10.第1師団の精鋭さん
(Side:ゾーイ・ステリー)
第1師団付属のウィザード勇者、葵が急に割り込んで文句を言ったのにも苛々としたけど、
それをファイター勇者の清浄院が傲慢にして分不相応な発言で宥めたことにはさらに怒りが沸いた。
ファイター如きが強いわけないのに、
手加減して負けたらしいサミュエルは深く沈んで反省すべきだと思う。
相手が女だから優しくチヤホヤしたのだろうけど、それで増長させれば世話がないわね。
強者の自覚と真摯さが、サミュエルにはまるで足りていない。本当に嘆かわしいことだわ。
でもきっと、弱者の集まりな第2師団に居てサミュエルも精神と実力が濁ったのでしょうね、
だったら近い内に彼と試合をするのもいいかも……今なら確実に私のが勝つでしょうし、
マシュー様に隣り合うソルジャー序列2位は、私こそが相応しいと言うものよ。
ただ残念ながらマシュー様は不世出の天才、魔王国唯一のデュアルクラス所持者にして、
ウィザード序列でも魔王様に次ぐ2位でもあるのよね。
私の実力をアピールするためには、サミュエルを下してもまだ足りないかもしれないわ……ウィザードの連中、ホント忌々しいわね。
所詮は魔法の射程や範囲だけで鼻高々と付け上がる臆病者でしかないのに、
特権階級を傘に着て、いい気になって……葵も代表例ね。
外部からの新参、弱者のくせして、
ウィザードだから第1師団の付属品という立場にすぐ収まった上に、
私たちの理詰めからマシュー様に庇ってもらったり、
今だってマシュー様のお決めになったことに不満を見せて、下品な言葉にまでするなんて、
あれこそが性悪女の具現というものね。
おどおどしながら、でもいや、とか、だってちがう、とか言うだけで、
周りの好意や立場を労せず得ようという、性根がどこまでも醜悪な女だわ。
マシュー様はお優しいから、騙されそうになっていてお可哀想な限り……私がサミュエルとの試合で実力を見せて、永遠にお隣でお支えしてあげないと。
ああ、その前に軽く切り散らしてやる女も居たわね、
下等な地球で大人気らしい、お笑い草のファイター勇者。
今日確信が持てたけど、最弱クラスのファイターをやってる女でもチヤホヤもてはやされる地球は、
やっぱり魔王国よりずっと下等だわ。
根が貧弱に劣ってる世界なんだから、
私たち魔王国に持てる文明と技術を、まとめて献上するべきよ。
これまで以上に、速やかで徹底的にね!
……あっ! 考えをちょっと纏めてたらまた、リオ・セネットがマシュー様に反対してきたわ!
マシュー様は今、『アーガイル大隊長に勝利した実力を考慮し、試合開始の距離はステリー大隊長側の武器種に合わせる』って、
せっかく私を心配してくれてたのに……私に心を向けてくれたのに!
それなのに、『しかし清浄院さんは連戦ですから』とか、
揚げ足取りで間合いをファイターに有利なもっと近い位置にしようとするなんて、卑怯にも程がある最低の行為よ!
マシュー様はけなげにも、丁寧に優しく説得しようとしてくれてるわ、本当にステキ、
でもそのお心は劣ったファイターで、さらに劣った第2師団のリオ・セネットなんかに向けられるべきではないのにどうしてかしら、私がお傍に居るのに……はぁ、やっぱり身分って大事ね、
身分や地位さえあれば実力や容姿、精神性まで無視されて、ただ単に尊重されちゃうんだもの……憂鬱だわ。
って、あッ! ファイター勇者の清浄院が、マシュー様のご会話に口を挟んできたわ、
一応リオ・セネットの言葉にタイミングを合わせて、
『セネット閣下、私はマシュー殿下のご提案で構わないですよ。気遣いではなく、本心からの思いです』
とかなんとか言ってるけど、これってつまりマシュー様への媚び売りじゃないの、ああああああイラッつく!!!!
状況を自分のためだけに利用してッ、まッたく大嫌いよッ、生理的に受け付けない女だわッ!!!!
なんで今から普通の試合なのかしら決闘じゃないから殺せないじゃないのよ!!!!
でも、もぅとにかくッ、殺す寸前まではアタマ切りつけてやらなきゃッ、
木剣だから残念だし試合なのも残念過ぎるけど、
マシュー様っ、私がそのファイター女に思い知らせてやりますッ!!!!
最悪なことに清浄院の媚び売りで話が纏まっちゃったし今から所定の位置に移動ね、
審判なマシュー様の前で、横向きに敵と向かい合って2メートル30センチ……つまりマシュー様はファイター女も見ることになるのね、私の真後ろで私だけ見てくれたらいいのに……いつも真面目でお優しすぎるのよ、マシュー様は。
お気遣いが過ぎるせいで無意味にお心も痛めてらして、お可哀想な限りだわ、
やっぱり私がお付き合いの上でお救いしないとっ。
今は取り出しスペースから木剣を取り出してっ、よし両手に来たわね、ブレイド90センチな私用両手剣、の劣化コピー。
木剣で殺しにくいのがほんとに残念、切っても骨を折れるくらいじゃない。
それに試合だからやっぱり事故狙いでアタマを狙うしかないわね、まあマシュー様が治癒魔法で死ぬ前に治しちゃうでしょうおけど……あ、それすごく嫌ッ!! マシュー様が治癒魔法を掛けてあげるなんて耐えられないわよそんなのッ!!!!
最悪……!! 最悪ッ!!!! でもルールだし、試合だし……じゃあ私にも治癒魔法掛けてもらうしかないわね、
ファイター女よりもっと優しい治癒魔法を、もっと心の籠もった治癒魔法こそをお願いしなくちゃっ。
でもその前に、もうッ、気持ちだけでもファイター女を本気でアタマ割って殺さなきゃ。
だからこそ位置につく前の今から私の属性、風の精神力を体に満たして――よし能力上がってる、速く動けるようパワーアップできたわ。
あとソルジャーのスキルも当然使っとかないとね、
まず武器の威力を3回だけ増すやつ、剣だと切れ味や衝撃にプラス効果な〝ハードヒット〟と、
次に武器へ1回だけ強力な麻痺効果を付与する〝パラライズ・ダウン〟、
最後に身体能力の全般的な上昇を30分間得られる〝スターディ・スタイル〟を連続使用、よし完了。
これで完璧に、死ぬ寸前まであの女を殺せるわ。
私の超スピードと超パワーからの木剣1撃目でアタマ割りながらカラダ全部麻痺させて、
2撃目3撃目でダメ押しのズタズタに殺しに行って、
あとはマシュー様から制止されるまで切って切って切りまくって痛めつけてやるわ!!!!
……あらゆる試合ではスキルの事前使用が〝非推奨〟止まりで、明確に使用禁止されてはいないもの、
決闘や真剣勝負の鮮烈な精神性を残しておくためらしいけど、
まさに私たち第1師団にピッタリね、特に私にこそ合ってるわ、だって実力では絶対、一番、強いもの。
あと当然、マシュー様へのアピールにも利用させてもらうわよ、
スキルを使った私は、全てが、見惚れるくらい最強だものね!
あっ、マシュー様がお呼びしてるわっ、ちょっと早足で位置につかなきゃっ、
相手のファイター女はもう開始位置に居るからやっぱり媚び売りに余念がないみたいね、
せかせかして嫌らしい女だわ!!
けどもう、始まったら制裁はすぐよ、すぐにアタマから切り殺してやるわ!!!!