041 追放聖女との旅路
side リオニダス
「なんか、思っていたよりも平和ですね」
辺境伯軍の後方で共に護衛任務を担当している兵が話しかけてきた。
王都まで浄化しながら進む計画なのだが、想定以上に順調に進んでいる。
「この道はモニカ嬢が国境へ向かうときに通ったからじゃないかな」
「リオニダス様の隊が護衛していたんでしたか」
「ああ。騒ぎになるんじゃないかとヒヤヒヤしたよ」
遠い目をして答えると、同情的な目を向けられた。
そう、本当に大変だったのだ。
□□□
突然モニカ嬢が偽聖女と呼ばれて王国を追放されることになった際に「今まで尽くしてくれたのだから、せめて国境まで送らせてほしい」と手を上げ、許可されたものの……道中は波乱の連続だった。
丸一日馬車で走ってたどり着いた町。
モニカ嬢が「頑張ってくれて有難う」と馬に癒やしの魔法をかけたところまではまだ良かった。
さすが元聖女、彼女は本物の聖女と並ぶほどの力を持っているのだろうと感心したものだ。
だが一晩お世話になった協会でやらかしてくれた。
礼拝堂で女神の像を前に跪き、手を組んで目を伏せた彼女。
聖なる力を込めて祈ったのだろう……眩しい光が広がり礼拝堂を覆った。
礼拝堂は浄化され、床も壁も磨いたのかと思うほどの輝くツヤに仕上がった。
やはりモニカ嬢が本物の聖女なのではないか。
オレの中の疑問が危険を知らせる。
何者かが彼女を嵌めたのだとしたら、王都から追手が来るかも知れない。
我々は大急ぎで協会を後にし馬車を走らせた。
先程の魔法はなんなのかと彼女に問うと「私はいつもこの魔法で神殿の掃除をしていたんです」と満面の笑顔。
「キラピカツヤーン!って掃除もできて、邪気も払えて一石二鳥でしょ!」とのことだ。
なるほど。
日常的に神殿を浄化していたと。
そんな彼女を追放するとは……ずいぶんドス黒いものが蔓延っているようだ。
「とりあえず、聖魔法は国を出るまで禁止です」
今はモニカ嬢の安全を最優先にして王都からできるだけ離れたい。
王都の大掃除はその後だ。
そう思っていたのに。
道中の村で見つけた立派な桜の木。
樹齢1000年ともなれば老木だ。
支柱に支えられる枝も元気がなく、紅葉し始めた葉が散り始めていた。
「いつだったか……聖女見習いの皆さんが誰も見当たらないと思ったら、彼女達、満開の桜の下でお茶会をしてたことがあったんですよ。貴族の子女達と一緒にお茶会は気疲れしそうで遠慮したいですが、こんな立派な桜の下でお茶会できたら素敵ですね」
モニカ嬢は桜の木を恋しそうに見つめて祈りを捧げた。
聖魔法は禁止だと言ったのに!
モニカ嬢が言う「キラピカツヤーン!」な光が桜の木に力を与える。
老木だったはずの幹は潤いをまとい、枝は力強さを取り戻して空に向かう。
生き生きと芽吹いたかと思えば薄紅色の花を咲かせたのだった。
秋だというのに満開になった桜に気づいた住人達は大騒ぎ。
「レオニダス様、見てください! 村の方々から果物をいただいたんです。これからお花見の宴会を始めるようですよ。私も一緒に……」
「いやいや! ダメです! 行きますよ!!」
大慌てでモニカ嬢を馬車に押し込んで出発した。
追手を巻きたいというのにこんな騒ぎを数回起こされたので、とにかく国境を出てしまえと友好国パデボルンへ向かったのだ。
おかげでモニカ嬢が通った道は呪いの気配が薄く、今は予想外に平和な巡行となっている。
「モニカ嬢がこんなに自由な人だなんて知りませんでしたよ」
近くにいた兵が言う。
そうだろうな、王都にいた頃はオレも知らなかった。
堅苦しい神殿を出て自由になったから抑圧されていた枷が外れたんだろう。
……それはオレやアシュリー嬢も一緒か。
平民からすれば貴族は優雅で贅沢な生活をしていて羨ましいと思えるだろう。
だがその実は、ただのプライドの塊。
王都では見栄の張り合い、腹の探り合い、上の身分の者からの命令は絶対で、こちらの意志など無に等しい。
だがそれも貴族として必要なことだと理解はしている。
時々、自由な平民が羨ましくも思える。
何に幸せを感じるかはその人次第。
王都を出たオレ達が、今のほうが居心地が良いと感じてしまうのは皮肉なものだ。
ちらりとアシュリー嬢に目をやれば、こちらに気づいた彼女が小さな笑顔を返してくれる。
慎ましやかな生活だとしても、彼女との時間を手に入れられるのならーー
気がつけば、不穏な気配が近づいてくるのが感じられた。
王都まではまだ少し距離があるが辺境伯軍はこの広い平原に陣を構える。
敵の洗脳から味方陣営を守るために簡易結界の魔道具を起動。
遠見の魔法で敵陣を見れば、王都の門に王国騎士団と王国軍の旗。
あちらは合同軍で対抗するのだろう。
王城内にも騎士団がいるだろうが、そちらはエルフ族に任せて辺境伯軍はここでは少しでも多くの兵を引き付けておく。
天を仰げぎ見れば、聖山から吹く風に乗った雲が薄暗く濁った空の上を流れていった。
さて、そろそろ幼馴染殿の目を覚まさせてやらなくてはね。
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