さんがやりたいのは、なぜだ?」


「好きだからですよ?

 セネットさんのお気持ちは、私こそがいっとうほしいからですっ」


 ちょっと勢い込んでほわぱぁーっ、と返すと、セネットさんはごく言葉みじかに、


「っ、そう、か……」


 と言って横広め、浅めの唇を一直線、閉じへ、キュツリと引き結び、眉も下げてなんだか泣きそうな、でもほくほく嬉しそうな赤いお顔で沈黙、私と楽しく見つめ合って――けど僅か1秒後に意を決した硬くキリリな表情で足早にスム、スム、踏み出しながら誠実な声、微か(かすか)熱入りの生真面目セクシーなお声を横合いより聞かせてくれました。


「分からないことが多くて済まない、しかし喜びは現に貰えたし、内からも湧き上がってきた。

 結論として紅茶のことは、清浄院さんの意に沿うことにする。

 そして紅茶のことだけでなくこれからもまた、様々に教えてくれたら、ありがたい。

 私個人の願いだが、もし都合良ければ是非とも、頼む」



 だから私はキラキラ嬉しくて、大きめの声でほわり、しっかり、答えます。


「はい、勿論です!

 私もすっごく、そうしたいですからっ!」


 セネットさんは足を止めなくとも、背中から真面目で優しいきちんと美声を、


「うん。ありがとう」


 って送ってくれました。


 ――ふふっ♪ 同意をはっきり得られましたし、これからはもっともっと詰めて行けますね!♪


 今はまだ私の方が気持ち沢山ですが、いつかセネットさんにも私についてもだもだ熱いのとかぽやぽやあったかいのとかを受け入れてもらったり、あと嫉妬もちょいちょいくすぐる感じに持っていただけたら嬉しいですっ、当然いじわるや無理強いはナシですよっ、私っ!


 あ、嫉妬って、ただ、でも。

 それは自分に自信がなかったらなかなかできないっぽいことですし、

 セネットさんが今戸惑ってたのも来賓がお茶を注ぐ行動そのものに対してで、

 私だけセネットさんに注いでもらって返さないことと、私がセネットさん以外のひとのみへ注ぐことにはすんなり承知しちゃってましたから、やっぱり心配かも……ですね。


 今しがたの私は正直、〝私だけに、一方的に尽くして〟みたいなわるいこと、高慢っぽい言動をしちゃってて、

 好きが先走りすぎてちょっとダメでしたし反省しなきゃですし……あぅ、これかなり恥ずかしいですっ、セネットさんも怒ってくれて()いですのにそれでも全然気にしてないみたいなのが、全然優しいままなのがむしろかなり、状況と比べてアンバランスぽいというか、なんだかドキっとびっくりしちゃいます。


 セネットさんのこと、心配です。


 考えすぎでしょうか? とにかく好きを詰めてくのは絶対ですが、けして急いだり焦ったりしちゃダメですね。

 これからもセネットさんのペースや心を、ごく自然に高めてとろかしていきたいですっ。



 ところで魔王のケネスさんが、私をカッチリ楽しそうな薄笑み……彼の真剣な面白がり顔? でジーッと、

 グリーンの大ツリ目を緩め冷ためな上アーチに細めつつ眺めていらっしゃるのですが、

 これはいわゆる〝親しい部下への恋人チェック〟なのでしょうか?


 ケネスさんはセネットさんをお名前で呼んでましたし、お二人の関係もかなり気になりますっ。


 でもまあ、上司部下でも友達同士でも、あるいは片思いとかだって、恋愛を一切譲る気は、無いですよ?



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