037 記憶の幻影
読んでいただきありがとうございます!
第三章ラストまであと少しなので最後までよろしくお願いします。
「また考え込んでる。何か悩み事?」
「あ、ごめん。子供の頃を思い出そうと思って」
「何か子供の頃の思い出が詰まってるものとか持ってないかな?」
「そりゃあるけど、見ただけで思い出せそう?」
「実は俺、精霊力で過去を視れるようになったんだ」
「? ごめん……よく分からないわ」
フィンは首をかしげる。精霊力のことを知らなかったらしい。
そういえば大爺様が人前で使っているのはあまり見たことがなかったかもしれない。
とりあえずフィンになら知られても大丈夫だろう。
気配察知には何もひっかからないから、今は外には誰もいないはず。
実はちょっと試してみたいことがあるんだよね。
そう思えば、はやる心が止められない。
「フィンだけ、特別だよ?」
人差し指を唇に当てて内緒の合図。
きっと今の俺の目は三日月型になっていることだろう。
べつに何か企んでるわけじゃいない。
ただちょっと、フィンをびっくりさせてみようと思っただけだ。
川に向かって手を伸ばし精霊力を高める。
〈時渡りの瞳〉を発動すると周りにいる精霊たちが力を貸してくれる。
そこに俺の精霊力が混ざり合い、力が膨らんでいくのを感じた。
瞳は深青に光って熱を帯び、光と風がすごい勢いで流れていく。
巻き戻る時間。
ふわりと訪れる静寂。
俺はここで幻影魔法を掛け合わせた。
そう、視えた過去を幻影で可視化させたのだ。
目の前の川には、数日前に遊んでいた子供たちと水面を駆ける水馬の姿。
最近だったこともあって、今はこれが一番強い記憶なのだろう。
半透明のその幻影はほんの数秒だったが、たしかに成功した。
「……なに、今の……」
フィンは手で口を多いながらも小さな声を漏らした。
「精霊力で見た過去をそのまま幻影にしてみたんだ」
「……過去を視れるってそういう意味なのね。すごいわ!」
「できるようになったのは最近だけどね。大爺様から受け継いだ力を使えるようになったんだ」
「ルーヴィッヒ様から受け継いだ力……そう……良かったわね、レオン。あなた頑張っていたもの」
瞳をうるませるフィンに胸が熱くなる。
そんなに喜んでくれるなんて、俺は今までどれだけ心配をかけていたのだろう。
もっと強くなってフィンを守れるくらいにならなければ。
「で? 今のは一体なんなんだ!?」
背後から声をかけられて俺は思わず身体を固めた。
「ヘンリ、どうしてここに?」
「どうしてって……あんだけ強烈な魔力を展開しておいて気にするなと言うほうが無理だろう」
あぁぁ〜〜俺が原因か。
やってしまった。
さすがエルフだ、魔力の気配に敏感らしい。
ガクリと肩を落としたけれどヘンリの他には誰も見当たらない。
セーフか? セーフなのか!?
「族長に様子を見てこいって言われたんだよ。で、さっきの何?」
言いたくない。でも言わないと説明できない。
どうしよう。どうしたらいい。
「だからっおまえはー! いちいち悩んでんじゃねぇ! ハッキリしろ!!」
また怒られた。
「なにも怒鳴ることないでしょう」
「ハッキリしないコイツが悪い!」
「悩むくらいに重要なことなのよ。察しなさいよ」
喧嘩が始まりそうな2人を前に眉間のシワが深くなる。
フィンを守れるくらいに強くなろうと思ったばかりなのに、俺が守られてどうするんだ。
「いいよ、話すよ。その代わり他の人には言わないでくれ」
2人が喧嘩するよりは俺が折れたほうが丸く収まるだろう。
少し迷いながらもかいつまんで精霊力について説明をした。
「ということは、つまり、精霊力で過去を視れるようになったから幻影魔法でそれを可視化した……と?」
「うん」
「へ〜、面白いじゃん。俺の過去も見てみろよ」
「でもまだ生きてるものには使ったことがないから」
「だったら試してみればいいじゃないか」
「でもヘンリ、過去を暴かれるようなのって嫌じゃない?」
「俺は知られて恥ずかしいような生き方はしていない!」
断言した。
俺もフィンも一瞬目を丸くしたけど、いっそ格好良いじゃないかと感心した。
ヘンリはすごいなぁ。
「そうは言っても、俺が覗いているようで抵抗あるよ」
「ったく、しゃ〜ね〜なぁ。じゃあコレを貸してやる」
ヘンリはそう言って左手首からバングルを外して差し出してくれた。
太めの金色のバングルで、宝石がいくつか埋め込まれている。
丁寧に手入れされているようだから大切にしているのだろう。
少しだけ大爺様の魔力も感じられた。
「ありがとう……これは?」
「あっちの里を出る時にルーヴィッヒ様からいただいた物だ」
「そういえば貴方、ルーヴィッヒ様に何かくださいって強請ってたわね」
「なっ! 人聞きが悪いぞ」
頬が少し赤いあたり、強請った自覚はあるのだろう。
大爺様が持っていたものなら魔力が感じられるのも納得だ。
「……あのときは身につけている物を頂戴するのが主からの信頼の証って話を聞いてだな」
「ルーヴィッヒ様は貴方の主じゃないし、貴方も子供だったじゃない」
「わかってるよっ可愛いガキの夢じゃねぇか! ああいうのに憧れてたんだよ。」
ふはっ
「……なに笑ってんだよ」
ヘンリがムッとしている。
「ごめん、つい」
つい笑ってしまったと素直に言えば余計に怒りそうだけど、今は笑いをこらえるので精一杯だ。
まさかヘンリを可愛いと思う日が来るとは思わなかった。
「あーまぁ、そういう訳だから。ガキの頃は悪かったな。いろいろ泣かせたけどお前が羨ましいのもあったんだ」
少し照れたように頭をかくヘンリ。
分かるよ、俺も大爺様に憧れていたから。
逆の立場だったらきっと俺も羨ましがったことだろう。
「もういいよ。昔は昔、今は今だろ。そのバングル、借してもらえる?」
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次回、第三章ラストは明日AMの更新予定です。




