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053 殴るのを忘れてた

前半はリオニダス目線です。

もうすぐ長い一日が終わりそうだと安堵していたリオニダス。


だが、突然の爆発音。

割れて飛び散る窓ガラス。

王宮の一室から上がる煙。


バルコニーの右側、数メートル先の部屋だった。


音を立てて割れた窓から、誰かが外へと投げ出されるのが見える。


傾き始めた太陽の光が反射して黄金色に染まる髪。


ーーあれは、アシュリー!!?



とっさにバルコニーの縁へ足をかけて飛んだ。

身体強化でアシュリーの元へと一気に跳躍する。


「「アシュリーーーー!!!」」


殿下の声と重なった。

チラリと後方を見れば、視界の端に映る殿下が必死の形相で見守っている。

爆風で流されてくる煙中で、俺は両手を伸ばしてしっかりとアシュリーをつかまえた。

煙のせいで視界が悪い。おまけに煙とともに飛んでくる細かい破片が肌をかすめて傷を作っていく。


これ以上アシュリーに傷を付けられてたまるものかと、オレは彼女を覆いかぶさるように抱き込んだ。



二人分の重さで落下。



アシュリーを引き寄せて横抱きにしながら、風魔法で落下速度を抑えて着地。


ガシャン、ジャリジャリ……


瓦礫やガラスが足元で音を立てた。

顔や手など、服から出ている肌にできた細かな傷がピリピリと痛む。そっとアシュリーを見れば、衣服がボロボロだし可愛い顔に傷が付いている。なんてことだ!!


「アシュリー……大丈夫か?」


「……ん……リオ?」


小さく震えるアシュリーを抱えたまま、ブーツでガラスの上をヅカヅカと歩いて城からなるべく距離を取る。安全そうな木の下まで来てから彼女をそっと降ろしてあげた。


彼女の頬の傷が心配で優しく手を添えジッと見つめる。


「痛くないか?」

「大丈夫。それよりも神官長よ、裏で手を引いていたのは神官長だったわ」

「あんの狸ジジイ」


絶対許さん。

傷が残ったらどうしてくれよう。

まぁ、それでもアシュリーが可愛いことに違いはないのだけれど。


爆破された部屋を不安げに見上げるアシュリーを安心させるために殿下に伝書鳥を飛ばして神官長の件を伝え、アシュリーの無事も知らせた。


2人とも全身に破片や埃が付いているので風魔法でそっと吹き飛ばし、ポケットから白いハンカチを取り出して血が滲んでいる傷を優しく拭いてあげる。

痛みに顔を歪めながらも涙を見せないのは我慢強いアシュリーらしい。


彼女の怪我を確認したいが今は見える部分しかチェックできない。

手の甲の傷が痛々しいので水魔法で軽く洗い流し、腰に巻いていた飾り帯を剣で裂いて傷口に巻いてあげた。

あとは頬と……右足の傷が大きそうだな。


「アシュリー、座って」


上着を脱いで木の根本へ敷いて座るように促した。


「でも……」

「遠慮しないで。ワンピースの裾がそれだけ切れているんだ、傷も大きいんじゃないか?」

「……それは……」


「座ってくれないなら押し倒してでも足を見せてもらうけど?」


「〜〜〜〜〜!!」


真っ赤になりながらも敷かれた上着に渋々座るアシュリー。

そっと右足首を持ち上げれば、ふくらはぎのあたりに5センチほどの傷が血を滲ませていた。


「傷は大きいけれど、深くはなさそうだね。応急処置をするから我慢して」


こちらも水魔魔法で洗ってから飾帯の布を巻いていく。恥ずかしそうに頬を染めて視線を逸らしているアシュリー。治療とはいえ足に触れているのが申し訳ない。自分でも意識しないように、冷静を装いながら布を巻いていく。




「おまえ達、まさか付き合ってるんじゃないだろうな?」


背後からかけられた声。

不機嫌なような、悲しいような、寂しいような声音。


「殿下、そんなワケないじゃないですか。治療をしてただけですよ」


布を巻き終わり、笑顔を貼り付けながら振り向くと、納得いかないような顔をした殿下が腕を組んで立っていた。


「神官長のほうはどうしました?」

「急いで騎士団に向かわせたが、すでにエルフ族が捕らえられていたそうだ」

「あ〜……流石ですね」

「人族ごときが調子に乗るなとボコボコにしていたらしいぞ。何かやらかしたんだろう。エルフのあまりの怒りっぷりにスカーレット嬢は部屋の隅で怯えていたらしい」

「それはそれは」

「エルフ族と騎士団でこれから聴取する予定だ。レオも行くか?」

「いえ、すみませんがオレはアシュリーを治療に連れて行きます」


「リオ、私なら大丈夫よ」

「大丈夫じゃない。傷が残ったらどうするんだ」


頬を染めるアシュリーと、親しげなリオニダス。

いつのまにこんなに仲良くなったのか。

気に入らない。ムカつく。

けれど、それはきっと自分のせいでもあるのだろうとトルナード殿下は拳を握って我慢した。


……私にはもう、それを咎める資格はないのだ。



「それじゃ殿下、医務室へ送っていったら戻りますので」

「ああ、アシュリーを頼む」


「あ、そうだ」と、リオはアシュリーへ差し出そうとした手を止め、笑顔で振り向いた。


「殿下、大事なことを思い出しました」


「なんだ?」


「婚約破棄してアシュリーを傷つけたこと、怒ってたんですよ? 殿下に合ったら絶対に……って思ってたのに」


「ん?」


「殿下を殴るのを忘れてました」


笑顔で拳を握るリオニダス。

殿下は一瞬あっけに取られたが、我に返ると怒りが込み上げてきた。ふるふると身体が震える。


「それは、こっちのセリフだぁーーーー!!!!」

だぁーーーー!!!

だぁーー!!

だぁ!!


王城に殿下の叫び声がこだましたのだった。

いつも読んでいただきありがとうございます!

少しでも面白いと思いましたら、ブクマ登録や評価、リアクションなど頂けると嬉しいです。執筆の励みになりますのでよろしくお願いします。


すみません、GW前で忙しくなってきたので来週は投稿をお休みします。続きは結界の家から。レオン視点に戻ります。連休中に更新できたらいいな⋯⋯


※文章がひどかったので修正しました。ストーリーの流れは変更ありません。

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