069 濡葉色のドラゴン
時渡りの瞳に映るのは、濡葉色の巨大なトカゲ……いや。
絵本で見たのと同じドラゴンだよな。
えっ本当に実在したの?
えっえっっ!??
信じられない思いで呆気に取られていたが、周りの光景にハッとする。
地面に降り立とうとしているドラゴンの目線の先には、慌てふためく3人の子供たち。
一番に走り出して逃げようとしたのはヘンリ。
それを追いかけるように走る俺とフィン。
けれどドラゴンの翼の風圧でフィンが転んでしまった。
痛みと恐怖で泣き出したフィン。
子供の俺は足を止めてフィンの手を取り一緒に走ろうとしたが、風が強すぎて膝をついた。
ーーみんなっ早く逃げろ……!
ハラハラしながら見守っているが、誰もその場から動こうとしない。
いや、足が竦んで動けないのかもしれない。
魔力に同調すれば、徐々に音も聞こえるようになってきた。
グルルルルグルルーー
鳴り響くのはドラゴンの唸り声。
ゴウゴウと吹き荒れる風、煽られた木々のざわめき。
子供たちは恐怖で動けないようだ。
『子供らよ、かの者はここにおるかの?』
「…………ひっ……」
『恐怖でしゃべれぬか。ふむ。ならば周辺の気配を探らせてもらおう』
「う……あ……」
『たしかに気配を感じたのじゃ。一体どこに……』
ドラゴンてしゃべれるんだなと感心していた時だった。
『そこか。そんな所に隠れておったとは!』
小さな俺達に向かって巨大な爪を伸ばしてきたドラゴン。
俺は小さいなりにフィンたちを守ろうと魔力防壁を展開していた。
だがそれは小さくて弱々しい。
とても防壁の役目を果たせるとは思えないものだ。
それでも必死に魔力を練り上げている。
だが自分の魔力だけでは足りないと察したのだろう。
周囲の魔素も集め始めた。
「ぼくが、みんなを守るから!!」
渦巻く魔力。
けれど、その勢いは小さな体でコントロールできるようなものではないだろう。
小さな俺は顔を歪め、涙目になりながらも必死に皆を守ろうとしていた。
ーーこのままでは魔力切れで倒れてしまうぞ!
過去の自分を心配するのもおかしな話だと頭では分かっているが、目の前の光景につい手を出したくなってしまう。
興味深そうに見ていたドラゴンは、爪先で魔力防壁を軽く弾いた。
それでけで俺の防壁は消滅。
せっかく集まった魔素も光の粒となって散っていった。
代わりに、俺の体の中心から不思議な光が溢れる。
その光はドラゴンの存在に呼応するかのように強さを増していく。
七色に輝く光は目も開けられないくらいの眩しさだ。
フィンは泣きじゃくり、ヘンリはオロオロしながら見守っている。
「ドラゴンよ、お前の主はまだ眠っている。今は去れ!」
風に乗った大爺様の叫び声が聞こえた。
ドラゴンは不満げにグルルルと人唸りしたが素直に去って行った。
残された俺の周りには魔素が渦を巻いていて、魔力暴走寸前である。
駆けつけた大爺様が、両手を突き出して暴走し始めた魔力と魔素を操り、まるで毛糸を巻くようにグルグル巻きとって俺の中に押し込める。
その巻き取った魔力の中心にある「何か」。
それが何なのかはわからない。
けれど、その何かを隠すために俺の精霊力で覆い、更に巻き取った魔力で隠したのだ。
その隠されたものはきっと、誰にも知られてはいけないだろうことは察せられた。
今は眠っているというドラゴンの主。
俺の中に眠っているらしい「何か」の正体とは……
大爺様がいなくなった今では、ドラゴンに会いに行くしか知る方法がないんだろうなぁ。
俺は今後を想像して小さな溜息をついた。
いつも読んでいただきありがとうございます!
第五章もあと少しです。ぜひお付き合いください。
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