11.試合と理解と、ご納得?【挿絵あり】
(Side:清浄院琴子)
私はさっきと同じ左手左足が前のアップライト、
上げた両拳は頬の下に触れるくらいないつもの構えで、体やわつよく試合開始の位置についてますけど、
ステリーさんの方は彼女用の木剣――ブレイドはアーガイルさんのより少し短い90センチです――を取り寄せスペースから?
パッと両手へ現したのに、立ち止まったままなかなか来てくれません。
まだなにか準備が要るのでしょうか、と疑問に思ってたらでも急に、彼女の奥少し――全身の皮膚より二センチ弱沈んだとこ――へ、
速そうな気配がヒョウシュ、と現れてジュワシューッとその力をたちまち浸透させました、
そしたら彼女の体そのもの、筋肉や骨格、神経に内臓が瞬発力や発揮できる最高速度をスイワ、と上げて、
あと上がった各種敏捷性に耐えられるようにでしょうか、
全身の丈夫さもムトズ、と増したって見て取れました、気配で感じもしました、
全然知らなくて面白いです、ドキドキって熱い気分が高まります、
今ステリーさんの速さパワーを増したのがスキルなのか、
それとも妖精の精神力を活用したがゆえなのかは分かりませんが、
本気で来てくれてるみたいでありがたいですね、私も頑張っちゃいますよ♪
あら、しかもさらにステリーさんの木剣へ妙な力の気配たちが、
持ってる両手から半秒置きの二連続で流れて、ズトキン、パバチ、とそれぞれ別種に籠もりました、
一度目の力では木剣が重さそのままにずっしり頑丈さを増し、なおかつ鋭く切れやすくもなった感じで、
二度目の力では木剣に電気の毒っぽい? 危なさそうな雰囲気がぴりぴり流れ始めた感じです、
試合がもっと楽しみになりました♪
思いつつまた半秒待つと、今度はステリーさん自身の持ってる気配がゴワと強くなって、
直接見て感じられる体の力もシャキガウッと増加しました、
膂力も頑丈も瞬発力も全部ハイバランスに高まった感じです、
ステリーさんの体の内外どこを見ても、そのいい感じがはっきり分かります、
たくさんレネアシャならではの技術を使ってくれて、ほんとに至れり尽くせりですね、
私も恥ずかしくない勝ちの動きをしますね、立派で綺麗な格闘を行って、格好良く可愛く勝ちますね!
と、でもステリーさんは未だ立ち止まって動きませんね、目をギラギラさせながら考え込んでる風、です?
でも気分が荒ぶってるなら精神集中してるのかもしれません、
私に向けて敵意とか殺気とか怒気とかを延々ドロリギシリと発露させまくっていますし、
あの様子では思いを巡らせたり、普通に考えるのすら苦労してそうです、
もう少しお待ちしておきましょう……ああ、マシュー殿下の声掛けで動いてくれました、早歩きで来てくれて……もう互いの位置ですね、
じゃあ審判なマシュー殿下――私から見て左方、ステリーさんから見て右方へ離れた場所にいらっしゃいます――の開始合図まで、
アップライトに構えた体を引き続きしなやかふわりっ♪ て、リラックスしながらスタンバイしてますね。
別に不意打ちで来てくれても良いですけれど、
私からは新参者かつ異邦人な立場上できませんから万事に備えて心身すぅさら、静か穏やかに集中です。
ステリーさんはゆっくりめの動きで左足を前にして構えを取ります、
木剣を両手持ちのまま右半身に寄せた上段、
八相の構えに近いけど両脇を締めずにゆる開きにして、
両肘も外に張ることで剣を返しやすく、表裏の両刃ともを使いやすくさせ、
手元もグリップ下の左手が腰上おなか下、グリップ上の右手はおなか上胸下と八相の構えより低めな地球で言うフォム・ダッハ、
各種切り下ろしの攻撃に向き、剣を左右自在にスライドさせての対応力にも長けた構えを完成させました。
……ゆっくりな構え方だからか割と待ちましたね6秒くらいでしょうか、
彼女はずっと荒っぽい感情を飛ばしてきてましたが構える動作は慎重ですね、
もしくは荒っぽいからこそ慎重に構えないとかたちにならないのでしょうか?
いえ邪推ですね、試合なら余念でもありますしどうでもいいですほっときます、
挑発して相手を乱す戦術は試合だと失礼に当たりますし、新参勇者としての立場問題もありますし。
マシュー殿下が硬い真顔で右腕、右手の平を上げ、口を開いていよいよ合図、かと思いきやその状態で心構えの確認をしてきました、
ちょっと紛らわしくっていやですね、もう。
「二人とも、準備はいいかい? この手を振り下ろしたら、開始だよ」
するとステリーさんが即座にマシュー殿下へと満面の笑みを向けて、さも愉快そうに答えました――私から視線を逸らしていいのでしょうか、それともこれは彼女の作戦なのでしょうか?
