閑話3/救世主の家
俺の名前はテオドール。
父親はカーディナル王国の貴族。
母親は……そいつの屋敷で働いていたメイドだった。
実家は代々王家の影をしている家系だ。表向きは普通の貴族だが、裏では反逆者などを取り締まる仕事をしている。俺も影の仕事を手伝うため12歳のときに契約魔法を結ばされた。
契約に縛られて自由に生きることもできず、情報をもらさないためにも無表情・無口でいた。全てが煩わしく他人と関わるのが面倒くさくなっていたのもある。嫡男ではないからといいように使われるのもうんざりだ。元々縛られるのは嫌いなんだ。
そんな俺に転機が訪れた。
王国が召喚した救世主の1人が市街地で暮らしたいと言い出したらしく、俺が世話役という名の「護衛 兼 監視役」につくことになったのだ。救世主は3人いたが、その中でもこいつはハズレだと言われていたため下っ端の俺にまわされたのだろう。
ハズレの世話役で可哀想?
はっ。とんでもないね、大当たりだったよ。
彼は「モノ作り職人」のショウ。
一緒に召喚されたのは「魔法剣士」のカイと「白魔術師」のヒナ。
ふたりは兄妹で、ショウはヒナの幼馴染のようだった。
肩書で想像がつくように、他のやつらはこの兄妹が救世主だと思っている。
だがショウは規格外だった。
召喚の儀を行ったやつらは誰も想像していなかっただろう。
城の奴らにショウが連れていかれるのは腹立たしいから秘密にすることにした。
***
始めはただ、俺も任務をこなしていただけだった。
護衛をしながら食事の用意や家の管理などもしつつ監視し、城への報告は……まぁ、それなりに適当に。
王都の外れに用意された家でモノ作りしているショウとの共同生活。
時々カイとヒナも遊びに来て、あいつらは魔法の練習をしながら家にいろいろ付与していた。
救世主の2人も含めて、ほとんどの者は適正のある魔法しか使えないのに……なんとショウは一通りの魔法を使えた。全属性を使えてるこいつは実はすごい奴じゃないか!? そう思った俺は注視することにした。
ショウは16歳だと言うのに少し子供っぽいところがあった。
元の世界ではまだ親の保護下にある年齢だそうだから仕方ないだろう。こっちの世界とは事情が違うようだ。
俺は子供の頃から訓練を受けて12歳から働いていたから、文化の違いに驚いた。
そんなワケで、ショウは少し甘えん坊なところもある。
甘えられるということは信頼されているということだろう。悪い気はしない。
信頼関係なんてのに無縁だった俺は、あいつに頼られることが嬉しかった。
ちなみに、付与されまくったこの家はいつのまにか強固な結界で覆われていた。
この家にいる間は護衛の仕事しなくても良いんじゃないか?
時間があまった俺は料理を極めることにした。
元々食事の用意も仕事に含まれていたのだが、カイに教えてもらう異世界の料理に興味を惹かれた。
カイが言うには両親が仕事で忙しかったため家ではよく料理をしていたのだそうだ。妹と食べるために作っていたから女の子受けの良いメニューが多いとか。女子ウケかどうかは分からないが、俺からすれば衝撃的なレシピばかりだ。
ほんの一手間を加えるだけで美味しくなるし、いつもと違うスパイスを使えば別物だ。
ショウも喜んでガツガツ食べてくれるから作り甲斐がある。
なんだか自分が必要とされているようで満たされた。
俺はここに居て良いのだと、そう思えたのだ。
ある日、いつのまにか契約魔法の効果が薄れていることに気づいた。
頭がスッキリしていて身体も軽い。
そういえばあいつら、家や服に防御、浄化、回復、解呪、結界など魔法を付与しまくっていたなと思い出す。
さすが救世主、契約魔法を上回る効果を発揮していたらしい。
おかげで契約に反した際の激痛を警戒する必要がなくなった。
時々やってくる刺客とやりあう際も身体が軽くて動きやすい。
ありがたい。
ショウ達は俺の恩人だ。
この恩に報いなくてはと心に誓った。
それから一ヶ月ほど経ち。
風呂に入っていた俺は契約魔法が完全に消えていることに気付いた。
浴槽にはられた湯が、浄化と解呪の仕上げをしてくれたようだ。
俺は自由を手に入れた。
頬を伝うあたたかい感触で自分の涙に気づいた。
そうか、解呪……されたのか。
静かに感動を噛み締めながら、これからのことを考える。
ショウの実力が露見すれば城に連れ戻されてしまうだろう。
いいように利用されてしまうのは分かっている。黙って見ているわけにはいかない。
あいつのことは俺が守ってやらなくては。
彼らが来てから世界が変わった。
自由をくれた恩を返したい。
「テオドールってお母さんみたいだよね」
いきなり満面の笑顔で言ってきたショウ。
おい、そこは「お兄さん」か「お父さん」じゃないのか!?
「だってテオドールって面倒見が良いし、なんでもできるし、一緒にいると安心するんだもん」
そう言って嬉しそうに笑った。
安心するということは、信頼されているということだろうか。
ショウは今日も楽しそうにモノ作りに励んでいる。
こいつらといるのは面白くて居心地が良い。
初めてできた大事な場所。
俺の大切な家族。
改めて思うのだ。
笑い声が響くこの家が、俺の帰る場所なのだと。
そんな思い出が詰まった救世主の家が1200年後もまだ存在していることは、この頃はまだ誰も想像していなかったようです。
いつも読んでいただきありがとうございます!
「異世界創造伝記」のテオドールのエピソードをまとめたようなかんじになりましたが、
あちらを読んでいない方にも彼らの気持ちが伝わると良いなあと思いながら書きました。
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