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034 月夜の宴

隠れ里のみんながエルフの谷に到着した日の夜、川沿いの広場で宴会が行われた。

こんな風に同族が揃ったのは数十年ぶりとのことで、子供から大人まで飲めや歌えの大盛り上がりである。


俺はというと、ラウルに呼ばれてお偉いさん達に囲まれている。

「軍議の前にお互いの情報を交換しておきたい」とのことで。

そう言われてしまうと断れない……本当はフィンとゆっくり話したかったんだけどなぁ。


目の前にはエルフの谷の族長、隠れ里の里長、コワモテ警邏隊隊長、シニアな魔法士団長、ガチムチ騎士団長。

そして俺と、外部との連絡係を担当しているラウリ。

貫禄のある面々に囲まれていると、橙鷲に囲まれた鼠にでもなったような気分だ。



「エルフ族に喧嘩を売ってきたんだ、国ごと滅ぼしてしまえば良いではないか」

「まぁ待て。同胞が囚われて腹が立つのも分かるが、まずは状況の把握だ」

「まどろっこしいのは面倒臭い。王城に大魔法を落とせばすぐに決着がつくぞ。ルイードなら身を守る術くらいあるじゃろ。あいつだけ生き残れば良い」

「あんたは大魔法を撃ちたいだけだろうが。ちょっと黙っていてくれ」

「こんなチャンスはなかなかないのじゃ。炎の渦龍(フレイムドラゴン)あたりを撃たせてくれんか」

「だからちょっと黙ってろ。それに王国は魔道具がそこら中にあって守りが硬い。まずは情報収集だ」


さっきから魔法士団長と騎士団長が言いたい放題なのを、里長とラウリが宥めている状況だ。

族長は寡黙な人なのか必要以上には口を出さない。

情報交換はともかく、彼らの人となりはなんとなく分かった気がする。

このやり取りに口を挟む勇気がない俺は、さっきから黙々と果実水ばかり飲んでいた。


一応は食事も一通り並べられているが、目の前の彼らが手をつけないから食べづらい。

子猪の丸焼き、川魚の串焼き、氷菓子、鶏と山菜のスープも振舞われている。

こういう素朴な食事がエルフのご馳走。俺も大好きだ。早く食べたい。

背後から聞こえてくる楽しそうな声が羨ましい。誰か助けてくれー!



「レオンハルトはどう考える?」

遠い目をしていたら急に話を振られた。

「あ、えっと……」

「思うことがあるなら遠慮せずに言え」

「俺は……カーディナルの国民は呪いで洗脳されているだけなので、できれば彼等に危害を加えずに父上を救出したいです」

「そうは言っても悪魔がどこに潜んでいるかわからないし、結界の中では何があるか。油断できんぞ」

「もうすぐ呪いを防ぐ魔道具が完成する予定です。あの結界さえ無効にできれば手段はいろいろあります! 悪魔と新聖女は繋がっていると思われるので、そちらを探りつつ王城内を捜索して……」

「新聖女を確保する隊と、ルイードを探す隊に別れて行動したいのぉ」

「王国騎士団が邪魔をしてきたらどうする」

「そっちは人族どもに任せておけば良いじゃないか。前聖女側から援軍が出るんだろ」

「それもそうじゃ。こっちは好きにやらせてもらおう」


ーー人族と連携する気はあまりなさそうだな。

王国騎士団とやり合ってる最中に揉めても困るから、それぞれで動くほうが効率的かもしれない。


「城なんて空から侵入すればすぐじゃろうに」

「全員は飛べん。塀の一部を破壊して入り口を作らないと」

「城の見取り図が欲しいが手に入るか?」

「戦は久しぶりだ。腕がなるわぃ」




そんな会話を聞きながら夜空を見上げると、ヤマブキ色の月が雲から顔を出した。

物騒な会話とは不釣り合いな笑い声が谷に響いている。

久しぶりの再会に酒を交わして喜ぶ者、歌や踊りで歓迎している者。


隠れ里を出てから気づいたのだが、エルフは大らかな性格なのかもしれない。

良く言えば自由でのびのびとしている。

悪く言えばちょっと自己中心的。

王国のように学園というものがないから、親が子の教育をする。だから思想や考え方も受け継がれる。


〈エルフは最上の種族である〉


彼らにとってこの一点だけは揺るがない。

だが悪魔を前にしても同じであると言えるのだろうか?

不安に思うのは俺だけか?



果実水をグイッと飲み干したところで背中に衝撃を受けた。

酒臭い。誰かが酔っ払ってぶつかってきたと思ったら……ヘンリだった。


「あれ〜? レオンだ。こんな所にいたのかよ」

「飲み過ぎじゃないのか?」

「ぜ〜んぜん! このくらい普通だって。レオン、また模擬戦やろうぜ」

ひゃらひゃらと笑うヘンリはご機嫌だ。


「俺はァ、おまえがやァ〜っとやる気を出してくれて嬉しい!」

背中をバシバシ叩かれて痛い。

「レオン、もうメソメソすんじゃね〜ぞ。次は俺が勝つからな〜!」

「はいはい。少し水を飲んで休憩しなよ」

苦笑いしながら水を差し出すと、一気に飲み干してふらふらと人混みの中へ行ってしまった。


それにしてもヘンリの記憶の中の俺ってどうなってるんだ?

俺はそんなに泣き虫じゃないぞ。




宴も一息ついた頃、錬金村から魔法の伝書鳥が飛んできた。

間者から連絡が届いて父上が王宮の奥にいることが分かったようだ。

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