閑話/旅する異世界人
よく晴れたある日、ラウリは子供たちに本を読み聞かせていた。
とはいっても、外部との交流がほとんどないエルフ族の谷に新しい品物が入ってくることは少ないので、どれも読んだことがある本ばかりだ。
「ねぇラウリ、その本はこの前も読んだよ」
「ちがう本はないの?」
「もっと面白い本ががいいな。冒険するのとか!」
子供たちにダメ出しされたラウリは、顎に手を当てて「ふ〜む」と悩んだ。
本はないけれど、冒険譚が良いのならあの話はどうだろうか。
ラウリは子供たちの目を見ながら優しく語り始めた。
これは、俺が子供の頃に聞いたおはなしだ。
今から1200年ほど前、エルフの谷に異世界人がやってきた。
その異世界人は2人で旅をしていて、男の方はモノ作り職人のショウ、女の方は白魔術師でヒナという名だった。
大切なものが風で飛ばされたと言って谷の近くにやってきたのだが、当時の谷ではエルフ族以外の立ち入りを拒否していたから、弓矢で脅して引き返すように告げた。
だが2人は異常なまでの魔力を保有していて、当時のエルフたちの興味を強く引いた。
彼らは他種族で初めてエルフに受け入れられた客人となった。
2人は空を飛びながら地図を作っていたらしく、ショウが南にある砂漠の国のおはなしをしてくれたよ。
***
俺とヒナは砂漠で有名な南の国、ヴォルテア皇国を訪れた。
地図を作ることにした俺達は、空飛ぶ絨毯で高く高く飛び上がる。
大陸の形を確認するためだったのだが、次元の亀裂もいくつか見えた。
亀裂の中では粒子がぶつかりあっているのか稲妻が光っていた。
見えた地形を簡略しながらサラサラと紙に書き起こして地図を書いていく。
うん、だいたいはこんなかんじ。
細かいところや国名は現地に行かないとちょっと分かんないけれど。
ヴォルテア皇国は人族の国だけど、北側の国境に獣人族のモールド領があって小さな諍いが耐えないらしい。
その後は砂漠を観光して西の隣国ラバルトへ入ろうとしたときだった。
ピューーーーーーィ
甲高い鳴き声が聞こえた。
ピューーーーィ ピュロロロロ……
空を見上げると大きな鳥の影。
太陽が眩しくてハッキリと姿を見ることはできないけれど、旋回しながら、ゆっくり飛んでいる。
誰かを呼んでいるような悲痛な鳴き声が響いていた。
よくよく目を凝らして見ていると、それは炎の鳥だった。
「あれって火山に住んでる炎鳥じゃないのか!?」
「ばかな!! なんでこんな所に!」
「このままじゃ店が燃えちまうよ」
「早く隠れろ!」
「隠れたって燃えちまうぞ。逃げたほうがいい!」
火山は国をふたつ挟んだ向こう側だ。
ここまで飛来することは今までなかったのだろう。
周りの人々はどう対応すれば良いのか分からずに騒然として逃げ惑っていた。
ただでも暑い砂漠が、炎鳥の熱のせいでいつも以上に熱くなっている。
やばい。暑い。ひからびる……
ヒナが耐えきれずに水魔法を展開してシャワーのように雨を降らせた。
ああ。ぬるいけど助かった。
ほっとしたのも束の間、誰かが炎鳥に向かって矢を射ったのが見えた。
遠距離を飛ぶように魔力を込められたその矢は、グングン炎鳥に迫って行く。
けれど炎鳥の翼であっさりと焼き払われた。
ーー何してんだよ。あんなの炎鳥を怒らせるだけじゃないか。
炎鳥によって思いっきり吐き出された大きな炎は、渦を巻いて雲を突き破り空の向こうに消えていった。皆、唖然として空を見守る。
怒りを目に宿した炎鳥はヴォルテア皇国の王都にも炎を向け、その火はモールド領にも迫っていた。
渦巻く炎に襲われた防壁は崩れ落ち、その先にも炎が上がる。
大変だ、このままでは一帯が火の海となってしまうかもしれない!
けれど炎鳥はそれ以上攻撃をせず、高度を落として旋回する。
ーーなんだろう。何かを探している?
「おい、早く逃げよう!」
「次の矢を用意しろ! 当たらなくても目をくらませればいい」
「せっかくここまで来たのに」
「その箱を落とすんじゃないぞ。苦労して手に入れたんだからな!」
声がした方に目を向ければ、慌てて逃げようとしているガラの悪い連中と行商人。
先ほど矢を射ったのも彼らなのだろう。
ーーあ、なんかわかった気がする。
炎鳥が探し物をしていて、ガラの悪い連中が大きな荷物を抱えて逃げようとしている。
なんとなく想像がついたよ。元の世界で似たような話を何度か見たことがあったから。
様子を伺っていると、慌てていた彼らの荷運び用砂ソリが横転して木箱が倒れてしまった。
ころころと転がり出る大きな卵。
ーーああ、やっぱり。彼らは大馬鹿者だ。欲に目がくらんで炎鳥の卵を盗んできたのだろう。
卵を見つけた親鳥は彼らに炎を吐きながら急降下を始めた。
それでも彼らはまだ炎鳥に抵抗しようと足掻く。
低空飛行から吐き出された炎は地を這うように砂漠を赤く染めて進む。
彼らの自分勝手な行動のお陰でヴォルテア皇国は火に包まれてしまった。
どう責任を取るつもりなのだろう。
「ショウ! 火は私がどうにかするから卵をお願い!」
ヒナが叫びならがら広範囲に水魔法で雨を降らせる。
さすがのヒナといえど、全てを鎮火するには時間がかかるだろう。
とにかく早く炎鳥をこの場から遠ざけなくては!
俺は急いでパワーアップした魔法の絨毯を引っ張り出す。
全速力で卵に向かい、炎鳥が吐いた炎を躱し、すれ違いざまに卵をふわふわ毛布でくるんで引っ張り上げた。
ヒナの回復魔法を付与した特性毛布である。
そのまま卵を抱えて火山に向かって飛ぶ。
全速力で飛んで炎鳥を誘導できれば成功だ。
時々振り返って炎鳥がついてきているのを確認しながらなんとか火山まで誘導してたどり着いた。
炎鳥の巣がどこか分からなかったので安全そうな窪みに毛布ごと卵を置き、隠れて様子を伺う。
追いついてきた親鳥が卵に寄り添って落ち着いたのを確認したことでやっと安堵した。
その卵は一ヶ月ほどで無事に雛がかえり、今は火山で親子仲良く暮らしているようです。
焼け落ちたヴォルテア皇国の人族と、獣人族のモールド領は支え合って復興し「ヴォルモール国」となり新たな歴史を刻み始めたのでした。
***
「ふわ〜!異世界人ってすごいんだねぇ」
「炎鳥かっこいいな。見てみたいー!」
「人族と獣人族、仲直りできて良かったね」
素直な子供たちの感想にラウリはほっこり。
「その異世界人がくれた地図がこれだ。みんな大事に使うんだぞー!」
「「「はーーーーい!!」
読んでいただきありがとうございます!
文章だけで地理をお伝えできる自信がなかったので挿絵で地図を入れてみました。ドキドキ。
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☆別連載「異世界創造伝記」ではモノ作り職人ショウが活躍しています。
一応完結してますが、番外編を時々書いておりますので、こちらもよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n7983jn/




