060 王国のけじめ
翌日、他のエルフ達も辺境伯の陣で合流。
リオニダス卿と、アシュリー嬢、そしてトルナード殿下も一緒だった。
殿下の護衛も数人同行している。
「このたびは、大変申し訳なかった」
殿下が頭を下げる。
天幕の中、辺境伯と殿下の2人だけとはいえ王族が頭を下げた。他の者には絶対に見せられない姿だ。
「殿下、頭を上げてください」
「辺境伯閣下……許してもらえるとは思っていない。だが、けじめとして謝罪させてくれ」
「殿下も洗脳されていたと聞いています。仕方がありません」
「……だが、リオニダスもアシュリーも影響を受けていなかった。私は自分が情けない」
「それを言うなら、私も、他の者達も不甲斐なかったということになります」
「しかし……」
「悪魔は撤退しました、今はそれでよろしいかと。あとは今後どうするかですよ」
「……そうか……そうだな」
「私は、王位継承権を辞しようと思っている」
「なんと!」
「洗脳されていたとはいえ、この混乱を大きくしたのは私の責任だ」
「……殿下」
「陛下も王妃も異変を察して結界の間へ避難したのに、私は洗脳されてしまった。聖女モニカを追放したとき自分でも違和感はあったのだ。陛下に苦言を頂戴した時も。なのに深く考えずにそのままにしてしまった。自分が甘かったと言わざるをえない」
「陛下はなんと?」
「陛下も事が落ち着いたら王位を退くそうだ」
「そんな! では次の王はどなたに!?」
「いずれは弟が継ぐだろう。だが、まだ6歳だ。これから王子教育を進めるはずだった」
「王位を継承するまでは時間が必要でしょう。その間はどうされるのですか?」
「王弟である大公殿下に国王代理をお願いしようと思っている」
「大公殿下は来年までの任務で芸術都市の方へ出向中でしたか」
「ああ、先ほど呼び戻すように陛下が手配していた」
「左様でございますか」
「……トルナード殿下は今後どうされるおつもりで?」
「まだ考え中だが、迷惑をかけてしまった領地を巡ろうかと思っている」
「それはまた難儀な」
「責められるのは覚悟の上だ。だが、責任は取らなくてはいけないし、復興に尽力するつもりだ」
「わが領地では門前払いされるかもしれませんよ?」
「だろうな。領民が怒るのはもっともだ。アシュリーには本当に申し訳ないことをした」
当の本人はそこまで気にしていないようだが……と辺境伯は思ったが顔に出さずに質問をする。
「アシュリーのことは婚約破棄をしたまま受け入れるおつもりで?」
「今更なかったことにしれくれと言ったところでアシュリーを傷つけた事実は変わらないし、私にはそんな事を言う資格もない」
「承知しました。では婚約解消の手続きがまだでしたので速やかに進めさせていただきます」
「そうか、手続きもしていなかったか。本当に、どうかしていたんだな私は」
首を振り肩を落とす殿下。
辺境伯はどうかしていた自分と重ねて優しい声をかけた。
「私もですよ。これからは離れていたぶんも娘を大切にするつもりです」
「そうしてやってくれ、アシュリーには幸せになってほしいんだ」
「それは……ありがとうございます」
話も一区切りし、天幕の外へ出れば双方の軍もエルフも仲良く食事を取っていた。食後は撤退作業に入るが、各代表は顔を合わせて悪魔について話し合う予定である。トルナード殿下も用意された食事の席につく。
少し離れた所では、和気あいあいと食事をとるアシュリー達。
王宮の外で見るアシュリーは伸び伸びとしていて、とても楽しそうだった。
こんな笑顔の彼女を見るのはいつぶりだろう。
それだけ、私が縛り付けて窮屈にさせていたということか。
……こんなことがあってからやっと気付くなんて……私は今まで何を見ていたのだろう。
アシュリーを見守るリオニダスの表情はとても穏やかで優しい。
リオにだったら、任せても大丈夫。
きっと幸せにしてくれる。
「アシュリーには、本当に幸せになってほしいんだ」
柔らかく吹き抜けていく風に、心を撫でられる思いで小さく呟いたトルナード殿下。
その声は誰の耳に届くことなく草原の風にかき消された。
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