045 トルナード殿下
side リオニダス
「殿下、体調はどうですか?」
「まだ少し目眩がするが大丈夫だ」
「モニカ聖女の解呪クッキーです。回復効果もあるので食べておいてください」
「助かる」
殿下に肩を貸しながらクッキーを口を入れてやると、彼は「にが……」と眉間にシワを寄せた。
今回は数を多く作るためにハチミツは少なめになってしまったと言っていたな。薬草入りだから苦くても仕方ない。我慢して食べてもらおう。
スカーレットはエルフ族が「悪魔の居場所を吐かせる」と言って連れて行ってしまった。
あの調子じゃ居場所を知っているか疑わしいが……
「リオ、助けに来てくれたのは嬉しいが、アシュリーも連れてきたのは危険じゃないか」
「オレもそう思ったんですけどね、彼女が行きたいと言ったんですよ」
「はっ!?」
「知ってましたか、殿下。アシュリーって結構お転婆らしいです」
「えっだって、いつも本を読んでるかお茶をしているかで、周りからは淑女の鏡と呼ばれていて……」
「殿下に相応しくあろうと努力していたんでしょう。責任感の強い方ですから」
「そう……なのか。ずっと一緒にいたのに……知らなかった……」
しばし俯いて考え込んでいた殿下は、まっすぐにアシュリーの目を見て言った。
「アシュリー、今までありがとう。私はずっとキミの幸せを願っているよ」
「ありがとうございます。これからは領地でゆっくり過ごさせていただきますね」
「……王都は、嫌だったかい?」
申し訳なさそうに問いかければ、彼女は首をゆっくり振って答える。
「嫌というわけではありませんが、子供の頃は領地の山を駆け回って遊んでおりましたので」
「キミがそんなに活発だったなんて知らなかった」
「殿下はお人形のような私が好きでしたものね」
「そっそんなことは!」
ふふっと笑うアシュリー。
「そんなこと、ありますわ。殿下が好きだったのは人形のように美しく飾った私。私自身に興味があると感じたことはありませんもの」
「なっ……!!」
「だって殿下、私が本当に好きだったことをご存知ないでしょう?」
「キミは、よく本を読んでいたけれど……きっと、それではないんだろうね」
「ええ。私は馬が好きなのですわ。殿下の婚約者としてははしたないからと禁止されていましたが、馬に乗って山を駆けるのが好きでした」
「……そうだったのか。私は何も見えていなかったんだな」
「馬車や騎士団と一緒のときは馬に触れることもできましたから、その時だけは楽しかったわ」
「ずっと我慢させて、すまなかった」
打ちのめされた殿下にかける言葉が見つからず、軽く肩をポンッと叩いてやる。
オレなりの励ましだ。
「これからは一臣下として、辺境伯の地からお仕えいたします」
臣下の礼をとるアシュリー嬢。
それを見つめる幼馴染の姿に少し胸が痛む。
そこへ若いエルフが「あの女は泣いてばかりで話にならない」と戻ってきたので、アシュリーが「私が行きます」とエルフと共に部屋を出て行った。
彼女の後ろ姿を見守ってから、オレは殿下に声をかける。
いろいろと吹っ切れた今、幼馴染として、これだけは伝えたかったから。
「殿下、これからはオレがアシュリー嬢を守るので安心していいですよ」
「なっおま……っ」
殿下が口をはくはくさせている。
今まで彼女を独占していたんだ、このくらいはやり返させてもらおう。
意趣返しするリオニダスがいたずらっぽく笑えば、深呼吸をして冷静になった殿下が質問をした。
「……リオは、その、いつからアシュリーのことを?」
「ん?」
オレは少し考え、ふっと笑って横目で答えた。
「教えなーい」
「〜〜〜〜〜っ!!!」
オレに支えられたまま悔しそうにする殿下に、はははっと笑う。
こんな気さくなやりとりは子供の頃以来だ。
懐かしさと嬉しさを感じながらも、これからのことを考える。
城内の喧騒、混沌とする城下、錯綜する情報。陛下の安否も心配だ。
「……リオ、まずは外の騒ぎを収めるぞ」
「はい。周囲はかなり混乱しているようですが大丈夫ですか?」
「失態はおかしたがこれでも第一王子だぞ、任せろ」
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☆こちらの2000PVに続き、赤髪の騎士の短編も1000PV超えました。有難うございます!! 感謝を込めて短編の続編を書きましたので、よろしければどうぞ。今度はハッピーエンドです。
「赤髪の騎士は婚約破棄された令嬢を甘やかしたい」
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