1.大和撫子と不思議の予感【挿絵あり】
5月初頭の土曜日朝、晴れて少しだけ暑い7時半。
場所は東京・青葉台、立派な和風屋敷の敷地内にあるこれまた立派な、でもちょっと異質な洋風トレーニングジム。
今ここで付き添いのお仕事中なのは、スポーツドクターな私こと、
25歳のショートウルフ・ヘアなそこそこキレイ系クール系女医、雷切玲衣。
そして少し離れたところには、おっきな綺麗な和風美女、
筋肉豊かな柔らかい撫子が、全身の動きもしなやかに、骨太に、
しぱりしぱりとサンドバッグ、頑丈な吊り下げ式のを叩いてる、たまに蹴っている。
アップライトの構えより、軸足すいすい切り替えながら、体を流して力は強く、
打ち込む音は透明に。パシュトゥパシュトゥ、揺れないサンドバッグに拳で脚で、速い音が幾度も込められる。
強くて、速くて、しなやかで。
実年齢は24歳だけど、健康年齢(体の年齢)は今年も18歳な、元気いっぱいに煌めく彼女は、
通り名を総合格闘技完全無差別級王者――今、好きな格闘技が、これらの種目らしい――の、
お名前を清浄院琴子。
黒髪ロングをアップにまとめて、前髪を後ろに流して見せてるおでこもきらきら可愛らしくて、
パーソナルカラーはブルべ冬、朝雪みたいな透明アジア肌。
ツリ目の丸目はパチッと大きめで、優しさの中に強気さが、ゆったり、ついっ♪と輝いて、
瞳は赤みまったりのブラウンアイ、かたちまるっと大きくて、透明感がのんびり澄み渡ってる、甘やかな赤茶の美しさ。
まぶたは末広二重に、目頭のとこ狭く目尻は幅広く、まるふぅ、ってなめらかに通ってる。
眉毛は微かにブルーがかった黒が太めにしっかり、サパッと流れる穏やか上アーチ、
御髪とおんなじ仄か青、濡羽の黒。
睫毛も同じ黒。そっと青の差す潤いブラックがたっぷり、ぱっつり咲いて流れてる。
鼻梁は細め小さめ、ちょっと低めな可愛い東洋撫子、口元も小さめ、唇も薄くて桜の花びらをふわり、スッと流したみたい、
可愛さがいっぱいだから目元の強気さ、大きなツリ目のつんとした感じを全体ではほわっと和らげて、
目元ではもっと強くて元気に、キラッと綺麗に高めてくれている。
そして彼女、琴子の体つきは、しなやかもっちり筋肉たっぷり、おっきくて強くて、ボリューミーに艷やか。
首も肩も胸も足腰も、しっかりきゅわっ!と鍛え込まれて、今日も、いつも柔らかくて元気にもっちりしてる。
そう、身長189cmに体重116kgのお肌も筋肉もどこだって、もっちもちぱつっ!て元気で、可愛い。
艶と活力が体の内から、しゅうぱにっ!ってパワフル綺麗に輝いてる感じが、
〝いつも優雅な青春!〟って気持ちを、きっと心身のあり方を、
きらきら発揮しててやっぱり美しいし、可愛いっ!
