035 魔王 vs トール
トール目線です。
ぼくとヴィーは錬金術の小さな村へやってきた。
カーディナル王国にある呪いに対抗するために簡易結界の魔道具を仕上げる予定だ。
事前に兄さんが伝書鳥を飛ばしておいてくれたおかげで、おじじもおばばも準備をして待ってくれていた。
パデボルンの職人たちが頑張ってくれたおかげで構造はほぼ完璧らしい。
問題は魔法を維持するための魔力の種類と量。
そこは聖山の魔素とぼくたちの魔力を付与して完成を目指していた。
錬金村に来て3日目。
朝から不穏な気配を感じて村の外に目をやると、魔王アモンが立っていた。
なんでぼく達がここにいるって分かったんだろう。監視でも付いてるのかな。
「……何しに来たの?」
「用があるからに決まってるだろう」
「いい歳したおじさんなのに先触れも出せないの?」
「お前、可愛くねぇなぁ」
「貴方に可愛いと思われなくても結構です」
静かな山に舌打ちの音が響いた。
魔王は機嫌が良くないようだ。
この、上から見下ろされているような目がムカつく。
さっさと帰ればいいのに。
「ヴィックに頼まれた物を持ってきた」
そう言って差し出してきた物を受け取る。
羽兎くらいの大きさの包みを両手で抱え、中をそっと覗き込むと青紫色の鉱石が入っていた。
「これは?」
「魔界の鉱石だ。仲間がこっちの世界に来る時に持ち込んだ荷物の中にあったらしい。これを使えば、あの薄気味悪い結界も壊せるだろう」
「!!?」
これがあれば呪いの結界を壊せる? 本当なら有難いけれど。
こいつ、なんか企んでたりするんじゃないのか?
「そっちのことに手を出すつもりはなかったが、ヴィックが持って行けと言うのでな」
「……ヴィックからということなら有り難く頂いておきます」
「ふん」
「どうせならヴィックも連れてくれば良かったのに」
「それは無理な話だ」
「だいたい、どういうつもりなのさ? ヴィックを返してよ」
「その時がくれば返す」
「その時ってなんですか?」
「お前には関係ない」
関係ないわけあるか!! ぼくとヴィックは元々ひとつの存在だったんだぞ!
頭に血が登って、気がついたら魔法を放っていた。
伸ばされた手から放たれた風魔法は、魔王の横をすり抜けて勢いを失い微風となって消えていく。
「そんなお子様レベルの魔法では我に傷一つ付けられないぞ?」
ハッと笑う魔王がムカつく。
あっさりと躱された魔法がムカつく。
ムカつく。ムカつく!
ぼくは持っていた鉱石を地面に置き、開いた両足に力を込めると腕を突き出して魔力を集めた。
ーー今度こそ当ててやる!
〈岩石輪舞〉
魔王を睨んで唱えると、いくつもの光球が浮かび上がりあいつの周りをぐるりと取り囲む。
手を振り上げると、それぞれの光球から現れた岩石が魔王目指して発射された。
今度こそ攻撃が通った……!
と、思ったのだが。
あいつは魔法の盾を展開して全て防いでいた。
ぼくはムッとしながら、巨大な氷塊をあいつの頭上に顕現させる。
頭上から落としてやるつもりだったのだが、あいつは指先から魔法の矢を放って氷塊を粉砕した。
粉砕された氷の粒は光を反射しながらゆっくりと降り注ぐ。
ならばと瞬時に植物魔法で蔓のムチを叩きつけようとしたが、地面から伸び始めた蔓は全て、あっさりと燃やされてしまう。
先ほどの氷の粒が魔王のまわりでキラキラ煌めくのを見ながら悔しさを募らせるしかなかった。
まぁ一応? 魔王を名乗ってるだけのことはあると認めよう。
けれど、全く相手にもならないと言いたげな態度はどうだ。
せめて一撃くらい当ててやりたい!
次はどの魔法を使おうかと考えていたところへ、森に遊びに行っていたヴィーが帰ってきた。
「お〜〜〜い! 何やってんだ!? なんで魔王がいるんだよっっ」
「ヴィー! ちょうど良かった。力を貸して!」
「いいぜ、2人まとめて相手してやるよ……と、言いたい所だが」
背中から黒い翼を出した魔王は空へと舞い上がる。
「残念ながら時間切れだ」
「呪文で魔法の威力を上げようとしたのは良いが、お前たちは精霊魔法をもっと練習しておけ」
そう言ってあいつは南の空へ飛んで行ってしまった。
「あいつ、何しに来たんだ?」
「ヴィックに言われてこれを持って来たらしいよ」
「何これ?」
「魔界の鉱石だって。これを使えば呪いの結界を壊せるらしい。もう一個追加で魔道具をお願いしなくちゃ」
「そりゃスゲエな! ヴィックはあっちで意外と仲良くやってるのかな?」
「仲が良いわけないだろ! ……会話するくらいには打ち解けたのかもしれないけど」
「こっちはまだ会話できないのか?」
「もうちょっとだから待って」
ヴィックと魔力が繋がったとはいえ、今はまだ感情を読み取るくらいしかできない。
でも話せるようになりたいから念話の練習中だ。
念話で話せるようになったら、きっと、お互いに安心するし寂しくない。
もう少しだ。
もう少しで念話が出来そうだから、待っててヴィック。
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