067 大精霊 ルーヴィッヒ
きっかけは何だったろうか。
たぶん俺が魔力暴走を起こしたことと関係あると思うんだけど、残念ながら自分ではその理由を覚えていないのだ。
13年前の部屋の光景。
あの頃の大爺様が何を考えていたのか知りたいと思った。
時渡りの瞳に映る大爺様はまだ元気で、威厳のある佇まいをしている。
ーー亡くなる前はずっと縁側でロッキングチェアに揺れながら窓の外を眺めていたっけ。
ほんの10年ちょっとであんなに弱ってしまうなんて、よほど負荷がかかっていたのかもしれない。
大精霊だった大爺様は規格外の魔力を保持していたけど、自分ではなく周りの者達のために魔法を使っていた。
溢れる魔力のせいか、集まってくる精霊達のせいか、薄っすらと光のベールを纏っている。
厳しくも優しかった大爺様。
懐かしい姿に心の奥が暖かさでいっぱいになる。
ふいに、難しい顔で読んでいた本を閉じた大爺様は、本棚の最上段へと手を伸ばす。
本を棚に戻すのかと思ったが……左から4冊目以降の本をずらして、空いたスペースへ手のひらをかざした。
そこへ魔力を流したことにより3冊目と4冊目の間に小さな魔法陣が現れる。
ーーこの型の魔法陣は見たことがないな。
なんとなく古い精霊文字のような記号があるのだけは読み取れたけど。
大爺様は手にしていた本をその魔法陣の中へと入れた。
ーー空間魔法? でも俺が知ってる魔法陣とは違うし、精霊魔法? それとも大精霊だったときの力だろうか。
ーー普通の空間魔法は物に付与することが多いけど、今の魔法は空間そのものに展開されていた気がする。
本棚は旅に出るときに片付けたから空っぽだけど、魔法陣の場所は固定されているのかも。
そんなことを考えているうちに大爺様は部屋を出て行ってしまった。
そこで時渡りの瞳も解除する。
さっきの本に手がかりがあったりするだろうか?
遺品ならこれも持っていくほうが良いかもしれない。
そう思って魔法陣が現れたあたりに手をかざして探ってみると、確かに大爺様の魔力の痕跡があった。
けれど俺の魔力には反応しない。精霊力を流してみてもダメだ。
ーー過去の大爺様と会話ができたらいいのに。
そんなことも考えたが、すぐに首を振る。
過去は過去、今は今なのだ。
次に向かうのは里の外れの丘の上。
里を離れるときに最後にフィンと会った場所。
今は初夏の草花が咲き始めていた。
ーー村は深い森に囲まれているのにここだけぽっかり空いてるから変だと思ってたんだ。
たぶん俺が魔力を暴走させて周りの木々をなぎ倒しちゃったんだろうな。
あの時の記憶がないのは何故だろう。
何かがあって、フィンが怪我して、俺は魔力を暴走させて、大爺様が駆けつけて助けてくれた。
大爺様が何か言っていた気もするけれど……それも覚えていない。
そして知らないうちにヘンリは大爺様に俺を守る盾になるとか誓ってるし。
心当たりなんて全く無い。
6歳の自分を確認しないと。
知りたい……けど、知るのが怖い。
緊張して躊躇っているとヴィーが飛んできて左肩に止まった。
少し弱っていた俺は縋るように呟いていた。
「……ヴィー、俺に力を貸してくれるか」
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※すみません、次回は月曜の昼頃になります。