033 もう一人の幼馴染
エルフの谷に来て3日目。
懐かしい人物が俺のところにやって来た。
正直に言うと、俺はこいつが苦手だ。
「よう、レオン」
「……久しぶり、ヘンリ」
この短髪の気が強うそうな青年はヘンリ。子供の頃にフィンと3人で遊んでいた幼馴染だ。
隠れ里で生活していたが、俺の母親が亡くなった頃に家族とこっちの谷に戻ったと聞いている。
「なんだよ、せっかく会いに来てやったんだからもっと歓迎しろよ」
「ちゃんと喜んでるよ。元気そうだね」
作り笑いで迎えたものの、心の中はモヤモヤしている。
「お前は相変わらずボケッとしてるな。今も泣き虫なのか?」
「え? 俺、そんなに泣き虫だった?」
「いつも泣いてた記憶しかないぞ。自分で覚えていないのかよ」
ーー覚えてないよ。というか、たぶんそれ、ヘンリに泣かされてたんじゃないか?
「それより、何か用だった?」
「あ、そうそう、もうすぐアイツらが到着するらしいから伝えてこいって言われたんだった」
「!! そうか、ありがとう!」
「随分と嬉しそうだな。俺との再会の反応と全然違うじゃないか」
「そっそんなことは」
「あるだろ。俺は会うの楽しみにしてたのに、酷いやつだな」
ーーこういうところが苦手だったんだ。
本当に会うのが楽しみだったなら昨日までに会えただろうに。それに、この高圧的な目。やっぱり苦手だ。
「昨日の模擬戦、見てたぜ。レオンのくせに結構やるじゃん」
「くせにって……」
「まぁ、とは言ってもやっぱりヘタレな戦い方だったけどな」
「……」
「もしかして今でもフィンの後ろをついてまわってるのか?」
「はぁ?」
「私がどうかした?」
「げっ」
言われた言葉にムッとするのと同時に聞こえた声。ヘンリの後ろを覗き込むとフィンが立っていた。思っていたよりも早い再会に心臓が跳ねる。
「……もしかして、ヘンリ?」
「おう。久しぶり」
「何を話してたの? またレオンに嫌がらせでもしてたのかしら」
俺の態度を見て何かを察したらしいフィンはヘンリに怪訝な目を向ける。
ーーまたって何? 俺って子供の頃ヘンリにいじめられてた? 覚えていませんけど??
「してねーよ。今でもヘタレだなっていう事実を述べていただけだ」
「どういう意味かしら。レオンは頑張り屋さんで今も昔も格好いいわよ」
「あ~出た出た。ほんと、お前らベッタリだよな〜。昔からレオンに何かあるとフィンがすっ飛んで来るんだ」
「あなたが嫌がらせをするからでしょう」
「過保護なんだよ。そんなんだからコイツがいつまでも気弱なままなんじゃね〜の?」
そう言って指を刺されてしまったけれど。
俺ってそんなにヘタレで気弱かな? 自分では普通のつもりなんだけど。それに嫌がらせをされていた記憶もないし、ちょっと話についていけなくて困る。
「……あなた達が、レオンをそうさせたんじゃない」
「え?」
「なんだよ、俺のせいかよ?」
「あの、ごめん。ちょっと話が見えない」
とりあえずフィンは怒っていて、ヘンリは口が悪いことだけはわかった。
「言っておきますけど、あなたなんかよりレオンのほうがずーっと強いんですからね。ヘタレとか言わないで!」
「ふ〜ん。言ってくれるじゃねーか。だったらレオン、模擬戦しようぜ!」
「はい!?」
「もちろん受けて立つわよ。レオンが勝ったらちゃんと謝ってよね」
「いや、ちょっと待て」
「じゃあ俺が勝ったら何か言うこと聞いてもらおうかな」
「だからちょっと待ってって」
「レオン、外に行くよ!」
「レオン、外に行くぞ!」
フィンとヘンリが同時に叫んだ。
でもそれ、戦うのは俺だよね……?
「大丈夫よ、レオン。貴方はちゃんと強いんだから自信を持って!」
「……そう言われても……」
木刀を肩に乗せてニヤついているヘンリを見ると、やっぱり苦手意識でモヤモヤしてしまう。
「あいつ、小さい頃から口が悪くてレオンに酷い言葉ばかりぶつけてたから……気弱になっちゃうのも分かるよ。でもね、レオンはちゃんと強いよ。ルーヴィッヒ様が期待してたくらいには貴方は"できる子"なんだから。自信を持って!」
「あれは俺が頼りないから鍛えてくれてたんだよ」
「違う! 前から言ってるけど、ルーヴィッヒ様は期待してたの」
ーーとてもそうは思えなかったけど。かなり厳しい指導だったし。
それより、模擬戦だ。負けてヘンリの言うことをきくのは嫌だな。
「最初から全力で行くよ」
結果は、俺の圧勝だった。
ラウリに教わった戦略を試すまでもなく、水魔法の渦で動きを封じて雷魔法を落としたら決着がついてしまった。警邏隊の隊長には破られたけど、ヘンリには効果抜群だったようだ。
今までは周りに強い人が多かったし比べる相手もあまりいなくて知らなかったけれど、俺はちゃんと"できる子"だったらしい。
あれ? もしかして俺ってもっと自身を持って良いのかな?
間抜けな顔でダウンしているヘンリを見てそう思った。
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※「ヘタレ」を違う言葉に置き換えたかったけれど、他にしっくりくる表現が見つからなくてとりあえずそのままにしました。なんか良い言葉が見つかったらそのうち変更するかもしれません。




