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043 今すぐ選べ

その頃、王都を囲む城壁の東側。

東門の前に陣を張っているのは王都を守る王国騎士団と、国を守る王国軍。

合同軍の彼らは混乱していた。


自分達が信じていた結界が砕け落ちたことにより、王国を覆っていた結界の異常さに気付いたのだ。

この濁っていた結界は決して聖なる存在などではないだろう。でなければ、この青空の眩しさはなんだ。


それに対して辺境伯軍から展開される結界の光は……なんと心惹かれることだろう。

あちらが本物の聖なる結界なのではと疑問に思う者達がざわつき始めた。



今は敵対している辺境伯軍。

彼らは何のために軍を率いてきたのか。

謀反? どの貴族よりも愛国心が強い東の守護柱が?

この行動が王国を守るためだとしたら?


だが王城の意志は絶対だ。

我々は、その意志に従うだけだ。


本当の敵は誰だ。どこに潜んでいる?


混迷する合同軍は動けなくなり、しばらく膠着状態となった。


□□□


辺境伯軍の後方で状況を見守っていたレオニダスとアシュリーは、こっそり軍を抜け出そうとしていた。


「本当に行くのか?」

「ええ、私達にしかできないことよ」

「閣下はキミが安全な所に隠れてくれることを望んでいたんだけれど」

「じゃあ後で一緒に怒られてくださる?」


ーー笑顔でそんなことを言われたら……アシュリーと一緒なら望むところさ。


「元々はオレ一人で行くつもりだったんだけどなぁ」

「一人より二人のほうが上手くいくかもしれないでしょ」

「確かにそうだが……」

「ここまで来たんですもの、私もひとこと言ってやらないと気がすまないわ! 連れて行ってくれるでしょう?」


王城と王都郊外の地下を繋ぐ隠し通路。

何かあったときの脱出用に用意されたこの通路は王族しか知らない。

オレ達はこの地下通路を使ってトルナード殿下に会いに行こうとしていた。


王城には秘密の隠し部屋もいくつかある。

何かあってもそこにアシュリーを隠せば切り抜けられるかもしれない。


小さな息を吐いて彼女をじっと見つめる。


意外と頑固な想い人は覚悟を決めているようだ。

ならばオレの答えはひとつ。


「仰せのままに。貴方のことはオレが必ず守るよ」


差し出した手に彼女の小さな手が乗せられる。

オレ達は岩と草むらに隠された地下道の入口へと足を踏み入れた。


□□□


王城にある執務室から、第一王子殿下は空を見上げていた。

砕け散った濁った結界。

己に対する違和感。


もう手が届かない何かに、寂しさがこみ上げる。

そして自分の不甲斐なさが腹立たしく、悔しいという感情が膨らんでいく。


「トルナード殿下……!!」


名を呼ばれて振り返れば、新聖女スカーレットが息を切らせて部屋に飛び込んできた。

神殿から走って来たのだろう。

護衛も付けずに単独でここへやってきた。


「おまえが、この国を狂わせたのか?」


あの結界を張ったのはこの女だ。

モニカは偽聖女だから追放しろと言っていたが、偽聖女はこいつのほうじゃないか。

いつから現実を見失っていた?

こいつのせいで国がおかしくなり、私はアシュリーを失ったのか。

徐々に意識がはっきりしてきた私は剣に手をかける。



「ーーっ! 私を、守りなさい……!」



スカーレットの叫び声と同時に金色の瞳が光ったかと思うと、トルナード殿下からは表情が失われた。

大人しくなった殿下の様子に安心したスカーレットから小さな声が漏れる。


「間に合った……」


そして強気な声で命令をした。


「トルナード殿下、騎士団と軍を指揮して、侵入者を早く捕らえて!」




「なるほど、そうやって操っていたのか」


第三者の声。

スカーレットは身構えながら振り向くと、そこには追い出したはずのアシュリー嬢とレオニダス副団長。


「なんでっ!? どうしてここに……」


「そりゃ殿下の目を覚まさせてやろうと思ってね。さぁ、洗脳を解いてもらおうか」


「なっなんの話かしら。私にはよくわからないわ」


「だったら、この解呪クッキーで無理やり解呪するまでさ。殿下にはそろそろ正気に戻っていただきますよ」


「ーーっ!!」


「洗脳、解いてくれるよね?」


爽やかな笑顔で向けてくる圧にスカーレットは震えが止まらない。

さっきから魔力をぶつけているのに洗脳される気配を感じさせないのだ。


「なんで? なんで貴方達には効かないの?」


ついには目に涙を浮かべて疑問を声にした。

所詮はただの小娘。


「オレ達の他にも洗脳が効かなかった者がいただろう」

「……モニカとか、王妃様とか……?」

「そうだ。その金色の瞳が光っても屈しなかった。私達の共通点が分かるか?」


スカーレットは首を横に振る。


「オレ達は、お前に強い不信感を持っている」

「……」

「おそらくお前の洗脳魔法は、自分に少しでも好感を持っていれば、その感情を膨らませてコントロール下に置くというものだろう。〈新聖女〉として認知されたと同時に王国全体がおかしくなったことからも推測できる。だが今、微塵も好感を持っていないオレ達は洗脳されない。絶対にだ」


「そんな、そんなこと……」



リオニダスは剣を抜いて小娘の目の前に突きつけた。

「ここで叩き切られるか、素直に解除するか、今すぐ選べ」

いつも読んでいただきありがとうございます!

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