お胸のサイズ、おっぱいもFの標準で、つまりはかなり大きいのだけれど、
そんなお胸もぱつもちっ!って強く美しく張ってて可愛いし色っぽいしで、
もうどこだって豊かに綺麗な、清浄院琴子は凄いオリエンタル黒髪お嬢様、なのである。
トレーニングウェアは上下とも黒基調に白の差し色、薄くてしっかりしたスポブラとスコート、下の内にはスパッツも。
強くて綺麗なおっきなお体、琴子のやわい豊かさが躍動して、ジャブにストレートに迅速ステップ、フックにアッパー、掌底、エルボー、右腕左腕に背中に足腰、全身の力をすらりやかになめらかに、もにきゅむ!♪流してインパクトに伝えてく。
サンドバッグは音が高いツヤでパパパパシュゥッ!で鳴り続けてるけど、揺れ動きとかはやっぱりほとんど無い。
衝撃が全部相手の……サンドバッグの内側に叩き込まれてて、やっぱり琴子は、殴るのも蹴るのもとても上手い。
時には琴子の広い両腕と、伸びやかにでっかい両手の平でサンドバッグの、上の方を抱えてそのまま膝蹴り、
首相撲っぽく連続でパトォン、パトォン、とまた綺麗に打ち込む、サンドバッグの中をきっと粉微塵にしていく。
右膝、左膝で20発ずつ蹴ると琴子はサンドバッグから手を離して後ろにステップ、
シュルリと無音のハイスピード場所取り、ローミドルハイキックの位置に来て、
そのまま右脚からローキック。ミドルキック、ハイキック。どのキックも私には見えない速さと強さで、
けれど音はパパパトォウ、と確かに聞こえる、サンドバッグを相手に打ち込んでるのに、その内側まで透き通るような音。
綺麗でつっよい、琴子の打撃音。
琴子は両脚も長くてもっちり、豊かにおっきく鍛えてる。柔らかでしっかりの隆線が、美しい筋肉に流れてる。
……脚腰だって、どこも綺麗。とてつもなく強くて、美しい。
それに踏みしめる足、飛ぶ足のサイズも大きくてしっかり、もっちりキュッとした29.0センチ、
かたちも、するわっ!♪て伸びやかまろやか、溌剌ボリューミーに流れてて綺麗。
琴子の脚腰、そして足。絶ッ対に蹴られたくないけど、つよ可愛い。
そんな琴子は今朝のラスト、蹴りのトレーニングを数分で両脚とも終えると、
私の方に体ごと振り向いてくれた。
琴子のお肌は今もさらつや、汗なんて雫のかけらくらい。
ストレッチもロードワークも基礎トレも、スパーリング用ロボットとの組手までもこなした後に、
なお真摯に打ち込んでいたばかりだというのに、彼女の穏やかな真顔には余裕さえ見える。
世界最強の大和撫子は、タフネス、スタミナも素敵に強靭なのだ。
薄い桜の唇がサラと開かれると、優しくつん、と少し高い声、
やわらか強気の可愛い声で、私に朝トレの終わりが伝わった。
「クールダウンしてから、シャワーです。玲衣さん、気になったところはありましたか」
真面目だな、と思いつつ私は答える。きっと乳酸すらほぼナシで、どの瞬間もなめらかなのは自身理解してるでしょうに。
「オールオッケーよ、琴子。今日も自然で、元気がいっぱいだった。かっこよくって、可愛いわ」
琴子はふわり、と上品に微笑んで、
「良かったです、ありがとうございます。
じゃあルームランナーで軽く走りますね、あとのストレッチとマッサージを楽しみにしてます」
そう柔らかくはきはきと、お礼にお願いをしてくれる。
私も笑い返しながら、職務で趣味のイエスで応じた。
「ええ、勿論お手伝いはする。あなたに頼られるのは、私だって嬉しいから」
「はい、お願いしますね」
琴子は淡いにこにこ、ほわ光のまま、さらに予定の提案……っぽいこと、を続けた。
「それと今日、ちょっとそとで確かめたいことがあるので、一緒にお出かけしませんか?
雰囲気や気配を見て取る限り、時間のピークが、10時15分ごろだと思うので、余裕をもって9時半には家を出たいです。
玲衣さんのご都合は、いかがでしょう」
ちょっと奇妙なその言葉に、私はどことなく不穏さを覚えて、返す声が思わず速く、幾分大きくなってしまう。
「え、うん、出かけるのは大丈夫だけど、雰囲気とか気配ってなに? まさかストーカーとかマスコミとかその辺?
