058 長い一日の後に
結界の家を出て、木に繫いであった馬のところへ戻ると、馬に跨った人影が近づいてきた。
「レオン! こんな所にいたのか」
「ヘンリこそ、どうしてここに? 王都はいいのか?」
「悪魔の気配を辿っていたんだが、途中で途絶えたから引き返してきたところだ」
「そうだったのか。どこまで言ったんだ?」
「この先の山の麓だ。虹湖方面に向かっていたが、山に潜んでいるのか、神聖国に抜けたのか……」
「どちらも怪しいが、地下遺跡に潜った可能性も考えられるね」
「たしかに! 影に潜れるならそれも可能だろうな。皆と合流したら伝えるよ。レオンも王都に戻るのか?」
「そうだね。もう日も沈んでしまったし一緒に戻りたい」
「夜は獣類も活発になるしな」
「……ヘンリ、悪いんだけど光球を出せるか? 実は魔力を使いすぎてしまって」
「おいおい、身体は大丈夫なのか?」
「馬に乗って戻るだけなら問題ないよ」
正しく言えば、使いすぎたのは精霊力であって魔力ではないから身体強化の魔法を使うくらいなら問題はない。
「……どこかで一泊していくか?」
「どこかってどこへ?」
「ここからならローゼンドルフ領が近いだろ。泊めてもらおうぜ」
ニッと笑うヘンリ。
あ、これはなんか企んでいる顔だ。
少し不安になったものの。
「あそこの飯、うまいんだよな。ご馳走になろうぜ」
なんだ、そっちかとホッとして、2人でローゼンドルフ領に向かった。
馬車なら丸一日かかりそうな距離だが、馬で早駆けすれば数時間で着く。
ちなみにヴィーは俺の外套のフードの中で眠ってしまった。
いろいろあったし、お子様は寝る時間だからね。
合流したヘンリと馬で駆け、ローゼンドルフ領に着いた頃にはすっかり深夜になってしまっていた。
日付をまたぐ頃にやっと見えてきた、街をぐるりと囲む防壁。
正門へ向かえば門番が驚いた顔で迎えてくれた。
夜も深いというのに働いている人達がいて、食事と客間を用意してくれた。
勤勉な彼らに感謝する。
そういえば今朝聖山を発ってから食事らしいものを何も食べていなかったなと思い出し、温かいスープと優しい味のパンを味わいながら、ぼんやりと一日を振り返る。
長い一日だった。
だが逆に、いろいろありすぎて一日しか経っていないなんて嘘のようだ。
父の救出に向かったら悪魔が出て、父の治療のために行った辺境伯の天幕で昔の話を聞いて、結界の家で過去を視て……歴史をなぞるように繋がって見えてきた出来事。大爺様はどこまで把握されていたのだろう。
これからは過去視の力を受け継いだ俺が背負っていかなければ。
俺に……できるのか?
不安はよぎるが、それでも俺がやらなくてはならないのだ。
きっと、そのために俺はいろいろと厳しく教えられていたのだから。
ふと横を見れば、大きないびきをかいて寝ているヘンリ。
「ご馳走になろうぜ!」と言ってた本人は、到着するなり連絡用の魔法鳥を飛ばしたあと速攻で寝落ちしてる。どうしてくれようコイツ。
折角用意してもらった食事を無駄にしたくない。俺はあくびをしながらも、食事が残っているテーブルに保存魔法をかけて倒れるようにベットへ潜り込んだ。
ヘンリはソファに転がっているが自己責任ということで。
翌朝、眩しい光と騒がしい声で目が冷める。
太陽の角度からしてまだ日が登って間もないだろう。
朝も早いというのに、ヴィーとヘンリが喧嘩しながら食事をしていた。
「……おはよう。何を騒いでいるんだ?」
「アニキ! やっと起きたか!」
「レオン、こいつ焼き鳥にしていいか? 気持ちよく寝てたのに無理やり起こしやがった」
「……ふたりとも。まずは、”おはよう”じゃないのか?」
少しイラッとしながら言うと、ふたりとも素直に「おはよう」と返してくれた。
「よく眠れたか? おまえ、昨夜は真っ青な顔してたぞ」
「それは気づかなかったな」
「光球で照らしたらひどい顔をしてるからビックリしたぜ」
「寝てスッキリしたからもう大丈夫だよ」
「アニキの心配してくれるなんて良い所あるじゃん」
「ところで、こいつ生意気なんだけど焼き鳥にしていいか」
「あ”あ!?」
「まだ早朝なんだから騒ぐなよ。あと、2人とも生意気なのはお互い様だと思うぞ」
「「あ”あん!?」」
いつもと変わらない口調に笑みが漏れる。
じんわりと暖かくなった心に、ああ、ここは現実なのだと安心したのだった。
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※すみません、次の投稿は土曜日になりそうです。仕事はまだGW進行が続いてるので⋯⋯




