049 悪魔と王国4
視界の端のそれに気づいた俺は、咄嗟に駆け出しヘビのようなものに向かって炎弾を放つ。
「父上!!!」
ドドドッという、にぶい音。
父の足に食らいつこうとしていた黒いヘビは、土煙を残して霧散する。
その間にも悪魔に向かって放たれている光の矢。
詠唱を終えた隊長も雷撃魔法で悪魔を捕らえようとしていた。
父が片膝をついて「ぐうぅぅっ」と顔を歪めている。
「父上っ大丈夫ですか!?」
「すまん、かすった」
「すぐに回復魔法を……」
「私はいい。陛下を守るのが優先だ」
「なっ……わ、わかりました」
額に汗を滲ませつつも真剣な目の父に、渋々返事をして防御魔法を展開する。
顔を上げて悪魔に目をやれば、ふたたび少年ジドラルの姿に変わろうとしていた。
『あははっごめんね〜! ラキエルのやつ時々勝手なことをするからさぁ。主人格はボクなのに困ったものだよ』
くるりと空中で回転して上空に飛んでいくジドラル。
『ボクとしてはキミ達を食べるより、そっちの魔法武器に興味があるんだけど』
ヘンリが手にしている弓を面白そうに見つめている。
地上からは攻撃を続けているが、彼が指を鳴らすと全て無効化されてしまう。
魔法攻撃は魔素となって形を失い、人族が放つ矢も塵となって消えた。
『ふふふっ! 人を操るだけのラキエルと違って、ボクの魔道具はすごいでしょう!』
左手の中指をうっとりと眺めている。
そこには金色の太い指輪。
あれが魔道具なのだろう。
『いろいろと気になることはあるけど、他にやりたいことができたし今回は撤退してあげる』
『面白い魔法武器を見せてもらったお礼にいいこと教えてあげよう』
『あの魔道具の水晶玉は元々、帝国にあった物だよ』
ーーオニダル帝国。
大昔から頻繁に戦を繰り返している軍事国家で、大陸の1/3を締めていた時代もあるという。
カーディナル王国の南側にあり、国境にある大河では双方の軍が常に監視している。数百年前に王国へも侵略してきたこともあるらしく敵対しており、今は南の連合軍と戦っているらしい。
悪魔の言葉を聞いた父上と国王陛下の眉間にシワが寄る。
『おもちゃのスカーレットも捕まっちゃったみたいだしボクはこの辺で失礼するよ』
『そうそう……レオンハルトと言ったかな。また会おうね〜♪』
悪魔ジドラルは愉快そうに手を振って姿を消した。
俺達はしばらく呆気にとられていたが、隊長の下へ伝書鳥が飛んできたことで我に返った。
「教会内の聖女の部屋で水晶玉の魔道具が見つかったそうだ」
ーー「帝国にあった物」ということは、帝国は以前、悪魔と繋がっていたということか?
水晶玉は見えない存在と繋がると言われている。
そして、彼の言葉を信じるならば、帝国と繋がっている者が王国内にいるということだろう。
続けて飛んできたもう一羽の伝書鳥。
「……聖女スカーレットを確保した」
隊長の言葉に安堵の息をつく。
悪魔の行方が気になるが、今回は撤退すると言っていたからこの場は大丈夫だろう。
ふと顔を下に向ければ、苦しそうに座り込んだ父の姿。
慌てて父の足に回復魔法をかけるが回復する兆しが見られない。
傷に対して効力が足りないのだろうか?
全力で魔法をかける。
それでも変化はない。
焦って嫌な汗が伝う。
悪魔の魔力による負傷は普通の回復魔法では効かないのか?
聖女の力なら治せる……?
「父上、治療できる人の所へ連れていきます。少し我慢してください」
急いだほうが良いだろうと立ち上がると、怯えて身をすくめていた国王陛下達が目に入った。
父が負傷してまでも守ろうとした人族。
それだけの理由が彼にあるとでもいうのか。
「このたびは、有難うございました」
国王陛下が震えながらも手を差し出してきた。
今はそれどころじゃないと思いつつも、国王相手に無下にも出来ず手を握り返す。
「ご無事でなによりです。すみませんが父の治療があるので私はこれで……」
言いかけたとき、突然グイッと引き寄せられ、誰にも聞こえないよう耳元で告げられる。
「救世主の魂は過去へ飛んだ」
一瞬何のことか分からなくて驚いたが、次の瞬間、忘却魔法が発動したことで察した。
目の前の国王陛下を精霊の魔力が包んでいる。
おそらく、この伝言を次へ伝えた者は忘却魔法によってその内容を忘れるのだろう。
覚えのある魔力。
これは大爺様からの伝言だ。
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