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008 泡沫の時間

Side レオン



魔王の襲撃から一ヶ月がたとうとしていた。

父からの連絡は、まだ、ない。

俺達は父を探しに行くため隣国カーディナル王国へ出発する準備を進めていた。



エルフは長寿の種族。長い年月を生きる。

そのうちの1ヶ月などいつもなら気にするような期間でもない。

だが俺はずっと嫌な予感がして、これ以上は待てないと思ったのだ。


明日には出発するため、里の皆にあいさつをしてまわった。

里の者たちもまた、この地を捨ててエルフの谷へ向かう準備をしていた。

いつかここへ戻ることがあるとしても、そのときは誰もいないのか。

そう思うと寂しさが込み上げてくる。


最後に里長の叔父のところへ行き、明日の朝に出発することを伝えて今まで世話になった礼をする。

父のものを詰め込んだマジックバッグを託し、残っていたマジックバッグも譲り渡す。

鍵の部屋にバッグがいくつかあったのを見つけたのだ。

自分たちは一人一個ずつ持ったから、残りは里の皆に使ってほしいと伝えた。

これまでお世話になったのだ、少しはお礼になるだろうか。


マジックバッグのお礼に食料をいただいた。

これで旅の間の食事も安心だ。



あとは、フィンに会ってラストだな。

家にはいないようだったから畑を覗いてみる。

だがここにもいなかった。

ーーとなると。


林の向こうの、丘の上。

ほら、やっぱりいた。


春の草花が咲き乱れる丘の上に、彼女の背中を見つけた。


「フィン」


声をかけるとゆっくり振り向いて微笑んでくれた。

「よくここにいるって分かったわね」

「子どもの頃からの付き合いだからね」


「ここから見える夕日は変わらないな」


よくふたりで夕日を見に来たっけ。

今日で見納めかな。


「明日の朝、出発するから里のみんなに挨拶してきたんだ」

なんだか気まずくてフィンのほうを見ることができない。


「そう、お疲れ様。行ってしまうのね」

ふたりで見る夕日はこれでもかというくらい赤く染まっている。

フィンは今、どんな顔をしているだろうか。



「フィンも、今までありがとう」


「……他に言うことはないの?」


あれ? 少し怒ってる?


「私、待ってたのに」

「ーー!? ご……ごめん」

「私のこと、どう思ってるの?」

「それはっ……その、ごめん」

「一緒に行こうとか、待っててほしいとか、迎えに来るよ、とか。言ってほしかったなぁ~」


ちょっと茶化すような言い方をされて、いつも通りかとほっとしたものの、フィンが涙を堪えていたことに気づいて思わず抱きしめた。



「ごめん、俺じゃきっと幸せにできないから」


無言のフィンをいっそう強く抱きしめる。


「フィンには幸せになってほしいんだ」


君を幸せにするのが俺じゃないのは悔しいけれど。


今だけ、今だけここのままで。

明日にはただの幼馴染に戻るから。


フィンとの思い出が、次から次に浮かんでは消えていく。

このぬくもりは一生忘れない。



春の風はまだ冷たいけれど、キミの温もりと柔らかさが心地よくて、もう会えないかもしれないなんて考えたくなかった。

服を濡らした涙が冷えていくのを感じながら ーこのまま連れ去ってしまおうかー なんて。


思うだけなら自由だ。


そう自分に言い聞かせるのだった。


□□□


翌日の早朝。

旅支度をして外に出ると、叔父とフィンが見送りに来てくれた。


「妻が弁当を作ってくれた。持って行きなさい」

「昨日も食料をいただいたのにすみません。ありがとうございます」

「なぁに、家族のようなもんだから遠慮するなといつも言っているだろう」

「ありがとうオッサン!助かるぜ」

「こらっヴィー!言葉遣い!! ……すみません叔父上」

「はははっかまわないよ。みんな気を付けてな」


ヴィーはアリスからも説教を受けている。


「レオン、これ。」


フィンが髪紐を差し出したので受け取った。


「餞別よ。次に会うまでちゃんと持っててね」


「……ああ、ありがとう。大切に使わせてもらうよ」


俺は受け取った髪紐を使い、その場で髪を結わえた。

次に会う、なんて。今は想像もつかないな。


「それ、私が魔力を込めて編んだの。防御魔法もかかってるのよ」

「そうか。ありがとう」

「それがあれば、どこにいるかだいたい分かるからね。」


「ん?」


「レオンが会いに来ないなら、私の方から会いに行くから」


「は?」


「魔王城に乗りこまれたくなかったら早く会いに来てね」


「はあぁぁぁぁぁ!?」



いや、うん。

フィンらしいというえばフィンらしいけど。

彼女の目が少し赤いのは昨日泣いたせいだろうか。

それでもまた会えると信じてくれているのを感じて胸の奥がツキンと痛んだ。



「と……ときどき魔法鳥を送るのでそれで勘弁してください……」


「おいレオン、今から尻に敷かれてんじゃね~ぞ?」


こうして皆に笑われつつ、俺達は生まれ育った隠れ里を後にした。

いつも読んでくださり有難うございます!

毎話読んでくださっている方がいると思うだけで頑張れます。

まだまだ序盤ですが、よろしければ感想などお聞かせください。


なお、第一章はここまでとなります。

次は人物紹介を挟みまして、第二章は2〜3日に1回更新の予定です。

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