038 遠い記憶
いつも読んでいただき有難うございます!
第三章ラスト回です。
ヘンリから受け取ったバングルを両手で包みこんで額に当て、大爺様の魔力を探った。
ああ……温かいな。
心地良い魔力を感じる。
「準備できたよ」
俺はふたりの顔を見て静かに頷いた。
精霊力を高めて〈時渡りの瞳〉を発動すると、勢いよく力が流れ込んできた。
大爺様の魔力に同調するように意識が重なる。
深青に光る瞳に映るのは、早送りするように走っていく光と風。
訪れる静寂。
そこには、3人の子供の姿があった。
ーーあれは、6歳頃の俺?
泣いているフィンと俺、そしてオロオロしているのはヘンリだろう。
そうだ。これはフィンが怪我をしたときの記憶だ。
フィンが血を流しているのを見て動揺した俺は……俺は、どうしたんだっけ?
思い出そうとしているうちに、子供達の周囲の魔素が渦を巻き始めているのに気づいた。
泣いている俺から溢れて出た魔力と渦巻く魔素が絡み合う。
まさか、魔力暴走!?
そんなの無事で済むはずがない……!
記憶の視界は慌てて駆け寄る。
バングルを付けていたであろう大爺様が、両手を突き出しているのが見えた。
大爺様は暴走し始めた魔力と魔素を操り、まるで毛糸を巻くようにグルグル巻きとって子供の俺の中に押し込める。
その巻き取った魔力の中心に何かがあるように見えたけれど気のせいだろうか。
大爺様は俺を抱えて宥めながらフィンに治癒魔法をかけていた。
良かった、みんな無事だ。
それにしても怪我をしているフィンよりも俺のほうが大泣きしているのはどういう状況なんだ?
ひとしきり泣いて泣きつかれた俺は、大爺様の腕の中で眠ってしまったようだ。
大爺様が何か言っていたけれど、幻影が掻き消えて現実に引き戻されたので内容はよく分からなかった。
少し息切れしながら額に汗を滲ませる。
深呼吸をして閉じていた目を開けると、ヘンリが食い入るように俺を見ていたので思わず仰け反った。
「レオン、幻影魔法はどうしたんだよ?」
「あ」
しまった、忘れてた!
「お前だけ視えたって俺達は分からないだろうが」
「何か面白いもの見えた?」
「……う、ごめん。3人で遊んでるのが見えたよ。俺が泣き虫だったってのも分かった」
怪我してたとか魔力暴走のことは言いたくなかったので無難に答えておいた。
だってあんなの、きっと忘れたことにしておいたほうが良いじゃないか。
「ふ〜ん? まぁ自分が泣き虫だったってのを理解したんならそれでいいか」
ヘンリは怪訝な表情だったけどそれ以上は聞いてこなかった。
「それにしても過去を視れるなんて精霊力ってすごいのね」
「うん、俺も自分が使えるようになるとは思っていなかったよ」
「そういえば例の結界は精霊を弾くんだろ?」
「そうだね。俺は触っただけで火傷のようになったけど」
「やだっ大丈夫なの!?」
「すぐに回復魔法をかけたから平気」
「……そう、無茶しないでね。精霊の力が脅威だからからこそ悪魔は警戒してるということなのかしら」
「お前、呪いの結界を壊す魔道具を作ってるらしいけど、それがなかったらどうするつもりだったんだよ?」
「強引に行くつもりだったよ」
「強引て?」
「結界は精霊を弾くけど、結界の中に元々いた精霊は普通に存在しているんだ。だから結界さえ通り抜けてしまえばなんとかなると思って」
「通り抜けるってどうやって?」
「えーっと、防御魔法を重ね掛けして、常に回復魔法を展開しながら勢いよく飛び込んだら入れたりしないかな〜と……」
ふたりがものすごい形相で睨んでいる。
「「そんなの絶対ダメに決まってる!!!」」
こ……怖いっっ俺なりに考えたんだ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。
「もちろん最終手段だからっ! そんなに怒らないでよ」
言い訳をしてみたけれどふたりは許してくれそうにない。
「レオン、お願いだから危ないことはしないで」
こめかみを抑えながらフィンが言う。心配してくれてありがとう。
「おまえはバカなのか? 本当にバカなのか!?」
ヘンリにバカと言われたら俺も終わりだな。
「だいたいお前は! ルーヴィッヒ様の血を引いてるくせになんでそんなに危なっかしいんだよ。そういうのが腹立つんだ!」
大爺様は偉大だからな。比べるな。
「やっぱり私もついて行こうかしら」
「俺が見張っておいてやるから安心しろ」
「ヘンリじゃ余計に心配だわ」
「あ”あん!?」
「わかったよっ無茶しないって約束するから、ふたりとも安心して!」
無事にここでまた3人で会おうと約束を交わした。
こんなこと前にもあったような気がする。
翌日、俺はフィンたちに見送られて谷を後にした。
滞在中は谷のみんなに遠巻きにされていたけれど、ヘンリやラウリと仲良くなれたし、フィンにも会えたし、思っていたよりも居心地は悪くなかったと思う。
心強い仲間もできたのだ。
ドバニー村に戻ったら準備を整えなくては。
……谷を出る前、一番樹齢が長そうな大木にこっそり時渡りの瞳を使った。
父と母の思い出の場所だと聞いたからだ。
柔らかくそよぐ風の中に幼い頃の父と母の姿を見つけて、懐かしさと共に感じた寂寥感。
自分では気づかなかったけれど、どうやら心の中では寂しかったらしい。
こちらに向かって母が微笑んだように見えたがすぐに霧散して消えてしまった。
さぁ、やっとカーディナル王国に行けるのだ。
悪魔と対峙することになっても負けるわけにはいかない。
必ず父上を救出してきます。見ていてください、母上……!
ここまでお付き合いいただき有難うございます!
第三章はここまです。読んでくださった方々に感謝申し上げます。
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続きですが、ストックがなくなったので1ヶ月ほどお時間空くかもしれません。
第四章の前に今まで投稿したぶんの微修正したり閑話も書きたいし……すみません。
次回からはいよいよカーディナルに乗り込む予定です。どうぞよろしくお願いいたします。




