083 薔薇のお茶会
『森や魔族の姫を守るためだったとしてもあの子の本心までは分からぬ。あとは、お主の瞳で判断するが良い』
「……はい。有難うございました」
『そうそう。すまぬが森にいる間は隠し部屋を探すのを手伝ってやってくれんか』
「もちろん、そのつもりです!」
『助かるわい。真実を知りたいと願う者も多い。あの子と仲が良かった者はとくに……今でも板挟みで悩んでおる』
ーー俺も知りたい。大爺様の行動には矛盾が多すぎる。
隠し部屋を探して、転移陣の先にあるものを、この瞳で確かめたい……!
『この後は魔王領へ行くんじゃったか。海を渡る船はこちらで用意しよう。準備が整うまで探索を頼むぞ』
翌日、シエルが迎えに来た。
隠し部屋は宮殿の外にある可能性が高いということで、森の探索に同行してくれるそうだ。
俺達だけで行動すると迷子になったり絡まれたりしそうだから心配とのこと。
たしかに知らない森で自由に行動するのは危険が伴う。
のんびり朝食を食べていたアリスとヴィーを急かして出かける準備をし、部屋を出る。
騒がしく回廊を歩いて外に向かっていると、中庭の薔薇園で茶会をしている集団が目に入った。
「あっ桃薔薇ちゃんだ!」
アリスが知り合いを見つけたらしく走って近づいていく。
再会を喜んでいるのは、桃色の髪が肩で跳ねている子供の精霊。
そういえば桃薔薇の精霊と会ったと話していたっけ。
聞いてみようと振り返ると、トールは目をまん丸にして驚いていた。
「トール? どうかしたのか?」
「……ドレス、着てる」
「は?」
「昨日は男の子の格好だった」
ぶふっ。
一緒にいたシエルが吹き出した。
『彼女達が聞いたら怒りそうですね』
「えっ?」
「男の子の服を着てたら普通は男だと思います」
トールがむくれながら反論する。
『そうだよね。うん、キミは悪くない。良い機会だからちゃんと紹介しましょう』
そう言って茶会の席に近づいていく。
お邪魔ではないだろうかと思いながら俺達もそれに続いた。
『桃薔薇』
『光の大精霊様!』
『きちんと自己紹介をしていなかっただろう? 今、良いかい?』
『あ……はい』
しまったと顔を引き攣らせる桃薔薇。
アリスはキョトンとしている。
『この子は桃薔薇の精霊。1000年ほど前に異世界人が品種改良していた薔薇をこの庭園に植え替えたんだ。100年くらい前にやっと花を咲かせてね、そしてこの子が生まれたのさ』
『桃薔薇です。よろしくお願いします』
「……ねぇ、昨日はどうして男の子の格好をしてたの?」
『えっと……あの格好のほうが動きやすくて好きだから』
「ぼく、男の子だと思ってたよ」
「え〜っ! 私はちゃんと女の子だと分かったよ?」
「アリスは黙ってて」
「トールって人を見る目がな〜い」
「うるさい」
トールとアリスが騒いでいると背の高い女性が近づいてきた。
赤くウェーブした髪、真紅のドレスとハイヒール、艶やかなその女性はこの茶会の主催者のようだ。
『桃薔薇ったら、またそんな格好をしていたの』
『赤薔薇様』
『せっかく可愛いんだからダメだと言っているでしょう。ちゃんとドレスを着なさい』
『はうぅぅっすみません……』
赤薔薇はしゅんとした桃薔薇の頭を優しく撫でながら、こちらに視線を向けてきた。
『精霊の森へようこそ、小さなお客様』
「……ありがとうございます」
少し緊張が走る。
姿勢を正した俺達を見た赤薔薇はクスリと笑い、ウインクしながら言った。
『可愛い坊やねん』
?????
固まった俺達に赤薔薇は頬に手を当てて首をかしげる。
『おかしいわね……前に来た客人から、外から来た男の子にはこうやって挨拶すると良いと聞いたのだけど。何か間違えたかしら?』
ーーどっどんな客人ですかそれは〜!?
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