「はいっ、もちろんですっ! 完璧に勝ちますから、マシュー様はご安心くださいねっ!」
私は視線を真っ直ぐなままに、声はさっくり穏やかに応じます。
「はい、こちらも大丈夫です。いつでも合図を掛けてくださいな」
マシュー殿下は、「承知したよ」と言ってくれましたがステリーさんはかなりな勢いで私にバッと首を向け直し、
今日一番かもな敵意の睨み顔をギキイィッ! と見せてきました、多分これマシュー殿下を見なかったから怒ってますね、
確かに失礼だったとは思いますけれど試合間際ですし勘弁してほしいです、
私は仮に目を離してもまあ動く気配とか相手の状況、雰囲気とかを全身で見て取れますけど、
でも極力、視界も視線も相手を真っ直ぐに捉えておきたいです。
それが礼儀でもありますし、多くの場合は勝つ最善でもありますから。
あと当の王子様はまたちょっと間を置いてますね、まあ仕切り直しの自覚もあるのでしょうねきっと、
でもお陰で私も試合前のジリジリ灼ける気分、熱い緊迫の高まりがゆっくり味わえてますしそこは感謝です、楽しいです♪
心も体もやわらかに、きゅん弾みもたっぷりに待ちましょう♪ ――っと、でも割とすぐでしたね間の4秒目に彼が右腕メインに動く気配、
口が開く気配もします、彼のキパリな大声がもう聞こえます。
「始めっ!」
私は体を下に流します、腰をすぃ落として背中もすわくぅ沈めて前の左足をもっと前に下にふわりつぅーっ♪ て低い姿勢でやわ弾みに踏み込みますっ、左脚の膝を僅かだけ浮かして足首は垂直に立てつつ大地をきゅわ蹴り出しっ、足指のばねもやわみもいっぱい効かせて即トップスピードの迅速、良い感じに前へ下へしゅうさらっ! て踏み込めてます、両手はまだ前に出さずに柔軟ガードの姿勢です私ならどうにでも動けます手でも足でも対応できます、
向かう相手は上段切り下ろしの動きへ全身を移行させつつあります右脚も後ろから前へと踏み込もうとしてて筋肉や様々な力が右半身から左半身に向けて動こうとしてます来るのはたぶん斜め縦切りですね地球で言うオーバーハウ、なかなかの反射と体の速度ですし上等です、やっつけ甲斐がありますね!
私はもうあと相手と間隙40センチ弱、かなり近いですが相手がもう右脚を出しつつ両手も前に、木剣を振り下ろし始めましたからタックルより投げのカウンターですね、こちらに来てる相手の右手首左手首へ私のガード先端、両手を開きつつしゅわぅ! って上げて伸ばして向かわせます、私の指までやわらかたおやかに開いた左手の平右手の平で相手の両手首をキャッチですっ見えます触れます、ぱしむぱしむ♪ とできましたから投げです、
私の全身が前に下に駆けて行ってるおっきな力を掴んだ手の平から相手の手首へさらぐわぅっ! て崩しに移しますそのまま相手の両腕伝わせて両肩、胸首お腹、腰にも足にも体ぜんぶに伝わせて崩しまくります、これで私の方の駆け込みがすっくり止まって、綺麗に落ち着けるから一石二鳥です♪ あと勿論相手が前に踏み込んで振り下ろしてた力も投げそのものに活用です、私の体を左に振って反転させつつ相手の力を投げに流します木剣も敵ボディも左後ろの宙へ回して送りますっ、すぃわぁっ♪ いけてますっ♪ 掴んでる相手の手首と体を宙へふわぱぁ、ぐるんっ!♪ て投げ込めてます良しっ♪ 変形の浮落、成功ですっ♪
相手の木剣は手放されてもっと左後ろな他所へ飛んでってますが今は無視です、
投げ終わりに私は左手の平を一旦離して相手の右腕に移して添えますまた掴みます、こっちに頭向けて倒れた相手の右腕右半身を掴んで、くぅわきゅむ♪ って制圧です、私はもう体の反転も終わってますし左足、左膝を相手の頭頂部に向けてこちらも制圧、いつでも蹴り砕けるようにしておきます。
――ふむ、制圧したままちょっと待ちましたが審判な王子様の声が来ませんね、なぜでしょう、
もしかして今現在の決め方はこっちだと無い技術で、
それで本当に終わったかどうかが判断つかなくて戸惑っていらっしゃるのでしょうか?
でも試合でこれ以上痛めつけるのはどうかと思いますし、もう少し待ってみましょうか。
……あ、いま9秒目に王子様の声がしました、焦って早口で大きな声です、やっぱり当惑してらしたのですね。
「しょっ、勝負ありですっ! これまでです、清浄院さんは離れて!」
言われた通り手を相手から離して、立って後ろ歩きに離れながら思います――言葉の感じからするとたぶん未知の技術? で怖がらせもしてしまったようで少しだけ申し訳ないですね、ただ、勝つための行いですし謝罪はしません。
なによりも今また、しっかり勝ててめちゃ嬉しいですからね♪
これにて実力の証明完了、遥さんがしてくれた私アピールへの恩返しもできて、心がぽかぽか、ほっこりです。
ところで相手のステリーさんがずっと倒れ込んだままなのですが、ひょっとして怪我……骨にヒビでも入ったのでしょうか?
もしくは骨折とか、内臓の損傷とか? だったら危ないですね、王子様には治癒魔法っていうので是非敏速に活躍してほしいところです。
――あっ、ステリーさんが涙で声グスグス、泣いてます!? そんなに痛かったか、もしくは悔しかったんですか!?
でもどうあれ人前で涙とはよっぽどですね、ここはやはり上官の王子様にお任せしましょう――って、呆然としていらしてないて動いてください、王子様!
あでも今、セネットさんが王子様にお声掛けしてなんとか気を取り戻させてくれました、王子様は小走りで向かってってくれてます、
事態は順調っぽいですし治癒魔法もありますし、ステリーさんの涙だってきっともう安心? ですね。
王子様、マシュー殿下はステリーさんと小声で何か話し合ってますし、お二人が落ち着くまでお待ちしてましょう。
遥さんの立場や評価も、これで改善してくれると良いですね♪