あでも、それじゃいちいち確かめるとかないよね、楽しいことなの、だったらいいんだけど。
琴子の友達が来るとか?」
当の琴子は依然穏やかに、ルームランナーへ歩いて行きながら、優しい声をさらり、さらりと紡いでくれる。
「お友達ではないですけれど、楽しそうというのはきっと的中してます。
今日の早く、トレーニングの前ごろですけど、
その時にとても強くてぴかぴかした気配が、新宿の一角を上から眺めてたんです。
あ、上というのは空の上で、雲よりまだ少し上くらいから見てるのですけど、
そこにマジックミラーみたいな硬いカーテンを張って、上手に隠れてる感じですね」
「ちょ、平気なのそれ。琴子もだし、そいつも。琴子って超能力のケとかあったの?」
ルームランナーに乗った琴子が、ジョギングを始めて駆け足すいすい、静かになめらかにランしながら明るく答える。
「はい、平気ですよ。今も元気いっぱいです♪
あとエスパーとかの超能力じゃなくて、私の場合は身体能力の一環だと思います。
体の感覚を空気越しとか、空間越し……どこにでもある合間越しに、さぁーっと、わぁーっと広げられるので、
それで分かることがいっぱいあるんです。
今日は気配さんが強くてぴかぴかなので、一瞬でハッと気付いた感じですけど、でも私としては、きちんと確実です。
ちょっと不思議なことなので、常識的な説明は難しいのですが、でも私は、強いというのは、分かるんです。
私が強いから、強いのが好きだから、今日の不思議な気配さんも強いってきちんと理解できたし、
空に居ると分かったといいますか、だからとにかく楽しそうなので、気配さんの見る場所を確かめたいんです。」
……理知的に信じがたくはあるものの、清浄院琴子は綺麗さや強さ、あと可愛さでは絶対に嘘はつかない。
これらについてはお世辞すら避けるし、ずっと本当のことしか口にしないから、今回も信じられる、と、思う。
「そう。分かった。ちょっと心配だから付いてくし、万が一の時は警察とか呼ぶけど、良いかな」
「んー、じゃあそれで良いですよ。お気遣いをありがとうございます。
あと、そうですね、私がトレーニングしてる時も、強い気配さんが時折同じ場所を見てました。
短い間ずつじっと見て、なんだかわくわくしてるみたいなムードでしたよ。
多分ですけれど、きっといいひとじゃないかな、って思います♪」
「こら、油断しないの。いや油断じゃなくても、スピリチュアル? 不思議? なんだし、最大限警戒はしといて。
私もそうするから、琴子も、ね?」
「ふふっ♪ 了解です。
玲衣さん、いつもありがとうございます」
「それは、まあ……こちらこそ。
面白い仕事だし、退屈とは無縁だから。話聞く限り今日はもっと、かしらね?」
「ええ、もっとです、きっと♪」
琴子はふわふわ笑みながら、上機嫌にジョギングをしている。
クールダウンでも柔らかな元気で、軽やかな足取り、優雅さで。
……そんな琴子を見ているうちに、私はまたほっと落ち着いてきて……いやでも、今これからはきっと非常時だから、
この落ち着きはまだちょっと避けたくて、両腕を組んでぎゅっと力を入れる。
未知に対して必要な緊張を、私の体に込めていく。琴子ほどではないけれど、強く、できるだけ強く。
……でも、まあ。
強いと言えば琴子だし、今回も愉快に平安無事ではないか、とも思う。
だってさっきのサンドバッグだって、琴子は毎日二度入れ替え、使い捨て。
使い捨てにするのは中身の布切れ沢山で、スパー毎にそれらは最奥中心、最内部から順々に粉々、
バラバラの細切れに変わってしまうのだから。
例えるなら。
スポンジが長い時を経て、何もかもを吸収しきれずにサシャリと崩れてしまうかのように、
頑丈なはずの布切れも、文字通りの砂、粉、繊維切れにしてしまう。
そんな琴子の強さの一端、打撃の技術と破壊力。
そして勿論それだけが琴子じゃないし、まだまだ強さ美しさを持っている、秘めている。
だから今日待つだろう不思議な経験すらも、なだらかな面白みに終わるんじゃないかな、と私はほっとして――いやしっかり用心しとかなきゃ! 急ぎ思い直して腕組みをまた、左右から、堅く押し合うように整えたのだった。