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005 3人のヴィック

翠玉髪のヴィックと、黒髪ヴィックと、白い小鳥のヴィック。

魔王に魔力を分離されて2人と1羽に分かれてしまった。

元は金髪だったのに体内の魔力バランスが変化したせいか髪の色も変化した。



アリスは悩んでいた。

「呼び方で区別しないと誰のことを呼んでいるかわからないもんね」


白い小鳥のヴィックはワクワクしていた。

「オレにふさわしいカッコイイやつをよろしく♪」


翠玉のヴィックは横目で小鳥を見ながら思っていた。

(ちっともカッコよくはないんだけど?)


「とりあえず、この場にいないヴィックはヴィックのままでいいよね」

「そうだな。本人がいないところで勝手に決めるのもなんだし、ヴィックの呼び名はあいつにくれてやるぜ」


翠玉のヴィックもこくんと頷く。



ーーえ~っと、本名は〈ヴィクトール〉だから……


アリスは腕を組んでみたり、眉間に人差し指を添え「う〜ん」と唸ったりながら一生懸命に考えている。

しばらく考えた後、満面の笑みで顔を上げてふたりを指差して言った。


「決めた!小鳥さんのほうは〈ヴィー〉で、お兄さんの方は〈トール〉でど~かな!?」


時間がかかったわりには普通だなと思ったが、そこは優しいお兄様達。

「おぉ! まあまあ良いんじゃない? ヴィーで我慢しといてやるぞ」

「ぼくは、なんでも大丈夫」

「ちょっと!! なんでも大丈夫ってなによ!? 我慢ってなによ!?」

「まあまあ良いって言ってるだろー! 一応褒めたのにっ」

「一応って何よ! せっかく考えたのにっ!」


優しい言葉をかけたはずなのに、兄妹喧嘩が始まってしまった。

口数の少ないトールはため息をついてげんなりした顔で見ているだけだ。



そこにクスクスと笑いながらひとりの女性が現れた。

遅れて、レオンも彼女の後ろからひょっこり顔を出す。


「ずいぶん楽しそうね? 元気そうで安心したわ」

「……何やってるんだ、おまえら?」


「あっレオン兄、フィン姉ちゃん。今ね、ふたりの新しい呼び名を考えてたんだよ~」

振り向いたアリスの頭の上に白い小鳥が鎮座した。


「ああ、あなたが新しいヴィックね。よろしく」

優しく微笑みかけてくれる綺麗なお姉さんに照れてヴィーはもじもじした。


「ちょっとヴィー、人の頭の上でもじもじしないでよ。というか、鳥のくせに何照れてるの?」

「鳥のくせにっていうなっ泣くぞ!!」


兄妹喧嘩ふたたび、である。

それを苦笑いでなだめる金髪碧眼の綺麗なお姉さん。

長い耳と黄金色の長い髪は自然とともに生きるエルフの特徴。

名はフィンニー・ソリドール。

彼女は里長の娘で、レオンの幼馴染だ。


騒がしいふたりはフィンにまかせて、レオンは寝台の上のヴィックに駆け寄った。


「体調はどうだ?」

「ん。大丈夫」

「呼び方を変えることにしたのか?」

「……ん。どっちを呼んでるか分からないからって、アリスが」

「そうか。たしかにその方が助かるな」

「ぼくは〈トール〉だって」

「そっか。よろしくな、トール」


そう言ってトールの頭をなでると、「子供扱いしないで」と怒られた。


□□□


一方、大陸の南方、海に囲まれた魔族領にある城の客室では。

黒髪のヴィックがふて寝していた。


気を失っているうちに魔王が連れ去ってきてしまったのだ。機嫌も悪くなる。

元のヴィックから分離された闇の魔力と一部の記憶で形成された黒髪のヴィック。

魔力で形成されているのだが、人型なのは魔王の力。

複製でも偽物でもない、このヴィックもまた本物である。


部屋の奥にはそばかすの少年が一人。

少しくすんだ肌と八重歯のような牙で魔族とわかるが、短い癖っ毛の髪色は金。

おそらく人間と魔族のハーフだろう。

彼もヴィックも見た目は10歳くらいだろうか。



「ねぇ、ヴィックさーん。ご飯、冷めちゃったんですけどどうしますか~?」


ヴィックはしかと。


「僕だって魔王様の側仕えしてたかったのに、キミの世話係を任命されちゃったから仕方なくやってるんですよ」


「これでも仕事はちゃんと責任持ってやってますからね」


「魔族領は魔素が濃いから、ちゃんとご飯を食べないと体力が持たないですよ?」


「寒くないですか? 予備の毛布、ここに置いておきますね~」


それでも無言でふて寝しているヴィックを見て、少年はため息をついた。


まあ、たしかに? いきなり知らない場所に一人で連れて来られて不満なのは分かるよ。

僕みたいな孤児とは違って家族とかいたんだろうし。

少し同情はするけど、でもシカトはムカツクなあ……


「いつまでメソメソしてるんですか。魔王様からは丁重に扱えと言われています。とっても大切に思われているじゃないですか。羨ましい!」


少年は頬をふくらませて抗議する。

それに対してヴィックは無言のまま枕を投げつけて応えたのだった。

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